その男、有能につき……

大和撫子

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第百二十二話

さて! さて……

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「あ、時間です」
「え? あっ! もう?!」
「ええ、そう言うことなので……」

 え、えーーっ! ちょっと待ってくれ、まだ聞きたい事が……

「あー、あっ! あと一つ!」

 約束の時間までまだ二分強も残ってるじゃないか! 嫌そうに眉をしかめているけれど、気付かったふりをさせて貰うぞ。

「魔術の事よく分かってないんだけど、オーガストの本体は外で普通に過ごしているっていう認識で間違ってないか?」
「……は?」

 彼は一瞬、怪訝そうに目を眇めたが、すぐに応じてくれた。

「あぁ、そうです。ここには実体を伴った意識がいる、と思って頂けましたら」
「それと……」
「すみません、もう時間切れでして」

 うわ、待ってくれ!

「ごめん、じゃあこれだけ! お立ち場的に難しいかと思うのだけど、陛下の御母堂様と陛下ご自身の交流は今も定期的にあったりするのかな?」
「えっとあの……」

 落ち着きなく視線を彷徨わせる。これは地雷だったか? ……それなら……

「答えにくい質問だったな、すまん。何せ、王家の事情も何も知らないものでな。陛下の御母堂からの夢の伝言と聞いてさ、ふと思っただけだからさ……」
「あ、その……いいえ。何も知らないのでしたら当然の反応かと存じます。えぇ……そうですね。あの、どうか御内密に……」
「勿論だよ」
「その、そうですね……。陛下は少しずつ御母堂様と距離を置かれるようになった、と聞き及んでおります。私が伺った範囲ではございますが、十年近く交流は無いとの事です」
 
 十年くらいか。……リアンを遠ざけた頃と重なるか……?

「そうなのか。有難うな」
「あ、いいえ。その……では失礼します!!」
「有難う!」

 しっかり礼を言いかかったけれど、オーガストは弾かれるようにして掻き消えていった。約束の時間切れまで後一分ほど残して。それでも、彼にしてみたら。別に忠誠を誓った主でもあるまいし、殆ど面識も義理もない俺に対して随分と無理をさせてしまった。それでも律儀に応じてくれたと思う。在り難い。

 彼から聞いた話を整理し、推測してみよう。推測は憶測と紙一重だから、思い込みという色眼鏡をかけないように注意しないといけないけれど……。

①幽体離脱というか分身の術について。『実態を伴った意識』というからには、幽体離脱というよりは「分身の術」に近いか。
②国王陛下の母君と陛下ご自身は、やはり距離があるようだ。母君が俺の夢に出てきてどうにかして欲しいなんて言ってくるという事は、愛情はあるのだろう。陛下が遠ざけているとしても。二人に距離があったとしても。

 ……ちょっとだけ、羨ましいな。俺は父親はおろか母親からも不良品あるいは空気扱いだったからな……

 そして③……サイラスもエリックも、俺と仲が良い(?)とかでここには出入り禁止かぁ。エリックなんて少し話しただけなのになぁ。前から思っていた事だけど、国王陛下が俺を……所謂恋愛として執着しているのかというと、やっぱりそれは違うと思うなぁ。もしかしたら、ご自身は気づいていたいかもしれないけれど。

 さて、これから俺はどうすべきか? 何をすべきかを考えてみても答えは一つ、陛下としっかりと向き合って話しをする事だ。な、フォルス。力を貸してくれよ。

 俺は左手首に向かって心の中で話し掛け、右手でペンダントトップを握り締めた。大丈夫、きっと何らかの効果は発揮される。記憶まで封じ込めた国王が、このアクセサリーを取り上げる事はしなかったくらいだから。これは取り上げる必要性を感じなかったというより、俺を保護する魔力のお陰でブレスレットもペンダントも外せなかった、とみて良いと思う。

 ほら、左手がじわーっと熱くなってきたぞ! 

「惟光、入るぞ!」

 ほら、早速国王陛下のお声が聞こえるじゃないか! ここまではと呼べそうだ。だが、ここからは運とタイミング、そして俺の対人スキルが試される。
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