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第七十三話
彩光界建国記念日・その二
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二時間ほど、ゆっくり休むようにと休憩時間を貰った。それなら、魔術の知識や彩光界の歴史の勉強でもしようかと思ったら……
「言っておきますが、休む時はしっかりと頭も体も休ませて下さいね? そう言ったメリハリも大事ですし、ある意味即臨機応変に対応する実践稽古の一環となりますから」
と、部屋を出ていく寸前のリアンに、眼鏡のエッジに右人差し指をあてながら釘を刺された。うーん、最早行動パターン、思考パターン共に読まれている、つー間抜けぶり。何だかなぁー。それじゃ、昼寝でもするかなー。と、ゆっくりとべッドへと向かう。その時、
……惟光……
愛しい人の声が耳に響いた気がした。うーん、やっぱり疲れてるのかなぁ。幻聴が聞こえたような……
……惟光、幻聴じゃないよ。今、秘密の場所にいるんだ……
あれ? もしかしてテレパシー? 本物??
……ふふふ、惟光、面白い。少ししかいられないけど、おいで。いっしょにゆっくり休もう。あの呪文を唱えたら、すぐに僕の側に来られるよ……
本物の王子だと分かった途端、ポッと頬が熱くなる。だって耳元で甘く囁かれてるみたいな錯覚を覚えたから。ほら、主人が大好きな忠犬が、ワンワンと千切れんばかりに尻尾を振って命令を忠実にこなす、みたいな気分かなぁ。言われるままに呪文を唱えようとした。
けれども、ほんの僅かに「ちょっと待てよ?」と、違和感を覚えた。
建国記念日は、王位継承の戴冠式に準ずるほど重大な儀式だと聞いた。王子が言うには、だ。細かい段取りやら打ち合わせやら、式典の七日ほど前から、この期間ばかりは王太子殿下とその近侍たちと昼夜行動を共にするしきたりだ、とも聞いたぞ。そうだよ! この期間だけは、リアンでさえもしかるべき手続きをもってして決められた時間しか王子と行動を共に出来ない、とも言っていたじゃないか!
それに、王子はこうも言っていた。
『……惟光とも、現地で予行練習する前日まで会えないから寂しいよ。物凄く窮屈だし退屈だし、兄上はツンケンしているか、口を開けば嫌味と皮肉しか言わないし……』
て、うんざりしていたじゃないか! これは……罠かもしれない。何者かが仕掛けた……この誘い、迂闊に乗ったら駄目だ。だって……
……嫌だなぁ、惟光。僕を疑ってるの? もし僕が罠だとしたら、二人だけの場所に来る呪文の事、僕が知ってる訳ないじゃないか……
声は、王子そのものだ。だけどやっぱり何だか変だ。
「殿下、此度は何故、リアンにも通さずに直接自分にお話に?」
去り気なく、問い詰めてみよう。
……それは、偶然ね、ほんの少しだけ時間が取れたからなんだよ。手続きを取るの複雑で面倒だし時間かかるから、内緒でね。どうしても二人だけで過ごしたくてさ……
おかしい、王子なら手続きが面倒だなんて言う訳がない。リアンも何も言ってなかったし。
「それなら、直接こちらにおいでにならないのは何故です? そして秘密の場所とは、どちらの場所でしょう?」
少し、煽って様子を見るか。
……酷いよ、惟光。僕を疑うの? クスン、ヒック、僕の事、嫌いになったの?……
はーい、嘘泣き確定! 王子がそんな泣き脅しするもんか!
「質問の答えになっておりません。あなたは一体、どなたです?」
王子を語る偽物め!
……僕の事、信じられないなんて、酷いよ、惟光……
「ですから、質問のこたえになっておりませんが」
……えーい、忌々しい、何の力も無い癖に屁理屈ばかり並べおって!……
途端に、ドスの効いた男とも女ともつかない声に豹変、声を荒げる。そら、尻尾を出した! 屁理屈は俺の必殺技の一つだっつーの!
……せっかく、優しく接してやろうと思ったのに、馬鹿め!……
全身に、鳥肌が立つくらいゾッとした。拙い、煽り過ぎたか? 咄嗟に、アグラの盾を掲げた大天使ラファエルを思い浮かべた。すると、バサッと翼を羽ばたかせる音と共に、俺の身長よりも大きな翼が二枚、背後から包む込むようにして出現した。それはクリアグリーンの光で出来た翼だった。
……チッ、ラファエルの保護だと? 雑魚の癖に小癪な真似を!……
忌々し気に捨て台詞を残して、それきり声の主は静かになった。何だかよく分からないけど、撃退出来たのかな?
