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第七十九話
四面楚歌、剣ヶ峰……手立て無し! されど起死回生なるか?!・後編
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「お前の性癖については触れないけど、随分と特殊のようだが……それでその……その子、殺すつもりはないだろうね?」
恐る恐る尋ねる国王。
「あら、飽きたら分からなくてよ?」
あっけらかんと答える変態女、魔物なんぞより余程恐ろしい。コイツも、サイコパスなんだろうか。
「けど、いくらお前でも殺人なんかしでかしたら死後幽世にも極楽にも行けないよ? 物質界にいや下手したら地獄に堕とされてしまうかも……」
遠回しに殺すな、と言いたい訳か、何とも気弱な国王さんだよ……。公務の時になると切れ者に豹変するのかもしれないけどさ。
「それについては大丈夫、抜かりないわ! もうね、何年かかった事か」
自信満々? どういう事だ?
「はて? どういう事かさっぱり分からんのだが……」
「そうね、あなたにも内緒にしてたものね。簡単に説明するとね、ラディウスの教育係がリアンになってから、もう退屈で退屈で。ある時たまたま読んだ小説にね、黒髪で黒い目の肺病の美少年が出て来たの。それで、自分の性癖に気付いたのよ。自分だけの生きたお人形さんが欲しいな、て。でも、死後に物質界にも地獄にもいきたくないし。そこで考え付いたの。物質界でね、誰にも必要とされない不遇の子、黒髪に黒い目の幸薄い儚げな美少年を探しに探してやっと見つけたのよ。居なくなっても誰も困らないから、こっちの世界に連れて来ても歴史に歪みも生じないの。すぐにこの子を迎えに行くつもりが、何の因果か……ラディウスが先に保護しちゃって。気に入っちゃったもんだから話がややこしくなったけど」
……そんな! じゃあ、俺は……この変態女が仕組んだ事で……この世界に転移した……て事なのか?
「いやいや、さすがにそんな都合良い話が……第一、『魂の管理所』がおかしな事に……」
国王の疑問は、まんま俺の疑問だ。『魂の管理所』……前、リアンが言ってた場所か。
「大丈夫です!」
何だよ!? アルフォンス。けれども次に口を開いたのは変態女だった。
「私がね、エターナル王家の名前を使って。アルにね、あなたに変装させて『魂の管理所』に調べに行かせたのよ」
「何と! 儂に変装してか!」
アルフォンスが国王に変身したのも見抜けない奴らに、魂の管理なんか任せて大丈夫なのかよ?! つーかこいつら、そこまで悪だったのか! 国王も驚いただけだし……
「そう。そしたらね、この惟光って子が転移するのは想定外だったらしくて。その後の未来が真っ白だったの。つまり、私がどうしようと自由な訳よ」
……あぁ、天使が言ってた。未来が見えないけど裏を返せば自分次第って……
「いやぁ、しかしのぅ。この子の事、ラディウスも気に入っている訳だしのぅ……」
「あら、この子の代わりなんかいくらだって出来るわよ。さ、お腹も空いてきたし。夕飯食べに行きましょ」
「あ、あぁ……」
「ここの場所、まさかあの子にバレてないでしょうね?」
「それは大丈夫だ。儂とアル以外知らない筈だ」
遠ざかる声。薄っすら目を開ける。アルフォンスも一緒に行ったようだ。なんか、何をどう考えていのかよく分からない。混乱し過ぎて……俺の人生って一体……何だったんだ? 王子……俺の事……
「ほら、起きろよ。十分休んだろ?」
前髪が引っ張られるような痛みを感じ、目を覚ます。目の前には、憎悪に満ちた萌黄色の双眸に驚いた表情の俺が映る。どうやら、ペンダントとコンタクトを取った後……いつの間にか眠ってしまったようだ。夕べ、俺の異世界転移の経緯を聞い何とも言えない空虚さを味わった。正直言って筆舌に尽くし難い複雑な思いが残る。だが、今は考えるべき時ではない。
