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第六話
ついに! 帝国へ。
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テネーブル小国は、癒しと安らぎ、そして防御力の高いアメジストを元にした魔術で防御されている。イメージするとしたら、透き通るような紫色のオーラで小国自体をすっぽりと包み込んでいる、そんな感じだろうか。勿論、その紫色はお日様や青空が地上に届く色合いを損なう事のないよう細工がなされている。
それに対して、シュペール帝国は帝国自体を光の防御魔術で保護されている。例えるなら、太陽の光で包み込まれた帝国……そんなイメージだ。だから、小国から帝国に入る際の境目の道を歩くのが楽しみでもあった。そこは幅10m程のオリハルコンで出来た道路で、長さは20m程。道の両端を小国の辺境騎士団と帝国の辺境騎士団が凡そ2m間隔で交互に並んでいる。魔物や邪気、或いは狼藉を働く者などの侵入を防ぐ為に警戒と守護をしてくださっているのだ。小国の辺境騎士団の軍服は紫色にシルバーボタン、帝国は金色に濃紺のボタンという姿だから、意外に派手で目の保養になる。女性の騎士さんも何人かいて、ピシッと直立不動でいる姿は本当にカッコいい。
何年か前は、小国と帝国の境はもっと狭くて短かったらしい。花形の帝国近衛騎士団、親しみやすい庶民の味方……国民を守護する騎士団に比べて、辺境騎士団になりたがる人が少なかったせいもあるらしい。あまりに道が狭いと、緊急時に混雑した場合危険だ。当時未だ学生だったキアラ様とジルベルト様が、辺境騎士団の待遇を改善、意識改革を図る事によって少しずつ辺境騎士団を目指す者が増え、ついには今のように小国と帝国の国境の道が出来上がったのだ。よくお世話になっているご辺境伯御夫妻の若かりし頃……私とさほど年が変わらない頃にそのような偉大な事を成し遂げるなんて……やっぱり人間の出来の器が違う、そもそも持って生まれた役割が違うのだろうな、と思う。
だからと言ってお二人とも順風満帆と言う訳ではなく。キアラ様には何やら複雑な生い立ちがあるらしいし、ジルベルト様に至っては国家転覆を策謀した一人の男の幻惑魔術と洗脳によってハニートラップに引っかかってキアラ様に公開婚約破棄に処刑……をやらかしてしまったという過去があるし。紆余曲折を経て今の仲睦まじいお二人がいる訳だが、そこまで考えると否が応でも実父の事に行きついてしまう。
聖女絡みでの色恋トラブル沙汰が過去の歴史からもボロボロ出て来て。漸く聖女もどきが発する「魅惑」と「マインドコントロール」の対処法が確立して「聖女」を名乗る事も認定する事が全世界で禁止になったのは記憶に新しい。更に、万が一「魅惑」と「マインドコントロール」に知らない内に掛かっている人に向けて、帝国の魔塔からそれらの解除する魔術を全世界に施したと聞く。もし実父が似非聖女の術にかかっていたのなら、解けている筈だ。もし少しでもまともな倫理観の持ち主なら、私の母親に対する罪悪感、似非聖女に対しての嫌悪感から居ても立っても居られない状態になる筈で。母親の居場所を探すのではないか、と推測する。小国に亡命した事は、用意に足跡が辿れないように保護されているから仕方ないとしても、母親の両親には何らかのアクションがあるのではないか、と思うのだ。
上手く、祖父母に実父について話を聞けたら良いのに。滞在は二週間、その間に何かしら話してくれる事を期待しよう。実父と聖女に関しての報告書は未だ目を通していない。初日から気持ちをかき乱されたくはない。
気づけば、目前に巨大な光の塊が迫っていた。光の中に入って行くのに、全く眩しく感じない上にしっかりと入国管理局の簡素な室内が普通の状態で見えるから不思議だし新鮮だ。いよいよ、帝国に足を踏み入れるのだ! バッグから入国許可証を出して右手に掲げる。こうするだけで魔術AIが審査し、通る事が出来るのだ。ほんの数秒で、受付の女性の「ようこそ、シュペール帝国へ」という声と共に通される。
