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第一章 転生して一度目の人生
第一話 嘘でしょ? 転生先は恋愛ファンタジー小説の中!?
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いきなり全身に強い衝撃を感じて意識が浮上した。背中や胸を中心に全身が痛い。何が起こっているのだろう? どうやら彼女は左側面を下にして倒れていたようだ。前後不覚な状況で何もかもが一切不明な今、しばらくこのままの状態でいようと判断した。
「あらぁ、死んじゃったかしら?」
続いて、少し高い位置から楽しそうに話す声。可愛らしい女の子の声だ。平気で『死』を口にするあたり……彼女は本能的に嫌な予感がした。
「あらあら、その方が帝国の為になるのではないかしら?」
(え? 今何て言った?)
続いて降り注ぐ綺麗な声に、我が耳を疑った。
「そうねぇ、確かにお姉様の言う通りだわ。いくら名前の通りアリアでも一応肩書は『第三皇女』な訳ですもの。ドレスや宝石、資金も支給されているから、死ねばその分浮きますものね。帝国民に還元すれば良いのですわ」
(アリア? 第三皇女?)
聞き覚えのある単語だった。
(ま、まさか……)
バレないように薄っすらと目を開け、睫毛の帳の隙間から一部でも良いから自分の姿を見ようと試みる。顔全体に掛かっている髪はくすんだ淡い水色? そのまま視線を滑られて右手首を見る。灰色がかった白い肌はパサつき、骨に皮がへばりついているかのように痩せこけた手首……
(これは……まさかね。夢よ、夢。夢に違いないわ、そうよ、うん。体感のあるやたリアルな夢よ、そうに違いないわ)
そう判断し、夢から覚めるまで待つ事にした。だが次の瞬間、バシャリという派手な水しぶきと共に全身に冷たい衝撃を受けて呆然とする。頭から爪先までずぶ濡れだ。しかも砕けた氷が入っていたようで当たった場所が痛いし、水自体にも痛みを感じるほど冷たい。濡れた髪の間から見上げると、ワインカラーの絨毯が中央に敷かれた階段の踊り場から、名作絵画に登場しそうな美人姉妹が蔑んだように見下ろしていた。まるで合わせ鏡のように瓜二つの姉妹。
どうやら近くに控えていた侍従の一人に命じて、バケツに入れた氷水を私にぶちまけたようだ。いつもの事なのだろう、空のバケツを持ったまま平然としてて見下ろしている。
双子姉妹はまさに、太陽の光をそのまま髪にしたような眩しい金髪が豊かに波打ち、滑々と真っ白な肌は滑らかに加工された大理石のようだ。紅薔薇の蕾のような唇。ほんのり桜色の肌、少し目尻が上がり気味の大きな瞳は豪華で煌びやかな金色だ。リボンとレースをふんだんにあしらった赤いドレスがよく似合っている。双子姉妹の内、姉とされる第一皇女が右目尻の下に泣き黒子が、妹である第二皇女は左目尻下に泣き黒子が。それで区別がついた、とされる。こうして実際に見てみると、『精巧なるビスクドール』と表現されていた意味が解る。彼女たちの名前も……知っていた。
「何だ、生きてるのね。相変わらず気味の悪い目をしてるわね。悪魔みたい」
鼻に皺を寄せて顰め面をしていても、美しいものは損なわれないから不思議だ。こちらは泣き黒子が右にあるから第一皇女、プリマヴェーラ・グレイスだ。
「こんなのが私たちの血を引いているだなんて。皇族の恥だわ」
こちらは第二皇女、ペネロープ・テレジアだ。そして彼女自身は……第三皇女、アリア・フローレンスらしい。どうやら、眠りにつく前に読んでいた恋愛ファンタジー小説「恋獄の花園、愛の光」の中に入り込んでしまったらしい。それでも未だ、リアルな夢を見ているだけだと思いたかった。
「それでも、表向きは仲睦まじく見せないといけないよ」
唐突に響き渡るテノールに、アリアは反射的の恐怖の念が湧き上がった。
「あら、お兄様」
「勿論ですわ」
双子が嬉しそうに微笑み歓迎の眼差しを向けるのは、アリアに向かって廊下より歩いて来る背の高い男だった。その男は紫色を基調とし、金色のボタンと飾りのついた軍服に身を包んでいる。黄金の髪は軽く波打ち、長めにカットさせて自然に流していた。近づく毎に、鳥肌が立つ。第一王子だ、立ち上がって挨拶をしないと! と体が勝手に藻掻いた。
「アリア、今日も不細工だね。しかも這いつくばって、本当に困った子だ」
男はアリアを見下ろし、優しく声をかけた。ブルブル震えながら漸く立ち上がったアリアに、第一皇太子はにっこりと微笑んだ。けれども切れ長の金色の双眸はゾッとするほど冷やかだ。
(早く目が覚めて欲しい)
と、アリアは切望した。
「あらぁ、死んじゃったかしら?」
続いて、少し高い位置から楽しそうに話す声。可愛らしい女の子の声だ。平気で『死』を口にするあたり……彼女は本能的に嫌な予感がした。
「あらあら、その方が帝国の為になるのではないかしら?」
(え? 今何て言った?)
