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第七十三話
彩光界建国記念日・その四
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「……件の者が再び侵入出来ぬよう結界修復と強化を施したのでご安心を。念の為、この会話も第三者が聞いたら意味不明な宇宙語に聞こえるように細工もしておきました」
リアンはそう前置きしてから話を続けた。すげー、それこそ詠唱のなし、そんな素振りも見せずに結界修復に強化したのか。でも宇宙語? これってリアン特有のユーモアもあるんだろうか……
「『幻の王位継承の秘宝』についてですが、未だに憶測でしか語られません。そもそもの発端は、神がこちらの世界を創造した際に人間自身がなるべく争い事を少なく、そして平和に生きていけるようにと『王位継承の秘宝』をセットで授けたと言われています。その秘宝というのが、あなたもご存じの通り『天使アウリエルの水晶球』『女神エイレーネーの鏡』『クラウ・ソラスの聖剣』『アグラの盾』と『テミスの天秤』……そしてもう一つが、『ラウェルナの指輪』と呼ばれるもの。その六つだったらしいのです」
「『ラウェルナ?』えーと確か、ローマ神話の女神で、詐欺師や盗賊などの悪事を働く者を守護するという……?」
「ええ、そうです」
「何だってそんな物をつけたんでしょう? わざわざ悪事を働く者の守護女神だなんて」
うん、ホントにこれだよ。
「それについても諸説あるのですが、いくつかの有力な説を申し上げますね。そもそも、多くの民を一つに束ねるという事は、多くの人を惹き付ける力が必要です。一種のカリスマ性とでも申しましょうか、多くの人に幻想を抱かせる力というか。けれども誰しもが持ち合わせているものではありません。故に、ある意味詐欺の力が必要とされる場合もある、とする説」
うーん、言われてみれば確かにまぁ……という感じがしないでもないけど……
「もう一つは、敢えてそういう悪事の道具を敢えてセットにする事によって、扱う者の理性と自制心と緊張感を働かせるという説」
それって、修行僧のような感じか。でもさぁ……
「まぁ、誘惑には抗うのはなかなか厳しい場合も多々ありますから、この説は説得力に欠けそうだ、と個人的には思いますねぇ」
と苦笑するリアン。
「確かに。自分もそう思います」
「あと一つは……」
とリアンは眼鏡のエッジに右人差し指を当てた。
「神々のお遊び、ですね」
「お遊び?」
「ええ。その秘宝をつけられたら、果たして人間はどんな行動を取るのか? という単なる好奇心による興味本位から授けたのではないか、という説です」
「あぁ……それで神々のお遊び、と」
「ええ、その様子を高みの見物と洒落込んだ神々は、酒の肴にでもしながら賭け事に興じていたりしたかもしれませんねぇ」
と、リアンは冗談とも本気ともつかない様子で言った。
「成る程、自分はこの説が一番しっくりしました」
「奇遇ですね、私もです」
俺たちはどちらからともなく苦笑しあった。神々が興味本位で人間の反応を見て賭け事に興じるとかありそーだ。きっとさ、カインとアベルとか海彦山彦とかさ、兄弟(姉妹)格差とか。わざと大幅に極端に能力の違いをつけて、どう両者がどう成長していくのか興味本位で賭けてきたりして。うーん、別に神を冒涜するつもりは毛頭もないけど、そう考えると俺と弟の件もしっくりくるというかさ。
「それで、『ラウェルナの指輪』はある時からプッツリと誰も話題にしなくなって。その内語られる事もなくなり、文献からも姿を消したと言われています。また推測となりますが、恐らく良い使われ方はしなかった為、どこかに忘却の術をかけて封印するなり消滅させるなりして処分したのだろう、先人の賢明な判断である、と言われています」
真顔に戻ってそう語るリアンは、再び眼鏡のエッジに右人差し指を当て、再び話を続けた。
「ここからは私的意見に過ぎませんが、私はこの『ラウェルナの指輪』は、最初に手に入れた者はこっそりと一族に継承して脈々と受け継がれていると思っています。途中、何者かに奪われたりして必ずしも最初に独占した者の一族が所有しているとは限りませんが」
あぁ、なるほどな……
「確かに、消滅魔法と言っても神がつくったものですしね。そう簡単に消滅するとは思えないですし。忘却の魔術を施して封印したなら、秘密とは言えこうして話題にのぼる事自体矛盾していますしね」
「ええ。それで、この秘宝には相手の心の中を読みとり、言葉巧みにそそのかす力にも長けていますから。何せ詐欺と窃盗の女神ですからねぇ。その人の願望や過去の記憶を探って偽物を語るなど容易い事だと思うのですよ」
「……だから、先程俺に語りかけた殿下の偽物は、結界を破った事からエターナル王家の縁の者かつ、『ラウェルナの指輪』所有者だ、と?」
リアンは厳かに頷いた。
「ですから、今からその対策と。先程の大天使ラファエルについて相談しましょう」
そうだ、いつ襲撃されるか分からんもんな。心してかからなきゃだ!
