その男、有能につき……

大和撫子

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第八十八話

冥界のお役人

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  ……そんな事言われてもなぁ……

 どう返事したら良いか本当に迷う。先日、王太子殿下と対面した場所に、今度は冥界のお役人が二人ほど座っている。まぁ、つまりは今俺が寝泊まりさせて頂いている部屋数なんだけど。

 しかも、部屋の四隅には、北側にハロルド、西側にエリック、東側にサイラス、南側にオーガストがそれぞれ控えており、警護についてくれている。王太子殿下の近衛兵四天王が直々に。恐れ多いのなんのって。
 王太子殿下は御公務で、総指揮官の……確かベネディクトだったかな……が付き添っているらしいのだけど。

 冥界のお役人は、一人は黒に近い紫色の束帯装束に身を包んだヒョロリとした男で、顔は烏そのままだ。もう一人は、薄浅葱色の束帯装束をまとい、小柄でふくよかな二足歩行の純白の牛だった。

 彼らの話は、と言うと……

「国王陛下は物質界の家畜に。クレメンスは餓鬼界に。アルフォンスは物質界で幸薄く不遇の人生を歩むべく生まれ変わる」

 と言う、王太子殿下から聞いたのと同じ話に加えて、その処罰が満足行くものなのか? もっと厳しい処罰にした方が良いなどの希望があるか? というものだった。

「一方的な被害者であるあなたには、処罰を厳格化出来る権利があるのですよ」

 純白の牛男は畳みかけるように言った。

「厳罰を希望したからと言って、後にあなたが処罰を受ける……などと言う事にはなりませんのでご安心を」
 
 烏男が付け加えた。そんな事言われてもなぁ……

「はい、そうですね……」

 のらりくらりと答えながらも、相変わらず優柔不断な自分に嫌気が差す。だけど、いくら被害者だからと言っても、横暴にはしたくないしなぁ。だからと言って、減刑を願うほど人間が出来ている訳もないし……。

「決めるのは今が良いのですか?」

 うん、せめて決断する日を延ばせれば……

「輪廻転生の法則により、決断は出来るだけお早くお願いします」

 烏男の言葉のまま受け取ると、『早く決めろ』て事だよなぁ……。仕方ない、決められないもんは決められないし、正直に自分の気持ちを話すか……。

「正直に申し上げますと、『よく分からない』という感じです。被害者と加害者の処罰の関係性がよく分かっていない為です。私の気持ちを率直に申し上げますね。決められた通りに。ただ、本人たちの努力次第で道は切り開かれる、として頂けたらな、と思います」

 二人、いや二体は顔を見合わせた。不思議そうな面持ちでで俺を見つめる。

「何故、そのような救いの道を?」

 烏男は喘ぐように問う。

「……人は間違う生き物だから。この処罰の三人は、恵まれ過ぎた環境に生きてきた為、善悪の区別がつかないまま生きてきたように思います。ですから、努力次第で他者への気遣いに目覚める可能性があるかも、と思うからです」

「あのような目にあわされた、と言うのに?」
「な、なんと寛大な……」

 二体は目を見開いて驚いている。でもさ……

「何より、クレメンス(呼び捨てで良いよな?)が私をこの世界に呼んだ。それがきっかけで大切な人たちに巡り会えた。そこは、有難いな……とも感じるのです。複雑な心境ですが……」

 ホント、そう思うんだ。だって、クレメンスが異世界に呼び寄せてくれたから、王子に出会えて。リアンや央雅、レオにノアに。大切な人たちに出会えたから。

「……あなたは本当に器が広くていらっしゃる」
「お若いのに素晴らしい……」

 しばらく沈黙した後、彼らは感じ入ったようにそう言った。
 
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