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第六十話
つまり、ついにチート能力を手に入れた……て事か? しかし……
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「つまりですね、水滴が水の精霊、クリアブルーの朱雀は風の精霊、虹色は光の精霊なのですよ。姿形はイメージしたというより自然に視えた感じでしょう?」
「あ、はぃ……」
リアンの説明に狐につままれたような思いで頷く。
「試しに、森の木々や大地の精霊をイメージしてご覧よ」
王子は恍惚としたように言った。
「はい」
と言われるままに軽く目を閉じ、森の木々をイメージする。すると、イメージの中で木々や植物の葉が一斉に煌めき始めた。まるで朝露に朝日が乱反射したみたいだ。やがて煌めきだけが一斉に空を舞い、無数の光の粒が俺達の方にやって来た。
『呼んだー?』『わーい、皆あそぼー』などという声が無数に響いてくる。例によって、ヘリウムガスを吸ったような声だ。水の時よりも甲高いから、声だけを聞いていたらゲームの世界に迷い込んだようだ。
「目を開けてご覧」
「はい」
王子に言われるまま目を開ける。無数の光の粒は、良く見るとクリアグリーンのウスバカゲロウみたいな羽をもった妖精たちだった。水の妖精たちみたいに幼い男の子と女の子たちだ。顔つきも髪の色も一体一体異なる。
『皆あそぼ―』『おいでよー』そんなやり取りをしながら、森の精霊たちは虹色の光に加わった。光と虹、クリアブルーの朱雀のイルミネーションだ。これはまた一段と綺麗だ。
「目を開けたまま、自由にイメージしてご覧? 妖精に命じてみても良いよ」
王子の誘導し従ってみる。そういや、ずっと左腕をあげているのもなんだしな。だけどフォルスの名前を公言するのは憚れるから、
「有難うな。皆が遊んでいるから、虹の光はそのままにしてあげてな」
とフォルスに声をかけてみた。すると、フォルスから放たれていた虹色に光はスッと消え、朱雀の羽ばたきによって発せられた風に乗って広がっていた虹色の光はそのまま変わらず光り続けた。それを見届けてから、左腕を元に戻す。
ふと……そうだ、土の精霊をイメージしてみよう、と思った。すると、リアンと王子、俺を円で囲い込んだように静かに大地が盛り上がってきたじゃないか! そう、音も立てずに静かに。そうだな、感覚としたらエレベーターに乗ったような感じだ。王子もリアンも不思議そうな顔……じゃねーよ! 俺はともかく、王子やリアンに危険が及んだら……
「大丈夫だよ」
「大丈夫ですよ」
二人は同時に言った。そうか、そうだよな。心配する事なかった。いざとなれば、俺が助けられる方だよなぁ。落ち着け、俺。
それは一定の高さで制止した。
「これは……!!!」
地面ごと盛りあがったように見えたのは巨大な亀の甲羅だった。その亀の足も、ゆっくりとあげられた首も土色だ。これは、海亀よりデカいぞ。つまり、俺たちは巨大な亀の甲羅に乗っているんだ!
「玄武の形だ。土の精霊だね。凄いぞ、惟光!」
王子は嬉しそうに言った。
「素晴らしいです! では、火の精霊と闇の精霊をイメージしてみてください」
リアンは興奮したように言った、珍しく頬を上気させている。だけどこれ、そんなに凄い事なのか? だって……まぁ、いいや。言われた通り、火の精霊……と。脳裏に護摩焚きの炎がイメージされる。すると目の前の湖の水面に、ボッという音と共に炎が現れた。それは文字通り、湖面に浮かぶ炎だ。赤々と燃えたそれは、少し大規模な焚火くらいの大きさ、という感じだろうか。その炎は少しずつ横長の形になり、やがて虎の姿形となった。炎の虎だ。
ガーーーオゥッ! と威嚇するように一声吠える。あ、なんか、カッコイイかも。
続いて闇の精霊……ちょっと、怖いかな……。そう思ったら、「大丈夫だ、任せろ!」というようにフォルスが熱を発した。そうか、お前の生まれは深淵の闇だったもんな。頼むぞ。フォルス。闇の精霊をイメージしてみる。すると、大地から、湖から、森から、次々と小さなコウモリたちが湧きあがり、ずっと踊って楽しんでいる精霊たちを脅かす事もなく共に混じって踊り始めた。それは実際のコウモリではなくコウモリのシルエットだった。彼らが加わる事により、影絵のように深みと趣のあるメルヘンな世界に移り変わった。
「凄いなぁ。全ての精霊たちを呼び出して手なづけちゃった。本当に天性の精霊使いだ」
いつの間にか膝を抱えて腰をおろしている王子とリアン。王子は恍惚としてメルヘンの世界を堪能しているようだ。リアンも同じく……
「うーん、ここまで凄いとは……」
なんて目を細める。でもさ、でもさ……よし、思い切って聞いてみよう。
「あの、これ、凄い事なんですか? 他の精霊使いの方々は、どんな感じで使われるのでしょう?」
