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第八話
外出先にて①
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「えー? 外出なさるんですか? しかも城下町に?」
スザンナはあからさまに面倒そうな反応を示した。彼女はある意味、表裏のない性格だ。腹黒さを隠し持ち、表面上は聖人面を決め込む皇帝皇后、兄姉……その代表格が原作ヒーロー……なんぞより余程好感が持てる。
「そんな事言わないの! 私たちだって気晴らしになるし。何より滅多に外出なさらないアリア皇女殿下のご希望なのよ? 叶えて差し上げなくては」
ローラは目を輝かせた。彼女の場合、アリアが恋に落ちたのだと喜んでいるようだ。少しお節介な気持ちも芽生えているらしかった。会話をしながらも、テキパキとアリアのヘアスタイルを整えている。美醜は別にして、城下町をお忍びで遊山するには、水色の髪は珍しい為ブラウンヘアのウィックを使用する事にした。
「んー、まぁ明日は初デートですもんね。でも、魔獣の出現率とか大丈夫なんですか? ここのところ頻繁に出現しているとか聞きましたけど」
スザンナは渋々と言った感じで、アリアの靴を選ぶ為に腰を上げた。
「失礼致します。魔獣の件ですが、目的地は魔獣出現確率33%と出ております。確率的には低くはないですが、私がお守りしますし、周辺の守護担当騎士たちにも第三皇女殿下が外出なされる事を連絡致しました。因みに、降水。邪気、瘴気共に確率は0%です」
部屋の外で待機していた専属護衛騎士、ディラン・イーグレットはドアの影に隠れるようにして声だけで状況を語って見せた。支度中のアリアに気を遣っての事だった。この世界では、天気予報の感覚で魔獣出現率や邪気出現率が数字で示されるが常識となっている。故に、街中に警備を担当する騎士や医療魔術師が配属されており、いつでも対応可能にされている。
原作では、アリアの些細な日常の描写は無かった。ただ、アリアが表では大切にされているように装われているが、如何に冷遇され虐げられているか。そんな中、原作ヒーローとの出会いがどれほど救いになったか、彼への報われない想いに焦がれつつ全てを捧げる覚悟を決める、そんな場面しか出て来なかった。所詮、ヒーローとヒロインを盛り上げる為だけに存在する当て馬役に過ぎないのだから当然だろう。
……アリアにもこんな微笑ましく穏やかに過ごせる時間があったのね……
としみじみと感じた。小説の中であろうが何であろうが、この世界の人々は全員生きて日常を送っている。誰を視点にするかで物語は全く別の話となるのだ。アリアは生き残りをかける気持ちを新たにした。
「……それで、お目当てのものは何をお買い求めに?」
馬車の中で、アリアの向かい側に座ったローラはワクワクした様子で尋ねた。馬車は皇族用の豪華なものではなく、公務では無くお忍びなので、ごく一般的な馬車を借りている。御者は近衛騎士団の皇族担当騎士が。馬車の後ろにはディランと二人の騎士が目立たぬように行商人に扮して馬に乗り、護衛についている。
「うん、お花のお菓子を買いたいと思ってね」
「お花のお菓子、あ! 城下町で名店がありますね! 食用に開発された花を使ったお菓子」
「そう、それ」
会話を弾ませるアリアとローラに対して、ローラの右隣の座るスザンナは不服の声を上げた。
「わざわざ皇女殿下がお出ましにならなくても、私どもに言って頂けたら買ってきましたのに」
アリアはにっこりと笑みを浮かべた。味方になってくれる人が多ければ多いほど、物語の結末を変える力となる。
「実際に自分の目で見て買いたかったし。それに、こもってばかりでは体に良くないしね」
「あぁ、なるほど、それもそうですね」
スザンナは納得したようだ。
「そうよ、お花のお礼。気になる殿方にお返しする御品は、自分も目で吟味して選びたいものですもの」
ローラは夢見るように答えた。
「あぁ、そういう事なら……」
スザンナも珍しく瞳を輝かせた。
……いや、まぁ、薔薇のお返しに社交辞令の『有難う』という花言葉がある花のお菓子をあげようと思ってるだけなのよね。常識的なマナーの一環で、お返しをしない訳にはいかないし。食べて終わるものなら、後腐れなくて良いかな、と。とは、言えないけどね……
アリアは苦笑した。それに、実は未だ相手が誰かも明かしていないのだ。薔薇の送り主は受け取り手であるアリアにしか分からないように手配されていたし、下手に話して騒ぎになって早い内から大事になるのは出来るだけ避けたかった。
……原作より早めにヒロインと出会って恋に落ちて。あちらからすっぽかしてくれないかなぁ……
