114 / 186
第八十話
Last chance……・前編
しおりを挟む
「うっふっふっふ……夕べはしっかり休んで、元気になったでしょ? 沢山咳き込んで、いーっぱい血を吐いてちょうだいね」
変態女は、入ってくるなりドレスの裾を左手でたくしあげてしゃがみこんだ。右手を伸ばして俺の顎に触れて引き上げる。目を反らすのは癪だ! 菫色の双眸をキッと見返す。病気を弄ぶなんて、罰当たりめ!!!
「貴様ーっ! クレメンス様に反抗的な……」
怒り狂って俺に掴みかかろうとするアルフォンスを、変態女は左手を軽くあげて制した。
「……そうよ、この目よ。儚げで弱々しそうな外見なのに、意外と目に力があるの。あぁ、何て素敵なのかしら。そうやって必死の抵抗も虚しく……自らの血に溺れて衰弱して行く姿が、たまらないわぁ」
異常過ぎる性癖……ゾクリと背筋が凍りついた。
「さぁ、楽しませて頂戴!」
そう言って、サッと立ち上がり後ろに下がる。ビクビクおどおどと成り行きを見守っている国王陛下の左隣に移動した。アルフォンスは変態女と入れ替わるようにして俺の前にしゃがみ込込み、残忍な笑みを浮かべる。まるでそれは、まだ善悪の判断がつかない幼子が虫や小動物を虐め殺すような……無邪気故に残虐な殺意によく似ていた。
「お二人を心行くまで楽しませろよっと」
と言いながら、右手で俺の胸をトンと突いた。グッ! 胸が詰まると同時に激痛が走る。カハッ、ゼィッゲボゲボッゴボッゴホゴホゴホッゼィッゴボッ……嵐のように激しい咳の発作が襲いかかる。僅かな呼吸さえも許さない怒涛の咳の発作。ゴボゴボッゲホッゴホゴホゴホッ……グッカハッ! 胸の奥から生温かい鉄臭い塊が込み上げ、最早見慣れちまった鮮血が口からドッと拭き上げる。いつもより勢いよくボタボタと音を立て、床をに血だまりを作り上げていく。ボロボロに壊れた肺は僅かな刺激にも耐えられず、それでもほんの僅かでも酸素を求めて喘ぐ事で生き抜こうと必死に本能がもがく……。
虚しい抵抗だ。血を吐き切る前に容赦無く咳の発作が襲いかかる。激しい胸痛と、喀血に溺れて窒息する。そのまま意識が飛びそうになる。もう、Last chance……アドレナリンは過剰に分泌されない……のか……もう、楽になりたい……
「それっぽっちの咳き込みで喀血? 興醒めなんだけどぉ」
不満そうな変態女の声に、沈み掛けた意識が浮上する。
「休んで体力回復したんでしょ? もっと楽しませなさいよ!」
と、声を荒げている。おのれ狂女め……地獄に落ちやがれ! 生まれて初めて、そこまで思うほどに人を憎んだ。
「……だ、そうだ。もっと盛大に咳き込んで血を吐くんだな。やり直し、と」
アルフォンスは左手で俺の前髪を掴み、右手で再び胸を突いた。刹那、待ち望んでいた酸素が肺腑に行き渡り、血に淀んで腐敗しかけた二酸化炭素を肺の底から排出する。だが、次の瞬間怒涛のように襲いかかる咳の発作と激しい胸の痛みにもがき苦しむ。まさに、肺が張り裂けるのではないかという程咳き込んだ挙句、肺から口に噴出する鮮血。意識を失いそうになる度に、蘇生。激しい咳の発作と喀血。その繰り返しの生き地獄が続いた……。
「……さすがに、もう気力も底をついただろうて。これ以上はもう、気の毒ではなかろうかのぅ?」
遠慮がちに声をかける腑抜け王の声。今はぐったりとしたままだ。小休止状態らしい。もう幾度、咳に陵辱され喀血に蹂躙され続けたろう。己の血で床が血の海だ……。もう、死にたい……王子、もう……俺、もう……無理です。もうこれ以上は頑張れない……皆、ごめん。これより先は正気を保つ自信がない。生ける屍になるよりは、俺自身の最後の尊厳を……許してくれ……
「いいえ、死なせはしないから大丈夫よ。ね、あなた、アル。それより、この子の男の象徴がどんな具合か見てみたくない?」
何? 何を言っている? 舌を噛み切ろうとしたその時、変態女の信じられない台詞にサバイバル本能に再び火がついた。
「おう! 死に直面した際、種族を残そうと本能が最後の足掻きを見せるという!」
腑抜け王が声を弾ませる。やはりコイツも異常性癖の持ち主だ。こんな二人から生まれて、王子はよく真っすぐ育ったものだ……
「結構、熱く滾ってるんじゃないですかねぇ? 俺の魔力で辛うじて繋がっているだけの生命線ですし」
小馬鹿にしたように言うアルフォンス。俺に何をするつもりだ?! まさかっ!
「ちょっと見せなさいよ。ラディウスとあなたはどっちがどうなの?」
俺の真ん前にしゃがみ込む変態女。目を爛々と輝かせ、卑猥な笑みを浮かべて舌なめずりをしやがる。両手を俺の其処に伸ばす。冗談じゃない! 触るな!! 断固拒否だ!!! キッと女を睨みつけ瞬間、「キャッ!」と女は短く悲鳴を上げ、後ろに弾き飛んだ。
「クレメンスや!?」「クレメンス様っ!」腑抜け王とアルが慌てて女を支える。
「何だ貴様っ!」
気色ばむアルに、驚愕の眼差しで俺を見る変態夫婦。いや、一番驚いたのは俺自身かもしれない。だって、俺の目の前に太陽の輝きで描かれたみたいなデカい五芒星が描かれていたんだ。まるで、俺の全身を守る盾みたいに!
