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第九十二話
再会と迷い・後篇
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「良かった。すっかり顔色も良くなって!」
本当に嬉しそうに目を細める王子、瞳の色はロイヤルブルーから柔らかな藤色に変化し、虹彩には薄紅色の花が咲く。真っ白の軍服に金色のボタンといういでたち、ゆったりと椅子に腰をおろすお姿のなんという美しさか。窓から差し込む陽の光が王子の髪を照らしてまるで後光が差しているかのように神々しい。
「有難うございます。お蔭さまで」
「兄上はどう? 良くして貰って……なーんて、聞くまでも無いよね」
王子は少しだけ自嘲するように笑った。
「はい、とても良くして頂いて……」
ここは正直に答えるべきところだ。でも、ほんの少しだけ心がチクリとする。
「……ずっと、君に会いたくて。会いたくてたまらなかった」
不意に真顔になる王子。瞳の色が深いブルーに変貌を遂げる。瞳の色の変化は、光線の加減だけじゃなくて。前から少し感じていたのだけれど、もしかしたら感情も反映するのかな?
「自分も、同じです」
そう返しながら、胸がキュンとする。あっ! 俺の返事で、瞳の色がコバルトブルーから優しい空色に変化したぞ! キラキラした初夏の空みたいで素敵だ! あぁ、ピンクサファイアの唇がふわりと弧を描いて……
「本当はね、意識を取り戻した、て連絡を受けた時すぐに行こうと思ったんだ。……でも、出来なかった」
そしてすぐに、瞳がくすんだブルーへと変化する。ロンドンブルーって色だ。哀し気だけど、素敵な色……
何故? と問うのは野暮だ。だって俺、王子の気もちが凄くよく分かるから。だから静かに耳を傾けた。
「母が……あんな酷い事をしでかして。父上もそれに加担して。更には、前々から疑っていたとは言え近侍の一人までもが君に……。合わせる顔がなかった。結局、僕は君を守る事が出来なかったから。だから……」
その美しい瞳に、透明の膜が張る。それは盛りあがってハラハラと滑らかな頬を転げ落ちた。胸がギュッと鷲掴みされたみたいにキューンと来る。紫のヒヤシンスの夢とオーバーラップする。堪らなくなって立ち上がり、テーブルを挟んだ向かい側、即ち王子の背後へと足を運ぶ。
「いいえ、いいえ! 殿下は自分を助ける事を最大限に考え、そして決断されました。その結果、自分は今ここにこうして生きています!」
そう言って王子の背後から両腕を広げ、包み込むようにして抱き締めた。これは、あの夢で言いたかった言葉だ。いささか大胆というかぶしつけだったかも? と思わない訳ではなかったが、考えるより先に体が動いていた。王子に、自分を責めるような真似をして欲しくなかった。
「惟光……」
震える声。けれどもどこかに甘さを含んで名を呼び、両手で俺の腕に触れた。それだけで甘美なる喜びが全身を駆け巡る。しばらくその陶酔感に浸った。
「……初めて、惟光の方から抱き締めてくれたね」
しばらくして、王子はそう言って俺を振り返るようにして見上げた。涙で潤んだ青い瞳。白目が充血していても、宝石のパパラチアみたいな綺麗な赤に見えたりして。鼻も頬もほんのりと薔薇色に染まっていて、美しさはちっとも損なわれない。金色の長い睫毛には、涙が丸玉水晶みたいに連なっていて、なんて綺麗なんだろう?
「ねぇ惟光、実はね……」
少し声のトーンを落として語られる王子の言葉は、ほんわかした胸に迷いの霧を出現させるのに十分だった。
本当に嬉しそうに目を細める王子、瞳の色はロイヤルブルーから柔らかな藤色に変化し、虹彩には薄紅色の花が咲く。真っ白の軍服に金色のボタンといういでたち、ゆったりと椅子に腰をおろすお姿のなんという美しさか。窓から差し込む陽の光が王子の髪を照らしてまるで後光が差しているかのように神々しい。
「有難うございます。お蔭さまで」
「兄上はどう? 良くして貰って……なーんて、聞くまでも無いよね」
王子は少しだけ自嘲するように笑った。
「はい、とても良くして頂いて……」
ここは正直に答えるべきところだ。でも、ほんの少しだけ心がチクリとする。
「……ずっと、君に会いたくて。会いたくてたまらなかった」
不意に真顔になる王子。瞳の色が深いブルーに変貌を遂げる。瞳の色の変化は、光線の加減だけじゃなくて。前から少し感じていたのだけれど、もしかしたら感情も反映するのかな?
「自分も、同じです」
そう返しながら、胸がキュンとする。あっ! 俺の返事で、瞳の色がコバルトブルーから優しい空色に変化したぞ! キラキラした初夏の空みたいで素敵だ! あぁ、ピンクサファイアの唇がふわりと弧を描いて……
「本当はね、意識を取り戻した、て連絡を受けた時すぐに行こうと思ったんだ。……でも、出来なかった」
そしてすぐに、瞳がくすんだブルーへと変化する。ロンドンブルーって色だ。哀し気だけど、素敵な色……
何故? と問うのは野暮だ。だって俺、王子の気もちが凄くよく分かるから。だから静かに耳を傾けた。
「母が……あんな酷い事をしでかして。父上もそれに加担して。更には、前々から疑っていたとは言え近侍の一人までもが君に……。合わせる顔がなかった。結局、僕は君を守る事が出来なかったから。だから……」
その美しい瞳に、透明の膜が張る。それは盛りあがってハラハラと滑らかな頬を転げ落ちた。胸がギュッと鷲掴みされたみたいにキューンと来る。紫のヒヤシンスの夢とオーバーラップする。堪らなくなって立ち上がり、テーブルを挟んだ向かい側、即ち王子の背後へと足を運ぶ。
「いいえ、いいえ! 殿下は自分を助ける事を最大限に考え、そして決断されました。その結果、自分は今ここにこうして生きています!」
そう言って王子の背後から両腕を広げ、包み込むようにして抱き締めた。これは、あの夢で言いたかった言葉だ。いささか大胆というかぶしつけだったかも? と思わない訳ではなかったが、考えるより先に体が動いていた。王子に、自分を責めるような真似をして欲しくなかった。
「惟光……」
震える声。けれどもどこかに甘さを含んで名を呼び、両手で俺の腕に触れた。それだけで甘美なる喜びが全身を駆け巡る。しばらくその陶酔感に浸った。
「……初めて、惟光の方から抱き締めてくれたね」
しばらくして、王子はそう言って俺を振り返るようにして見上げた。涙で潤んだ青い瞳。白目が充血していても、宝石のパパラチアみたいな綺麗な赤に見えたりして。鼻も頬もほんのりと薔薇色に染まっていて、美しさはちっとも損なわれない。金色の長い睫毛には、涙が丸玉水晶みたいに連なっていて、なんて綺麗なんだろう?
「ねぇ惟光、実はね……」
少し声のトーンを落として語られる王子の言葉は、ほんわかした胸に迷いの霧を出現させるのに十分だった。
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