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第八話
外出先にて②
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平日の午前中を選んだせいか、城下町はさほど混みあっていなかった。それでも、行き交う人々や各店のスタッフたちの呼び声で活気に溢れている。
美味しそうな果実や、色とりどりの野菜、肉の加工されたスナック的な食品や駄菓子、工芸品など、見て歩くだけでも楽しい。
「メアリーお嬢様欲しいものがありましたらおっしゃってくださいね」
ローラは、予め決めておいたアリアの仮名をほんの少しだけ強調して呼びかけた。アリアはその時、『無菌魔獣ラビットの唐揚げ』と書かれてものが網の上ジュージューと音を立てていた。食欲をそそる香ばしい香り。
「あちらの唐揚げを召し上がってみたいのですか?」
スザンナは意外だというように瞳を瞬かせている。
「うーん、今は特にお腹は空いていないから大丈夫。ただ、魔獣のお肉というのが、実際どんな風にして調理されるのか興味があったの。串焼きとかにもするのね」
アリアの視線は、紙カップの中に盛られた『無菌ラビットの唐揚げ』の隣に陳列されている『無菌魔獣ビーフのレバー焼き』と書かれ、一口サイズにカットされたものが五つほど串に刺されていた。
余談だが、アリアも一応は皇族の端くれなので、食事や飲み物に毒物や害になるものが混入されていないかその場で瞬時に判別出来る魔道具『毒見センサー』を肌身離さず持ち歩いている。それは魔法石で作成された掌サイズの小型懐中電灯のような形をしており、ライトを当てると害がある部分、毒物が混じっていれば食物全てが『蛍光イエロー』に光って見えるような仕組みだ。よって、この物語の世界では今から半世紀ほど前に開発された『毒見センサー』によって、『毒見役』という存在は廃止となっている。
アリアは通行人や買い物客の邪魔にならないよう、街路樹の下に設けられた休憩用のベンチに腰をおろす。ディランも皇室担当の護衛騎士二人も町民に扮し、影から護衛してくれている。
魔獣の肉は、邪気と菌さえ抜いてしまえば栄養価は高いし、中には癖の強さと匂いがキツイものも少なくないが、調理の仕方によっては美味に変貌を遂げる。それまでは駆除して廃棄処理をするだけの存在だった魔獣が、庶民にとって貴重な食糧源となったのだ。しかも激安なのだ! 開発したのは今から三十年ほど前、魔術研究所の食料研究部のスタッフたちだ。皇帝より直々に勲章を賜ったという。
「昆虫型の魔獣の唐揚げもお勧めですよ。サクサクしてカリッとしていていくらでも食べちゃう」
好物なのだろう、ローラは瞳を輝かせている。
「あ、いいですね! 私は魔獣ポークの塩焼きがお気に入りです」
と、スザンナ。
「そう言われるとどれも食べてみたくなるわね」
アリアは心から楽しんでいた。明日、原作ヒーローとの逢瀬を思うと憂鬱で逃げ出したくなるが、今は楽しみたい。冷遇されている為に、こうしてお忍びで外出しても、騒ぎさえ起こさければ誰も気にも掛けない。要は一族に恥をかかせるような事さえしなければ良いのだ。それは佳穂に取っては恵まれた境遇なのではないかと思った。兄や姉にバレて、たまたまその時に虫の居所が悪いとお仕置きと言う名の折檻が始まる時もあるが……。
「あ、私買って来ますよ!」
ローラは元気よく立ち上がる、
「あ! じゃぁ護衛騎士の分も宜しくね!」
と声をかけるアリアに、ローラは笑みで応じ、屋台を目指して行った。
「花のお菓子のお店は最後に寄るとして、何かお勧めのスポットはあるかしら?」
スザンナに聞いてみる。彼女は少し思案してから切り出した。
「殿……じゃなくてメアリーお嬢様のお好みに合うかどうかは分かりかねますけれど、この近くによく当たる占い師がいるらしいです。女の子たちに大人気みたいですよ」
如何にも、女の子が好みそうだ。とアリアは思いながら、突如原作を思い出した。
……城下町の占い師?! 確か、どんなに尽くしても愛して貰えない事に悩んだ挙句、お忍びでアリアが訪ねた場所だ!!!……
「占い? いいわね、せっかくだから是非行ってみたいわ」
作中でもよく当たる! とアリアは絶賛していた。その占い師に、未来を変えるアドバイスを貰えるかもしれない、と考えたのだ。
