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第六十八話
精霊たちのとの交渉・前編
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炎に包まれた白い虎は、俺の足の周りをグルグルと舞うように走り回る。クリアブルーの朱雀は、頭上を優雅に旋回している。清々しい風と、足元から感じる暖かな風。不思議な事に、今身に着けている白の道着に燃え移ってもおかしくないのに、心地良い熱さしか感じない。
リアンは少し離れた場所で静観している様子だ。
『オ呼ビカ? 主ヨ』
火の精霊は、左側に立つとそう言って俺を見上げた。やっぱり、炎はさほど熱くもなく、道着に燃え移る事もない。よく見ると、彼の鋭い双眸は炎を思わせる赤みが強いオレンジ色だ。
『我ラヲ呼ビ出ストハ、余程緊急二力ヲ欲シテイルト見タ』
クリアブルーの朱雀……つまり風の精霊は、パサッパサッと翼をはためかせて舞い降りると俺の右肩に止まった。やはりこちらも、頬を撫でる程度の優しい風が吹く程度だ。肩に止まっている筈なのに、まるで重さを感じない。何となく足の感触を覚える程度だ。大きさは軽く孔雀ほどはあるというのに……。そして瞳の色は近くで見ると澄んだ藍色だった。
『ハッハッハッ……安心セヨ、我ラガ主二危害ヲ加エル事ナドアル筈ガナカロウ』
火の精霊は可笑しそうに言った。
『主二悪意ヲ抱カナイモノ、危害ヲ加エナイ者二モ攻撃スル事ハナイカラ安心セヨ』
風の精霊はそう付け加えた。
「なるほど。よく分かった。安心したよ、有難う」
思い浮かべただけだし、主とまで言われてどう接したら良いのか分からないけど、この間のリアンの言葉からして恐らく、召喚した者は精霊たちに堂々と威厳を持って接するべきなのだろう。主人と精霊たちの立ち場が逆転したら面倒な事になりそうだしな。だけど礼を述べるのは礼儀だと思う。
『主ガ礼ヲ言ウナンテ……変ワッタ主ダナ。ソノヨウナ者ハメテダ』
風の精霊は不思議そうに言う。
「他の召喚者たちは言わないのか?」
『アァ。血ノ契約ノ元、ヤタラ偉ソウ二呼ビ出シテ詠唱シテコキ使ウダケ使ッテ終ワル、ソレダケノ関係ガ殆ドダ』
「なるほどなぁ……」
血の契約? そういや俺、自分の名前も言ってなけりゃ血の契約だかも交わしてないや。
『先日モ少シ述ベタガ、主ノ珍シイ程ノ純粋サ、礼節ヲ持ッテ我ラに二接スル部分ヲ気二入ッテナ。通常ハ儀式ト、主ト召喚サレタ者同士互イ二相応シイカドウカヲ吟味シテカラ血ノ契約ヲ交ワスノダガ。我ラノ意思デソウイッタ手続キ無シ二、「力」ヲ貸シテヤロウト思ッテイルノダ』
と火の精霊が続けた。
「そうか、それは有り難いな」
『気二スルナ、特例中ノ特例ダガ、タマタマ偶然他ノ精霊タチトタイミングト意見ガ一致シ他タダケ』
風の精霊はそう言って右肩で気にしなくて良いとばかりに翼を広げ、また閉じた。たまたま偶然……もしかしてフォルス、お前が力を貸してくれたのか? 心の中で語りかけると、ほんの少しだけ右手首が熱くなった感じだ。やっぱりか、ありがとな、フォルス。
『ソレデ、我ラ二何ヲ願ウ?』
火の精霊はそう言いながら俺の目の前に立った。
……万が一単独で戦闘が必要になった時、火と風の力を借りて敵を蹴散らしたいから力を貸して欲しい、とあなたの言葉でお願いしてみてください……
リアンの声は脳に直に響く。俺自身の言葉で交渉する事に意味があるって事か。よし、しっかりと炎の虎に向き合って、目を見て交渉だ。上手く行くかどうかは二の次だ。すると、右肩に乗っていた朱雀がサッと火の精霊の背中に飛び移り、真っすぐに俺に向き合った。まずは話を聞こうという意思表示だろう。
