178 / 186
第百十九話
恋ぞつもりて……・前編
しおりを挟む
次に目を開けると、元の部屋。ソファに腰をおろしていた。
……王子と繋がれそうだ……
まだ直接会えた訳ではないが、後であのメモを読む筈だ。
……大丈夫、きっとまた会える。また、前みたいに皆で。それはまだ先かもしれないけれど……
強い予感がした。実際のところ、課題は山積みなのだ。だが、きっと大丈夫。そんな、確信が伴ったような予感がした。
さて、一歩一歩着実に。出来るところから状況を変えていこう。考えるべき事は……
幽体離脱? 生霊? この仕組みはよく分からないが、魂の一部が抜け出して。それでも本体も普通に日常生活を送れるらしいが……。どういう事だろう?
「……あっ!」
そんな風に思ったのも束の間。瞬時にこの部屋にいた時の記憶が呼び起こされたのだ。魂の一部が『秘密の花薗』に行っている間、俺は再び壁にはり付いて外の様子を眺めていたらしい。城内は、幼い頃夢中になって読んだシンドバッドの絵本に出て来るような雰囲気で、ワクワクして見ていたようだ。金色の玉座には王が、その隣に派妃がいたようだが、そこで視界が暗転してしまったようだ。残念……。今も外が暗いままだから、恐らくは国王がペンダントを衣服の中にしまい込んだのだろう。まぁ、国王同士が対面ともなれば、特に身なりには注意を払うだろうし、仕方がない事だけれども。
外が見られないのであれば、少し状況を整理しよう。足って部屋を歩き回ってみる。特に疲労も感じられない。経験が無いから本当の事は分からないが、生霊を飛ばすと心身共に疲労が激しいと聞く。……という事は、疲れていない俺は生霊を飛ばした訳では無さそうだ。つまり、どういう事だ? そうだ、これは多分……こっちもまた経験した事ないから想像だけど。恐らく分身の術みたいなもんかな、と。
……そういや昔、小二の時だったかな。その頃大人気の忍者漫画があって。自室で分身の術とか使えたらいいなぁ、なんて一人遊びしていたら。いきなり弟がやって来て。
『つーか惟光みたいな無能が何人もいたら社会の迷惑だし、高月家の恥だから勘弁してよ』
なんて冷たく言われて凹んだっけ。だけど言われてみて『あー、確かに……』なんて納得しちまう自分もいて……
「……つ、惟光!」
「え? あ、あー、は、はいっ!」
唐突に背後から名を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうなほど驚きつつ反射的に背後を振り返る。
「突然に、すまなかったな」
「こ、国王陛下……」
穏やかな笑みを浮かべ、国王が立っていた。
「これは、わざわざお越しくださいまして……」
「私がそなたの許可を取らずに、勝手にやって来たのだ。楽に致せ」
そう言いますけど、さすがに言われた通りに砕けた態度は取れない訳で。やっぱり緊張するしどう接して良いのか分からないんだよなぁ……。
そんな事を思いながら、国王に促されるままにソファに腰をおろす。
「公務が終わったのでな。帰路に着く間、そなたと過ごしたい。本体は眠っているようにしてあるから、着くまでの間、ここにいたいのだ」
向かい側に腰をおろした国王は、蕩けそうな笑みで見つめる。こんな優しく慈愛に満ちた表情も出来るのかと、思わず息を呑んだ。まさに菩薩の如しだ。
……浮世離れした美形ってすげぇ……
ぼんやりとそんな事を思いながら、「有り難き幸せ」と無難に応じておく。万が一心を読まれていたとしたら……その時は、その時だ。却って、話しあうチャンスかもしれない。
「筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる」
にわかに、和歌を口にする国王。何だ? どういう事だ?
「……百人一首、でございますか?」
慎重に切り返した。まさか、『秘密の花薗』に行った事、メモの全ての一部始終を知っているのだろうか……?
……王子と繋がれそうだ……
まだ直接会えた訳ではないが、後であのメモを読む筈だ。
……大丈夫、きっとまた会える。また、前みたいに皆で。それはまだ先かもしれないけれど……
強い予感がした。実際のところ、課題は山積みなのだ。だが、きっと大丈夫。そんな、確信が伴ったような予感がした。
さて、一歩一歩着実に。出来るところから状況を変えていこう。考えるべき事は……
幽体離脱? 生霊? この仕組みはよく分からないが、魂の一部が抜け出して。それでも本体も普通に日常生活を送れるらしいが……。どういう事だろう?
「……あっ!」
そんな風に思ったのも束の間。瞬時にこの部屋にいた時の記憶が呼び起こされたのだ。魂の一部が『秘密の花薗』に行っている間、俺は再び壁にはり付いて外の様子を眺めていたらしい。城内は、幼い頃夢中になって読んだシンドバッドの絵本に出て来るような雰囲気で、ワクワクして見ていたようだ。金色の玉座には王が、その隣に派妃がいたようだが、そこで視界が暗転してしまったようだ。残念……。今も外が暗いままだから、恐らくは国王がペンダントを衣服の中にしまい込んだのだろう。まぁ、国王同士が対面ともなれば、特に身なりには注意を払うだろうし、仕方がない事だけれども。
外が見られないのであれば、少し状況を整理しよう。足って部屋を歩き回ってみる。特に疲労も感じられない。経験が無いから本当の事は分からないが、生霊を飛ばすと心身共に疲労が激しいと聞く。……という事は、疲れていない俺は生霊を飛ばした訳では無さそうだ。つまり、どういう事だ? そうだ、これは多分……こっちもまた経験した事ないから想像だけど。恐らく分身の術みたいなもんかな、と。
……そういや昔、小二の時だったかな。その頃大人気の忍者漫画があって。自室で分身の術とか使えたらいいなぁ、なんて一人遊びしていたら。いきなり弟がやって来て。
『つーか惟光みたいな無能が何人もいたら社会の迷惑だし、高月家の恥だから勘弁してよ』
なんて冷たく言われて凹んだっけ。だけど言われてみて『あー、確かに……』なんて納得しちまう自分もいて……
「……つ、惟光!」
「え? あ、あー、は、はいっ!」
唐突に背後から名を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうなほど驚きつつ反射的に背後を振り返る。
「突然に、すまなかったな」
「こ、国王陛下……」
穏やかな笑みを浮かべ、国王が立っていた。
「これは、わざわざお越しくださいまして……」
「私がそなたの許可を取らずに、勝手にやって来たのだ。楽に致せ」
そう言いますけど、さすがに言われた通りに砕けた態度は取れない訳で。やっぱり緊張するしどう接して良いのか分からないんだよなぁ……。
そんな事を思いながら、国王に促されるままにソファに腰をおろす。
「公務が終わったのでな。帰路に着く間、そなたと過ごしたい。本体は眠っているようにしてあるから、着くまでの間、ここにいたいのだ」
向かい側に腰をおろした国王は、蕩けそうな笑みで見つめる。こんな優しく慈愛に満ちた表情も出来るのかと、思わず息を呑んだ。まさに菩薩の如しだ。
……浮世離れした美形ってすげぇ……
ぼんやりとそんな事を思いながら、「有り難き幸せ」と無難に応じておく。万が一心を読まれていたとしたら……その時は、その時だ。却って、話しあうチャンスかもしれない。
「筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる」
にわかに、和歌を口にする国王。何だ? どういう事だ?
「……百人一首、でございますか?」
慎重に切り返した。まさか、『秘密の花薗』に行った事、メモの全ての一部始終を知っているのだろうか……?
0
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる