ハッピーエンドの裏側で【革命吟遊詩人『当て馬姫君』アリアのリスタート】~原作ヒロインは地雷系女子?!~

大和撫子

文字の大きさ
上 下
8 / 32
第五話

抗えない原作矯正(強制)力

しおりを挟む
 原作男主人公ヒーローの設定。ジークフリート・アシェル・クライノート公爵。アルコイリス、クライノート、チェレステと帝国の三大公爵の内の一つでである。特にクライノート公爵家、代々当主は『聖剣』の使い手であり『ソードマスター』である事が必須だった。ジークフリートは22歳という異例の若さで病死した父の跡を継いで当主となる。聖剣の使い手でありソードマスターであると同時に、優れた魔術師でもあり最上級精霊使いでもあった。更に、頭脳明晰で文武両道、人心掌握に長けて美の化身と言われ『太陽神アポロン』という異名まで持ち……

 ……いやいや、コテコテに盛り過ぎでしょ? レトロな王道少女漫画の男主人公ヒーローだってここまでテンコ盛りにしないよー……

 アリアは原作を振り返っていた。ついに昨日、原作ヒーロージークフリートと出会ってしまった。しかも、予想を遥かに超えた別次元の美貌の破壊力を持って。金髪碧眼よりも黒髪系の方が好みの筈で、外見からして佳穂、いやアリアと呼ぶべきか……の好みとはかけ離れていたにも関わらず不覚にも時めいてしまった。故に、一先ず冷静になる為に原作を振り返りノートにメインキャラたちを書き出していたのだ。とは言っても、書き出したりして何か
の拍子に誰かにバレたらどんな厄介事に発展するか分からない。その為、用が済んだら跡形もなく消えてしまう魔術ペンと紙を使用している。

 庭園での出会いは、アリアの理性を吹き飛ばすほど鮮烈だった。それはもう自身の価値観を根本的に覆してしまう程に。

 『皇女殿下はお美しいですよ。初めてお見掛けした時から、気になっておりました。ですが私如きが気軽にお声をかける訳には行かず。さりとて早くお目に掛からなければ縁談の話も沢山来てしまう。どうして良いか持て余す我が心……』

 まるで舞台俳優が情熱的な愛の詩を読み上げるかの如く淀みなく流れ出るチェロを思わせる声に、聞き惚れてしまう。

 ……嘘つけ! アリアが秘かに虐げられて冷遇されているのを最初から知っておるやろうが! よく次から次へと心にもない事を……

 と思えるのに、その時その瞬間は恍惚としてしまい、脳内に霞がかかって彼の事しか考えられなくなってしまうのだ。

 『あなたの髪はまるで「セレストブルーローズ※①」のようだ。あぁ、何と美しい瞳なのでしょう、まるでオーロラを封じ込めた夜明けの空のようだ。唇は桜の花びら、肌はミルキークォーツのよう……』

 ……物はだよね。私の髪の色は色あせてくすんだ薄い青。瞳は誰もが不気味だというピンクや黄色や緑をごちゃまぜにしたような何とも言い難い不気味な色だし。痩せこけて顔色が悪いから唇の色は白っぽいし、肌もくすんでカサカサで灰色がかった白……

 頭では解っているのに、彼の言葉に酔い、夢を見てしまうのだった。その時の自分は、本当にどうかしていたと思う。

 ……あれかな? よく令嬢モノもののファンタジーの設定でなんちゃって聖女とかが使う魅了だか魅惑だかの……

 慌ててその考えを打ち消す。相手を惑わす系の魔術や呪術は禁止されているし、高嶺の花的存在ならまだしも、自分相手にそんな魔術を掛ける必要は無い。

 認めたくはないが、どう結論づけても自分は設定なのだ。このままでは原作通りジークフリートに殺されてしまう。恐るべし、原作矯正力! いやとも言えそうだ。

 そんな事を思いながらも、視線はテーブルに活けられた一輪のセレストブルーローズに吸い寄せられる。今朝、手紙を添えて届けられたものだ。差出人はジークフリート・アシェル・クライノート。『あなたの髪の色と同じ薔薇を一輪』と添えられて。薔薇の花を敢えて一輪。『私にとってあなたは唯一の大切な人』『運命の人』『一目惚れ』という意味合いがある。

 ……皇族との繋がりを持って己の地位を確固たるものにしたい為に、近づいた癖に。原作ヒロインに出会えばたちまちに恋に落ちる癖に……

 このまま原作通り話が進行するなら、凡そ三か月後にジークフリートは原作ヒロインと出会う。街中に突如出現した魔物に、勇敢に一人で立ち向かう原作ヒロインを、偶然通りかかったジークフリートが助けるのだ。そこで二人は互いに恋に落ちる。運命の出会いの瞬間を迎えるのだ。

 アリアが殺されるまで、タイムリミットは後四年。何としても回避せねば! 決意を新たにするのだった。


~~~~~~~~~

※①セレストブルーローズ。
 文字通りセレストブルー色の薔薇。このでは様々なブルーの種類の薔薇は多く存在し、流通している。但し、ブルー系統の薔薇は他の色よりも値段は高め。高い技術が必要とされる為である。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...