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第七十三話
彩光界建国記念日・その五
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「えっとその……」
顔色を窺いながら切り出してみるものの……
『断ル!』
とバッサリと一刀両断される。もう、這う這うの体で逃げ出したくなる衝動をグッと抑えた。ハッキリ言って、闇の精霊やら異界で遭遇した魔物なんかよりも余程コイツの方が恐ろしい。威圧感が半端ねーんだ。正直、膝がガクガク震えて真っすぐに立つのも困難なほどだ。心臓は奴につかまれたみたいに萎縮して小刻みに脈打つ。やはり、神仏系は特に礼節を重んじないと触りが妖魔系の比ではないというが、本当だと思う。
だけど、ここで引く訳にはいかないんだ。ビクビクおどおどするな! 背筋を伸ばせ、落ち着いて堂々としていろ! 得意のハッタリをかましてやれ!!
腕組みをしてプイッと横を向いちまっているその者に、真っすぐな眼差しを向けた。
「お忙しい中、お出まし頂きまして有難うございます。どうか、お力をお貸しください! お願いします!」
その者は透き通った鋼色の天使である。身の丈はラファエル達と同じように3mはありそうだ。やはり顔つきまでは見えないが、立ち振る舞いや声の調子から今、彼が非常に不機嫌極まりないという事はひしひしと伝わってくる。そう、この透き通った鋼色の天使は『ウリエル』なのだ。
話は少し前に遡る。『ラウェルナの指輪』の事と、『大天使ラファエル』の件、そして俺が使える精霊たちと、フォルス、そして『オーロラの涙』と『アグラの盾のペンダント』の特性を全て踏まえた上で、リアンと相談した結果……。取りあえずはラファエルの他に、ミカエル、ガブリエル、ウリエルの大天使たちに力を貸して貰えるようにしよう、という事になった。神仏系はしっかりと礼節を重んじれば恐ろしい事にはならないから、との事で。何かあれば即知らせる事を条件に俺一人で交渉してみる事になったんだ。礼節を重んじれば、ていうところが怖いんだけどさ。
それで、ミカエルはクリアブルーの光の天使で。お願いしたら『ラファエルが自ら進んで力を貸したくらいの人間なら間違いないだろう』て事であっさり快諾。続いてガブリエルも『ミカエルが快諾したなら問題ないだろう。それに、お前の魂は人間にしては珍しく澄み切っているからな』て事で快諾。
こんな簡単で良いんだろうか? もしや俺の作り上げた妄想なんじゃ……なんて却って不安になったほどだ。だけどミカエルもガブリエルも、『ウリエルには気をつけろ、あいつは機嫌が良ければいいが、機嫌が悪いと厄介だから』と言い残して消えていった。その理由が分かったよ。呼び出したら不機嫌だった……。今まですんなりトントン拍子に来たせいか、ここで一気にツケというか、立ちはだかる壁というか……。まぁ、今までが順調過ぎたんだろうなぁ。
あ、因みにガブリエルはクリアレッドの光の天使だった。
『ソモソモ、主が確実二窮地二陥ル、ト確定シタ未来デハアルマイ?』
んー、まぁ確かになぁ。でもさぁ……。まぁ、腕組みはしたままだけど、顔はこっちに向けてくれたから進展はしたかな。微々たるもんだけど。
「ええ、そうですね。おっしゃる通りです。ですが、どうしても万全の態勢で挑みたいのです。ミカエル様、ラファエル様、ガブリエル様にも許可を頂きました」
『一体一体呼ビ出シタトイウノカ?』
「はい」
『四大天使一度二呼ビ出セバ済ム事ダロウ!』
うーん? まさか拗ねてる訳じゃねーよなぁ……
「ええ、ですが一対一でしっかりと向き合ってお話をしてお願いするのが筋だと思いまして」
『フン』
気もちで負けるな、俺! 悪い事なんかしてないんだから!
「それに、私がどういう人間でどんな経緯で今に至るかは、語るよりもウリエル様にはすべてお見通しなのではないでしょうか?」
『ホウ? 人間ト対峙シタ場合ハ本人ノ許可ナク心ノ中ヲ暴ク事ハ禁ジラレテイルガ、覗イテモ良イ、トナ?』
そうか、そういや俺の心の声、聞いてなかったみたいだし、これは俺にしたらラッキーだぞ! 規律をきっちり守るあたり、やっぱり天使様だよな、と思う。古来よりウリエルは……ミカエル、ガブリエル、ラファエルの三大天使よりも敬遠されがちな理由って、闇も司るから、その得体の知れない恐怖もあるんじゃないかと思う。
「勿論です!」
熱意を込めて、彼を真っすぐに見つめた。顔は分からないけれど、心臓を掴んで裏返しにされ、胸の奥を探られているような感覚に陥る。痛みは無いが、吐き気を催す程不快極まりない。けれど、耐えるんだ! 喀血した時に比べたら全然苦しくないぞ!
『フッ』
やがて、ウリエルは微かに笑った。果たして結果は……?
『オ前、物質界デヨク耐エタナ。人間二シテオク二ハ惜シイ程無欲デ純粋ダ』
えっと、じゃぁ……
「お力、お貸しくださいますか?」
ドクン、と鼓動は跳ね上がる。まるで合否を見る受験生のように。
『介入デキルギリギリノライン迄力ヲ貸ソウ。必要ナ際ハ名ヲ呼ベ』
ホッ、良かったー。
「有難う存じます」
深々と頭を下げた。顔をあげる頃には、空気に溶け込むようにして掻き消えていった。
交渉成立! 偉いぞ! 俺っ。……あー疲れたー。一気に来た。ガクッと両膝をついて大きな溜息をついた。さて、建国記念日予行練習日まで後三日! やれる事は全部やるぞ!!
