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第九十一話
孤独の影
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銀灰色の瞳は、まるで中秋の名月みたいに澄み渡って。怖いくらいに冴えていた。
……これ、やっぱり全部夢なんじゃないかなぁ。それとも、王太子殿下のジョークなのかも。だとしても、どう答えるべきか……? 迷う、本当に迷う。だけど、無言は良くない。いずれにしても、目を見てしっかり答えないと……
心臓が妙に脈打って、背中に冷たい汗が流れる。王太子殿下は、何か謎かけをしたのかな? 俺の事、蛍とか篝火に例えて……。駄目だ、分からないや。こう言う時特に、俺のモブぶりが際立つというか。なんて自虐ネタを言っている暇はないぞ、何かかしら答えないと失礼だし。ここは素直に、どういう意味なのか質問を……
「……すまない」
俺が口を開こうとした瞬間、王太子殿下が言葉を発した。しかも、謝罪?! 何故……? 銀色の長い睫毛を伏せて。その睫毛があまりに長過ぎて、まばたきする毎にバサバサと音を立てそうだ。って、いやいやそうじゃない、返事しろってば、俺。
「え? いいえ……」
なんだ、センスの欠片もねー答え方だな、俺。
「聞かれても、そなたがどう応じたら良いのか迷うのが分かっていて、つい言ってしまった」
囁くように俺の言葉を遮る王太子殿下は、どこか寂しそうに見える。伏し目がちにされているからだろうか。
「本当は、そなたに伝えたい事があったのだ。いや、伝えねばならぬ事、と言うべきだろうな」
なんて寂しそうに笑うんだろう? 本当は泣きたいのを堪えて無理矢理に笑顔を作っているような……
「……ラディウスが、『体調が落ち着いたら会いたい』と言って来ている」
「ラディウス様が……」
あぁ、ラディウス様……その名を聞いただけで、甘美なる喜びに胸が震えてしまう。けれども、今は王太子殿下の傍にいる上に抱き上げられている訳で。ここは落ち着いて受け答えすべきだ。
「……やはり、叶わぬな。あやつには……」
俺が答える前に何もかも分かったというように、半ば吐き捨てるようにして呟いた。
「誰も彼もが、あやつを選ぶ……」
と続けて、俺に笑って見せた。やっぱり、泣いているような微笑みだった。瞬時に、弟の顔が思い浮かぶ。両親が弟ばかりにかまけて顧みられなくなった時。初めて出来た彼女が、弟に会った途端に俺の事など眼中になくなった時……次から次へと、走馬灯のように。痛いほどに、気もちが理解出来た。だからこそ、かける言葉が見つからない。俺と王太子殿下とでは、見た目も才能も立ち場も雲泥の差だ。故にそれは単に独り善がりであり、はっきり言ってしまえば俺のおかしな自惚れに過ぎないのだ。
「……何も言わなくて良い。そなたなら、私の気もちを理解出来るであろう?」
そう言って再び相好を崩す王太子殿下は哀しみと優しさが同居しているような、不思議な表情を浮かべる。そのままゆっくりと橋の真ん中まで戻ると、無数に飛び交う蛍を静かに見つめた。
王太子殿下は、別に俺に興味がある訳ではない。ラディウス王子が、俺に関心があるから。弟への対抗心から、俺に興味があるように感じているだけだ。王太子殿下自身が、その事に気付いているかどうかは分からないけれど……。
夜は静かに深まって行く。篝火がパチンと音を立て、火の粉を散らした。
……これ、やっぱり全部夢なんじゃないかなぁ。それとも、王太子殿下のジョークなのかも。だとしても、どう答えるべきか……? 迷う、本当に迷う。だけど、無言は良くない。いずれにしても、目を見てしっかり答えないと……
心臓が妙に脈打って、背中に冷たい汗が流れる。王太子殿下は、何か謎かけをしたのかな? 俺の事、蛍とか篝火に例えて……。駄目だ、分からないや。こう言う時特に、俺のモブぶりが際立つというか。なんて自虐ネタを言っている暇はないぞ、何かかしら答えないと失礼だし。ここは素直に、どういう意味なのか質問を……
「……すまない」
俺が口を開こうとした瞬間、王太子殿下が言葉を発した。しかも、謝罪?! 何故……? 銀色の長い睫毛を伏せて。その睫毛があまりに長過ぎて、まばたきする毎にバサバサと音を立てそうだ。って、いやいやそうじゃない、返事しろってば、俺。
「え? いいえ……」
なんだ、センスの欠片もねー答え方だな、俺。
「聞かれても、そなたがどう応じたら良いのか迷うのが分かっていて、つい言ってしまった」
囁くように俺の言葉を遮る王太子殿下は、どこか寂しそうに見える。伏し目がちにされているからだろうか。
「本当は、そなたに伝えたい事があったのだ。いや、伝えねばならぬ事、と言うべきだろうな」
なんて寂しそうに笑うんだろう? 本当は泣きたいのを堪えて無理矢理に笑顔を作っているような……
「……ラディウスが、『体調が落ち着いたら会いたい』と言って来ている」
「ラディウス様が……」
あぁ、ラディウス様……その名を聞いただけで、甘美なる喜びに胸が震えてしまう。けれども、今は王太子殿下の傍にいる上に抱き上げられている訳で。ここは落ち着いて受け答えすべきだ。
「……やはり、叶わぬな。あやつには……」
俺が答える前に何もかも分かったというように、半ば吐き捨てるようにして呟いた。
「誰も彼もが、あやつを選ぶ……」
と続けて、俺に笑って見せた。やっぱり、泣いているような微笑みだった。瞬時に、弟の顔が思い浮かぶ。両親が弟ばかりにかまけて顧みられなくなった時。初めて出来た彼女が、弟に会った途端に俺の事など眼中になくなった時……次から次へと、走馬灯のように。痛いほどに、気もちが理解出来た。だからこそ、かける言葉が見つからない。俺と王太子殿下とでは、見た目も才能も立ち場も雲泥の差だ。故にそれは単に独り善がりであり、はっきり言ってしまえば俺のおかしな自惚れに過ぎないのだ。
「……何も言わなくて良い。そなたなら、私の気もちを理解出来るであろう?」
そう言って再び相好を崩す王太子殿下は哀しみと優しさが同居しているような、不思議な表情を浮かべる。そのままゆっくりと橋の真ん中まで戻ると、無数に飛び交う蛍を静かに見つめた。
王太子殿下は、別に俺に興味がある訳ではない。ラディウス王子が、俺に関心があるから。弟への対抗心から、俺に興味があるように感じているだけだ。王太子殿下自身が、その事に気付いているかどうかは分からないけれど……。
夜は静かに深まって行く。篝火がパチンと音を立て、火の粉を散らした。
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