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第百十五話
囲ひ人・後編
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「そ、それは……つまり……」
あぁ、パニック状態で口の中がカラカラだ、舌がもつれる……。だけどしっかり状況把握しないと。
「国王陛下のアクセサリーの一つに入り込んだ、と言う事でしょうか?」
「あぁ、そうだな。私のアクセサリーの一つというより、私が最も気に入って大切にしている唯一のアクセサリーの中、というべきだな」
満足そうに応じる国王は、どこか得意気に笑みを浮かべている。心の底からゾッとした。全身が粟立つほどに。
「……どうした? 心配する事は何もないのだぞ?」
不思議そうに、そして気遣うように覗き込む銀灰色の瞳は、真夏の夜空を彩る月のように明るく澄んでいる。何だろう? この、根本的に会話が成立しない違和感と薄気味悪さはに腹の底からゾワゾワする。
「いいえ、心配と言いますか……ペンダントをつけられた際は外側から私の事を見る事は出来るのでしょうか」
……いや、通常に考えうる安全面云々の次元の話題ではないんだが……
「あぁ、見ようと思って見れば見られるとは思うが、安心するが良い。誰も私のペンダントにそなたが居るなんて思わないであろう。仮に、思ったとしても私の愛用しているペンダントに触れようとする無礼者はおらぬ」
安心させるように力強くこたえる。
……違う、そういう事が問題なのではない……
「だからそなたは安心して、好きなように過ごせば良い。映像が見たければパソコンを使えば良いし。本は思い浮かべれば自動的に出現する魔術も施してある。衣装も、飲食物も好きなものを思い浮かべたら良い。誰に恨まれる事も妬まれる事もなく、安心して私の愛を受けるが良い」
恍惚とした表情で話す国王に反比例するように、全身が凍りついたように冷え切っていく。……駄目だ、考えろ。落ち着け。態度や表情に出してはいけない。ここで下手を売ったら、国王が心を閉ざしてしまう可能性が高い。
「……は、はい。有難うございます」
駄目だ、この状況に呑まれたら。そもそも自分が引き起こした事なんだから、何とかしないと。慎重に、慎重に……まずは質問してみよう。
「あの、質問宜しいでしょうか?」
「何なりと申してみよ」
穏やかな表情だ。俺が恐怖を抱いているだなんて微塵も感じていないように見える。いや、今はむしろこれで良い。
「例えば、なのですが。私自身がペンダントの中から外に出る事は可能でしょうか?」
「必要がある場合は私が外に出してやるから心配ないぞ」
「……許可がある時以外は外には出られない、と言う事で宜しいでしょうか?」
……そんな……それってまさに……
「まさか、この環境に不満があるのではあるまいな?」
国王はいささか不快そうに眉をひそめる。これはまさに『無言の圧力』っていうやつだ。
「いいえ、ペンダントの中での生活は初めてですので。お伺いしてみただけでございます」
素早く取り繕う。こういう時、散々コケにされて来たモブキャラ雑魚な過去が役に立つ。これは、俺の意思で外に出る事は出来ない、という事なのだろう。
……だけどこれは……『花の檻』なんてもんじゃないぞ。まさに、『囲い人』じゃないか!
「何も心配する事はない。何か希望があればその都度申し出るが良い。では、これから公務で風空界に参る。早速、共に参ろう」
「は、はい、有難うございます」
反射的に礼を述べる俺に、国王は上機嫌で微笑むと、スーッと掻き消えるようにして消えた。これから、ペンダントとして国王と行動を共にするらしい。正直言って今は何も思い付かない。
あぁ、パニック状態で口の中がカラカラだ、舌がもつれる……。だけどしっかり状況把握しないと。
「国王陛下のアクセサリーの一つに入り込んだ、と言う事でしょうか?」
「あぁ、そうだな。私のアクセサリーの一つというより、私が最も気に入って大切にしている唯一のアクセサリーの中、というべきだな」
満足そうに応じる国王は、どこか得意気に笑みを浮かべている。心の底からゾッとした。全身が粟立つほどに。
「……どうした? 心配する事は何もないのだぞ?」
不思議そうに、そして気遣うように覗き込む銀灰色の瞳は、真夏の夜空を彩る月のように明るく澄んでいる。何だろう? この、根本的に会話が成立しない違和感と薄気味悪さはに腹の底からゾワゾワする。
「いいえ、心配と言いますか……ペンダントをつけられた際は外側から私の事を見る事は出来るのでしょうか」
……いや、通常に考えうる安全面云々の次元の話題ではないんだが……
「あぁ、見ようと思って見れば見られるとは思うが、安心するが良い。誰も私のペンダントにそなたが居るなんて思わないであろう。仮に、思ったとしても私の愛用しているペンダントに触れようとする無礼者はおらぬ」
安心させるように力強くこたえる。
……違う、そういう事が問題なのではない……
「だからそなたは安心して、好きなように過ごせば良い。映像が見たければパソコンを使えば良いし。本は思い浮かべれば自動的に出現する魔術も施してある。衣装も、飲食物も好きなものを思い浮かべたら良い。誰に恨まれる事も妬まれる事もなく、安心して私の愛を受けるが良い」
恍惚とした表情で話す国王に反比例するように、全身が凍りついたように冷え切っていく。……駄目だ、考えろ。落ち着け。態度や表情に出してはいけない。ここで下手を売ったら、国王が心を閉ざしてしまう可能性が高い。
「……は、はい。有難うございます」
駄目だ、この状況に呑まれたら。そもそも自分が引き起こした事なんだから、何とかしないと。慎重に、慎重に……まずは質問してみよう。
「あの、質問宜しいでしょうか?」
「何なりと申してみよ」
穏やかな表情だ。俺が恐怖を抱いているだなんて微塵も感じていないように見える。いや、今はむしろこれで良い。
「例えば、なのですが。私自身がペンダントの中から外に出る事は可能でしょうか?」
「必要がある場合は私が外に出してやるから心配ないぞ」
「……許可がある時以外は外には出られない、と言う事で宜しいでしょうか?」
……そんな……それってまさに……
「まさか、この環境に不満があるのではあるまいな?」
国王はいささか不快そうに眉をひそめる。これはまさに『無言の圧力』っていうやつだ。
「いいえ、ペンダントの中での生活は初めてですので。お伺いしてみただけでございます」
素早く取り繕う。こういう時、散々コケにされて来たモブキャラ雑魚な過去が役に立つ。これは、俺の意思で外に出る事は出来ない、という事なのだろう。
……だけどこれは……『花の檻』なんてもんじゃないぞ。まさに、『囲い人』じゃないか!
「何も心配する事はない。何か希望があればその都度申し出るが良い。では、これから公務で風空界に参る。早速、共に参ろう」
「は、はい、有難うございます」
反射的に礼を述べる俺に、国王は上機嫌で微笑むと、スーッと掻き消えるようにして消えた。これから、ペンダントとして国王と行動を共にするらしい。正直言って今は何も思い付かない。
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