「あぁ、精霊使いは主に戦闘に使いますから、軍に配置される事が殆どですね。警護とかでも重宝しますから。こんな風に平和に、人を楽しませる事に使う事は滅多にないというか、発想自体が無かったでしょうね」
リアンはいつものように淡々と答える。
「これ、子供たちに見せたら大喜びだね。早速使いなよ」
「はい!」
そうだ! 子供たちに物語を聞かせる時に利用出来るぞ! やった!! ついにチート能力を手に……て、いやいやいや、待て待て待て。それは一先ずおいておいて、だ。肝心なのは……
「あの、でも。この力が防御の為の攻撃とかに応用できるんでしょうか……」
これだよ、心配なのは。途端に微妙な表情を浮かべる王子とリアン。
『無理だよー』『無理だよー』と森と水の精霊たちが一斉に歌い出す。ヘリウムガスを吸ったような声がこだまして耳がキンキンする。……無理なのか、ジワジワと凹むぜ……
『ソレハ無理ダナ、何トカ一時的二身ヲ守ル事ハ出来ナイ事モナイガ、アクマデソノ場シノギ二過ギン。コノ者ハソモソモ攻撃二向イテイナイ。自分ハトモカク、誰カヲ傷ツケル事二ハ向カナイノダ』
地から這い上がるようにして低い声が響いた。これまで無言で俺達を背に乗せていた玄武、土の精霊だった。……攻撃に向かない? なんか、ショックだ……
『ソレニ、コノ者ハ元々呼吸器ガ弱イ、戦闘二ハ向カナイ上二無理ガ効カナイ体ダ』
と情熱的な力強い声は湖から響く。炎の虎、白虎というところか。……ていうか俺って、呼吸器が弱いのか? しかも戦闘に向かないって……ズバッと聞きたくなかった事を言い切りやがった……俺、やっぱり役立たずじゃん。せめて、健康体になるのは無理なのか?
『ツマリハ人ヲ癒し、楽シマセル為二ノミ精霊ヲ駆使出来ルトイウ珍シイタイプサ』
凛とした声が頭上より響く。優雅に天を舞うクリアブルーの朱雀だ。
「そこなんですよね、問題は……」
リアンは困ったように答えた。……やっぱりそう感じてたんだな、王子もリアンも。戦闘に向かないんじゃ、この場合、全然意味ないじゃん……。
「とにかく、例え一時的にでも身を守れるように訓練してみよう。誰にも持ちえない惟光の特技、最大に活かさないと」
王子は思案顔で切り出した。虹色の光も、水や森、闇の精霊たちも踊りを辞めた。シーンと静まり返った中、その場の全員が王子に注目する。
「あ、はぃ……」
リアンの説明に狐につままれたような思いで頷く。
「試しに、森の木々や大地の精霊をイメージしてご覧よ」
王子は恍惚としたように言った。
「はい」
と言われるままに軽く目を閉じ、森の木々をイメージする。すると、イメージの中で木々や植物の葉が一斉に煌めき始めた。まるで朝露に朝日が乱反射したみたいだ。やがて煌めきだけが一斉に空を舞い、無数の光の粒が俺達の方にやって来た。
『呼んだー?』『わーい、皆あそぼー』などという声が無数に響いてくる。例によって、ヘリウムガスを吸ったような声だ。水の時よりも甲高いから、声だけを聞いていたらゲームの世界に迷い込んだようだ。
「目を開けてご覧」
「はい」
王子に言われるまま目を開ける。無数の光の粒は、良く見るとクリアグリーンのウスバカゲロウみたいな羽をもった妖精たちだった。水の妖精たちみたいに幼い男の子と女の子たちだ。顔つきも髪の色も一体一体異なる。
『皆あそぼ―』『おいでよー』そんなやり取りをしながら、森の精霊たちは虹色の光に加わった。光と虹、クリアブルーの朱雀のイルミネーションだ。これはまた一段と綺麗だ。
「目を開けたまま、自由にイメージしてご覧? 妖精に命じてみても良いよ」
王子の誘導し従ってみる。そういや、ずっと左腕をあげているのもなんだしな。だけどフォルスの名前を公言するのは憚れるから、
「有難うな。皆が遊んでいるから、虹の光はそのままにしてあげてな」
とフォルスに声をかけてみた。すると、フォルスから放たれていた虹色に光はスッと消え、朱雀の羽ばたきによって発せられた風に乗って広がっていた虹色の光はそのまま変わらず光り続けた。それを見届けてから、左腕を元に戻す。
ふと……そうだ、土の精霊をイメージしてみよう、と思った。すると、リアンと王子、俺を円で囲い込んだように静かに大地が盛り上がってきたじゃないか! そう、音も立てずに静かに。そうだな、感覚としたらエレベーターに乗ったような感じだ。王子もリアンも不思議そうな顔……じゃねーよ! 俺はともかく、王子やリアンに危険が及んだら……
「大丈夫だよ」
「大丈夫ですよ」
二人は同時に言った。そうか、そうだよな。心配する事なかった。いざとなれば、俺が助けられる方だよなぁ。落ち着け、俺。
それは一定の高さで制止した。
「これは……!!!」
地面ごと盛りあがったように見えたのは巨大な亀の甲羅だった。その亀の足も、ゆっくりとあげられた首も土色だ。これは、海亀よりデカいぞ。つまり、俺たちは巨大な亀の甲羅に乗っているんだ!
