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第二話
さて、白黒ハッキリ付けようじゃないの!④
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「そ、そんな……わ、私たちが、どうして……」
辛うじて反論を試みようとするイブ、うん、その心意気だけはかってあげよう。方向性は思いっきり無駄だけどもね。
「逆に質問したいんだけど。どうしてバレないと思ったの?」
「そ、それは……」
三人が三人とも視線をさ迷わせ、互いの様子を窺っている。もうこの態度で、黒だと白状しているようなものだ。
「匿名掲示板の書き込みは『匿名であるけれども身元はすぐにバレる』。小等部の歴史で習った筈じゃない。自分には関係ない、て当時は流したんだろうし。軽く考えて書き込んだんだろうけどね。でもね、サイバーポリスに相談すればすぐに身元バレちゃうし。サイバーポリスじゃなくても、しっかり代金を支払えば弁護士が対処してくれるしね」
出来るだけ分かり易く、穏やかに話を進めているつもりだったが……
「調べたの? 陰険な人ね。普通匿名掲示板なんか見ないでしょ? しかもわざわざ学園内の掲示単語板を見るなんて、よほど評判に関わる酷い事したからなんじゃないの?」
と、大層お怒りで私を睨みつけるイブ。もうへのへのもへじ娘で良いかなぁ。論点がズレまくっていてお話にならない。サッサと終わらせて部活に行こうと思っているのに、これでは長引きそうだ。もう一気に片を付けてしまおう。サイラスとユリアナはただおろおろしているだけだし、何だかなぁ。サイバーポリスに相談した、と聞いた時点で自分たちも掲示板に書き込んだ事は言い逃れ出来ないのは分かっているだろうし。どう胡麻化そうか迷ってるんだろうな。もう面倒だから一気にいってしまおう。まぁ、拙い事になる前に、陽子先生が仲裁に入ってくれる筈だから。再度先生に視線を合わせた。彼女は大きく頷いて見せる。「思い切ってやってしまいなさい」という意味だ。よし!
「コソコソ匿名掲示板に嘘の情報を書き込むあなたの方が陰険なんじゃないかと思うけど。それに、書き込みはしないけれど見ている人はかなり沢山いると思うし。人の事とやかく言う前に、『内省する』事をしてみた方が良いと思う。そうじゃないと、彼や友達は出来ないし、仮に出来たとしても長くは続かないと思う。私は良い人だから(自称だけど)忠告してあげるね」
怒りのあまり茹蛸みたいに顔が真っ赤になっているへのへのもへじ娘を尻目に、視線をサイラスとユリアナに向けた。ビクッと慄く様子が小物過ぎて失笑だ。
「さてさて、どうして掲示板を見たかって質問だけど。一昨日の休みの日の午前中に、小国国立公園に散策しに行った訳よ」
『小国国立公園』という言葉に茫然自失状態のサイラスとユリアナ。罪悪感はあるのね。その罪悪感に酔ってやらかすタイプなのね。小物だけど碌なもんじゃないわね。
「それで、びっくりするものを見ちゃった訳。あまりにもショックで、見なかった事にしたくなったくらい」
と、この辺りでちょっぴり悲しそうにして見せて……件の二人の罪悪感を煽る。でも時間はかけない。
「私の彼である筈のサイラスと、親友である筈のユリアナが二人で仲良く……」
「あー! ミルティア! それは誤解よっ!!!」
「そうだぞミルティア、俺たちはたまたま偶然出会っただけだ、何一つ疚しい事なんてないから!!」
ユリアナとサイラスは同時に立ち上がり、バンッと音を立てて両手をテーブルにつけた。
「あら、さすが仲良しなお二人さんね、台詞もタイミングもピッタリじゃない」
満面の笑みを浮かべつつ皮肉を言う。
「ミルティア、違うぞ、誤解だからな」
「そうよ、たまたま偶然会ったから一緒に歩いただけなの」
もう辞めなよ、この期に及んでみっともない。
「へぇ? たまたま偶然会ったら抱き合ってキスまでしちゃうものなの? 友達同士でそんな事するかしら?」
少し揶揄ってあげようかな。