「あ、あの……有難う、ございました……」
呆然と、上を見上げてそのモノに礼を述べる。それは身の丈3m程のクリアグリーンの光で出来た天使だった。絵画でよく見掛けるような天使、そのまんまだ。顔は煌めき過ぎてよく見えないけれど、穏やかに微笑んでいるような気がする。左手にはペンダントをそのまま大きくしたようなアグラの盾を掲げていた。
クリアグリーンの光の天使は「気にするな」と言うように右手で俺の頭を撫でると、キラキラと光の欠片を残して消えて行く。
「惟光様っ!」
同時に血相を変えたリアンが、部屋に飛び込んで来た。
「言っておきますが、休む時はしっかりと頭も体も休ませて下さいね? そう言ったメリハリも大事ですし、ある意味即臨機応変に対応する実践稽古の一環となりますから」
と、部屋を出ていく寸前のリアンに、眼鏡のエッジに右人差し指をあてながら釘を刺された。うーん、最早行動パターン、思考パターン共に読まれている、つー間抜けぶり。何だかなぁー。それじゃ、昼寝でもするかなー。と、ゆっくりとべッドへと向かう。その時、
……惟光……
愛しい人の声が耳に響いた気がした。うーん、やっぱり疲れてるのかなぁ。幻聴が聞こえたような……
……惟光、幻聴じゃないよ。今、秘密の場所にいるんだ……
あれ? もしかしてテレパシー? 本物??
……ふふふ、惟光、面白い。少ししかいられないけど、おいで。いっしょにゆっくり休もう。あの呪文を唱えたら、すぐに僕の側に来られるよ……
本物の王子だと分かった途端、ポッと頬が熱くなる。だって耳元で甘く囁かれてるみたいな錯覚を覚えたから。ほら、主人が大好きな忠犬が、ワンワンと千切れんばかりに尻尾を振って命令を忠実にこなす、みたいな気分かなぁ。言われるままに呪文を唱えようとした。
けれども、ほんの僅かに「ちょっと待てよ?」と、違和感を覚えた。
建国記念日は、王位継承の戴冠式に準ずるほど重大な儀式だと聞いた。王子が言うには、だ。細かい段取りやら打ち合わせやら、式典の七日ほど前から、この期間ばかりは王太子殿下とその近侍たちと昼夜行動を共にするしきたりだ、とも聞いたぞ。そうだよ! この期間だけは、リアンでさえもしかるべき手続きをもってして決められた時間しか王子と行動を共に出来ない、とも言っていたじゃないか!
それに、王子はこうも言っていた。
『……惟光とも、現地で予行練習する前日まで会えないから寂しいよ。物凄く窮屈だし退屈だし、兄上はツンケンしているか、口を開けば嫌味と皮肉しか言わないし……』
て、うんざりしていたじゃないか! これは……罠かもしれない。何者かが仕掛けた……この誘い、迂闊に乗ったら駄目だ。だって……
……嫌だなぁ、惟光。僕を疑ってるの? もし僕が罠だとしたら、二人だけの場所に来る呪文の事、僕が知ってる訳ないじゃないか……
声は、王子そのものだ。だけどやっぱり何だか変だ。
「殿下、此度は何故、リアンにも通さずに直接自分にお話に?」
去り気なく、問い詰めてみよう。
……それは、偶然ね、ほんの少しだけ時間が取れたからなんだよ。手続きを取るの複雑で面倒だし時間かかるから、内緒でね。どうしても二人だけで過ごしたくてさ……
おかしい、王子なら手続きが面倒だなんて言う訳がない。リアンも何も言ってなかったし。
「それなら、直接こちらにおいでにならないのは何故です? そして秘密の場所とは、どちらの場所でしょう?」
少し、煽って様子を見るか。
……酷いよ、惟光。僕を疑うの? クスン、ヒック、僕の事、嫌いになったの?……
はーい、嘘泣き確定! 王子がそんな泣き脅しするもんか!
「質問の答えになっておりません。あなたは一体、どなたです?」
王子を語る偽物め!
……僕の事、信じられないなんて、酷いよ、惟光……
「ですから、質問のこたえになっておりませんが」
……えーい、忌々しい、何の力も無い癖に屁理屈ばかり並べおって!……
途端に、ドスの効いた男とも女ともつかない声に豹変、声を荒げる。そら、尻尾を出した! 屁理屈は俺の必殺技の一つだっつーの!
……せっかく、優しく接してやろうと思ったのに、馬鹿め!……
全身に、鳥肌が立つくらいゾッとした。拙い、煽り過ぎたか? 咄嗟に、アグラの盾を掲げた大天使ラファエルを思い浮かべた。すると、バサッと翼を羽ばたかせる音と共に、俺の身長よりも大きな翼が二枚、背後から包む込むようにして出現した。それはクリアグリーンの光で出来た翼だった。
……チッ、ラファエルの保護だと? 雑魚の癖に小癪な真似を!……
忌々し気に捨て台詞を残して、それきり声の主は静かになった。何だかよく分からないけど、撃退出来たのかな?
「あ、あの……有難う、ございました……」
呆然と、上を見上げてそのモノに礼を述べる。それは身の丈3m程のクリアグリーンの光で出来た天使だった。絵画でよく見掛けるような天使、そのまんまだ。顔は煌めき過ぎてよく見えないけれど、穏やかに微笑んでいるような気がする。左手にはペンダントをそのまま大きくしたようなアグラの盾を掲げていた。
クリアグリーンの光の天使は「気にするな」と言うように右手で俺の頭を撫でると、キラキラと光の欠片を残して消えて行く。
「惟光様っ!」
同時に血相を変えたリアンが、部屋に飛び込んで来た。
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