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第六話
専属護衛騎士とは名ばかりの……②
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「……であるからして。先日目出度く、帝国の第三番目の花、アリア・フローレンス第三皇女殿下十四歳の誕生日を迎えられた。この度、我が帝国の近衛騎士団より第三皇女殿下の専属護衛騎士を選んで頂けると言う栄誉ある機械を……」
近衛騎士団を総合的に管理管轄するアルコイリス公爵、エルネスト・デューイが熱く語っている。オペラ歌手のように、張りがあり非常に良く通る声だ。御年三十八歳。フサフサとした赤褐色の髪を無造作に後ろで一つにまとめ、日に焼けた肌と堂々とした体躯と猛獣を連想させる黄色い瞳を持つ。一見するとライオンを連想させる風貌の男だ。よく言えば実直、悪く言えば単純。分かり易い男で、代々王家に忠誠を誓っておりそれを誇りとしている。故に、若くしてソードマスター、聖剣の使い手である事を始めに様々な能力を持ち、その類まれなる美貌から数多くの貴族令嬢、民衆の女性たちを虜にして支持を集めるジークフリートとはそりが合わない。そこに、皇帝アレクセイ・ハワードの采配により、国民たちを守る帝国騎士団を統率するチェレステ公爵を筆頭にする事によって、三大公爵は実に絶妙な均衡を保っていた。実際には、皇后ルクレツィア・エステルのアドバイスを元にしたらしいが。
……皇族よりも力をつけて反乱起こされたら困るもんね。そこまで抜け目ない父と母なのに、ジークフリートの野望に気づかないのはどうしてだろう?……
作品の売れ行き如何によって続編を考えているのか? それとも敢えてそういう余韻と含みを持たせたラストに決めていたのか、物語はこう締め括られる。
……こうして二人は再び強い絆で結ばれた。そう遠くない未来、ジークフリートは皇帝に、ヘレナは皇后として沈まぬや威容のように君臨し、帝国は益々栄華を極めて行く事となるだろう______
アリアは考え続けていた。作品はヒーローとヒロインの恋愛がメインだから、剣や魔法、魔獣やら聖獣やらバトルやらも、全て彼らを盛り上げる為の演出装置に過ぎない。だから詳しい設定は説明されない上に矛盾点があっても、恋愛ファンタジーだから、という事で流されてしまう。よって、当て馬役であるアリアは自分で真実を確かめて行くしか方法はないのだ。今まで、アリアの最期が理不尽過ぎて流してしまっていたが、生き延びるつもりなのだから原作が完結した後の未来も想定しておかねばならないのだ。よって、この一文の意味を考えるなら、
……ジークフリートとヘレナはクーデターでも起こすのだろうか?……
アリアは今、大広間に集められた近衛騎士団を椅子に座ってぼんやりと眺めていた。ざっと300人ほど。少数精鋭部隊らしい。アリアの専属護衛を選ぶ為だ。左隣には、玉座に腰を下ろす皇帝の姿があり、ポーカーフェイスを保ったまま騎士団を見下ろしていた。大事な末っ子皇女の専属護衛騎士を選出する場だから同席、という形式上の演出なのである。
アルコイリス公爵の熱弁は熱風の息吹に思える。彼自身に悪気はなく、むしろ善意の塊なのだ。だから演説の通り、(表向き)病弱で内気なアリアの専属護衛騎士になってお守りする事は『誉れ』だと思っているのだ。それ故、希望者を募れば皆、我先にと名乗りをあげるものだと信じ込んで疑わない。
……勘弁して欲しい。私の専属護衛騎士なんて進んでやりたい人なんかいる訳ないじゃないの。恥ずかしいやら情けないやら……
原作はこのように記されていた。
ーーーーー
アリアの為になど誰も名乗り出る者はおらず、会場はシーンと水を打ったように静かだった。
ーーーーー
何とも居たたまれない気持ちになって読んだのは記憶に新しい。出来れば、原作とは別の騎士を選びたいところであるし、原作強矯正力がかかるかどうか試してみようか、とアリアは決意する。熱弁を振るうアルコイリス公爵に、訴えかけるように視線を向けた。原作通りなら、騎士たちに希望者を募る前にアリアに視線を向ける筈なのだ……ほら、目が合った。アリアは軽く右手を挙げた。
「お! これは第三皇女殿下、どうなさいました?」
アリアは答える前に、隣の父に視線を合わせる。発言の許可を伺う為だ。彼はただ頷いて見せた。好きにしなさい、という事だ。アリアは礼を述べるように軽く頷き、微笑んで見せる。それからアルコイリス公爵に顔を向けた。
「職務に忠実で芯の強い人が良いわ。私に最後まで寄り添える人を選んで頂きたいの」
皇帝と公爵にしか聞こえない声での会話につき、騎士たちには何のやり取りをしているかは不明の状態だ。アリアの申し出は専属護衛騎士にしてみたら当たり前の事なので、公爵は不思議に感じたようだ。だが、『お可哀相な境遇だからきっと神経質になってらっしゃるのだ』とアリアにとって都合良く解釈したらしい。
「お任せくださいませ、第三皇女殿下」
と快諾。近衛騎士団団長を呼びつけた。どうやら騎士団長に指名させるつもりらしい。
……ディラン・イーグレット。原作通り、あの子が選ばれるのかな、やっぱり……
この彼は、最初は騎士道精神の見本のような男だった。しかし、原作ヒロインのヘレナに出会って一目惚れをし、職務に身が入らなくなってしまう。挙句、アリアを見捨ててヘレナに忠誠を誓うという前代未聞の行動を起こしてしまうのだ。
