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第五話
抗えない原作矯正(強制)力
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原作男主人公の設定。ジークフリート・アシェル・クライノート公爵。アルコイリス、クライノート、チェレステと帝国の三大公爵の内の一つでである。特にクライノート公爵家、代々当主は『聖剣』の使い手であり『ソードマスター』である事が必須だった。ジークフリートは22歳という異例の若さで病死した父の跡を継いで当主となる。聖剣の使い手でありソードマスターであると同時に、優れた魔術師でもあり最上級精霊使いでもあった。更に、頭脳明晰で文武両道、人心掌握に長けて美の化身と言われ『太陽神アポロン』という異名まで持ち……
……いやいや、コテコテに盛り過ぎでしょ? レトロな王道少女漫画の男主人公だってここまでテンコ盛りにしないよー……
アリアは原作を振り返っていた。ついに昨日、原作ヒーローと出会ってしまった。しかも、予想を遥かに超えた別次元の美貌の破壊力を持って。金髪碧眼よりも黒髪系の方が好みの筈で、外見からして佳穂、いやアリアと呼ぶべきか……の好みとはかけ離れていたにも関わらず不覚にも時めいてしまった。故に、一先ず冷静になる為に原作を振り返りノートにメインキャラたちを書き出していたのだ。とは言っても、書き出したりして何か
の拍子に誰かにバレたらどんな厄介事に発展するか分からない。その為、用が済んだら跡形もなく消えてしまう魔術ペンと紙を使用している。
庭園での出会いは、アリアの理性を吹き飛ばすほど鮮烈だった。それはもう自身の価値観を根本的に覆してしまう程に。
『皇女殿下はお美しいですよ。初めてお見掛けした時から、気になっておりました。ですが私如きが気軽にお声をかける訳には行かず。さりとて早くお目に掛からなければ縁談の話も沢山来てしまう。どうして良いか持て余す我が心……』
まるで舞台俳優が情熱的な愛の詩を読み上げるかの如く淀みなく流れ出るチェロを思わせる声に、聞き惚れてしまう。
……嘘つけ! アリアが秘かに虐げられて冷遇されているのを最初から知っておるやろうが! よく次から次へと心にもない事を……
と思えるのに、その時その瞬間は恍惚としてしまい、脳内に霞がかかって彼の事しか考えられなくなってしまうのだ。
『あなたの髪はまるで「セレストブルーローズ※①」のようだ。あぁ、何と美しい瞳なのでしょう、まるでオーロラを封じ込めた夜明けの空のようだ。唇は桜の花びら、肌はミルキークォーツのよう……』
……物は言いようだよね。私の髪の色は色あせてくすんだ薄い青。瞳は誰もが不気味だというピンクや黄色や緑をごちゃまぜにしたような何とも言い難い不気味な色だし。痩せこけて顔色が悪いから唇の色は白っぽいし、肌もくすんでカサカサで灰色がかった白……
頭では解っているのに、彼の言葉に酔い、夢を見てしまうのだった。その時の自分は、本当にどうかしていたと思う。
……あれかな? よく令嬢モノもののファンタジーの設定でなんちゃって聖女とかが使う魅了だか魅惑だかの……
慌ててその考えを打ち消す。相手を惑わす系の魔術や呪術は禁止されているし、高嶺の花的存在ならまだしも、自分相手にそんな魔術を掛ける必要は無い。
認めたくはないが、どう結論づけても自分はチョロイン設定なのだ。このままでは原作通りジークフリートに殺されてしまう。恐るべし、原作矯正力! いや強制力とも言えそうだ。
そんな事を思いながらも、視線はテーブルに活けられた一輪のセレストブルーローズに吸い寄せられる。今朝、手紙を添えて届けられたものだ。差出人はジークフリート・アシェル・クライノート。『あなたの髪の色と同じ薔薇を一輪』と添えられて。薔薇の花を敢えて一輪。『私にとってあなたは唯一の大切な人』『運命の人』『一目惚れ』という意味合いがある。
……皇族との繋がりを持って己の地位を確固たるものにしたい為に、近づいた癖に。原作ヒロインに出会えばたちまちに恋に落ちる癖に……
このまま原作通り話が進行するなら、凡そ三か月後にジークフリートは原作ヒロインと出会う。街中に突如出現した魔物に、勇敢に一人で立ち向かう原作ヒロインを、偶然通りかかったジークフリートが助けるのだ。そこで二人は互いに恋に落ちる。運命の出会いの瞬間を迎えるのだ。