顔色を窺いながら切り出してみるものの……
『断ル!』
とバッサリと一刀両断される。もう、這う這うの体で逃げ出したくなる衝動をグッと抑えた。ハッキリ言って、闇の精霊やら異界で遭遇した魔物なんかよりも余程コイツの方が恐ろしい。威圧感が半端ねーんだ。正直、膝がガクガク震えて真っすぐに立つのも困難なほどだ。心臓は奴につかまれたみたいに萎縮して小刻みに脈打つ。やはり、神仏系は特に礼節を重んじないと触りが妖魔系の比ではないというが、本当だと思う。
だけど、ここで引く訳にはいかないんだ。ビクビクおどおどするな! 背筋を伸ばせ、落ち着いて堂々としていろ! 得意のハッタリをかましてやれ!!
腕組みをしてプイッと横を向いちまっているその者に、真っすぐな眼差しを向けた。
「お忙しい中、お出まし頂きまして有難うございます。どうか、お力をお貸しください! お願いします!」
その者は透き通った鋼色の天使である。身の丈はラファエル達と同じように3mはありそうだ。やはり顔つきまでは見えないが、立ち振る舞いや声の調子から今、彼が非常に不機嫌極まりないという事はひしひしと伝わってくる。そう、この透き通った鋼色の天使は『ウリエル』なのだ。
話は少し前に遡る。『ラウェルナの指輪』の事と、『大天使ラファエル』の件、そして俺が使える精霊たちと、フォルス、そして『オーロラの涙』と『アグラの盾のペンダント』の特性を全て踏まえた上で、リアンと相談した結果……。取りあえずはラファエルの他に、ミカエル、ガブリエル、ウリエルの大天使たちに力を貸して貰えるようにしよう、という事になった。神仏系はしっかりと礼節を重んじれば恐ろしい事にはならないから、との事で。何かあれば即知らせる事を条件に俺一人で交渉してみる事になったんだ。礼節を重んじれば、ていうところが怖いんだけどさ。
それで、ミカエルはクリアブルーの光の天使で。お願いしたら『ラファエルが自ら進んで力を貸したくらいの人間なら間違いないだろう』て事であっさり快諾。続いてガブリエルも『ミカエルが快諾したなら問題ないだろう。それに、お前の魂は人間にしては珍しく澄み切っているからな』て事で快諾。
こんな簡単で良いんだろうか? もしや俺の作り上げた妄想なんじゃ……なんて却って不安になったほどだ。だけどミカエルもガブリエルも、『ウリエルには気をつけろ、あいつは機嫌が良ければいいが、機嫌が悪いと厄介だから』と言い残して消えていった。その理由が分かったよ。呼び出したら不機嫌だった……。今まですんなりトントン拍子に来たせいか、ここで一気にツケというか、立ちはだかる壁というか……。まぁ、今までが順調過ぎたんだろうなぁ。
あ、因みにガブリエルはクリアレッドの光の天使だった。
『ソモソモ、主が確実二窮地二陥ル、ト確定シタ未来デハアルマイ?』
んー、まぁ確かになぁ。でもさぁ……。まぁ、腕組みはしたままだけど、顔はこっちに向けてくれたから進展はしたかな。微々たるもんだけど。
「ええ、そうですね。おっしゃる通りです。ですが、どうしても万全の態勢で挑みたいのです。ミカエル様、ラファエル様、ガブリエル様にも許可を頂きました」
『一体一体呼ビ出シタトイウノカ?』
「はい」
『四大天使一度二呼ビ出セバ済ム事ダロウ!』
うーん? まさか拗ねてる訳じゃねーよなぁ……
「ええ、ですが一対一でしっかりと向き合ってお話をしてお願いするのが筋だと思いまして」
『フン』
気もちで負けるな、俺! 悪い事なんかしてないんだから!
「それに、私がどういう人間でどんな経緯で今に至るかは、語るよりもウリエル様にはすべてお見通しなのではないでしょうか?」
『ホウ? 人間ト対峙シタ場合ハ本人ノ許可ナク心ノ中ヲ暴ク事ハ禁ジラレテイルガ、覗イテモ良イ、トナ?』
そうか、そういや俺の心の声、聞いてなかったみたいだし、これは俺にしたらラッキーだぞ! 規律をきっちり守るあたり、やっぱり天使様だよな、と思う。古来よりウリエルは……ミカエル、ガブリエル、ラファエルの三大天使よりも敬遠されがちな理由って、闇も司るから、その得体の知れない恐怖もあるんじゃないかと思う。
「勿論です!」
熱意を込めて、彼を真っすぐに見つめた。顔は分からないけれど、心臓を掴んで裏返しにされ、胸の奥を探られているような感覚に陥る。痛みは無いが、吐き気を催す程不快極まりない。けれど、耐えるんだ! 喀血した時に比べたら全然苦しくないぞ!
『フッ』
やがて、ウリエルは微かに笑った。果たして結果は……?
『オ前、物質界デヨク耐エタナ。人間二シテオク二ハ惜シイ程無欲デ純粋ダ』
えっと、じゃぁ……
「お力、お貸しくださいますか?」
ドクン、と鼓動は跳ね上がる。まるで合否を見る受験生のように。
『介入デキルギリギリノライン迄力ヲ貸ソウ。必要ナ際ハ名ヲ呼ベ』
ホッ、良かったー。
「有難う存じます」
深々と頭を下げた。顔をあげる頃には、空気に溶け込むようにして掻き消えていった。
交渉成立! 偉いぞ! 俺っ。……あー疲れたー。一気に来た。ガクッと両膝をついて大きな溜息をついた。さて、建国記念日予行練習日まで後三日! やれる事は全部やるぞ!!
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