「「え……」」
二人して絶句、顔色を失った。馬鹿馬鹿しい、さっさと終わらせよう。
「サイラス、あなたから告白して来たのよね? その頃からユリアナと付き合っていたのか、後からなのか分からないけど。『浮気』『二股』には変わらないよ。どうしてもユリアナと付き合いたいなら、私とキッチリ別れてから、が筋でしょう?」
正論で懇々と諭す。サイラスは項垂れるしか出来ない。当然だろう。次はユリアナだ。
「ユリアナにはがっかりしたよ。親友だと思っていたのに、あなたにとってはそうじゃなかったんだね」
「ち、ちが……」
「違わない! 親友なら私の彼を略奪なんて出来る筈ないし、仮に横恋慕で苦しんでいたとしても理性で抑えられる筈。それでも二人が想い合っているなら、私に打ち明けて相談する事だって出来た筈でしょ? ところが、あなたたちがした事って卑怯で姑息だよね。掲示板に赤の他人を装って私の事を悪役に仕立て上げて書き込み、自分たちの浮気を正当化どころか純愛に作り上げようとした。前々から私の事を気に食わなかったイブは、サイラスとユリアナの事を偶然知ったか何かで協力を申し出た、そんな感じでしょう」
三人とも力なく項垂れている。サイラスとユリアナは立ったままだ。どうやら図星のようだ。陽子先生に視線を合わせた。仕上げに入ります、という合図、瞬きを二回する。先生はうんうん、と二回頷いてくれた。立ち上がって三人を見渡す。
「そういう訳だから、サイラスとはこれでお別れ。ユリアナとも友達には戻れない。もう二人で適当に盛り上がるなり好きにしてくれて構わないから。イブはもう私に金輪際関わらないで、お互いにその方が精神衛生上良いでしょう。私からのお願いはそれだけ。反省文も何もいらないから、後は陽子先生から手続き上の提出書類の書き方の指示を受けて。じゃ、部活に行くから」
言いたかった結論を一気に言うと、陽子先生に「有難うございました。後は宜しくお願いします。手続上の事で後日またお伺いします」と頭を下げ、カウンセリングルームを後にした。声をかけようとしつつもどうして良いか分からない様子のサイラスと、涙目になって縋ろうとするユリアナ、ムスッと押し黙ったままのへのへのもへじ娘は華麗にスルーした。
これで、やっと身軽になった。部活に打ち込める。
辛うじて反論を試みようとするイブ、うん、その心意気だけはかってあげよう。方向性は思いっきり無駄だけどもね。
「逆に質問したいんだけど。どうしてバレないと思ったの?」
「そ、それは……」
三人が三人とも視線をさ迷わせ、互いの様子を窺っている。もうこの態度で、黒だと白状しているようなものだ。
「匿名掲示板の書き込みは『匿名であるけれども身元はすぐにバレる』。小等部の歴史で習った筈じゃない。自分には関係ない、て当時は流したんだろうし。軽く考えて書き込んだんだろうけどね。でもね、サイバーポリスに相談すればすぐに身元バレちゃうし。サイバーポリスじゃなくても、しっかり代金を支払えば弁護士が対処してくれるしね」
出来るだけ分かり易く、穏やかに話を進めているつもりだったが……
「調べたの? 陰険な人ね。普通匿名掲示板なんか見ないでしょ? しかもわざわざ学園内の掲示単語板を見るなんて、よほど評判に関わる酷い事したからなんじゃないの?」
と、大層お怒りで私を睨みつけるイブ。もうへのへのもへじ娘で良いかなぁ。論点がズレまくっていてお話にならない。サッサと終わらせて部活に行こうと思っているのに、これでは長引きそうだ。もう一気に片を付けてしまおう。サイラスとユリアナはただおろおろしているだけだし、何だかなぁ。サイバーポリスに相談した、と聞いた時点で自分たちも掲示板に書き込んだ事は言い逃れ出来ないのは分かっているだろうし。どう胡麻化そうか迷ってるんだろうな。もう面倒だから一気にいってしまおう。まぁ、拙い事になる前に、陽子先生が仲裁に入ってくれる筈だから。再度先生に視線を合わせた。彼女は大きく頷いて見せる。「思い切ってやってしまいなさい」という意味だ。よし!
