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第八十三話
悲しみの花
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『……ごめんね。結局、僕は君を守る事が出来なかった……』
紫のヒヤシンスが咲き乱れる花園を背景に、王子は振り返る。ロイヤルブルーの双眸が悲しみの影が揺れた。
『殿下、そのような事は決して……』
俺は慌てて否定しようと近付く。王子は風に舞う花びらのようにふわりと離れた。
『母上があのような事を……父上まで、加担するような真似をして……』
深い青色の瞳に、透明の膜が張る。
『いいえ、いいえ……!』
必死に否定しようと試みるも、王子は激しく首を横に振った。双眸からハラハラと涙が零れ落ちる。
『ごめんね……本当に……』
そうこたえると、ヒヤシンスの花の茂みに同化するようにして消えて行った。
『殿下、お待ち下さい……殿下!』
必死に後を追うも、手に触れるのはヒヤシンスの花房……。触れた部分は虚しく花びらが散って行く。ハラリ、はらり、次から次へと散る花びら……
『殿下、殿下! ラディウス様……』
必死に叫ぶ……
「……光、惟光! 惟光!」
遠くから名を呼ぶ声に、意識が浮上していく。ゆっくりと目を開くと、月光を湛えた銀灰色の双眸が、気遣わし気に見つめていた。さらさらと銀色の髪が頬に触れる。絹糸のような繊細な心地良さに、……あぁ、あれは夢だったのだ……と気付く。
「王太子殿下……様」
呟くように言った。ふかふかとした上質の敷き布団。ベッドだ。軽くてふわふわの布団がかけられている。桜色に統一されたキングサイズのベッド。天蓋付きだ。見事な白い蔓薔薇が、カ-テンの代わりになっている。
「随分と、うなされていたのでな。寝かせておくべきか迷ったのだが……大丈夫か?」
穏やかな声で尋ねながら、右手を伸ばし人差し指で俺の目元を拭った。その指が雫に濡れる。
「……夢を、見ました。紫の、ヒアシンスの……」
花びらが散る様が甦る。
「紫のヒアシンスか……花言葉は『悲哀』『悲しみ』……」
王太子殿下は遠くを見るような眼差しを向けながら言った。
紫のヒアシンスに溶け込むようにして消えていった王子の姿が思い浮かぶ。あれは夢なんだ……そう思うのに、何故か生々しい現実のようにも感じる。
王子は今……? 聞きたい事は山ほどある。
「だが、それは『夢』だ。何も、心配する事はない。今、お前がすべき事はゆっくり休む事だ」
王太子殿下はそう言って、右手で優しく俺の額を撫でる。一撫でする毎に、心地良い眠気を催して行く……。
考えなければいけない事、知りたい事は沢山ある筈なのに、抗い難い眠りの誘いに委ねていく。
王子は、俺から遠ざかろうとしているのではないか? 微かに、そんな予感が脳裏を掠めたが、急速に眠りの世界に引き込まれていった。
紫のヒヤシンスが咲き乱れる花園を背景に、王子は振り返る。ロイヤルブルーの双眸が悲しみの影が揺れた。
『殿下、そのような事は決して……』
俺は慌てて否定しようと近付く。王子は風に舞う花びらのようにふわりと離れた。
『母上があのような事を……父上まで、加担するような真似をして……』
深い青色の瞳に、透明の膜が張る。
『いいえ、いいえ……!』
必死に否定しようと試みるも、王子は激しく首を横に振った。双眸からハラハラと涙が零れ落ちる。
『ごめんね……本当に……』
そうこたえると、ヒヤシンスの花の茂みに同化するようにして消えて行った。
『殿下、お待ち下さい……殿下!』
必死に後を追うも、手に触れるのはヒヤシンスの花房……。触れた部分は虚しく花びらが散って行く。ハラリ、はらり、次から次へと散る花びら……
『殿下、殿下! ラディウス様……』
必死に叫ぶ……
「……光、惟光! 惟光!」
遠くから名を呼ぶ声に、意識が浮上していく。ゆっくりと目を開くと、月光を湛えた銀灰色の双眸が、気遣わし気に見つめていた。さらさらと銀色の髪が頬に触れる。絹糸のような繊細な心地良さに、……あぁ、あれは夢だったのだ……と気付く。
「王太子殿下……様」
呟くように言った。ふかふかとした上質の敷き布団。ベッドだ。軽くてふわふわの布団がかけられている。桜色に統一されたキングサイズのベッド。天蓋付きだ。見事な白い蔓薔薇が、カ-テンの代わりになっている。
「随分と、うなされていたのでな。寝かせておくべきか迷ったのだが……大丈夫か?」
穏やかな声で尋ねながら、右手を伸ばし人差し指で俺の目元を拭った。その指が雫に濡れる。
「……夢を、見ました。紫の、ヒアシンスの……」
花びらが散る様が甦る。
「紫のヒアシンスか……花言葉は『悲哀』『悲しみ』……」
王太子殿下は遠くを見るような眼差しを向けながら言った。
紫のヒアシンスに溶け込むようにして消えていった王子の姿が思い浮かぶ。あれは夢なんだ……そう思うのに、何故か生々しい現実のようにも感じる。
王子は今……? 聞きたい事は山ほどある。
「だが、それは『夢』だ。何も、心配する事はない。今、お前がすべき事はゆっくり休む事だ」
王太子殿下はそう言って、右手で優しく俺の額を撫でる。一撫でする毎に、心地良い眠気を催して行く……。
考えなければいけない事、知りたい事は沢山ある筈なのに、抗い難い眠りの誘いに委ねていく。
王子は、俺から遠ざかろうとしているのではないか? 微かに、そんな予感が脳裏を掠めたが、急速に眠りの世界に引き込まれていった。
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