続いて降り注ぐ綺麗な声に、我が耳を疑った。
「そうねぇ、確かにお姉様の言う通りだわ。いくら名前の通りアリアでも一応肩書は『第三皇女』な訳ですもの。ドレスや宝石、資金も支給されているから、死ねばその分浮きますものね。帝国民に還元すれば良いのですわ」
(アリア? 第三皇女?)
聞き覚えのある単語だった。
(ま、まさか……)
バレないように薄っすらと目を開け、睫毛の帳の隙間から一部でも良いから自分の姿を見ようと試みる。顔全体に掛かっている髪はくすんだ淡い水色? そのまま視線を滑られて右手首を見る。灰色がかった白い肌はパサつき、骨に皮がへばりついているかのように痩せこけた手首……
(これは……まさかね。夢よ、夢。夢に違いないわ、そうよ、うん。体感のあるやたリアルな夢よ、そうに違いないわ)
そう判断し、夢から覚めるまで待つ事にした。だが次の瞬間、バシャリという派手な水しぶきと共に全身に冷たい衝撃を受けて呆然とする。頭から爪先までずぶ濡れだ。しかも砕けた氷が入っていたようで当たった場所が痛いし、水自体にも痛みを感じるほど冷たい。濡れた髪の間から見上げると、ワインカラーの絨毯が中央に敷かれた階段の踊り場から、名作絵画に登場しそうな美人姉妹が蔑んだように見下ろしていた。まるで合わせ鏡のように瓜二つの姉妹。
どうやら近くに控えていた侍従の一人に命じて、バケツに入れた氷水を私にぶちまけたようだ。いつもの事なのだろう、空のバケツを持ったまま平然としてて見下ろしている。
双子姉妹はまさに、太陽の光をそのまま髪にしたような眩しい金髪が豊かに波打ち、滑々と真っ白な肌は滑らかに加工された大理石のようだ。紅薔薇の蕾のような唇。ほんのり桜色の肌、少し目尻が上がり気味の大きな瞳は豪華で煌びやかな金色だ。リボンとレースをふんだんにあしらった赤いドレスがよく似合っている。双子姉妹の内、姉とされる第一皇女が右目尻の下に泣き黒子が、妹である第二皇女は左目尻下に泣き黒子が。それで区別がついた、とされる。こうして実際に見てみると、『精巧なるビスクドール』と表現されていた意味が解る。彼女たちの名前も……知っていた。
「何だ、生きてるのね。相変わらず気味の悪い目をしてるわね。悪魔みたい」
鼻に皺を寄せて顰め面をしていても、美しいものは損なわれないから不思議だ。こちらは泣き黒子が右にあるから第一皇女、プリマヴェーラ・グレイスだ。
「こんなのが私たちの血を引いているだなんて。皇族の恥だわ」
こちらは第二皇女、ペネロープ・テレジアだ。そして彼女自身は……第三皇女、アリア・フローレンスらしい。どうやら、眠りにつく前に読んでいた恋愛ファンタジー小説「恋獄の花園、愛の光」の中に入り込んでしまったらしい。それでも未だ、リアルな夢を見ているだけだと思いたかった。
「それでも、表向きは仲睦まじく見せないといけないよ」
唐突に響き渡るテノールに、アリアは反射的の恐怖の念が湧き上がった。
「あら、お兄様」
「勿論ですわ」
双子が嬉しそうに微笑み歓迎の眼差しを向けるのは、アリアに向かって廊下より歩いて来る背の高い男だった。その男は紫色を基調とし、金色のボタンと飾りのついた軍服に身を包んでいる。黄金の髪は軽く波打ち、長めにカットさせて自然に流していた。近づく毎に、鳥肌が立つ。第一王子だ、立ち上がって挨拶をしないと! と体が勝手に藻掻いた。
「アリア、今日も不細工だね。しかも這いつくばって、本当に困った子だ」
男はアリアを見下ろし、優しく声をかけた。ブルブル震えながら漸く立ち上がったアリアに、第一皇太子はにっこりと微笑んだ。けれども切れ長の金色の双眸はゾッとするほど冷やかだ。
(早く目が覚めて欲しい)
と、アリアは切望した。
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