「喜べ! 今朝は何と、国王陛下もお前の悶絶する姿をご覧になるそうだ。せいぜい、激流の如く咳と噴水みたいに盛大に血を吐いて陛下とクレメンス様、そしてこの僕を楽しませるんだな。なぁに、死なせないから心配するな。クレメンス様が飽きるまでは、生かしてといてやる」
何を偉そうに、アルフォンスめ。この上無い上から目線で一方的に捲し立てやがって。国王陛下もだ? 大方、変態女に押し切られたんだろ。情けねー王様だぜ。ん? アルの奴、不意にハッとしたように改めて俺をじーっと穴のあくほど見つめるじゃないか。何だ? だが、ここは平然として見つめ返しておこう。
「……お前、もしかして僅かに残された魔力で、外部に助けを求めたりしてねーだろうなぁ?」
やはりな、昨夜の内に心の内を読まれないように木星神と太陽神にガードを頼んでおいて正解だったな。ジュピターってギリシア神話でいうところのゼウス……最高神だけど、『承知シタ!』と気軽に快諾してくれたんだよな。後は五芒星に、最大のピンチが訪れた際の保護を……とお願いしたんだけど、コンタクトが取れなかったんだ。でも多分……保護してくれるとしても、俺自身の気力と体力が保てている間だけだろうな……
「ふん、心の中を読まれないようにガードしたか。まぁ、どうせ外部に助けを求めたってこの場所を特定出来る筈ないんだ。今頃、殿下やリアンが死に物狂いで探してるだろうぜ。ま、僕は午後からは殿下の毒味役として通常通り出勤するけどね、と。そら、行くぞ!」
乱暴に俺を抱き上げる。体はかなり楽になっていて、恐らく話せるし、ゆっくりなら歩く事も可能だろう。だが、ここで余計な体力は使いたくない。両手が塞がっているアルは、開け放したままの部屋の出入り口を出て、乱暴に足でドアを閉める。こいつ、誰かが見ている時は絶対に丁寧にドアを閉めるんだろうな。そのまま廊下を突き進み、あの拷問部屋へと進んでいく。
……王子、リアン。そして央雅にレオ、ノア。本当に有難う。俺も、最後まで精一杯戦うよ。ギリギリまで抗ってやる! だけど……恐らく、次の拷問でラストチャンスだ。そんな予感がする。生かしておいてやる、と言ってはいるけれど、俺自身が正気を保っていられるのは、次で最後だ。
頼む……フォルス、ヘルメス、俺が自分自身を保っていられる内に、救い出してくれ……
切実なる祈りも虚しく、拷問部屋に辿り着く。再び、両手首を鎖に繋がれ天井に吊るされた。コツコツ……サラリサラリ、衣擦れと足音が二人分。変態女と腑抜け王がやって来た。さぁ、戦いが始まる。
恐る恐る尋ねる国王。
「あら、飽きたら分からなくてよ?」
あっけらかんと答える変態女、魔物なんぞより余程恐ろしい。コイツも、サイコパスなんだろうか。
「けど、いくらお前でも殺人なんかしでかしたら死後幽世にも極楽にも行けないよ? 物質界にいや下手したら地獄に堕とされてしまうかも……」
遠回しに殺すな、と言いたい訳か、何とも気弱な国王さんだよ……。公務の時になると切れ者に豹変するのかもしれないけどさ。
「それについては大丈夫、抜かりないわ! もうね、何年かかった事か」
自信満々? どういう事だ?
「はて? どういう事かさっぱり分からんのだが……」
「そうね、あなたにも内緒にしてたものね。簡単に説明するとね、ラディウスの教育係がリアンになってから、もう退屈で退屈で。ある時たまたま読んだ小説にね、黒髪で黒い目の肺病の美少年が出て来たの。それで、自分の性癖に気付いたのよ。自分だけの生きたお人形さんが欲しいな、て。でも、死後に物質界にも地獄にもいきたくないし。そこで考え付いたの。物質界でね、誰にも必要とされない不遇の子、黒髪に黒い目の幸薄い儚げな美少年を探しに探してやっと見つけたのよ。居なくなっても誰も困らないから、こっちの世界に連れて来ても歴史に歪みも生じないの。すぐにこの子を迎えに行くつもりが、何の因果か……ラディウスが先に保護しちゃって。気に入っちゃったもんだから話がややこしくなったけど」
……そんな! じゃあ、俺は……この変態女が仕組んだ事で……この世界に転移した……て事なのか?
