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第三話
原作ヒーローとの出会い②
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アリアは一つ確信した事がある。感情までは原作強制力は作用しないのだ。思えば……佳穂がアリアに入り込んだ時から、佳穂自身の感情は生きていたのだ。ただ、自らの行動を変えようと試みても望んだ台詞ではなく、紡ぎ出されるのは原作に沿った言葉に変換されてしまう。行動も同じだ。未来を変えようとして動こうをすると、強制的に硬直、原作に沿った弱気で常に人の目を気にするような所作に身体が勝手に動いてしまうのだ。それが非常に厄介な問題なのだが……
それでも! 例え原作通りに進まざるを得ないとしても。原作ヒーロー|《婚約者》に殺されて十八歳で死ぬ運命を「はいそうですか、仕方ないですね」等と受け入れるつもりは毛頭もなかった。
もしかしたら、物語の結末を迎えたら現実世界に……久野佳穂に戻れるかもしれない、と思う事もあったが、あくまで希望を込めた憶測に過ぎない。無謀な賭けに出るリスクを追うほどの勝算は今のところ皆無だ。
けれどもそんな中、一つだけ希望があった。原作矯正力(?)が働いて言動が己の意思を反映しないとしても。感情は自由なのだから、これから嫌でもで出会う事になる原作男主人公の事を好きにならなければ良いのではないか!
そうすれば、浮気クズ男に恋焦がれ、全てを捧げて彼の望むままに自ら率先して彼の愛する略奪女を救う為に死ぬ事も無くなるのではないか、と思うのだ。
そもそもアリアは原作ヒーローの事は好みのタイプではない。コイツが原作ヒロインのみに見せる『ヤンデレ』だの『執着愛』だの『重すぎる愛』だの、『一途な愛』やら『純愛』やらが萌えとかキュンの要素なのだそうだが、特に、原作ヒロインを守る為なら何を犠牲にしても誰を敵に回しても構わない『腹黒さ』が、ファンには堪らないらしい。そんな時の彼は完全無欠の無敵になるからだそうだ。アリアにはさっぱりその良さが理解出来なかった。
……やっぱり、そういうのも主人公補正とかチートとか言われる感じに進んで行くんだろうか……
「……リア、アリア!」
自分の名を呼ぶ冷やかな声に一瞬にして我に返る。
「は、はいっ!」
飛び上がるようにして返事をする。本当に、『慣れ』とは恐ろしいものだ。右隣に並んで歩く兄を見上げた。金色の眦を細め、品定めするようにアリアを見下ろす。
「ぼんやりするなんて、いけないな。今日はお前の十四歳の誕生日だ。お前を娶りたいという男も出て来る事だろう」
「そんな……わたくしの事など……」
謙遜しつつも、本心だ。双子の姉など、八歳の頃から「我が息子と」「我が孫と」などと縁談が降って湧いたというのに、アリアには未だに縁談など無い。その上それどころではない。小説の流れのまま行けば、このアリアの十四歳の誕生パーティーで原作ヒーローと出会いうのだ。そこで、アリアは『一目惚れ』をしてしまう……
「確かに、侍女十人掛かりで朝から髪から爪先までくまなく磨き上げ、ドレスアップさせたのにも関わらず貧相で醜いお前だが、そう自分を卑下するのはダメだ。謙遜の美徳と卑下は全くの別物だ。卑下は己を卑屈にし、表情を暗くして生気を奪う。ただでさえ醜いお前には致命的打撃を受けるであろう。堂々と顔を上げ、背筋を伸ばせ。この私がエスコートしてやるのだからな。ファーダンスも、この私が相手になってやる。カレンデュラ一族の恥を晒すではないぞ!」
兄の辛辣な有難いお言葉に、表情筋が固まるほどに訓練したアルカイックスマイルを貼り付け、
「有難う存じます、肝に銘じます」
と応じた。己のドレスの裾を見つめる。裾に向かって爽やかなレモンイエローからクリーム色のグラデーションとなるように施された生地で出来ており、雨に俯いた酔芙蓉のようなドレスだ。
……ここまでの兄とのやり取りと、ドレスの色合いも小説のままだ……
パーティー会場入り口をの目前にしながら、アリアは暗澹たる思いで今後の展開を思い浮かべた。小説のままなら、兄とファーストダンスを終えた後、兄は挨拶周りにその場を離れる事になる。アリアは一人、壁の花となるのだ。一応、主役である筈のパーティーだが、皇帝皇后、兄、双子姉妹にすり寄る者ばかり。それも当然だ、何の力も持たず、内気で病弱である設定、かつ貧相でお世辞にも可愛いとも言い難い外見のアリアに、誰が媚びを売ろうと言うのか。居たたまれない気持ちになった時、声を掛けられるのだ。そう、原作ヒーローに。
それでも! 例え原作通りに進まざるを得ないとしても。原作ヒーロー|《婚約者》に殺されて十八歳で死ぬ運命を「はいそうですか、仕方ないですね」等と受け入れるつもりは毛頭もなかった。
もしかしたら、物語の結末を迎えたら現実世界に……久野佳穂に戻れるかもしれない、と思う事もあったが、あくまで希望を込めた憶測に過ぎない。無謀な賭けに出るリスクを追うほどの勝算は今のところ皆無だ。
けれどもそんな中、一つだけ希望があった。原作矯正力(?)が働いて言動が己の意思を反映しないとしても。感情は自由なのだから、これから嫌でもで出会う事になる原作男主人公の事を好きにならなければ良いのではないか!
