その男、有能につき……

大和撫子

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第七十一話

宝土界訪問・後編

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 着いた場所は山頂近くの洞窟だった。『ヤク』から降りる際は、先回りして来た先程の三人のスタッフが頭を下げて待っており、乗る時と同じ要領で一人一人おろしていく。そして三人は深々と頭を下げると静かにその場を立ち去って行った。

 その間も、観客たちが峡谷の道という道に群がって見物をしているもは変わら無い。やはり反対側の崖からは双眼鏡や望遠鏡のようなもので見ている人が目立つ。あんなに狭い道でよく群がれるよな、と感心しちまう。彼らにはそれが当たり前の生活なんだろうけど。けれどもまぁ、今日は王子にリアン、央雅にレオ、ノアまで来ているのだ。いずれも異なるタイプの美形揃いときたもんだ、そりゃあ一目見たい、と思う人が沢山いるのは自然な事だろう。一人一人にファンがついているだろうしな。

 だからこそ、俺に好奇の目が向けられるのが痛いんだよなぁ。自意識過剰ってのもあるんだろうけど、如何せん視線が突き刺さるのは痛いぜよ。

……何あのチンチクリン……
……王子が穢れるから傍によらないで……

 なんて言われてないといいなぁ。おっと、余計な事考えない考えない、高貴な笑み高貴な笑み、と。洞窟内は、通常だと鉱物やその加工品の販売スタッフが常時いるらしけど、今日は貸し切りで。買いたいものがあれば、退出する際に外で待機しているスタッフに支払えば良いらしい。やっと、自然な表情ができそうだ。

 洞窟の中には、『ヤク』に乗ってきた時と同じ順で入っていく。結構入り口も広いと思ったら、中もかなり広かった。内部の外壁は巨大な水晶原石のドーム……といったところか。それに鍾乳洞がプラスされたような雰囲気だ。灯りは2mほどの高さの水晶ポイントの内部に炎が灯されたものがおよそ5m間隔で置かれており、思いの他明るかった。

 王子を中心に周りを囲むようにして奥へと進んでいく。俺は洞窟内に入っても照れて硬直しっ放しだ。『ヤク』からおりてからずっと、王子が俺の左手を握っているからだ。それはごく自然に……王子の右手と俺の左手が触れ合って。何の違和感もなく手を繋いだ感じだった。華奢なようでいて意外にしっかりしている王子の手に、照れと嬉しさ、そして安心感が入り混じって頬を熱く赤く染める。それでも、観客を意識しなくて良いから気は楽だ。

 狭い道もあったがどこも奥行きがあって広い。ところどころ、メノウを台代わりにして鉱物の原石や磨き上げられた天然石が並べられている。

「この辺りで宜しいのではないでしょうか?」

 しばらく歩くと、一同より少しだけ先を歩いていたリアンはそう言って王子を振り返った。

「うん、いいね」

 王子はサラリと答える。手は繋いだままだ。

「では、見てみるとしましょう」

 リアンは涼し気な口調でそういうと、右手を軽くあげ、中指と人差し指をこすり合わせてパチンと鳴らした。すると、ちょうど応じの目線辺りに黒いノート型パソコンがまさに空に浮いた状態で出現した。何か仕事に関するデーターとか見るのかな?

 自然にパソコンが立ち上がる。そして示された画面は……この場の全員が見えるように文字は大きく変換されてる。皆、画面に注目した。書き込まれていた内容は……



********

 104 PN:おむすびころりん
 ねぇねぇ、見た? ラディウス王子の想い人、ホントに儚げな美少年、て感じだったー!

 え? えー?

 >>104
  105 PN:へスター
 見た見たー! ラディウス王子の寵愛を一心に受けてる、て感じだよねー!

 な、何だ何だ??

 105 PN:雨林
 何かいい目の保養になったわー、お似合いー

 106 PN:sirin
 新しいお仕事を始められるそうだね
 
 これって……まさか……

 
*******
 
 皆、当然という感じで普通に画面を見ているけど、いやいやいや、こんな事書き込まれているのマズイんじゃ……

「ふむ、概ね良好ですね」

 リアンは眼鏡のエッジに右人差し指を当てながら平然と言った。

「まずまず、狙い通りってとこかな」

 と王子。え? そうなの?

「あぁ、ここの場は私たち意外は立ち入れない上に聞こえないように魔術を施してありますから、どうぞご安心くださいませ」

 ノアが俺の動揺に気付いたのか、そう声をかけて微笑んだ。

「え? あぁ、そうか。有難う」

 と微笑み返して……て、そういう問題じゃなくて!

「あの……これって……?」

 そうだよ、俺には何がどうなっているのか聞く権利があるじゃないか。

「あ、はい。あなたのいた世界で言うところの匿名掲示板、という感じでしょうか」
「へえ? ……じゃなくてですね、こんな噂流れたら拙いのではないでしょうか?」

 サラリと答えるリアンに危うく流されそうになりながらも、何とか疑問をぶつけた。

「え? あぁ、それを心配されていたのですね。惟光様らしい。ですが心配ご無用! 以前お話しましたね? あなたの事で全世界の国民が期待するような噂を流した、と」
「あ、はい」
「こちらの書き込みも、元々の発端は私の書き込みから広まったんですよ。勿論、良き噂となるよう計算してね」
「え?」

 王子は右人差し指で画面を指差し、「ほら」と言った。画面が前の書き込みに自動的にスクロールされる。


*******

 003 PN:tenten
 この間、天然石公園に行ったら、お忍びでラディウス王子とリアン様を見掛けたんだけど。そこでね、王子に寄り添うようにした儚げな美形が居たんだよね。もしかして、ついに王子が心に決めた人、だったりして! なんか、見た事ない人だったけど、ひょっとしたら異世界から来たのかも!

*******

 ペンネームtenten、て……。なんだかいつも真面目で堅物のイメージしかないから、軽く違和感を覚えるなぁ。

「なるほど……」

 突っ込みたいところは多々あるけれど、取りあえず経緯は納得した。でも儚げな美形……かぁ。なんか、複雑。

「こうやって、意図的に噂を流して有利な状況を作っていく、ていうのはよくある事ではあるんだ。その反対に、悪い噂を流すことで最終的には失脚を狙い易くする、またはされる場合もあるけどね」

 王子は何でもない事のように説明した。レオもノアも央雅も何て事もない通常通りだ。珍しい事ではないのだろう。……うーん、なんだかんだと闇の部分もあっちの世界と変わらん感じだなー。

「でも、こうやって噂が広まっているという事は、間違いなく母上の耳にも入っている、て事でもあるんだ」

 王子は不意に真顔になる。薄紫の瞳からロイヤルブルーへと移り変わる。俺もしっかりと向き合ってその視線を受けと止めた。相変わらず、手はしっかりと繋いだまま……。
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