その男、有能につき……

大和撫子

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第百二十一話

破壊と夢と現実と……・後編

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 ……うわぁ、愛人ってマジかぁ。まさに『囲い人』……。いやいや、考え込むのは後だ、後……

「な、なるほど。そうか……」

 ほらほら、早いとこ質問しとけ、て俺。

「じゃあ、ここに来るのは凄く大変だったよな、有難うな」

 うん、国王の母君の夢の話が、まさか本当に頼まれた事だったなんてまさにびっくり条件だったけどな。

「え? ……あ、いや……」

 何故か所在なく視線を彷徨わせるオーガスト。何だろう? 何か拙い事言っちまったのだろうか?

「ん? どうした?」
「あ、いいえその……お礼を言われる事に慣れておりませんでして……」

 あぁ、そういう事か……。それを言うなら、俺の方こそあっちの世界では雑魚キャラ扱いが当たり前だったから、ここの世界にでのギャップに戸惑いっ放しだけどな。

「そうなのか……でも実際に有り難いしな。何せ、ここでの決まり事とか何も聞いていないし、誰に聞いて良いかも分からなかったからさ」
「は、はぁ……その、ダニエルには伝えておきます」
「有難う、確か前も……そんな感じでやり取りしたなぁ。あの時はハロルドとの事だったか」
「そうですね……。えーと、その。ここに居られるのは時間制限はありまして……」
「ん? あぁ、そうか。ごめんな。それで、タイムリミットはどのくらいだ?」
「……あと、八分ほど。いいえ、余裕を見まして五分ほど。この間でしたら、防御魔法プロテクションは有効ですので」

 そうなのか。その防御魔法プロテクションとやらについても詳しく聞いてみたいけど、取りあえずはその時間は国王陛下と言えどもその期間は入って来れないというか、或いはオーガストは見つからない、という意味かな。

「……なるほど、じゃあその五分の間だけ質問させて欲しいんだけど良いかな?」
「は、はい。その……お答え出来る範囲でも差し支えなければ……」
「勿論だよ、有難うな」

 よし、じゃあ出来るだけ聞きたい事を多くをだな……

「早速だけど、ここは……と言うか俺自身、何か情報規制みたいのはあるのかな?」
「え? 何か明らかに規制されていると感じる事があるのですか?」

 ギョッとした様子の彼を見て焦る。ゲッ! この質問は拙かったか!! 俺が全て思い出している事、バレたら駄目じゃんか! 

「ん? あぁ……」

 待て待て落ち着け、俺。何とか誤魔化せ!

「……そういう訳じゃないんだけどさ、何せ初めての経験だもんで。何となくのイメージで。遮断される情報とかあるのかな、と思ってさ」

 お。良かった。ホッとした様子だ。誤魔化されてくれた……かな。

「あぁ、そういう事でしたか。まぁ、それはお察しの通りです。あなたに好意的に振る舞いそうな者たちは意図的に遠ざけるでしょうね」
「そうかぁ……なるほどなぁ」

 ほら、時間が勿体ない、他に何か質問しないと。

「えーと、陛下の御母堂様からはどんな感じで言付けを?」
「近衛兵四天王の中でのシフト制で、御母堂様の身辺警護をするようになっているのです。本日は俺の担当だったので、たまたま……ですね」
「なるほど……」

 ほら、考え込むのは後だ後。

「そういや、サイラスは元気かな? 全然会ってないけど……」

 咄嗟に出ちまった……。ちょっと呆れたように眉を下げた、さすがに間抜けな質問だったか。

「……サイラスには会えませんよ?」
「え? 体調でも崩したのか?」

 それか持ち場が移動になった……とか?

「いいえ、惟光様と仲が良いから、だそうです」
「は?」
「少なくとも、陛下にはそう見えるようですよ。だから、彼はあなたの担当にはさせないでしょうね。エリックも同じです」
「え……」

 ちょっと、驚き過ぎて言葉が出ない。エリックなんて数回少し気安く話しただけなのに……

「そんな心配そうな顔なさらないで下さい。本当に優しい方だ。別に左遷させられたとか罰を受けたとかではないですから。ただ、惟光様の担当にはならない、というだけですよ」

 何でもない事のように話す彼の言葉はが、遠くで聞こえるような気がした。
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