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第二話
さて、白黒ハッキリ付けようじゃないの!②
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授業が終了合図のベルが鳴る。当たり前のように私の教室にやって来るサイラス。ほんの数日前の私は、無邪気にクズとのランチタイムを楽しみにしていた。我ながら間抜けだ、表向きの言動に騙されるとは。これまで、人の裏の読むのは得意だと秘かに自負してたが、全くの思い上がりだった。改めて気を引き締めよう。
学食は既に多くの生徒たちでごった返していた。二人で日替わりランチを頼み、空いている席に素早く座る。これも通常の学園生活の一部だった。
「……それで、妹の奴がさぁ……」
彼の他愛ない話に笑顔で相槌を打つ。殆どが可愛がっている妹や弟の話題だ。その可愛がっている弟や妹に、「彼女の親友と浮気してるんだよ。これはね、とても素敵な事なんだ」と堂々と言えるのだろうか? もし言えるのなら大した悪党だ。後ろめたいところがあるから、影でコソコソと逢引しているのだろう。いずれは誰かにバレただろう。やらかしている事は杜撰だ、つまり狡賢いが小物であるという事だ。こういう奴は、どこにでも出現する確率が高い脇役だ。
……まぁ、かくいう私も主人公というタイプではないけれど……
「ん? どうした? ぼんやりして……」
……あ、いけない。今は普通に接していないと……
「ううん、今朝から雨で湿気が多いから、魔道具の保管に気をつけないとな、なんてふと思ってね」
咄嗟に思いついたにしては上出来な取り繕い方ではないかと思う。とは言っても、何一つ嘘は言っていない。魔道具作成部に入部している私は、現在トネリコの木を使用した杖を作成中なのだ。本格的にカンナやノミ、彫刻刀などを扱い手作業で作成するので、湿気が多い場所に保管するのはカビなどが生えやすくなる為注意が必要なのだ。
因みに、サイラスは週三回ほど活動するテニス同好会に。ユリアナは週二回活動するコーラス愛好会に入っている。
「そっか。雨が続くと保管場所の湿気の管理が大変だ、て言ってたもんな。あれ? でも……そういやお前は水の精霊の属性だから、湿気の管理はそう大変でもないんじゃないか?」
「うん、でも自然を操る魔法は繊細で意外に高度だったりするし、下手したら自然破壊に繋がる場合もあるから敬遠してるんだ」
「そっか、成程な」
これは半分は本音で半分は嘘だ。自然に関わる魔術は、時として自然破壊に繋がる場合が無いとは言えない為注意が必要で意外に高度な魔術であるのは本当だ。だが、湿気の管理に関しては実は得意だった。これは母親と私の秘密なのだが、水の他に、風の魔術と風の下級精霊が使役出来るのだ。生まれつきのもので、三歳くらいの時から風の下級精霊と戯れたりしていたらしい。母親は大層喜んだ。
「すごいわ! 習わなくても風の精霊と遊べて魔法まで使えるなんて! あなたはあの方に似たのね」
母親は愛おしそうに美しいブルーグレーの瞳を細め、私を見つめた。繊細で長い淡い金色の睫毛が、窓から差し込む光を浴びてキラキラと輝き、見惚れるほど美しかった。「おかあしゃま綺麗」とよく回らない舌で口をついて出たのを今でも覚えている。だが、それと同時に私ではない誰かを見ている感じがして何とも言えない奇妙な違和感と居心地の悪さを覚えた。これが、母が私を通してクズ男を見ているように感じた一番最初の記憶だと思う。
サイラスと適当に会話をし、ランチを終えてそれぞれの教室へと戻る。別れ際に手を振って微笑み合うのも日課だ。見掛けは少し日焼けした肌に、褐色の短髪と萌黄色の瞳を持つ爽やかなタイプの好青年という感じで、性格も良さそうに見える。間違っても、浮気やら二股をしでかすようには見えない。
人は見掛けに寄らない。十二分に理解していたつもりが分かっていなかった。手を繋いだくらいで、それ以上の身体接触をしなくて本当に良かった。尤も、相手が誰であろうと未だ未成年なのだ、幼子と母親がするみたいな感じで、軽く唇にキスをする程度までしか許すつもりは無いのだが。ユリアナとは濃厚にキスを交わしていたっけ。
_____放課後、カウンセリングルームのドアをノックしていた。部活には予め少し遅れて参加すると伝えてある。
「失礼します。予約していたミルティア・フェリシティ・エクオールです」
と挨拶をして入室した。初めて入る部屋だ。淡いグリーンの壁とフローリングの床が目に優しい。
「いらっしゃい。待ってたよ。どうぞ座って」
