その男、有能につき……

大和撫子

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第七十四話

彩光界建国記念日リハーサル・前編

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 ついに、彩光界建国記念日リハーサルの日が明日になっちまった。明後日が本番だから、明日中に体に叩き込まないとだ。
 
 まぁ、とは言っても。リアンから貰った式典の俺の役割を見ると、ただ姿勢を正して曖昧な微笑……モナリザの微笑みみたいな……を浮かべて座っている事が殆どで。仕事を紹介される時だけ起立してお辞儀をするだけ、なんだけどさ。

 歩き方とか座り方とか、の浮べ方、立ち方なんかはリアンに教わって。精霊使いの練習の合間に一通りやってみてはいるのだけど。全身が映る鏡を見ながら練習するのって照れるし恥ずかしいんだよな。ダンサーとかホントにスゲーッて思うよ。

「もうお済みですか?」

 レオの声で我に返る。

「ん? あ、あぁ……」

 言われてみれば、朝食を殆ど残していた。

「ごめん、今朝はもうお腹いっぱいだ。いよいよ明日がリハーサルだっていうんで、緊張してきたのかな」

 と笑顔で誤魔化してみる。せっかく作って貰ったものを残すのは、気が引ける。申し訳ないけれど……

「……そういえば明け方、少し咳き込んでおられましたね」

 ノアが心配そうに言ってきた。

「ん? そうだったか? 気付かないで寝ていたみたいだ。煩かったらごめんな」

 そういや明け方、ちょいと咳き込んで目が覚めたけど。あまりにも眠くてそのまま寝ちまったっつー。つまり、全く大した事はない訳で。

「いえ、咳はすぐに治まったようでしたが、もしかしてお体の調子が優れないのではございませんか?」

 今度はレオが、畳みかけるように言った。うーん? もしや微妙に大げさな事態になりかけてるんじゃ……

「いやいや、それは無い、大丈夫だって。ほら、初めての一大イベント控えて胸がいっぱいなだけんだよ」
「失礼します、惟光様!」
「え?」

 ノアがいきなり屈みこむと、右手の平を俺の額にあてた。酷く神妙な顔つきなもんだから、抵抗してその手を振り払うのは憚られた。

「お熱がありますね」

 とノアは膝をついて俺を見上げる。え? そんな馬鹿な?

「いや、それは無いと思うぞ」

 と答えている間に、レオが電子体温計を手にしていた。あっちの世界とさほど変わらないんだな。じゃなくて、そんな事を思っている間に、「失礼致します」と有無を言わさない勢いで俺の左脇に体温計を挟みこんだ。え? あの……。30秒ほど経つとピピピと音が鳴り、難しい顔付きでレオがそれを引き抜く。体温計の画面を、レオとノアで頬を寄せ合うようにして見つめた。レオが厳しい声で言った。

「37.8度」
「え? そんなにあった?」

 体温計、壊れてるんじゃねーか?

「午前中でこの体温では、午後から高熱になる危険性がありますね」
「え? いや大丈夫だって」
「いけません!」

 レオとそんな押し問答をしている間に、ノアはテキパキとベッドメイキングをし直しながら、右手をあちこちに翳してグリーンの光を巻き散らしている。

「明日がリハーサルなのに、寝ていられる訳ないだろう?」
「いいえ、本番中に倒れられた方が国民の皆様に示しがつきません」

 うっ……それを言われたらそうだけど。でも……

「それはそうだけど大丈夫だよ、どこも具合悪くないし……」
「惟光様、どうか……」

「あなたの大丈夫は全くアテになりません。何度か申し上げましたね」

 と、突如、右手人差し指を眼鏡のエッジに当てたリアンが、レオの真後ろに出現した。

「え? あっ、ちょっ、ちょっと!」

 抵抗する間もなく、リアンに抱き抱え上げられる。

「このところずっと気を抜ける時間がありませんでしたし。少し休む時間があって良いでしょう」
「でも明日がリハーサル……」
「ええ、ですから明日中に覚えれば大丈夫なんですよ」
「でも……」
「さて、ごゆっくりとお休みください。なぁに、短時間で回復しますから」

 強制的にベッドに連れていかれると、ノアが充実した表情で控えていた。うわ、これって……

「植物の癒しの力を凝縮した『癒しの揺り籠』でございます。このベッドでお休みになりますと、気力体力共にしっかりと充電されてスッキリと目覚められるでしょう。今までは、あちらの世界との関連での体調不良でしたが、今回はこちらの世界のみでの疲労なので根本からの介入が可能です」

 あぁ、転移者の元の世界の事が原因の病には根本治療が出来ないけれど、今回はこっちの世界の事が原因だから根本治療が出来る、て事か。

 そこはベッド自体が植物で囲い込まれており、まさに『植物の揺り籠』という感じ仕上がっていた。
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