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第七十一話
宝土界訪問・前編
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意外と乗り心地良いんだな……。もっとゴツゴツしていて乗り心地が悪いのかと思った。
そんな風に感じた俺は今、黒い牛に似た動物『ヤク』の背に乗って峡谷をのぼっているところだ。人が二人通れるかどうか、という狭いデコボコ道、まさに断崖絶壁だ。谷底には青々とした水を湛えた川が流れており、まぁ……落ちたら肉塊と化して一環の終わりだろう。
『ヤク』と言っても、あちらの世界より少し体が大き目だ。黒い角は人が捕まるのに十分なほど太くて長くせり出しており、安定した掴み心地のようだ。陽射しから保護する為だろう、白いパラソルが『ヤク』の背に固定して取りつけられている。何より特筆すべきは、万が一転落しても大丈夫なように『ヤク』に羽がついている事だ。座りやすいように深緑色の布が背に敷かれていて見えないが、『ヤクの』両脇腹に羽がついているらしい。これぞまさに異世界ファンタジーな乗り物と言えよう。……まぁ、崖から落ちそうになって空を飛ぶ、なんて体験はしたくはないけれど。尤も、魔術が扱える人が大半だし、転落の危険はさほどないようだ。
道がデコボコしているのは、土に埋まっていて一部だけ出ている鉱物なのだそうだ。歩く際、時折『ヤク』が蹴り飛ばすして谷底へと転がって行く石ころも、宝石の原石という事だ。さすが『|宝土界』である。あちこち鉱物がゴロゴロしているという訳だ。この世界ではこれが普通らしい。
いつものように瞬間移動でここ、『宝土界』にやって来た。そこを一目見た途端、思った。
……グランドキャニオンだ!……
と。まさにそんな感じの風景が広がっていた。まさか、峡谷を『ヤク』でのぼるとは思わなかったけれど。
着いた途端、現地のスタッフが三名ほど頭を下げて待機しており、彼らが『ヤク』を十数頭ほど従えていた。それぞれよく日焼けした肌に屈強な立体躯の持ち主で、頭には白いターバンを巻いており、衣装もシンドバッドを彷彿とさせるものを身につけている。それぞれ鼻の下に黒いハノの字型の髭を生やしており、彫の深い顔立ちをしていた。三つ子かと思われるほどそっくりだった。リアンと王子がスタッフ達と一言二言交わした後、スタッフたちが一同を『ヤク』に乗せ始めた。一人が『ヤク』の手綱を持ち、『ヤク』を挟んで両側で乗り手を支えて乗せる。そんな風に三人係りで乗せていく。
先頭にリアン、その次にレオ、三番目に王子、その後にノア、しんがりは央雅という順で進んだ。俺はと言えば、今日の衣装は薄紫色の地に深い紫の花菱模様の着物、紺色の羽織に黄緑色の帯という姿で、いつもの着流しではなく紺の袴も履いている。何でも、強い陽射しから肌を守る為なんだとか。初めて訪問するには厳しい陽射しらしい。そうは言っても、生地が薄く風通しよく作られていてさほど暑さは感じない。靴は歩き易いように革脚絆だ。髪型はいつもと変わらないが、帯と同じ色の組み紐で結んでいる。勿論、レオとノアに支度は手伝って貰った……いや、殆どやって貰ったんだけどさ。
他の皆の服装はというと。リアンは紺のスーツ、央雅、レオ、ノアはいつもの外出用の軍服、王子はインドの王国を思わせるような緑のパンツに紫色のブラウスという姿だ。
そして俺は、口元を軽く綻ばせて少し俯き加減でいる。色々な事を忙しなく考えて一点を見つめていないと、だ。緊張のあまり挙動不審になりそうだからだ。……というのもな、向かい側の崖の道、下、上と、宝土界の人々がズラーッと見学しているからんだ。中には望遠鏡みたいなやつで一同を見ている人もいて、余計に表情を崩せない。見物人と目を合わせたら最後、『ヤク』から転がり落ちそうだ。
何より、何よりもだ。俺が最大にドギマギしているのは……王子が俺の後ろに密着しているからなんだ!