人好きのする笑顔で迎えてくれたのは、桜色の白衣を身にまとった優しそうな中年女性だった。ふっくらとした感じが柔らかそうで、人を安心させる雰囲気を持っている。さすがカウンセラーだ。
「さて、何かお困りかな?」
ソフトな声もホッとする。私は気負う事なく、事実をそのまま述べ始めた。
学食は既に多くの生徒たちでごった返していた。二人で日替わりランチを頼み、空いている席に素早く座る。これも通常の学園生活の一部だった。
「……それで、妹の奴がさぁ……」
彼の他愛ない話に笑顔で相槌を打つ。殆どが可愛がっている妹や弟の話題だ。その可愛がっている弟や妹に、「彼女の親友と浮気してるんだよ。これはね、とても素敵な事なんだ」と堂々と言えるのだろうか? もし言えるのなら大した悪党だ。後ろめたいところがあるから、影でコソコソと逢引しているのだろう。いずれは誰かにバレただろう。やらかしている事は杜撰だ、つまり狡賢いが小物であるという事だ。こういう奴は、どこにでも出現する確率が高い脇役だ。
……まぁ、かくいう私も主人公というタイプではないけれど……
「ん? どうした? ぼんやりして……」
……あ、いけない。今は普通に接していないと……
「ううん、今朝から雨で湿気が多いから、魔道具の保管に気をつけないとな、なんてふと思ってね」
咄嗟に思いついたにしては上出来な取り繕い方ではないかと思う。とは言っても、何一つ嘘は言っていない。魔道具作成部に入部している私は、現在トネリコの木を使用した杖を作成中なのだ。本格的にカンナやノミ、彫刻刀などを扱い手作業で作成するので、湿気が多い場所に保管するのはカビなどが生えやすくなる為注意が必要なのだ。
因みに、サイラスは週三回ほど活動するテニス同好会に。ユリアナは週二回活動するコーラス愛好会に入っている。
「そっか。雨が続くと保管場所の湿気の管理が大変だ、て言ってたもんな。あれ? でも……そういやお前は水の精霊の属性だから、湿気の管理はそう大変でもないんじゃないか?」
「うん、でも自然を操る魔法は繊細で意外に高度だったりするし、下手したら自然破壊に繋がる場合もあるから敬遠してるんだ」
「そっか、成程な」
これは半分は本音で半分は嘘だ。自然に関わる魔術は、時として自然破壊に繋がる場合が無いとは言えない為注意が必要で意外に高度な魔術であるのは本当だ。だが、湿気の管理に関しては実は得意だった。これは母親と私の秘密なのだが、水の他に、風の魔術と風の下級精霊が使役出来るのだ。生まれつきのもので、三歳くらいの時から風の下級精霊と戯れたりしていたらしい。母親は大層喜んだ。
「すごいわ! 習わなくても風の精霊と遊べて魔法まで使えるなんて! あなたはあの方に似たのね」
母親は愛おしそうに美しいブルーグレーの瞳を細め、私を見つめた。繊細で長い淡い金色の睫毛が、窓から差し込む光を浴びてキラキラと輝き、見惚れるほど美しかった。「おかあしゃま綺麗」とよく回らない舌で口をついて出たのを今でも覚えている。だが、それと同時に私ではない誰かを見ている感じがして何とも言えない奇妙な違和感と居心地の悪さを覚えた。これが、母が私を通してクズ男を見ているように感じた一番最初の記憶だと思う。
サイラスと適当に会話をし、ランチを終えてそれぞれの教室へと戻る。別れ際に手を振って微笑み合うのも日課だ。見掛けは少し日焼けした肌に、褐色の短髪と萌黄色の瞳を持つ爽やかなタイプの好青年という感じで、性格も良さそうに見える。間違っても、浮気やら二股をしでかすようには見えない。
人は見掛けに寄らない。十二分に理解していたつもりが分かっていなかった。手を繋いだくらいで、それ以上の身体接触をしなくて本当に良かった。尤も、相手が誰であろうと未だ未成年なのだ、幼子と母親がするみたいな感じで、軽く唇にキスをする程度までしか許すつもりは無いのだが。ユリアナとは濃厚にキスを交わしていたっけ。
_____放課後、カウンセリングルームのドアをノックしていた。部活には予め少し遅れて参加すると伝えてある。
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と挨拶をして入室した。初めて入る部屋だ。淡いグリーンの壁とフローリングの床が目に優しい。
「いらっしゃい。待ってたよ。どうぞ座って」
人好きのする笑顔で迎えてくれたのは、桜色の白衣を身にまとった優しそうな中年女性だった。ふっくらとした感じが柔らかそうで、人を安心させる雰囲気を持っている。さすがカウンセラーだ。
「さて、何かお困りかな?」
ソフトな声もホッとする。私は気負う事なく、事実をそのまま述べ始めた。
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