その男、有能につき……

大和撫子

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第百二十一話

破壊と夢と現実と……・中編

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 果たして、視線の先に姿を現したのは……

 顎のラインで切り揃えたサラサラの栗色の髪、艶のあるチョコレート色の瞳と、乳白色の肌に淡い桃色の繊細な唇を持つ、さながら女性と見紛うばかりに美しい青年だった。今日はコバルトブルーの軍服服姿に身を包んでいる。確か、国王近衛兵四天王の一人、南を司る……

「オーガスト……?」

 どうしてここに? という意味を込めてその名を呼ぶ。彼は意外そうに目を見開いた。……ん? 何だ?

「……お名前、覚えて頂いて恐れ入ります」

 と、礼儀正しく一礼した。見事なストレートの栗色の髪が、サラリと音を立てそうだ。物腰は上品で丁寧ではあるが、やはりどこかよそよそしい。コイツも慇懃無礼の部類か……いや、憶測は良くないな。この彼とは挨拶くらいしか会話をしていないし。

 さて、この彼はどう出る? 

「名前を……? そんなに意外な事かな?」
「あ、いえ……」

 まさか問いかけられるとは思っていなかったのだろう。少し慌てた様子だ。そのまま様子を見守る。

「ずっと長くお仕えするならともかく、臨時で。或いは一時的にお仕えする場合、名前を覚えて頂ける事は稀ですから……。失礼しました、取り乱しました」

 再び頭を下げる。なるほどな、やはり……当初の俺はさほど長居する予定ではなかったと言うことか。

「来たばかりの時に、食事を運んで貰ったり下げてくれたり、掃除やベッドメイキングだとか。担当の時世話になったし。その他、俺が知らないところで何か世話になってるだろうから。名前くらい覚えないと失礼だろうと思うからさ。だから別に、恐縮して貰う必要なんか無いよ、これっぽっちも」

 と、何でもない事のように答えた。ま、本心だしな。なるほど、四天王の一人といえど……主人というか、来客に対しても互いにク-ルでドライな関係が大半なんだな。呆気に取られたような顔して、名前を呼ばれる事、相当珍しかったのかなぁ。

「……は、はぁ……」
「ん? どうした?」
「あ、大変失礼致しました!」

 漸く我に返ったようだ。さて、と。

「いや、大丈夫だよ。……それで、ご用件は?」
「あ、はい。要件はですね……」

 落ち着きを取り戻し、元のツンと取り澄ました表情に戻った。

「国王陛下の御母堂様より伝言を承って参りました」
「え?」

 国王の母君? 瞬時に蘇る桜吹雪。その中に佇む女性の姿……。正直言って、全くの予想外の内容に面食らった。

「『夢でお伝えした件、宜しく頼みますね』との事で御座いました」
「……えっ? ゆ、夢?!」
「はい、『そうお伝えしたらお分かりになる筈』との事で、詳細は一切存じ上げておりません。ただ、お伝えしに参上しただけでございます」

 あの夢は夢じゃなかったのか。だからあれだけ鮮明に……。いや、感心している場合じゃないぞ、俺。オ-ガストに質問して少しでも疑問点を解消しなけりゃ。……例え、素直に答えてくれなくても、だ。

「では、それだけお伝えしかっただけですの私はこれで! それと、申し上げずともお分かりになってらっしゃると思いますが、こちらに私が来た事はどうぞ内密に。」

 長居は無用、とばかりに一礼し、去ろうとする。おいおい……正気に返った途端にそれかよ。さすがに失礼だろ? 言わなくても暗黙の了解だ、て分かるだろ、空気読めってか?

「あー! ちょっと待ってくれ!!」

 兎に角、何でもいから引き止めて。聞ける事だけ聞いてみないと。

「……何か?」

 彼は訝し気に俺を見つめた。

「あの、聞きたい事があって」

 取りあえず質問は話しながら整理して、時間が許す限りしよう。させて貰うぞ、と。手始めに、そうそう、ここれ。

「ここには、来ようと思えば誰でも来れるのか?」
「……は?」

 何を言ってるんだコイツは!? というように右眉だけをギュッとあげた。何だよ? その反応は。

「いやほら、ここのシステムの事全然知らないからさ。特にこの空間の事は、何も知らくて」
「……ダニエルから何の説明もなかったのですか?」

 ダニエル? どういう事だ?

「ん? ここには国王陛下以外に訪ねて来たのはオーガストが初だが……。食事や洗濯や掃除は自動魔法で処理されているし……」
 
 オーガストは「あーぁ……」と声を出して盛大に溜息をついた。そしてボソリと「……手抜き野郎め」と吐き出すように言った。うん、聞かなかった事にしといてやるよ。そうか、ダニエルの奴、俺への説明を手抜きした訳か。

「そりゃ、あなたは国王陛下の愛人でここに囲われている訳ですから。陛下以外、立ち入り禁止なんですよ。もし立ち入る事がある場合、陛下の許可を頂かないといけないんです」

 仕方無さそうに、溜息混じりに説明を始めた。
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