アリアが殺されるまで、タイムリミットは後四年。何としても回避せねば! 決意を新たにするのだった。
~~~~~~~~~
※①セレストブルーローズ。
文字通りセレストブルー色の薔薇。この原作小説の世界では様々なブルーの種類の薔薇は多く存在し、流通している。但し、ブルー系統の薔薇は他の色よりも値段は高め。高い技術が必要とされる為である。
……いやいや、コテコテに盛り過ぎでしょ? レトロな王道少女漫画の男主人公だってここまでテンコ盛りにしないよー……
アリアは原作を振り返っていた。ついに昨日、原作ヒーローと出会ってしまった。しかも、予想を遥かに超えた別次元の美貌の破壊力を持って。金髪碧眼よりも黒髪系の方が好みの筈で、外見からして佳穂、いやアリアと呼ぶべきか……の好みとはかけ離れていたにも関わらず不覚にも時めいてしまった。故に、一先ず冷静になる為に原作を振り返りノートにメインキャラたちを書き出していたのだ。とは言っても、書き出したりして何か
の拍子に誰かにバレたらどんな厄介事に発展するか分からない。その為、用が済んだら跡形もなく消えてしまう魔術ペンと紙を使用している。
庭園での出会いは、アリアの理性を吹き飛ばすほど鮮烈だった。それはもう自身の価値観を根本的に覆してしまう程に。
『皇女殿下はお美しいですよ。初めてお見掛けした時から、気になっておりました。ですが私如きが気軽にお声をかける訳には行かず。さりとて早くお目に掛からなければ縁談の話も沢山来てしまう。どうして良いか持て余す我が心……』
まるで舞台俳優が情熱的な愛の詩を読み上げるかの如く淀みなく流れ出るチェロを思わせる声に、聞き惚れてしまう。
……嘘つけ! アリアが秘かに虐げられて冷遇されているのを最初から知っておるやろうが! よく次から次へと心にもない事を……
と思えるのに、その時その瞬間は恍惚としてしまい、脳内に霞がかかって彼の事しか考えられなくなってしまうのだ。
『あなたの髪はまるで「セレストブルーローズ※①」のようだ。あぁ、何と美しい瞳なのでしょう、まるでオーロラを封じ込めた夜明けの空のようだ。唇は桜の花びら、肌はミルキークォーツのよう……』
……物は言いようだよね。私の髪の色は色あせてくすんだ薄い青。瞳は誰もが不気味だというピンクや黄色や緑をごちゃまぜにしたような何とも言い難い不気味な色だし。痩せこけて顔色が悪いから唇の色は白っぽいし、肌もくすんでカサカサで灰色がかった白……
頭では解っているのに、彼の言葉に酔い、夢を見てしまうのだった。その時の自分は、本当にどうかしていたと思う。
……あれかな? よく令嬢モノもののファンタジーの設定でなんちゃって聖女とかが使う魅了だか魅惑だかの……
慌ててその考えを打ち消す。相手を惑わす系の魔術や呪術は禁止されているし、高嶺の花的存在ならまだしも、自分相手にそんな魔術を掛ける必要は無い。
認めたくはないが、どう結論づけても自分はチョロイン設定なのだ。このままでは原作通りジークフリートに殺されてしまう。恐るべし、原作矯正力! いや強制力とも言えそうだ。
そんな事を思いながらも、視線はテーブルに活けられた一輪のセレストブルーローズに吸い寄せられる。今朝、手紙を添えて届けられたものだ。差出人はジークフリート・アシェル・クライノート。『あなたの髪の色と同じ薔薇を一輪』と添えられて。薔薇の花を敢えて一輪。『私にとってあなたは唯一の大切な人』『運命の人』『一目惚れ』という意味合いがある。
……皇族との繋がりを持って己の地位を確固たるものにしたい為に、近づいた癖に。原作ヒロインに出会えばたちまちに恋に落ちる癖に……
このまま原作通り話が進行するなら、凡そ三か月後にジークフリートは原作ヒロインと出会う。街中に突如出現した魔物に、勇敢に一人で立ち向かう原作ヒロインを、偶然通りかかったジークフリートが助けるのだ。そこで二人は互いに恋に落ちる。運命の出会いの瞬間を迎えるのだ。
アリアが殺されるまで、タイムリミットは後四年。何としても回避せねば! 決意を新たにするのだった。
~~~~~~~~~
※①セレストブルーローズ。
文字通りセレストブルー色の薔薇。この原作小説の世界では様々なブルーの種類の薔薇は多く存在し、流通している。但し、ブルー系統の薔薇は他の色よりも値段は高め。高い技術が必要とされる為である。
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