その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
上 下
169 / 186
第百十五話

囲ひ人・前編

しおりを挟む
 目を覚ますと、真っ先に天井に群れを作るカサブランカが目に入った。これが灯りになるだろう。続いて、ふかふかのべッドに横たわっていた自分に気付く。純白の敷布団と掛け布団、そして大人四人が余裕で寝転べるような広さの広さは変わら無い。今回は、雫型のスワロフスキーまたは水晶の飾りが、蔦に等間隔絡められており。それが天蓋代わりになっている。まるでサンキャッチャーで作られた天蓋だ。もしかしたら蔦についている雫型は、蔦に溜まった朝露で出来ているのかもしれない。

 ゆっくりと上体を起こす。ここは寝室のようだが……。良かった、大切な愛しい記憶は鮮明に覚えている。取り敢えずは安心だ。

 ……『忘却の彼方』へ共に参ろう……

 というような事を国王は言っていた。ここはその『忘却の彼方』とやらなんだろうか。立ち上がって歩いてみる。蔦を掻き分けて外に出てみると……。部屋のほぼ中央辺りにガラステーブルとソファが向かい合って置かれている。

「えっ?」

 呆然と立ち竦んだ。サンルーム……とでも呼ぶべきだろうか? 広さは二十畳くらいのガラス張りの部屋? 多面積にカットされたガラスに囲まれていた。天井は寝室の部分を除いて壁も床も全部。恐らく、外側からこの部屋の全体を見たらブリリアンカットが施された透明の建物、という感じだろうと思われる。

 向かって右手に、蔦で覆われた小部屋がある。そこを掻き分けてみると、風呂場と洗面所、そしてトイレが別々に設けられていた。それぞれ蔦で仕切られている。

 今、国王は居ない。この部屋には俺一人だ。それが妙にホッとする。

 だが、蔦がある箇所以外この部屋は外から筒抜けだ。誰が覗き見するのかと問われたら別に……と答えるしかないが、何だか落ち着かない。常に誰かの監視があるようで……。 

 外はどうなっているのだろう? 今までいた部屋とは別の場所なのだろうか? 外を覗いてみる。何せ、壁も天井も床も一部を除いてすべて透明なのだ。どこから除いても外の様子は見える。……まさか、断崖絶壁に建っていたりしたら……? まさか、空中に浮いていたりしたら? そんな馬鹿げた妄想で体が竦んじまう自分に苦笑しつつ壁に近づく。

 果たして、外の景色は……

「あれ? これって……」

 建物のカット上、屈折して見えるのは仕方ないので両手で両目を囲うようにして外を眺める。先ずは本棚が見える。それも、沢山並んでいるようだ。深いブラウンの木製の本棚。絨毯はワインカラーに豪華な金色の刺繍模様で……何だろう? やたら大きな本棚と本に見えるんだけど、これは屈折して見えるから……だよなぁ。 そしてこの部屋自体は、どうやら高い場所に建てられているようで……。

 建物の中に建てられている部屋? 何だかちょっと良く分からない。とにかく落ち着こう。取りあえずソファに腰をおろした。見たところ、パソコンはあるがテレビはない。 

 さて、どうしたものか……。何かしらアクションを起こさないと現状は変えられないのは分かりきってはいるが、国王が全ての鍵を握っているとなると迂闊な言動は危険だ。俺はともかく、ラディウス王子やリアン達に火の粉がかってしまうのは困る。うーん……元々がモブキャラの俺には、こういう時に名案が浮かばないんだよなぁ。さて、どうしようか? フォルス。

 左手首に意識を向けると、じんわりと温かくなってくる。

『おや、お目覚めか。気分はどうだ?』

 突然、国王の声が室内に響き渡った。反射的に立ち上がり、辺りを見回す。……どこから声がしたのだろう? 姿が見えない。ツーッと背筋に嫌な汗が流れた。とてつも無く、嫌な予感がした。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...