近衛騎士団を総合的に管理管轄するアルコイリス公爵、エルネスト・デューイが熱く語っている。オペラ歌手のように、張りがあり非常に良く通る声だ。御年三十八歳。フサフサとした赤褐色の髪を無造作に後ろで一つにまとめ、日に焼けた肌と堂々とした体躯と猛獣を連想させる黄色い瞳を持つ。一見するとライオンを連想させる風貌の男だ。よく言えば実直、悪く言えば単純。分かり易い男で、代々王家に忠誠を誓っておりそれを誇りとしている。故に、若くしてソードマスター、聖剣の使い手である事を始めに様々な能力を持ち、その類まれなる美貌から数多くの貴族令嬢、民衆の女性たちを虜にして支持を集めるジークフリートとはそりが合わない。そこに、皇帝アレクセイ・ハワードの采配により、国民たちを守る帝国騎士団を統率するチェレステ公爵を筆頭にする事によって、三大公爵は実に絶妙な均衡を保っていた。実際には、皇后ルクレツィア・エステルのアドバイスを元にしたらしいが。
……皇族よりも力をつけて反乱起こされたら困るもんね。そこまで抜け目ない父と母なのに、ジークフリートの野望に気づかないのはどうしてだろう?……
作品の売れ行き如何によって続編を考えているのか? それとも敢えてそういう余韻と含みを持たせたラストに決めていたのか、物語はこう締め括られる。
……こうして二人は再び強い絆で結ばれた。そう遠くない未来、ジークフリートは皇帝に、ヘレナは皇后として沈まぬや威容のように君臨し、帝国は益々栄華を極めて行く事となるだろう______
アリアは考え続けていた。作品はヒーローとヒロインの恋愛がメインだから、剣や魔法、魔獣やら聖獣やらバトルやらも、全て彼らを盛り上げる為の演出装置に過ぎない。だから詳しい設定は説明されない上に矛盾点があっても、恋愛ファンタジーだから、という事で流されてしまう。よって、当て馬役であるアリアは自分で真実を確かめて行くしか方法はないのだ。今まで、アリアの最期が理不尽過ぎて流してしまっていたが、生き延びるつもりなのだから原作が完結した後の未来も想定しておかねばならないのだ。よって、この一文の意味を考えるなら、
……ジークフリートとヘレナはクーデターでも起こすのだろうか?……
アリアは今、大広間に集められた近衛騎士団を椅子に座ってぼんやりと眺めていた。ざっと300人ほど。少数精鋭部隊らしい。アリアの専属護衛を選ぶ為だ。左隣には、玉座に腰を下ろす皇帝の姿があり、ポーカーフェイスを保ったまま騎士団を見下ろしていた。大事な末っ子皇女の専属護衛騎士を選出する場だから同席、という形式上の演出なのである。
アルコイリス公爵の熱弁は熱風の息吹に思える。彼自身に悪気はなく、むしろ善意の塊なのだ。だから演説の通り、(表向き)病弱で内気なアリアの専属護衛騎士になってお守りする事は『誉れ』だと思っているのだ。それ故、希望者を募れば皆、我先にと名乗りをあげるものだと信じ込んで疑わない。
……勘弁して欲しい。私の専属護衛騎士なんて進んでやりたい人なんかいる訳ないじゃないの。恥ずかしいやら情けないやら……
原作はこのように記されていた。
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アリアの為になど誰も名乗り出る者はおらず、会場はシーンと水を打ったように静かだった。
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何とも居たたまれない気持ちになって読んだのは記憶に新しい。出来れば、原作とは別の騎士を選びたいところであるし、原作強矯正力がかかるかどうか試してみようか、とアリアは決意する。熱弁を振るうアルコイリス公爵に、訴えかけるように視線を向けた。原作通りなら、騎士たちに希望者を募る前にアリアに視線を向ける筈なのだ……ほら、目が合った。アリアは軽く右手を挙げた。
「お! これは第三皇女殿下、どうなさいました?」
アリアは答える前に、隣の父に視線を合わせる。発言の許可を伺う為だ。彼はただ頷いて見せた。好きにしなさい、という事だ。アリアは礼を述べるように軽く頷き、微笑んで見せる。それからアルコイリス公爵に顔を向けた。
「職務に忠実で芯の強い人が良いわ。私に最後まで寄り添える人を選んで頂きたいの」
皇帝と公爵にしか聞こえない声での会話につき、騎士たちには何のやり取りをしているかは不明の状態だ。アリアの申し出は専属護衛騎士にしてみたら当たり前の事なので、公爵は不思議に感じたようだ。だが、『お可哀相な境遇だからきっと神経質になってらっしゃるのだ』とアリアにとって都合良く解釈したらしい。
「お任せくださいませ、第三皇女殿下」
と快諾。近衛騎士団団長を呼びつけた。どうやら騎士団長に指名させるつもりらしい。
……ディラン・イーグレット。原作通り、あの子が選ばれるのかな、やっぱり……
この彼は、最初は騎士道精神の見本のような男だった。しかし、原作ヒロインのヘレナに出会って一目惚れをし、職務に身が入らなくなってしまう。挙句、アリアを見捨ててヘレナに忠誠を誓うという前代未聞の行動を起こしてしまうのだ。
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