変態女は、入ってくるなりドレスの裾を左手でたくしあげてしゃがみこんだ。右手を伸ばして俺の顎に触れて引き上げる。目を反らすのは癪だ! 菫色の双眸をキッと見返す。病気を弄ぶなんて、罰当たりめ!!!
「貴様ーっ! クレメンス様に反抗的な……」
怒り狂って俺に掴みかかろうとするアルフォンスを、変態女は左手を軽くあげて制した。
「……そうよ、この目よ。儚げで弱々しそうな外見なのに、意外と目に力があるの。あぁ、何て素敵なのかしら。そうやって必死の抵抗も虚しく……自らの血に溺れて衰弱して行く姿が、たまらないわぁ」
異常過ぎる性癖……ゾクリと背筋が凍りついた。
「さぁ、楽しませて頂戴!」
そう言って、サッと立ち上がり後ろに下がる。ビクビクおどおどと成り行きを見守っている国王陛下の左隣に移動した。アルフォンスは変態女と入れ替わるようにして俺の前にしゃがみ込込み、残忍な笑みを浮かべる。まるでそれは、まだ善悪の判断がつかない幼子が虫や小動物を虐め殺すような……無邪気故に残虐な殺意によく似ていた。
「お二人を心行くまで楽しませろよっと」
と言いながら、右手で俺の胸をトンと突いた。グッ! 胸が詰まると同時に激痛が走る。カハッ、ゼィッゲボゲボッゴボッゴホゴホゴホッゼィッゴボッ……嵐のように激しい咳の発作が襲いかかる。僅かな呼吸さえも許さない怒涛の咳の発作。ゴボゴボッゲホッゴホゴホゴホッ……グッカハッ! 胸の奥から生温かい鉄臭い塊が込み上げ、最早見慣れちまった鮮血が口からドッと拭き上げる。いつもより勢いよくボタボタと音を立て、床をに血だまりを作り上げていく。ボロボロに壊れた肺は僅かな刺激にも耐えられず、それでもほんの僅かでも酸素を求めて喘ぐ事で生き抜こうと必死に本能がもがく……。
虚しい抵抗だ。血を吐き切る前に容赦無く咳の発作が襲いかかる。激しい胸痛と、喀血に溺れて窒息する。そのまま意識が飛びそうになる。もう、Last chance……アドレナリンは過剰に分泌されない……のか……もう、楽になりたい……
「それっぽっちの咳き込みで喀血? 興醒めなんだけどぉ」
不満そうな変態女の声に、沈み掛けた意識が浮上する。
「休んで体力回復したんでしょ? もっと楽しませなさいよ!」
と、声を荒げている。おのれ狂女め……地獄に落ちやがれ! 生まれて初めて、そこまで思うほどに人を憎んだ。
「……だ、そうだ。もっと盛大に咳き込んで血を吐くんだな。やり直し、と」
アルフォンスは左手で俺の前髪を掴み、右手で再び胸を突いた。刹那、待ち望んでいた酸素が肺腑に行き渡り、血に淀んで腐敗しかけた二酸化炭素を肺の底から排出する。だが、次の瞬間怒涛のように襲いかかる咳の発作と激しい胸の痛みにもがき苦しむ。まさに、肺が張り裂けるのではないかという程咳き込んだ挙句、肺から口に噴出する鮮血。意識を失いそうになる度に、蘇生。激しい咳の発作と喀血。その繰り返しの生き地獄が続いた……。
「……さすがに、もう気力も底をついただろうて。これ以上はもう、気の毒ではなかろうかのぅ?」
遠慮がちに声をかける腑抜け王の声。今はぐったりとしたままだ。小休止状態らしい。もう幾度、咳に陵辱され喀血に蹂躙され続けたろう。己の血で床が血の海だ……。もう、死にたい……王子、もう……俺、もう……無理です。もうこれ以上は頑張れない……皆、ごめん。これより先は正気を保つ自信がない。生ける屍になるよりは、俺自身の最後の尊厳を……許してくれ……
「いいえ、死なせはしないから大丈夫よ。ね、あなた、アル。それより、この子の男の象徴がどんな具合か見てみたくない?」
何? 何を言っている? 舌を噛み切ろうとしたその時、変態女の信じられない台詞にサバイバル本能に再び火がついた。
「おう! 死に直面した際、種族を残そうと本能が最後の足掻きを見せるという!」
腑抜け王が声を弾ませる。やはりコイツも異常性癖の持ち主だ。こんな二人から生まれて、王子はよく真っすぐ育ったものだ……
「結構、熱く滾ってるんじゃないですかねぇ? 俺の魔力で辛うじて繋がっているだけの生命線ですし」
小馬鹿にしたように言うアルフォンス。俺に何をするつもりだ?! まさかっ!
「ちょっと見せなさいよ。ラディウスとあなたはどっちがどうなの?」
俺の真ん前にしゃがみ込む変態女。目を爛々と輝かせ、卑猥な笑みを浮かべて舌なめずりをしやがる。両手を俺の其処に伸ばす。冗談じゃない! 触るな!! 断固拒否だ!!! キッと女を睨みつけ瞬間、「キャッ!」と女は短く悲鳴を上げ、後ろに弾き飛んだ。
「クレメンスや!?」「クレメンス様っ!」腑抜け王とアルが慌てて女を支える。
「何だ貴様っ!」
気色ばむアルに、驚愕の眼差しで俺を見る変態夫婦。いや、一番驚いたのは俺自身かもしれない。だって、俺の目の前に太陽の輝きで描かれたみたいなデカい五芒星が描かれていたんだ。まるで、俺の全身を守る盾みたいに!
11
お気に入りに追加
605
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?


主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.

物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる