その男、有能につき……

大和撫子

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第八十四話

冥府の裁き・後編

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 アルフォンスも、腑抜け王や変態女と同じように両手首を後ろに、椅子の支柱に縛り付けられていた。少し離れた場所に向かい合うようにして、紺色の軍服姿の男が立っている。深い青色に統一しているのか、サイラスは瑠璃色軍服姿だ。

 男はサラサラとした栗色の髪を顎のラインで切り揃え、チョコレートの色の生き生きとした瞳と、乳白色の肌に淡い桃色の繊細な唇を持つ、女と見紛うばかりに美しい青年だ。

「南を司るオ-ガストだ」

 王太子殿下は説明した。美形揃いの四天王で眼福なり……てな。

 アルフォンスは何かを思い付いたかのように脹れ面を引っ込め、媚びるような笑顔を作る。
 いやいや、これは分かり易過ぎだろう。憶測だけど、人生初の窮地に陥って冷静な判断が出来なくなったのかな?

『な、なぁ?』

 猫撫で声でオ-ガストに話し掛ける。

『何か?』

 素気なく応じるオ-ガストに臆する事なく、アルフォンスは話し掛ける。

『僕と取り引きしないか?』
『この状態のあなたと取り引きしても、私が得するような事は皆無だと思いますが』
『まぁまぁ、そう堅いこと言わずに』
『……話だけは聞きましょう』
『僕の封じ込まれちまってる魔力を解放して逃がしてくれたら、悪運がべらぼうに強くなるアイテムをあげるよ』

 狡猾そうなアルフォンスに、冷徹なオ-ガスト。二人の対照的なやり取りが一種の漫才のようだ。ん? 悪運がべらぼうに強くなるアイテム? それって……

「『ラウェルナの指輪』の事を言いたいのであろうが……それは既に我が手中にある。愚かで軽薄な奴よの」

 王太子殿下は、そう言って右手を開いた。ダイヤ型にカットされた黒い宝石が艶めく、赤がかった金色の指輪が乗せられている。

『……悪運がべらぼうに強くなるアイテム?』

 オ-ガストは怪訝そうに問う。

『そうそう。これがあれば真面目に仕事しなくても……』
『あらかた話は伺いました。これ以上は時間の無駄にしかなりませんね。そもそもが悪運が強くなるアイテムをお持ちだと言うなら、こんな状況になる筈もありませんし。更に私は、不真面目に働く事を良しとはしない主義ですので。それと、この会話は全て王太子殿下に筒抜けですので悪しからず』

 アルフォンスはポカンとして彼を見つめた。冷たく軽蔑の眼差しでオ-ガストは応じた。

 う-ん……アルフォンスの奴、もっと悪賢い奴だと思ったのになぁ……。あんな阿呆な奴だったのかぁ。そんな奴にしてやられたとなると……俺って……。何だか物凄-く複雑な心境だ。

 そこで3D映像は消えた。

「さて、冥府から愚か者どもの処遇が決まった、と通知が届いた」

 王太子殿下は切り替えるようにして言った。ちょっとドキドキしてくる。

「では、伝えるぞ。良いな?」 
「はい!」
「国王陛下は、物質界の家畜に。クレメンスは餓鬼界に。アルフォンスは物質界で幸薄く不遇の人生を歩むべく生まれ変わる。そんな感じだ」

 なるほど……かなり厳しい処置というか……

「詳細については、最大の被害者であるそなたと直接話し合いたい、との事だ」

 ……え? 今何と?

「はい?」
「それと、私自身も『ラウェルナの指輪』についてそなたと相談したい」
「……えっ?」

 王太子殿下は可笑しそうに俺を見つめた。
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