「初めてだから乗り方も分からないだろうし、僕と一緒に乗ろう……」
なんて言ってニッコリ笑われたら断れる筈もなく。そう、つまり俺は、王子と共に一際大きな『ヤク』に乗っている訳だ。しかも、王子が俺の腰を抱いているもんだから、お姫様みたいに守られて乗っている状態で。嬉しいけど照れくさい、観客の好奇の視線が恐ろしい……。
そう言った経緯から、何とか色々な思考を巡らして気を紛らわしているのだった。あぁ、早く現地に着いて欲しい……
そんな風に感じた俺は今、黒い牛に似た動物『ヤク』の背に乗って峡谷をのぼっているところだ。人が二人通れるかどうか、という狭いデコボコ道、まさに断崖絶壁だ。谷底には青々とした水を湛えた川が流れており、まぁ……落ちたら肉塊と化して一環の終わりだろう。
『ヤク』と言っても、あちらの世界より少し体が大き目だ。黒い角は人が捕まるのに十分なほど太くて長くせり出しており、安定した掴み心地のようだ。陽射しから保護する為だろう、白いパラソルが『ヤク』の背に固定して取りつけられている。何より特筆すべきは、万が一転落しても大丈夫なように『ヤク』に羽がついている事だ。座りやすいように深緑色の布が背に敷かれていて見えないが、『ヤクの』両脇腹に羽がついているらしい。これぞまさに異世界ファンタジーな乗り物と言えよう。……まぁ、崖から落ちそうになって空を飛ぶ、なんて体験はしたくはないけれど。尤も、魔術が扱える人が大半だし、転落の危険はさほどないようだ。
道がデコボコしているのは、土に埋まっていて一部だけ出ている鉱物なのだそうだ。歩く際、時折『ヤク』が蹴り飛ばすして谷底へと転がって行く石ころも、宝石の原石という事だ。さすが『|宝土界』である。あちこち鉱物がゴロゴロしているという訳だ。この世界ではこれが普通らしい。
いつものように瞬間移動でここ、『宝土界』にやって来た。そこを一目見た途端、思った。
……グランドキャニオンだ!……
と。まさにそんな感じの風景が広がっていた。まさか、峡谷を『ヤク』でのぼるとは思わなかったけれど。
着いた途端、現地のスタッフが三名ほど頭を下げて待機しており、彼らが『ヤク』を十数頭ほど従えていた。それぞれよく日焼けした肌に屈強な立体躯の持ち主で、頭には白いターバンを巻いており、衣装もシンドバッドを彷彿とさせるものを身につけている。それぞれ鼻の下に黒いハノの字型の髭を生やしており、彫の深い顔立ちをしていた。三つ子かと思われるほどそっくりだった。リアンと王子がスタッフ達と一言二言交わした後、スタッフたちが一同を『ヤク』に乗せ始めた。一人が『ヤク』の手綱を持ち、『ヤク』を挟んで両側で乗り手を支えて乗せる。そんな風に三人係りで乗せていく。
先頭にリアン、その次にレオ、三番目に王子、その後にノア、しんがりは央雅という順で進んだ。俺はと言えば、今日の衣装は薄紫色の地に深い紫の花菱模様の着物、紺色の羽織に黄緑色の帯という姿で、いつもの着流しではなく紺の袴も履いている。何でも、強い陽射しから肌を守る為なんだとか。初めて訪問するには厳しい陽射しらしい。そうは言っても、生地が薄く風通しよく作られていてさほど暑さは感じない。靴は歩き易いように革脚絆だ。髪型はいつもと変わらないが、帯と同じ色の組み紐で結んでいる。勿論、レオとノアに支度は手伝って貰った……いや、殆どやって貰ったんだけどさ。
他の皆の服装はというと。リアンは紺のスーツ、央雅、レオ、ノアはいつもの外出用の軍服、王子はインドの王国を思わせるような緑のパンツに紫色のブラウスという姿だ。
そして俺は、口元を軽く綻ばせて少し俯き加減でいる。色々な事を忙しなく考えて一点を見つめていないと、だ。緊張のあまり挙動不審になりそうだからだ。……というのもな、向かい側の崖の道、下、上と、宝土界の人々がズラーッと見学しているからんだ。中には望遠鏡みたいなやつで一同を見ている人もいて、余計に表情を崩せない。見物人と目を合わせたら最後、『ヤク』から転がり落ちそうだ。
何より、何よりもだ。俺が最大にドギマギしているのは……王子が俺の後ろに密着しているからなんだ!
「初めてだから乗り方も分からないだろうし、僕と一緒に乗ろう……」
なんて言ってニッコリ笑われたら断れる筈もなく。そう、つまり俺は、王子と共に一際大きな『ヤク』に乗っている訳だ。しかも、王子が俺の腰を抱いているもんだから、お姫様みたいに守られて乗っている状態で。嬉しいけど照れくさい、観客の好奇の視線が恐ろしい……。
そう言った経緯から、何とか色々な思考を巡らして気を紛らわしているのだった。あぁ、早く現地に着いて欲しい……
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