そうすれば、浮気クズ男に恋焦がれ、全てを捧げて彼の望むままに自ら率先して彼の愛する略奪女を救う為に死ぬ事も無くなるのではないか、と思うのだ。
そもそもアリアは原作ヒーローの事は好みのタイプではない。コイツが原作ヒロインのみに見せる『ヤンデレ』だの『執着愛』だの『重すぎる愛』だの、『一途な愛』やら『純愛』やらが萌えとかキュンの要素なのだそうだが、特に、原作ヒロインを守る為なら何を犠牲にしても誰を敵に回しても構わない『腹黒さ』が、ファンには堪らないらしい。そんな時の彼は完全無欠の無敵になるからだそうだ。アリアにはさっぱりその良さが理解出来なかった。
……やっぱり、そういうのも主人公補正とかチートとか言われる感じに進んで行くんだろうか……
「……リア、アリア!」
自分の名を呼ぶ冷やかな声に一瞬にして我に返る。
「は、はいっ!」
飛び上がるようにして返事をする。本当に、『慣れ』とは恐ろしいものだ。右隣に並んで歩く兄を見上げた。金色の眦を細め、品定めするようにアリアを見下ろす。
「ぼんやりするなんて、いけないな。今日はお前の十四歳の誕生日だ。お前を娶りたいという男も出て来る事だろう」
「そんな……わたくしの事など……」
謙遜しつつも、本心だ。双子の姉など、八歳の頃から「我が息子と」「我が孫と」などと縁談が降って湧いたというのに、アリアには未だに縁談など無い。その上それどころではない。小説の流れのまま行けば、このアリアの十四歳の誕生パーティーで原作ヒーローと出会いうのだ。そこで、アリアは『一目惚れ』をしてしまう……
「確かに、侍女十人掛かりで朝から髪から爪先までくまなく磨き上げ、ドレスアップさせたのにも関わらず貧相で醜いお前だが、そう自分を卑下するのはダメだ。謙遜の美徳と卑下は全くの別物だ。卑下は己を卑屈にし、表情を暗くして生気を奪う。ただでさえ醜いお前には致命的打撃を受けるであろう。堂々と顔を上げ、背筋を伸ばせ。この私がエスコートしてやるのだからな。ファーダンスも、この私が相手になってやる。カレンデュラ一族の恥を晒すではないぞ!」
兄の辛辣な有難いお言葉に、表情筋が固まるほどに訓練したアルカイックスマイルを貼り付け、
「有難う存じます、肝に銘じます」
と応じた。己のドレスの裾を見つめる。裾に向かって爽やかなレモンイエローからクリーム色のグラデーションとなるように施された生地で出来ており、雨に俯いた酔芙蓉のようなドレスだ。
……ここまでの兄とのやり取りと、ドレスの色合いも小説のままだ……
パーティー会場入り口をの目前にしながら、アリアは暗澹たる思いで今後の展開を思い浮かべた。小説のままなら、兄とファーストダンスを終えた後、兄は挨拶周りにその場を離れる事になる。アリアは一人、壁の花となるのだ。一応、主役である筈のパーティーだが、皇帝皇后、兄、双子姉妹にすり寄る者ばかり。それも当然だ、何の力も持たず、内気で病弱である設定、かつ貧相でお世辞にも可愛いとも言い難い外見のアリアに、誰が媚びを売ろうと言うのか。居たたまれない気持ちになった時、声を掛けられるのだ。そう、原作ヒーローに。
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