リアンはそう前置きしてから話を続けた。すげー、それこそ詠唱のなし、そんな素振りも見せずに結界修復に強化したのか。でも宇宙語? これってリアン特有のユーモアもあるんだろうか……
「『幻の王位継承の秘宝』についてですが、未だに憶測でしか語られません。そもそもの発端は、神がこちらの世界を創造した際に人間自身がなるべく争い事を少なく、そして平和に生きていけるようにと『王位継承の秘宝』をセットで授けたと言われています。その秘宝というのが、あなたもご存じの通り『天使アウリエルの水晶球』『女神エイレーネーの鏡』『クラウ・ソラスの聖剣』『アグラの盾』と『テミスの天秤』……そしてもう一つが、『ラウェルナの指輪』と呼ばれるもの。その六つだったらしいのです」
「『ラウェルナ?』えーと確か、ローマ神話の女神で、詐欺師や盗賊などの悪事を働く者を守護するという……?」
「ええ、そうです」
「何だってそんな物をつけたんでしょう? わざわざ悪事を働く者の守護女神だなんて」
うん、ホントにこれだよ。
「それについても諸説あるのですが、いくつかの有力な説を申し上げますね。そもそも、多くの民を一つに束ねるという事は、多くの人を惹き付ける力が必要です。一種のカリスマ性とでも申しましょうか、多くの人に幻想を抱かせる力というか。けれども誰しもが持ち合わせているものではありません。故に、ある意味詐欺の力が必要とされる場合もある、とする説」
うーん、言われてみれば確かにまぁ……という感じがしないでもないけど……
「もう一つは、敢えてそういう悪事の道具を敢えてセットにする事によって、扱う者の理性と自制心と緊張感を働かせるという説」
それって、修行僧のような感じか。でもさぁ……
「まぁ、誘惑には抗うのはなかなか厳しい場合も多々ありますから、この説は説得力に欠けそうだ、と個人的には思いますねぇ」
と苦笑するリアン。
「確かに。自分もそう思います」
「あと一つは……」
とリアンは眼鏡のエッジに右人差し指を当てた。
「神々のお遊び、ですね」
「お遊び?」
「ええ。その秘宝をつけられたら、果たして人間はどんな行動を取るのか? という単なる好奇心による興味本位から授けたのではないか、という説です」
「あぁ……それで神々のお遊び、と」
「ええ、その様子を高みの見物と洒落込んだ神々は、酒の肴にでもしながら賭け事に興じていたりしたかもしれませんねぇ」
と、リアンは冗談とも本気ともつかない様子で言った。
「成る程、自分はこの説が一番しっくりしました」
「奇遇ですね、私もです」
俺たちはどちらからともなく苦笑しあった。神々が興味本位で人間の反応を見て賭け事に興じるとかありそーだ。きっとさ、カインとアベルとか海彦山彦とかさ、兄弟(姉妹)格差とか。わざと大幅に極端に能力の違いをつけて、どう両者がどう成長していくのか興味本位で賭けてきたりして。うーん、別に神を冒涜するつもりは毛頭もないけど、そう考えると俺と弟の件もしっくりくるというかさ。
「それで、『ラウェルナの指輪』はある時からプッツリと誰も話題にしなくなって。その内語られる事もなくなり、文献からも姿を消したと言われています。また推測となりますが、恐らく良い使われ方はしなかった為、どこかに忘却の術をかけて封印するなり消滅させるなりして処分したのだろう、先人の賢明な判断である、と言われています」
真顔に戻ってそう語るリアンは、再び眼鏡のエッジに右人差し指を当て、再び話を続けた。
「ここからは私的意見に過ぎませんが、私はこの『ラウェルナの指輪』は、最初に手に入れた者はこっそりと一族に継承して脈々と受け継がれていると思っています。途中、何者かに奪われたりして必ずしも最初に独占した者の一族が所有しているとは限りませんが」
あぁ、なるほどな……
「確かに、消滅魔法と言っても神がつくったものですしね。そう簡単に消滅するとは思えないですし。忘却の魔術を施して封印したなら、秘密とは言えこうして話題にのぼる事自体矛盾していますしね」
「ええ。それで、この秘宝には相手の心の中を読みとり、言葉巧みにそそのかす力にも長けていますから。何せ詐欺と窃盗の女神ですからねぇ。その人の願望や過去の記憶を探って偽物を語るなど容易い事だと思うのですよ」
「……だから、先程俺に語りかけた殿下の偽物は、結界を破った事からエターナル王家の縁の者かつ、『ラウェルナの指輪』所有者だ、と?」
リアンは厳かに頷いた。
「ですから、今からその対策と。先程の大天使ラファエルについて相談しましょう」
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