ハッピーエンドの裏側で【革命吟遊詩人『当て馬姫君』アリアのリスタート】~原作ヒロインは地雷系女子?!~

大和撫子

文字の大きさ
上 下
12 / 32
第八話

外出先にて①

しおりを挟む
 「えー? 外出なさるんですか? しかも城下町に?」

スザンナはあからさまに面倒そうな反応を示した。彼女はある意味、表裏のない性格だ。腹黒さを隠し持ち、表面上は聖人面を決め込む皇帝皇后、兄姉……その代表格が原作ヒーロージークフリート……なんぞより余程好感が持てる。

「そんな事言わないの! 私たちだって気晴らしになるし。何より滅多に外出なさらないアリア皇女殿下のご希望なのよ? 叶えて差し上げなくては」

 ローラは目を輝かせた。彼女の場合、アリアが恋に落ちたのだと喜んでいるようだ。少しお節介な気持ちも芽生えているらしかった。会話をしながらも、テキパキとアリアのヘアスタイルを整えている。美醜は別にして、城下町をお忍びで遊山するには、水色の髪は珍しい為ブラウンヘアのウィックを使用する事にした。


「んー、まぁ明日は初デートですもんね。でも、魔獣の出現率とか大丈夫なんですか? ここのところ頻繁に出現しているとか聞きましたけど」

 スザンナは渋々と言った感じで、アリアの靴を選ぶ為に腰を上げた。

「失礼致します。魔獣の件ですが、目的地は魔獣出現確率33%と出ております。確率的には低くはないですが、私がお守りしますし、周辺の守護担当騎士たちにも第三皇女殿下が外出なされる事を連絡致しました。因みに、降水。邪気、瘴気共に確率は0%です」

 部屋の外で待機していた専属護衛騎士、ディラン・イーグレットはドアの影に隠れるようにして声だけで状況を語って見せた。支度中のアリアに気を遣っての事だった。この世界では、天気予報の感覚で魔獣出現率や邪気出現率が数字で示されるが常識となっている。故に、街中に警備を担当する騎士や医療魔術師が配属されており、いつでも対応可能にされている。

 原作では、アリアの些細な日常の描写は無かった。ただ、アリアが表では大切にされているように装われているが、如何に冷遇され虐げられているか。そんな中、原作ヒーローとの出会いがどれほど救いになったか、彼への報われない想いに焦がれつつ全てを捧げる覚悟を決める、そんな場面しか出て来なかった。所詮、ヒーローとヒロインを盛り上げる為だけに存在するに過ぎないのだから当然だろう。

 ……アリアにもこんな微笑ましく穏やかに過ごせる時間があったのね……

 としみじみと感じた。小説の中であろうが何であろうが、この世界の人々は全員生きて日常を送っている。誰を視点にするかで物語は全く別の話となるのだ。アリアは生き残りをかける気持ちを新たにした。

 
 「……それで、お目当てのものは何をお買い求めに?」

馬車の中で、アリアの向かい側に座ったローラはワクワクした様子で尋ねた。馬車は皇族用の豪華なものではなく、公務では無くお忍びなので、ごく一般的な馬車を借りている。御者は近衛騎士団の皇族担当騎士が。馬車の後ろにはディランと二人の騎士が目立たぬように行商人に扮して馬に乗り、護衛についている。


「うん、お花のお菓子を買いたいと思ってね」
「お花のお菓子、あ! 城下町で名店がありますね! 食用に開発された花を使ったお菓子」
「そう、それ」

 会話を弾ませるアリアとローラに対して、ローラの右隣の座るスザンナは不服の声を上げた。

「わざわざ皇女殿下がお出ましにならなくても、私どもに言って頂けたら買ってきましたのに」

 アリアはにっこりと笑みを浮かべた。味方になってくれる人が多ければ多いほど、物語の結末を変える力となる。

「実際に自分の目で見て買いたかったし。それに、こもってばかりでは体に良くないしね」
「あぁ、なるほど、それもそうですね」

 スザンナは納得したようだ。

「そうよ、お花のお礼。殿にお返しする御品は、自分も目で吟味して選びたいものですもの」

ローラは夢見るように答えた。

「あぁ、そういう事なら……」

スザンナも珍しく瞳を輝かせた。

 ……いや、まぁ、薔薇のお返しに社交辞令の『有難う』という花言葉がある花のお菓子をあげようと思ってるだけなのよね。常識的なマナーの一環で、お返しをしない訳にはいかないし。食べて終わるものなら、良いかな、と。とは、言えないけどね……

 アリアは苦笑した。それに、実は未だ相手が誰かも明かしていないのだ。薔薇の送り主は受け取り手であるアリアにしか分からないように手配されていたし、下手に話して騒ぎになって早い内から大事になるのは出来るだけ避けたかった。

 ……原作より早めにヒロインと出会って恋に落ちて。あちらからすっぽかしてくれないかなぁ……

 アリアはそうなる事をほんの少し期待していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...