アリアはそうなる事をほんの少し期待していた。
スザンナはあからさまに面倒そうな反応を示した。彼女はある意味、表裏のない性格だ。腹黒さを隠し持ち、表面上は聖人面を決め込む皇帝皇后、兄姉……その代表格が原作ヒーロー……なんぞより余程好感が持てる。
「そんな事言わないの! 私たちだって気晴らしになるし。何より滅多に外出なさらないアリア皇女殿下のご希望なのよ? 叶えて差し上げなくては」
ローラは目を輝かせた。彼女の場合、アリアが恋に落ちたのだと喜んでいるようだ。少しお節介な気持ちも芽生えているらしかった。会話をしながらも、テキパキとアリアのヘアスタイルを整えている。美醜は別にして、城下町をお忍びで遊山するには、水色の髪は珍しい為ブラウンヘアのウィックを使用する事にした。
「んー、まぁ明日は初デートですもんね。でも、魔獣の出現率とか大丈夫なんですか? ここのところ頻繁に出現しているとか聞きましたけど」
スザンナは渋々と言った感じで、アリアの靴を選ぶ為に腰を上げた。
「失礼致します。魔獣の件ですが、目的地は魔獣出現確率33%と出ております。確率的には低くはないですが、私がお守りしますし、周辺の守護担当騎士たちにも第三皇女殿下が外出なされる事を連絡致しました。因みに、降水。邪気、瘴気共に確率は0%です」
部屋の外で待機していた専属護衛騎士、ディラン・イーグレットはドアの影に隠れるようにして声だけで状況を語って見せた。支度中のアリアに気を遣っての事だった。この世界では、天気予報の感覚で魔獣出現率や邪気出現率が数字で示されるが常識となっている。故に、街中に警備を担当する騎士や医療魔術師が配属されており、いつでも対応可能にされている。
原作では、アリアの些細な日常の描写は無かった。ただ、アリアが表では大切にされているように装われているが、如何に冷遇され虐げられているか。そんな中、原作ヒーローとの出会いがどれほど救いになったか、彼への報われない想いに焦がれつつ全てを捧げる覚悟を決める、そんな場面しか出て来なかった。所詮、ヒーローとヒロインを盛り上げる為だけに存在する当て馬役に過ぎないのだから当然だろう。
……アリアにもこんな微笑ましく穏やかに過ごせる時間があったのね……
としみじみと感じた。小説の中であろうが何であろうが、この世界の人々は全員生きて日常を送っている。誰を視点にするかで物語は全く別の話となるのだ。アリアは生き残りをかける気持ちを新たにした。
「……それで、お目当てのものは何をお買い求めに?」
馬車の中で、アリアの向かい側に座ったローラはワクワクした様子で尋ねた。馬車は皇族用の豪華なものではなく、公務では無くお忍びなので、ごく一般的な馬車を借りている。御者は近衛騎士団の皇族担当騎士が。馬車の後ろにはディランと二人の騎士が目立たぬように行商人に扮して馬に乗り、護衛についている。
「うん、お花のお菓子を買いたいと思ってね」
「お花のお菓子、あ! 城下町で名店がありますね! 食用に開発された花を使ったお菓子」
「そう、それ」
会話を弾ませるアリアとローラに対して、ローラの右隣の座るスザンナは不服の声を上げた。
「わざわざ皇女殿下がお出ましにならなくても、私どもに言って頂けたら買ってきましたのに」
アリアはにっこりと笑みを浮かべた。味方になってくれる人が多ければ多いほど、物語の結末を変える力となる。
「実際に自分の目で見て買いたかったし。それに、こもってばかりでは体に良くないしね」
「あぁ、なるほど、それもそうですね」
スザンナは納得したようだ。
「そうよ、お花のお礼。気になる殿方にお返しする御品は、自分も目で吟味して選びたいものですもの」
ローラは夢見るように答えた。
「あぁ、そういう事なら……」
スザンナも珍しく瞳を輝かせた。
……いや、まぁ、薔薇のお返しに社交辞令の『有難う』という花言葉がある花のお菓子をあげようと思ってるだけなのよね。常識的なマナーの一環で、お返しをしない訳にはいかないし。食べて終わるものなら、後腐れなくて良いかな、と。とは、言えないけどね……
アリアは苦笑した。それに、実は未だ相手が誰かも明かしていないのだ。薔薇の送り主は受け取り手であるアリアにしか分からないように手配されていたし、下手に話して騒ぎになって早い内から大事になるのは出来るだけ避けたかった。
……原作より早めにヒロインと出会って恋に落ちて。あちらからすっぽかしてくれないかなぁ……
アリアはそうなる事をほんの少し期待していた。
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