「……今後、万が一単独になった時にピンチに陥った時の為に護身術を身に着けようとしたんだけど。情けない事に剣術の素振りだけで息切れが酷くてな。この間、皆が心配してくれた通りだったんだ。そこで、自分の身は自分で守れて身の安全を確保出来るよう、知恵と力を貸して欲しいんだけどどうだろうか?」
二体は顔を見合わせ、再び俺を見つめた。火の精霊が重々しく口を開いた。
『前回モ言ッタガ、我々全員デ防御ト攻撃ノ二組二ワカレテ窮地ヲ脱スルノハ確実デ安全デハアルガ主ノ体二多大ナ負担ガ掛カル。下手シタラ命ノ保障ハナイ。ダガソレハ、我ラダケヲ呼ビ出シタトコロヲ見レバ分カッテイルトミタ。方法トシテハ……一ツハ戦闘ノ間一時的二我ラガ主ノ体二乗リ移ル事。コノ間ハ肉体ハ主ダガ、意識モ体モ乗リ移ッタ精霊ガソノ期間支配スル。短期間ダガ無双状態二ナレルダロウ。ダガ、コレハ極短期間デナイトコレマタ体二負担ガ掛カリ過ギテ主ガ体二戻ッタ際二死ヌ危険ガアル』
それ、どっちもヤバいやん……。続いて風の精霊が口を開く。
『アトヒトツハ、我ラノ「力」自体ヲ戦闘ノ間ダケ借リルトイウ方法ダ。コノ方法ナラ、短時間二変ワリハナイガ時間内二身ノ安全ノ確保ガ出来タナラバ、生命ヲ脅カス程ノ危険ハナイダロウ。最モ安全ナ方法ダ、ダガ難易度ハ高イ。ドウスル?』
あぁ、リアンの案は恐らくこれだな。
……選択はあなたに委ねます……
リアンの声が響く。もう、決まってるさ。
「分かった、有難う。それじゃぁまず、一番最適だという力自体を借りる、というのから試したい。宜しく頼む」
再び真っすぐに二体を見つめながらきっぱりと答えた。
『ダガ、ソノ方法モ時間内二身ノ安全ノ確保ガ出来ナケレバ死ノ危険ガアル上二敵二無防備ナ姿ヲ曝ケ出ス事二ナルゾ? 覚悟ハ出来テイルノカ?』
風の精霊は気遣わし気に問いかけた。念を押したと言うべきか。
「あぁ、元より覚悟の上だ」
不思議と迷いはなかった。だってどの道を選択しても、精霊たちは俺の精神力と体力を介して力を使う訳だから、結局は俺がへばったら万事休す、て事だもんな。なら、中では一番リスクが少なそうを選んでみる。それだけの事さ。
リアンは少し離れた場所で静観している様子だ。
『オ呼ビカ? 主ヨ』
火の精霊は、左側に立つとそう言って俺を見上げた。やっぱり、炎はさほど熱くもなく、道着に燃え移る事もない。よく見ると、彼の鋭い双眸は炎を思わせる赤みが強いオレンジ色だ。
『我ラヲ呼ビ出ストハ、余程緊急二力ヲ欲シテイルト見タ』
クリアブルーの朱雀……つまり風の精霊は、パサッパサッと翼をはためかせて舞い降りると俺の右肩に止まった。やはりこちらも、頬を撫でる程度の優しい風が吹く程度だ。肩に止まっている筈なのに、まるで重さを感じない。何となく足の感触を覚える程度だ。大きさは軽く孔雀ほどはあるというのに……。そして瞳の色は近くで見ると澄んだ藍色だった。
『ハッハッハッ……安心セヨ、我ラガ主二危害ヲ加エル事ナドアル筈ガナカロウ』
火の精霊は可笑しそうに言った。
『主二悪意ヲ抱カナイモノ、危害ヲ加エナイ者二モ攻撃スル事ハナイカラ安心セヨ』
風の精霊はそう付け加えた。
「なるほど。よく分かった。安心したよ、有難う」
思い浮かべただけだし、主とまで言われてどう接したら良いのか分からないけど、この間のリアンの言葉からして恐らく、召喚した者は精霊たちに堂々と威厳を持って接するべきなのだろう。主人と精霊たちの立ち場が逆転したら面倒な事になりそうだしな。だけど礼を述べるのは礼儀だと思う。
『主ガ礼ヲ言ウナンテ……変ワッタ主ダナ。ソノヨウナ者ハメテダ』
風の精霊は不思議そうに言う。
「他の召喚者たちは言わないのか?」
『アァ。血ノ契約ノ元、ヤタラ偉ソウ二呼ビ出シテ詠唱シテコキ使ウダケ使ッテ終ワル、ソレダケノ関係ガ殆ドダ』