「いやいや、さすがにそんな都合良い話が……第一、『魂の管理所』がおかしな事に……」
国王の疑問は、まんま俺の疑問だ。『魂の管理所』……前、リアンが言ってた場所か。
「大丈夫です!」
何だよ!? アルフォンス。けれども次に口を開いたのは変態女だった。
「私がね、エターナル王家の名前を使って。アルにね、あなたに変装させて『魂の管理所』に調べに行かせたのよ」
「何と! 儂に変装してか!」
アルフォンスが国王に変身したのも見抜けない奴らに、魂の管理なんか任せて大丈夫なのかよ?! つーかこいつら、そこまで悪だったのか! 国王も驚いただけだし……
「そう。そしたらね、この惟光って子が転移するのは想定外だったらしくて。その後の未来が真っ白だったの。つまり、私がどうしようと自由な訳よ」
……あぁ、天使が言ってた。未来が見えないけど裏を返せば自分次第って……
「いやぁ、しかしのぅ。この子の事、ラディウスも気に入っている訳だしのぅ……」
「あら、この子の代わりなんかいくらだって出来るわよ。さ、お腹も空いてきたし。夕飯食べに行きましょ」
「あ、あぁ……」
「ここの場所、まさかあの子にバレてないでしょうね?」
「それは大丈夫だ。儂とアル以外知らない筈だ」
遠ざかる声。薄っすら目を開ける。アルフォンスも一緒に行ったようだ。なんか、何をどう考えていのかよく分からない。混乱し過ぎて……俺の人生って一体……何だったんだ? 王子……俺の事……
「ほら、起きろよ。十分休んだろ?」
前髪が引っ張られるような痛みを感じ、目を覚ます。目の前には、憎悪に満ちた萌黄色の双眸に驚いた表情の俺が映る。どうやら、ペンダントとコンタクトを取った後……いつの間にか眠ってしまったようだ。夕べ、俺の異世界転移の経緯を聞い何とも言えない空虚さを味わった。正直言って筆舌に尽くし難い複雑な思いが残る。だが、今は考えるべき時ではない。
「喜べ! 今朝は何と、国王陛下もお前の悶絶する姿をご覧になるそうだ。せいぜい、激流の如く咳と噴水みたいに盛大に血を吐いて陛下とクレメンス様、そしてこの僕を楽しませるんだな。なぁに、死なせないから心配するな。クレメンス様が飽きるまでは、生かしてといてやる」
何を偉そうに、アルフォンスめ。この上無い上から目線で一方的に捲し立てやがって。国王陛下もだ? 大方、変態女に押し切られたんだろ。情けねー王様だぜ。ん? アルの奴、不意にハッとしたように改めて俺をじーっと穴のあくほど見つめるじゃないか。何だ? だが、ここは平然として見つめ返しておこう。
「……お前、もしかして僅かに残された魔力で、外部に助けを求めたりしてねーだろうなぁ?」
やはりな、昨夜の内に心の内を読まれないように木星神と太陽神にガードを頼んでおいて正解だったな。ジュピターってギリシア神話でいうところのゼウス……最高神だけど、『承知シタ!』と気軽に快諾してくれたんだよな。後は五芒星に、最大のピンチが訪れた際の保護を……とお願いしたんだけど、コンタクトが取れなかったんだ。でも多分……保護してくれるとしても、俺自身の気力と体力が保てている間だけだろうな……
「ふん、心の中を読まれないようにガードしたか。まぁ、どうせ外部に助けを求めたってこの場所を特定出来る筈ないんだ。今頃、殿下やリアンが死に物狂いで探してるだろうぜ。ま、僕は午後からは殿下の毒味役として通常通り出勤するけどね、と。そら、行くぞ!」
乱暴に俺を抱き上げる。体はかなり楽になっていて、恐らく話せるし、ゆっくりなら歩く事も可能だろう。だが、ここで余計な体力は使いたくない。両手が塞がっているアルは、開け放したままの部屋の出入り口を出て、乱暴に足でドアを閉める。こいつ、誰かが見ている時は絶対に丁寧にドアを閉めるんだろうな。そのまま廊下を突き進み、あの拷問部屋へと進んでいく。
……王子、リアン。そして央雅にレオ、ノア。本当に有難う。俺も、最後まで精一杯戦うよ。ギリギリまで抗ってやる! だけど……恐らく、次の拷問でラストチャンスだ。そんな予感がする。生かしておいてやる、と言ってはいるけれど、俺自身が正気を保っていられるのは、次で最後だ。
頼む……フォルス、ヘルメス、俺が自分自身を保っていられる内に、救い出してくれ……
切実なる祈りも虚しく、拷問部屋に辿り着く。再び、両手首を鎖に繋がれ天井に吊るされた。コツコツ……サラリサラリ、衣擦れと足音が二人分。変態女と腑抜け王がやって来た。さぁ、戦いが始まる。
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