「ミルティアちゃんね!」
光を通過して帝国に一歩足を踏み入れるなり、私の名を呼ぶ優し気な女性の声が響いた。
それに対して、シュペール帝国は帝国自体を光の防御魔術で保護されている。例えるなら、太陽の光で包み込まれた帝国……そんなイメージだ。だから、小国から帝国に入る際の境目の道を歩くのが楽しみでもあった。そこは幅10m程のオリハルコンで出来た道路で、長さは20m程。道の両端を小国の辺境騎士団と帝国の辺境騎士団が凡そ2m間隔で交互に並んでいる。魔物や邪気、或いは狼藉を働く者などの侵入を防ぐ為に警戒と守護をしてくださっているのだ。小国の辺境騎士団の軍服は紫色にシルバーボタン、帝国は金色に濃紺のボタンという姿だから、意外に派手で目の保養になる。女性の騎士さんも何人かいて、ピシッと直立不動でいる姿は本当にカッコいい。
何年か前は、小国と帝国の境はもっと狭くて短かったらしい。花形の帝国近衛騎士団、親しみやすい庶民の味方……国民を守護する騎士団に比べて、辺境騎士団になりたがる人が少なかったせいもあるらしい。あまりに道が狭いと、緊急時に混雑した場合危険だ。当時未だ学生だったキアラ様とジルベルト様が、辺境騎士団の待遇を改善、意識改革を図る事によって少しずつ辺境騎士団を目指す者が増え、ついには今のように小国と帝国の国境の道が出来上がったのだ。よくお世話になっているご辺境伯御夫妻の若かりし頃……私とさほど年が変わらない頃にそのような偉大な事を成し遂げるなんて……やっぱり人間の出来の器が違う、そもそも持って生まれた役割が違うのだろうな、と思う。
だからと言ってお二人とも順風満帆と言う訳ではなく。キアラ様には何やら複雑な生い立ちがあるらしいし、ジルベルト様に至っては国家転覆を策謀した一人の男の幻惑魔術と洗脳によってハニートラップに引っかかってキアラ様に公開婚約破棄に処刑……をやらかしてしまったという過去があるし。紆余曲折を経て今の仲睦まじいお二人がいる訳だが、そこまで考えると否が応でも実父の事に行きついてしまう。
聖女絡みでの色恋トラブル沙汰が過去の歴史からもボロボロ出て来て。漸く聖女もどきが発する「魅惑」と「マインドコントロール」の対処法が確立して「聖女」を名乗る事も認定する事が全世界で禁止になったのは記憶に新しい。更に、万が一「魅惑」と「マインドコントロール」に知らない内に掛かっている人に向けて、帝国の魔塔からそれらの解除する魔術を全世界に施したと聞く。もし実父が似非聖女の術にかかっていたのなら、解けている筈だ。もし少しでもまともな倫理観の持ち主なら、私の母親に対する罪悪感、似非聖女に対しての嫌悪感から居ても立っても居られない状態になる筈で。母親の居場所を探すのではないか、と推測する。小国に亡命した事は、用意に足跡が辿れないように保護されているから仕方ないとしても、母親の両親には何らかのアクションがあるのではないか、と思うのだ。
上手く、祖父母に実父について話を聞けたら良いのに。滞在は二週間、その間に何かしら話してくれる事を期待しよう。実父と聖女に関しての報告書は未だ目を通していない。初日から気持ちをかき乱されたくはない。
気づけば、目前に巨大な光の塊が迫っていた。光の中に入って行くのに、全く眩しく感じない上にしっかりと入国管理局の簡素な室内が普通の状態で見えるから不思議だし新鮮だ。いよいよ、帝国に足を踏み入れるのだ! バッグから入国許可証を出して右手に掲げる。こうするだけで魔術AIが審査し、通る事が出来るのだ。ほんの数秒で、受付の女性の「ようこそ、シュペール帝国へ」という声と共に通される。
「ミルティアちゃんね!」
光を通過して帝国に一歩足を踏み入れるなり、私の名を呼ぶ優し気な女性の声が響いた。
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