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第百十四話
忘却の彼方・後編
しおりを挟む「ここがフィリップの書斎なのね…」
セシルに連れられて執務室の中へ入った私は部屋の中を見渡した。セシルの部屋には大きな書棚が幾つも並べられていた。部屋の窓際には大きなマホガニー製の書斎机が2台置かれている。
「え?ひょっとしてエルザはこの部屋に入るのは初めてなのか?」
扉を閉めながらセシルは驚いたように私を見た。
「え?え、ええ。そうなの…」
「結婚して1週間も経つのに?」
「…」
私は黙って頷いた。これでは私とフィリップの夫婦仲がうまくいっていないとセシルにバレてしまうかもしれない。
「…エルザ、ひょっとして…」
フィリップの言葉に思わずピクリと肩が動いてしまった。
「…いや。何でも無い」
そしてセシルは書斎机に向かうと、手にしていたカバンから次々と書類を取り出していく。
「兄さんからこの書斎は自由に使っていいと言われているんだ」
「そうなのね?」
やっぱり、セシルはフィリップから絶大な信頼を得ているのだ。
それに比べて私は…考えると気分が落ち込んでしまう。
セシルの様子を横目で見ながら、改めて初めて入るフィリップの書斎を見渡し…本棚に目を止めた。
「…あら?」
何だろう?見間違いだろうか?
本棚に近づき、私は息を飲んだ。
「ど、どうして…?」
その棚には私がフィリップの為に買った本が3冊並べられていたのだが…全く同じ本が隣に立てられていたのである。
何故?
何故私がフィリップの為に買ってきた本が…2冊ずつあるの…?
「どうかしたのか?エルザ」
気づけば、いつの間にかやってきていたのか背後にセシルが立っていた。
「い、いえ…。同じ本が2冊ずつ並べられているから…」
「あれ?本当だ?何でだろう?でもこの本は兄さんのお気に入りの本だから2冊ずつ買ったのかもしれないな…。元々兄さんは新刊が出ると本屋にお取り置きして貰っていたようだからね」
「そ、そうだった…の…?」
私は並べられている本を眺めながら信じられない気持ちでセシルの話を聞いていた。
もしかして、フィリップは私が本をプレゼントする前から持っていたのだろうか?
『…こんな物の為に…わざわざ出掛けるなんて…』
本を手渡した時フィリップは私にそう、言った。あれは…もしかするとこの本はもう持っているのにわざわざ買ってくるなんて…という意味で言ったのだろうか?
でもこの本を持っているのか、私が尋ねた時フィリップは持っていないとはっきり返事をした。
でも、ひょっとして…わざわざ買ってきた私に気を使って、持っていないと答えたのだろうか…?
「エルザ、大丈夫か?さっきからずっと本棚を見つめているけど…何か他に気になる本でもあったのか?」
不意にセシルに声を掛けられて私は現実に引き戻された。
「あ、いいえ。何でも無いの。ただ、他にどんな本があるのかと思って眺めていただけよ」
「そうか?エルザは読書が好きなんだっけ?何か気になった本があれば借りていけばいいさ」
「そ、そうね…」
セシルはにこやかに言うけれども、今の私とフィリップの仲は最悪の状況の中にある。気軽に本を借りることが出来ない間柄であることを…セシルは何も知らないのだ。
「そんな事よりもセシル、お仕事を始めるのでしょう?私にもお手伝いさせてくれるのよね?少しでもフィリップの助けになりたいのよ」
落ち込んでなどいられない。私はフィリップに認めてもらうように努力しようと決めたのだから。
「ああ、分かった。それならまずは資料整理から覚えてもらおうか?」
「ええ」
私は頷いた。
そう、フィリップに…ほんの少しでもいいから、私は役に立つ妻だと認めてもらいたい。
彼のことが好きだから―。
セシルに連れられて執務室の中へ入った私は部屋の中を見渡した。セシルの部屋には大きな書棚が幾つも並べられていた。部屋の窓際には大きなマホガニー製の書斎机が2台置かれている。
「え?ひょっとしてエルザはこの部屋に入るのは初めてなのか?」
扉を閉めながらセシルは驚いたように私を見た。
「え?え、ええ。そうなの…」
「結婚して1週間も経つのに?」
「…」
私は黙って頷いた。これでは私とフィリップの夫婦仲がうまくいっていないとセシルにバレてしまうかもしれない。
「…エルザ、ひょっとして…」
フィリップの言葉に思わずピクリと肩が動いてしまった。
「…いや。何でも無い」
そしてセシルは書斎机に向かうと、手にしていたカバンから次々と書類を取り出していく。
「兄さんからこの書斎は自由に使っていいと言われているんだ」
「そうなのね?」
やっぱり、セシルはフィリップから絶大な信頼を得ているのだ。
それに比べて私は…考えると気分が落ち込んでしまう。
セシルの様子を横目で見ながら、改めて初めて入るフィリップの書斎を見渡し…本棚に目を止めた。
「…あら?」
何だろう?見間違いだろうか?
本棚に近づき、私は息を飲んだ。
「ど、どうして…?」
その棚には私がフィリップの為に買った本が3冊並べられていたのだが…全く同じ本が隣に立てられていたのである。
何故?
何故私がフィリップの為に買ってきた本が…2冊ずつあるの…?
「どうかしたのか?エルザ」
気づけば、いつの間にかやってきていたのか背後にセシルが立っていた。
「い、いえ…。同じ本が2冊ずつ並べられているから…」
「あれ?本当だ?何でだろう?でもこの本は兄さんのお気に入りの本だから2冊ずつ買ったのかもしれないな…。元々兄さんは新刊が出ると本屋にお取り置きして貰っていたようだからね」
「そ、そうだった…の…?」
私は並べられている本を眺めながら信じられない気持ちでセシルの話を聞いていた。
もしかして、フィリップは私が本をプレゼントする前から持っていたのだろうか?
『…こんな物の為に…わざわざ出掛けるなんて…』
本を手渡した時フィリップは私にそう、言った。あれは…もしかするとこの本はもう持っているのにわざわざ買ってくるなんて…という意味で言ったのだろうか?
でもこの本を持っているのか、私が尋ねた時フィリップは持っていないとはっきり返事をした。
でも、ひょっとして…わざわざ買ってきた私に気を使って、持っていないと答えたのだろうか…?
「エルザ、大丈夫か?さっきからずっと本棚を見つめているけど…何か他に気になる本でもあったのか?」
不意にセシルに声を掛けられて私は現実に引き戻された。
「あ、いいえ。何でも無いの。ただ、他にどんな本があるのかと思って眺めていただけよ」
「そうか?エルザは読書が好きなんだっけ?何か気になった本があれば借りていけばいいさ」
「そ、そうね…」
セシルはにこやかに言うけれども、今の私とフィリップの仲は最悪の状況の中にある。気軽に本を借りることが出来ない間柄であることを…セシルは何も知らないのだ。
「そんな事よりもセシル、お仕事を始めるのでしょう?私にもお手伝いさせてくれるのよね?少しでもフィリップの助けになりたいのよ」
落ち込んでなどいられない。私はフィリップに認めてもらうように努力しようと決めたのだから。
「ああ、分かった。それならまずは資料整理から覚えてもらおうか?」
「ええ」
私は頷いた。
そう、フィリップに…ほんの少しでもいいから、私は役に立つ妻だと認めてもらいたい。
彼のことが好きだから―。
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