その男、有能につき……

大和撫子

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第七十二話

見透す力とサバイバル能力

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 俺を除いて、皆は洞窟内で鉱物を探している。王子の指示で俺の波長に合うものを二つほど見つけているのだ。同じ種類の石でも、その石一つ一つ出している波動が異なるらしい。で、俺はと言えば……

 ただ今座禅を組んで(……いや、正しくはなんだけど)……中なんだ。洞窟内の中心部あたりが一番パワーがあるとかで、そこで目を閉じ、ただひたすら『無』の境地になるよう静かにしている。

「瞑想している間、色んな雑念が湧いて来るかもしれないけど、無理に抑え込む必要はないからね。感情そのものを俯瞰するように流してね」

 という王子の言葉通り、色々な雑念が次から次へと湧いて来ている。

……惟光兄これみつにいってさ、生きてて楽しい?…… 

 弟の声が脳内に響く。

……何の取り柄も無くてさ、よく生きてられるよね……

 うるせーよ、このサイコパスめが。

……お前は出来損ない、失敗作だな……

 続いて父親の声だ。やかましい! 製造元が悪いからだろ!

……生まれてきたばかりの頃は、色んな人に期待されたのに。ただの『人』だったわね……

 次は母親の声だ。であるオマエから生まれたんだから当然だろう、弟が異常なだけだ。

 と、まぁこんな感じだ。家族の問題なんか、とっくに乗り越えたと思っていたんだけど、まだまだだったな。
 以前、僧侶を主人公にした作品で修行をしている場面を書きたくて。修行の中一つ、瞑想について調べたのを思い出したぞ。確か、瞑想で危険な状態ってのがあって。禅病(※①)とか魔境(※②)ってのがあったよなぁ。これはただの雑念と思うんだけど……。こんな感じでならぬ状態な訳だ。

 てほら、こうやって雑念に振り回されたらアカン、て王子に注意されたじゃん。ただ俯瞰するだけ、と。

……焼き肉食べたいな……
……卵かけご飯もいいな……
……納豆に焼き秋刀魚、おろし大根じ酢醤油たっぷりで……

 あぁ、今食べたいものか……

「惟光、お疲れ様。目を閉じたまま、大きく深呼吸して」

 王子の声。同時に軽く背中に触れる手の感触。バニラに薔薇が溶け込んだような甘い香りが鼻をくすぐる……

「足の裏に力を入れてみて。意識を少しずつ足先、足首、膝……と頭頂部まで行ったら、ゆっくり目を開けてね」

 ゆっくりと目を開けると、形の良いピンクサファイアの瞳。黄金の髪に真珠の肌、ルビーレッドの双眸……あぁ、全身が宝石で出来たような……王子だ。少し身を乗り出せば唇が届くほど、間近に。

 ……ち、近っ……

 状況を把握するなり、ボッと顔から火が出そうになる。

「ラストの方、感情の俯瞰。しっかり出来ていたみたいだね」

 王子は口元を綻ばせたまま話を続ける。あぁ、王子様は、たかだか俺に近付いたぐらいで動じる訳ないか。俺、いつまでたってもモブで雑魚キャラの……

「惟光の波長に合う天然石を探していたんだけど、見つかったよ。惟光の持つペンダントや、精霊たちの力を高め、弱い部分を補ってくれるものだよ」

 あ、余計な事考えている場合じゃないぞ、俺! 王子の両手の平に、手の平サイズの青みのかった鉱物と、赤みがかった鉱物が乗せられていた。

「生命力と情熱、勝利の力を持つ『ガーネット』だ。サバイバル能力も高めてくれる。しっかりと地に足をつけてくれるように、アンクレットに加工させよう。あと一つは、第三の目サードアイを開いて真実を見透す力とインスピレーションを高めてくれる『ソーダライト』だよ。邪悪なものから身を守り、判断力や理性的な行動を促し洞察力も高めてくれるからね。第三の目に触れるようにサークレットに加工させるね」

「はい、有難うございます。大切にします」

 これ、俺の為に皆で探してくれたんだろう? それだけで、有り難いし。それだけで、効果がありそうだ。

「実はこれ、ガーネットはレオが。ソーダライトはノアが見つけたんだ。主人の為に一生懸命、波動が合うものを探したんだね。お手柄だね、レオ、ノア」

 と、王子は後ろを振り返った。「あ、いえそんな……」と照れて慌てている二人が可愛らしい。リアンは俺の右後方に、央雅は左後方に控え成り行きを穏やかに見守っているようだ。

「そうだったのか! それはとても嬉しいよ。本当に有難う、レオ、ノア」

 二人に微笑みかける。だってホント、滅茶苦茶嬉しいもん。

「と、とんでもないです!」
「お役に立てまして光栄です!」

 あたふたと頬を赤らめる二人。この二人の為にも、絶対にピンチを乗り越えないとな。

「それで、天然石の加工もレオとノアに任せようと思うんだけど、どうかな?」

 王子は俺に問いかける。それはもう深く考える必要もなく、王子に笑みでこたえた。

「宜しく、頼むな」

 俺は二人に改めて笑顔を向けた。


 帰りの道も、来た時と同じように王子と共に『ヤク』に乗って。相変わらず観客たちの注目を浴びたけれど、さほど気にはならなくなっていた。少なくとも悪意のある眼差しは感じなかったからかもしれない。





(※①…感情が不安定になったり、発熱、頭痛、吐き気、体の震えなど自律神経に影響を受けて体に反応が出てしまう状態)
(※②…所謂、スピリチュアルに傾倒し過ぎていたり、自分の内側に関心が行き過ぎていたりする場合に起こり易い。「神」や「天使」または「悪魔」を見たり、声が聞こえたりする幻覚。幻聴が起こる危険な状態)
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