「玄武の形だ。土の精霊だね。凄いぞ、惟光!」
王子は嬉しそうに言った。
「素晴らしいです! では、火の精霊と闇の精霊をイメージしてみてください」
リアンは興奮したように言った、珍しく頬を上気させている。だけどこれ、そんなに凄い事なのか? だって……まぁ、いいや。言われた通り、火の精霊……と。脳裏に護摩焚きの炎がイメージされる。すると目の前の湖の水面に、ボッという音と共に炎が現れた。それは文字通り、湖面に浮かぶ炎だ。赤々と燃えたそれは、少し大規模な焚火くらいの大きさ、という感じだろうか。その炎は少しずつ横長の形になり、やがて虎の姿形となった。炎の虎だ。
ガーーーオゥッ! と威嚇するように一声吠える。あ、なんか、カッコイイかも。
続いて闇の精霊……ちょっと、怖いかな……。そう思ったら、「大丈夫だ、任せろ!」というようにフォルスが熱を発した。そうか、お前の生まれは深淵の闇だったもんな。頼むぞ。フォルス。闇の精霊をイメージしてみる。すると、大地から、湖から、森から、次々と小さなコウモリたちが湧きあがり、ずっと踊って楽しんでいる精霊たちを脅かす事もなく共に混じって踊り始めた。それは実際のコウモリではなくコウモリのシルエットだった。彼らが加わる事により、影絵のように深みと趣のあるメルヘンな世界に移り変わった。
「凄いなぁ。全ての精霊たちを呼び出して手なづけちゃった。本当に天性の精霊使いだ」
いつの間にか膝を抱えて腰をおろしている王子とリアン。王子は恍惚としてメルヘンの世界を堪能しているようだ。リアンも同じく……
「うーん、ここまで凄いとは……」
なんて目を細める。でもさ、でもさ……よし、思い切って聞いてみよう。
「あの、これ、凄い事なんですか? 他の精霊使いの方々は、どんな感じで使われるのでしょう?」
「あぁ、精霊使いは主に戦闘に使いますから、軍に配置される事が殆どですね。警護とかでも重宝しますから。こんな風に平和に、人を楽しませる事に使う事は滅多にないというか、発想自体が無かったでしょうね」
リアンはいつものように淡々と答える。
「これ、子供たちに見せたら大喜びだね。早速使いなよ」
「はい!」
そうだ! 子供たちに物語を聞かせる時に利用出来るぞ! やった!! ついにチート能力を手に……て、いやいやいや、待て待て待て。それは一先ずおいておいて、だ。肝心なのは……
「あの、でも。この力が防御の為の攻撃とかに応用できるんでしょうか……」
これだよ、心配なのは。途端に微妙な表情を浮かべる王子とリアン。
『無理だよー』『無理だよー』と森と水の精霊たちが一斉に歌い出す。ヘリウムガスを吸ったような声がこだまして耳がキンキンする。……無理なのか、ジワジワと凹むぜ……
『ソレハ無理ダナ、何トカ一時的二身ヲ守ル事ハ出来ナイ事モナイガ、アクマデソノ場シノギ二過ギン。コノ者ハソモソモ攻撃二向イテイナイ。自分ハトモカク、誰カヲ傷ツケル事二ハ向カナイノダ』
地から這い上がるようにして低い声が響いた。これまで無言で俺達を背に乗せていた玄武、土の精霊だった。……攻撃に向かない? なんか、ショックだ……
『ソレニ、コノ者ハ元々呼吸器ガ弱イ、戦闘二ハ向カナイ上二無理ガ効カナイ体ダ』
と情熱的な力強い声は湖から響く。炎の虎、白虎というところか。……ていうか俺って、呼吸器が弱いのか? しかも戦闘に向かないって……ズバッと聞きたくなかった事を言い切りやがった……俺、やっぱり役立たずじゃん。せめて、健康体になるのは無理なのか?
『ツマリハ人ヲ癒し、楽シマセル為二ノミ精霊ヲ駆使出来ルトイウ珍シイタイプサ』
凛とした声が頭上より響く。優雅に天を舞うクリアブルーの朱雀だ。
「そこなんですよね、問題は……」
リアンは困ったように答えた。……やっぱりそう感じてたんだな、王子もリアンも。戦闘に向かないんじゃ、この場合、全然意味ないじゃん……。
「とにかく、例え一時的にでも身を守れるように訓練してみよう。誰にも持ちえない惟光の特技、最大に活かさないと」
王子は思案顔で切り出した。虹色の光も、水や森、闇の精霊たちも踊りを辞めた。シーンと静まり返った中、その場の全員が王子に注目する。
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