「なるほどなぁ……」
血の契約? そういや俺、自分の名前も言ってなけりゃ血の契約だかも交わしてないや。
『先日モ少シ述ベタガ、主ノ珍シイ程ノ純粋サ、礼節ヲ持ッテ我ラに二接スル部分ヲ気二入ッテナ。通常ハ儀式ト、主ト召喚サレタ者同士互イ二相応シイカドウカヲ吟味シテカラ血ノ契約ヲ交ワスノダガ。我ラノ意思デソウイッタ手続キ無シ二、「力」ヲ貸シテヤロウト思ッテイルノダ』
と火の精霊が続けた。
「そうか、それは有り難いな」
『気二スルナ、特例中ノ特例ダガ、タマタマ偶然他ノ精霊タチトタイミングト意見ガ一致シ他タダケ』
風の精霊はそう言って右肩で気にしなくて良いとばかりに翼を広げ、また閉じた。たまたま偶然……もしかしてフォルス、お前が力を貸してくれたのか? 心の中で語りかけると、ほんの少しだけ右手首が熱くなった感じだ。やっぱりか、ありがとな、フォルス。
『ソレデ、我ラ二何ヲ願ウ?』
火の精霊はそう言いながら俺の目の前に立った。
……万が一単独で戦闘が必要になった時、火と風の力を借りて敵を蹴散らしたいから力を貸して欲しい、とあなたの言葉でお願いしてみてください……
リアンの声は脳に直に響く。俺自身の言葉で交渉する事に意味があるって事か。よし、しっかりと炎の虎に向き合って、目を見て交渉だ。上手く行くかどうかは二の次だ。すると、右肩に乗っていた朱雀がサッと火の精霊の背中に飛び移り、真っすぐに俺に向き合った。まずは話を聞こうという意思表示だろう。
「……今後、万が一単独になった時にピンチに陥った時の為に護身術を身に着けようとしたんだけど。情けない事に剣術の素振りだけで息切れが酷くてな。この間、皆が心配してくれた通りだったんだ。そこで、自分の身は自分で守れて身の安全を確保出来るよう、知恵と力を貸して欲しいんだけどどうだろうか?」
二体は顔を見合わせ、再び俺を見つめた。火の精霊が重々しく口を開いた。
『前回モ言ッタガ、我々全員デ防御ト攻撃ノ二組二ワカレテ窮地ヲ脱スルノハ確実デ安全デハアルガ主ノ体二多大ナ負担ガ掛カル。下手シタラ命ノ保障ハナイ。ダガソレハ、我ラダケヲ呼ビ出シタトコロヲ見レバ分カッテイルトミタ。方法トシテハ……一ツハ戦闘ノ間一時的二我ラガ主ノ体二乗リ移ル事。コノ間ハ肉体ハ主ダガ、意識モ体モ乗リ移ッタ精霊ガソノ期間支配スル。短期間ダガ無双状態二ナレルダロウ。ダガ、コレハ極短期間デナイトコレマタ体二負担ガ掛カリ過ギテ主ガ体二戻ッタ際二死ヌ危険ガアル』
それ、どっちもヤバいやん……。続いて風の精霊が口を開く。
『アトヒトツハ、我ラノ「力」自体ヲ戦闘ノ間ダケ借リルトイウ方法ダ。コノ方法ナラ、短時間二変ワリハナイガ時間内二身ノ安全ノ確保ガ出来タナラバ、生命ヲ脅カス程ノ危険ハナイダロウ。最モ安全ナ方法ダ、ダガ難易度ハ高イ。ドウスル?』
あぁ、リアンの案は恐らくこれだな。
……選択はあなたに委ねます……
リアンの声が響く。もう、決まってるさ。
「分かった、有難う。それじゃぁまず、一番最適だという力自体を借りる、というのから試したい。宜しく頼む」
再び真っすぐに二体を見つめながらきっぱりと答えた。
『ダガ、ソノ方法モ時間内二身ノ安全ノ確保ガ出来ナケレバ死ノ危険ガアル上二敵二無防備ナ姿ヲ曝ケ出ス事二ナルゾ? 覚悟ハ出来テイルノカ?』
風の精霊は気遣わし気に問いかけた。念を押したと言うべきか。
「あぁ、元より覚悟の上だ」
不思議と迷いはなかった。だってどの道を選択しても、精霊たちは俺の精神力と体力を介して力を使う訳だから、結局は俺がへばったら万事休す、て事だもんな。なら、中では一番リスクが少なそうを選んでみる。それだけの事さ。
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