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第八十五話
幻の『王位継承の秘宝』の処遇
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「……どうした? 何を緊張している?」
俺は今迄にない程緊張している。まだ経験した事は無いけれど、まるで今後の人生を左右する就活の最終面接に臨んでいる気分だ。大理石で出来た長方形のテ-ブルを挟んで、向かい側に座っている王太子殿下と二人きりの空間。体は随分と回復して、王太子殿下に「私の衣装と同じ色だ」と、深い紫色の浴衣に薄紫の帯を渡された。着物よりは楽だが、しっかり着られるだろうか? と不安になったが、ホテルや旅館で用意される浴衣みたいに、着脱が楽なものでホッとした。場所は勿論、寝かされていた部屋の中だが寝室とは別に応接室があり、そこでの会話だ。『ラウェルナの指輪』の件について話があると言われ、今に至る。部屋にはトイレやバスも別についており、言わば億ションのような感じだろうか。
「……私が、怖いか?」
優しく尋ねる王太子殿下に、恐縮しっ放しだ。香木の伽羅のような、高貴な甘さと深みのある香りが漂う。焚きしめたお香……王太子殿下の袖の香りだろうか。
「いいえ、滅相もございません。畏れ多いだけなのでございます」
うん、ホントこれ。
「そうか……寂しいものだな」
微かに目を細め、眉尻を下げ、そこはかとなく憂いを秘めた笑みと湛える。こんな寂しそうな表情も出来るのか、と思わず見惚れてしまう。
「……やはり、ラディウスのようにはいかぬか……」
呟独り言を呟くように言う王太子殿下に、どう声をかけて良いのやら非常に迷う。本当は、王子が今どうしているのかを聞きたい。そして逢いたい。だが、今は王太子殿下との会話に集中すべき時だ。
「……まぁ良い。そなたも返事に窮するであろうし」
王太子殿下は、気分を変えるように声のトーンを上げて話す。気の利いた台詞が何一つ紡ぎ出せない自分に自嘲と苛立ちを覚えた。だが、取り繕う言葉も適切ではない。
「それで、『ラウェルナの指輪』についてだが、率直にそなたの意見を聞きたい。このアイテムは、どう処理するのが相応しいだろうか? このまま封印の術を施すか、それとも取り扱いに注意を要するアイテムとして秘宝の一つに加えるか、それとも、しかるべき手続きを取って神に返還するか……考えられるパターンとしてはこの三つがあげられる。それとも他に何か良い案があれば是非とも意見を聞きたい」
筋道を立てて問いかけられる。だけど、質問に答える前に最大に気になる事がある。それを先に言うべきだろな。だけど、それを切り出すのに物凄く勇気がいる……俺なんかがそんな事言ってもいいんだろうか……
「気になる事があるのか? 何なりと申してみよ」
あぁ、俺って分かり易いのか、やっぱり。心の防御が無意識に出来るようになるくらい、練習しないと、色んな意味で良くないよな……。穏やかに、優しく尋ねてくださる王太子殿下に感謝しつつ口を開く。
「……どうして、自分などにそのような重大な事を?」
そう、これなんだ。だって、代々続く王族の秘宝じゃないか。俺なんかに……
「あぁ、奥床しいそなたらしいな」
王太子殿下は感じ入ったように目を潤ませる。奥床しい、ね……うん、恐るべきほどプラスに解釈して頂けて光栄です。
「そもそも、『ラウェルナの指輪』……幻の秘宝を見つけ出し、取り返したのは他でもない、そなただからだ」
……あぁ、なるほど。『道理が通らぬ男ではない』とご自分で言われた通りに……
「意見を聞くのは、当然であろう?」
妖艶に、されど上品に浮かべる笑み。あぁ、まるで夜にひっそりと花開く月下美人のようだ。
「なるほど、はい、承知しました。……あくまで個人的な意見ですが、『しかるべき手続きを取って神に返還する』。これが一番良いのではないかと思います」