「コソコソ匿名掲示板に嘘の情報を書き込むあなたの方が陰険なんじゃないかと思うけど。それに、書き込みはしないけれど見ている人はかなり沢山いると思うし。人の事とやかく言う前に、『内省する』事をしてみた方が良いと思う。そうじゃないと、彼や友達は出来ないし、仮に出来たとしても長くは続かないと思う。私は良い人だから(自称だけど)忠告してあげるね」
怒りのあまり茹蛸みたいに顔が真っ赤になっているへのへのもへじ娘を尻目に、視線をサイラスとユリアナに向けた。ビクッと慄く様子が小物過ぎて失笑だ。
「さてさて、どうして掲示板を見たかって質問だけど。一昨日の休みの日の午前中に、小国国立公園に散策しに行った訳よ」
『小国国立公園』という言葉に茫然自失状態のサイラスとユリアナ。罪悪感はあるのね。その罪悪感に酔ってやらかすタイプなのね。小物だけど碌なもんじゃないわね。
「それで、びっくりするものを見ちゃった訳。あまりにもショックで、見なかった事にしたくなったくらい」
と、この辺りでちょっぴり悲しそうにして見せて……件の二人の罪悪感を煽る。でも時間はかけない。
「私の彼である筈のサイラスと、親友である筈のユリアナが二人で仲良く……」
「あー! ミルティア! それは誤解よっ!!!」
「そうだぞミルティア、俺たちはたまたま偶然出会っただけだ、何一つ疚しい事なんてないから!!」
ユリアナとサイラスは同時に立ち上がり、バンッと音を立てて両手をテーブルにつけた。
「あら、さすが仲良しなお二人さんね、台詞もタイミングもピッタリじゃない」
満面の笑みを浮かべつつ皮肉を言う。
「ミルティア、違うぞ、誤解だからな」
「そうよ、たまたま偶然会ったから一緒に歩いただけなの」
もう辞めなよ、この期に及んでみっともない。
「へぇ? たまたま偶然会ったら抱き合ってキスまでしちゃうものなの? 友達同士でそんな事するかしら?」
少し揶揄ってあげようかな。
「「え……」」
二人して絶句、顔色を失った。馬鹿馬鹿しい、さっさと終わらせよう。
「サイラス、あなたから告白して来たのよね? その頃からユリアナと付き合っていたのか、後からなのか分からないけど。『浮気』『二股』には変わらないよ。どうしてもユリアナと付き合いたいなら、私とキッチリ別れてから、が筋でしょう?」
正論で懇々と諭す。サイラスは項垂れるしか出来ない。当然だろう。次はユリアナだ。
「ユリアナにはがっかりしたよ。親友だと思っていたのに、あなたにとってはそうじゃなかったんだね」
「ち、ちが……」
「違わない! 親友なら私の彼を略奪なんて出来る筈ないし、仮に横恋慕で苦しんでいたとしても理性で抑えられる筈。それでも二人が想い合っているなら、私に打ち明けて相談する事だって出来た筈でしょ? ところが、あなたたちがした事って卑怯で姑息だよね。掲示板に赤の他人を装って私の事を悪役に仕立て上げて書き込み、自分たちの浮気を正当化どころか純愛に作り上げようとした。前々から私の事を気に食わなかったイブは、サイラスとユリアナの事を偶然知ったか何かで協力を申し出た、そんな感じでしょう」
三人とも力なく項垂れている。サイラスとユリアナは立ったままだ。どうやら図星のようだ。陽子先生に視線を合わせた。仕上げに入ります、という合図、瞬きを二回する。先生はうんうん、と二回頷いてくれた。立ち上がって三人を見渡す。
「そういう訳だから、サイラスとはこれでお別れ。ユリアナとも友達には戻れない。もう二人で適当に盛り上がるなり好きにしてくれて構わないから。イブはもう私に金輪際関わらないで、お互いにその方が精神衛生上良いでしょう。私からのお願いはそれだけ。反省文も何もいらないから、後は陽子先生から手続き上の提出書類の書き方の指示を受けて。じゃ、部活に行くから」
言いたかった結論を一気に言うと、陽子先生に「有難うございました。後は宜しくお願いします。手続上の事で後日またお伺いします」と頭を下げ、カウンセリングルームを後にした。声をかけようとしつつもどうして良いか分からない様子のサイラスと、涙目になって縋ろうとするユリアナ、ムスッと押し黙ったままのへのへのもへじ娘は華麗にスルーした。
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