……どうか、原作矯正力が働きませんように……
と内心では祈りつつ、買い出しに行ったローラを待った。
美味しそうな果実や、色とりどりの野菜、肉の加工されたスナック的な食品や駄菓子、工芸品など、見て歩くだけでも楽しい。
「メアリーお嬢様欲しいものがありましたらおっしゃってくださいね」
ローラは、予め決めておいたアリアの仮名をほんの少しだけ強調して呼びかけた。アリアはその時、『無菌魔獣ラビットの唐揚げ』と書かれてものが網の上ジュージューと音を立てていた。食欲をそそる香ばしい香り。
「あちらの唐揚げを召し上がってみたいのですか?」
スザンナは意外だというように瞳を瞬かせている。
「うーん、今は特にお腹は空いていないから大丈夫。ただ、魔獣のお肉というのが、実際どんな風にして調理されるのか興味があったの。串焼きとかにもするのね」
アリアの視線は、紙カップの中に盛られた『無菌ラビットの唐揚げ』の隣に陳列されている『無菌魔獣ビーフのレバー焼き』と書かれ、一口サイズにカットされたものが五つほど串に刺されていた。
余談だが、アリアも一応は皇族の端くれなので、食事や飲み物に毒物や害になるものが混入されていないかその場で瞬時に判別出来る魔道具『毒見センサー』を肌身離さず持ち歩いている。それは魔法石で作成された掌サイズの小型懐中電灯のような形をしており、ライトを当てると害がある部分、毒物が混じっていれば食物全てが『蛍光イエロー』に光って見えるような仕組みだ。よって、この物語の世界では今から半世紀ほど前に開発された『毒見センサー』によって、『毒見役』という存在は廃止となっている。
アリアは通行人や買い物客の邪魔にならないよう、街路樹の下に設けられた休憩用のベンチに腰をおろす。ディランも皇室担当の護衛騎士二人も町民に扮し、影から護衛してくれている。
魔獣の肉は、邪気と菌さえ抜いてしまえば栄養価は高いし、中には癖の強さと匂いがキツイものも少なくないが、調理の仕方によっては美味に変貌を遂げる。それまでは駆除して廃棄処理をするだけの存在だった魔獣が、庶民にとって貴重な食糧源となったのだ。しかも激安なのだ! 開発したのは今から三十年ほど前、魔術研究所の食料研究部のスタッフたちだ。皇帝より直々に勲章を賜ったという。
「昆虫型の魔獣の唐揚げもお勧めですよ。サクサクしてカリッとしていていくらでも食べちゃう」
好物なのだろう、ローラは瞳を輝かせている。
「あ、いいですね! 私は魔獣ポークの塩焼きがお気に入りです」
と、スザンナ。
「そう言われるとどれも食べてみたくなるわね」
アリアは心から楽しんでいた。明日、原作ヒーローとの逢瀬を思うと憂鬱で逃げ出したくなるが、今は楽しみたい。冷遇されている為に、こうしてお忍びで外出しても、騒ぎさえ起こさければ誰も気にも掛けない。要は一族に恥をかかせるような事さえしなければ良いのだ。それは佳穂に取っては恵まれた境遇なのではないかと思った。兄や姉にバレて、たまたまその時に虫の居所が悪いとお仕置きと言う名の折檻が始まる時もあるが……。
「あ、私買って来ますよ!」
ローラは元気よく立ち上がる、
「あ! じゃぁ護衛騎士の分も宜しくね!」
と声をかけるアリアに、ローラは笑みで応じ、屋台を目指して行った。
「花のお菓子のお店は最後に寄るとして、何かお勧めのスポットはあるかしら?」
スザンナに聞いてみる。彼女は少し思案してから切り出した。
「殿……じゃなくてメアリーお嬢様のお好みに合うかどうかは分かりかねますけれど、この近くによく当たる占い師がいるらしいです。女の子たちに大人気みたいですよ」
如何にも、女の子が好みそうだ。とアリアは思いながら、突如原作を思い出した。
……城下町の占い師?! 確か、どんなに尽くしても愛して貰えない事に悩んだ挙句、お忍びでアリアが訪ねた場所だ!!!……
「占い? いいわね、せっかくだから是非行ってみたいわ」
作中でもよく当たる! とアリアは絶賛していた。その占い師に、未来を変えるアドバイスを貰えるかもしれない、と考えたのだ。
……どうか、原作矯正力が働きませんように……
と内心では祈りつつ、買い出しに行ったローラを待った。
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