その神秘的な笑みに釣られるようにして、ハッキリと応じた。
俺は今迄にない程緊張している。まだ経験した事は無いけれど、まるで今後の人生を左右する就活の最終面接に臨んでいる気分だ。大理石で出来た長方形のテ-ブルを挟んで、向かい側に座っている王太子殿下と二人きりの空間。体は随分と回復して、王太子殿下に「私の衣装と同じ色だ」と、深い紫色の浴衣に薄紫の帯を渡された。着物よりは楽だが、しっかり着られるだろうか? と不安になったが、ホテルや旅館で用意される浴衣みたいに、着脱が楽なものでホッとした。場所は勿論、寝かされていた部屋の中だが寝室とは別に応接室があり、そこでの会話だ。『ラウェルナの指輪』の件について話があると言われ、今に至る。部屋にはトイレやバスも別についており、言わば億ションのような感じだろうか。
「……私が、怖いか?」
優しく尋ねる王太子殿下に、恐縮しっ放しだ。香木の伽羅のような、高貴な甘さと深みのある香りが漂う。焚きしめたお香……王太子殿下の袖の香りだろうか。
「いいえ、滅相もございません。畏れ多いだけなのでございます」
うん、ホントこれ。
「そうか……寂しいものだな」
微かに目を細め、眉尻を下げ、そこはかとなく憂いを秘めた笑みと湛える。こんな寂しそうな表情も出来るのか、と思わず見惚れてしまう。
「……やはり、ラディウスのようにはいかぬか……」
呟独り言を呟くように言う王太子殿下に、どう声をかけて良いのやら非常に迷う。本当は、王子が今どうしているのかを聞きたい。そして逢いたい。だが、今は王太子殿下との会話に集中すべき時だ。
「……まぁ良い。そなたも返事に窮するであろうし」
王太子殿下は、気分を変えるように声のトーンを上げて話す。気の利いた台詞が何一つ紡ぎ出せない自分に自嘲と苛立ちを覚えた。だが、取り繕う言葉も適切ではない。
「それで、『ラウェルナの指輪』についてだが、率直にそなたの意見を聞きたい。このアイテムは、どう処理するのが相応しいだろうか? このまま封印の術を施すか、それとも取り扱いに注意を要するアイテムとして秘宝の一つに加えるか、それとも、しかるべき手続きを取って神に返還するか……考えられるパターンとしてはこの三つがあげられる。それとも他に何か良い案があれば是非とも意見を聞きたい」
筋道を立てて問いかけられる。だけど、質問に答える前に最大に気になる事がある。それを先に言うべきだろな。だけど、それを切り出すのに物凄く勇気がいる……俺なんかがそんな事言ってもいいんだろうか……
「気になる事があるのか? 何なりと申してみよ」
あぁ、俺って分かり易いのか、やっぱり。心の防御が無意識に出来るようになるくらい、練習しないと、色んな意味で良くないよな……。穏やかに、優しく尋ねてくださる王太子殿下に感謝しつつ口を開く。
「……どうして、自分などにそのような重大な事を?」
そう、これなんだ。だって、代々続く王族の秘宝じゃないか。俺なんかに……
「あぁ、奥床しいそなたらしいな」
王太子殿下は感じ入ったように目を潤ませる。奥床しい、ね……うん、恐るべきほどプラスに解釈して頂けて光栄です。
「そもそも、『ラウェルナの指輪』……幻の秘宝を見つけ出し、取り返したのは他でもない、そなただからだ」
……あぁ、なるほど。『道理が通らぬ男ではない』とご自分で言われた通りに……
「意見を聞くのは、当然であろう?」
妖艶に、されど上品に浮かべる笑み。あぁ、まるで夜にひっそりと花開く月下美人のようだ。
「なるほど、はい、承知しました。……あくまで個人的な意見ですが、『しかるべき手続きを取って神に返還する』。これが一番良いのではないかと思います」
その神秘的な笑みに釣られるようにして、ハッキリと応じた。
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