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第五十七話
水命界訪問
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そこはまさに『水の都』と呼ぶのに相応しい国だった。道路の代わりに青々とした美しい水が湛えられているのだ。移動手段は小型船で、その作りも町の様子もどことなく『ベネツィア』を彷彿とさせる。
と言う訳で今朝、水命界にやって来ている。勿論、移動手段は魔術だ。
「……こうしてね、各国の観光地を巡るのも公務の一つなんだ。国王には予め伝えてあるけど、半ば本当に観光も楽しむんだ。楽しむ事で、国民が誇らしく感じたり、その場所が話題になって繁盛する効果があるからね」
と王子は微笑む。リアンが漕ぐ小舟に乗って水面を見つめる王子の瞳は、柔らかな藤色だ。陽の光が水面に反射した耀きが、二眸に宝石みたいな煌めきを与えて眩しいほど綺麗だ。
地元の住民たちか、はたまた観光客か。小舟ですれ違う人びと、陸地にいる人々が目を輝かせて王子に手を振っている。その度に、上品な笑みで人々に手を振って応える王子。半ば観光目的と言っても公務んだよな、やっぱり。王族に取っては当たり前の事なんだろうけど、1人でゆっくり寛げる時間とかあんまりないんだろうな……。
王子の本日のお召し物は、純白に金ボタンの軍服姿でイギリスの王室を思わせる。リアンは藍色の燕尾服姿だ。二人ともカッコイイなぁ。俺はと言えば、髪型はいつもと変わらず。ただ髪留めの紐は銀色に変え、服装は薄紫色に深い紫を重ねた狩衣姿だ。烏帽子は被ってないけどさ。服装は王子の見立てで、いつものようにレオとノアに着せて貰った。着物よりも動き易いな、狩衣って。これで鷹狩とか蹴鞠とかしたんだろう? 平安、鎌倉貴族たち……。
しかし、王子とリアンがルックス的に抜きんでているもんで憧れと羨望の眼差しで見られるのは分かる。老若男女を問わず皆目がハートになってるもんな。俺だって見ちゃうと思うもん。だけど……だけど……俺への視線が痛い、怖いよぉ。これ、自意識過剰じゃなく。王子やリアンの事を目を輝かせて見つめた後……
『あいつ、誰?』
『知らなーい』
という視線を送られるのは耐えられん。
『央雅様じゃないのー?』
『何? あの凡人でーす、みたいな奴』
『目の毒だから消えろよ』
……いや、そこまで言ってるかどうかは分からんけど。やっぱり俺、遠慮した方が良かったんじゃないかなー。そもそもが王族でもないただの一般人の転移者だもんなぁ。エターナル王家の名にケチがついたんじゃ……
「ただ黙って口角を上げて少ーし目を細めていれば良いからね。ちょっとやって見せて」
水命界に瞬間移動する前に、王子がそう言ってレクチャーしてくれた。素直にやってみる。
「うわぁ、惟光! 素敵だ。でも、僕だけのものだからね!」
なんて言って抱きついてきた王子、嬉しくてついその気になって言われるまま小舟に乗っちゃたけど……今考えると相当の阿保や。冷静な切れ者リアンよ、よく止めなかったな。つーか、やっぱり辞退して陸で待っているべきだったんじゃ……。
表情だけは、言われた通りにしているけど、内心では穴があったら入りたいと思っていたりする。王子が静かに俺の真ん前から左隣に移動して来た。
『表情は変えないで、耳だけ傾けていてね』
と左手を上品に口元にあて、俺の左耳に囁く。王子の息遣いが耳にかかってゾクゾクする……じゃなくて! しゃべるな、て事っすね、了解。あー、何かしくじったかな……
『皆、惟光の事興味津々で見ているね』
え? それは悪い方の邪推で見てるんでは……
『女子も男子も、素敵な人……てウットリと君を見てるよ。鼻高々だな、僕』
恐るべきプラス思考で……見習います。それが、この場を切り抜けるコツですね!
『もう少しで着くから、それまでその表情のままで居てね』
承知しました! 王子はそう言って、元の席に戻って行った。そして陸で手を振る人々に笑顔で手を振り続ける。うん、俺への視線は意識しないようにしよう。
一周回って元の位置に着いた。陸に上がると、すぐに瞬間移動。そして着いた場所は、赤やオレンジ、黄色の衣装に身を包んだ山々に囲まれた、大きな湖の畔だった。
空気爽やかに澄んでおり、空は水彩絵の具で描いたみたいに優しい青だ。湖には山々と蒼穹がそのまま映り込み、まるで水の中にもう一つ同じ世界があるみたいだ。水面は太陽を反射してキラキラと光っている。
「ここはね、僕のプライベートな場所なんだ。各国に人の目を気にせずに寛げる場所が欲しくてね、こういう場所を買い取って、僕と限られた者しか入れないように結界を貼ってあるんだ。だから自由にして良いよ、惟光。お疲れ様、よく頑張ったね!」
王子はそう言って、俺の頭を撫でた。そうか、取りあえずは普通の表情に、と。うーん、顔が強張ってるかも。
「なかなかに、高貴な笑みがサマになっていましたよ」
リアンは右人差し指を眼鏡のエッジにあてながら言った。良かった、お咎め無し……くらい普通には振る舞えたか。
「狩衣姿にして正解だったね! 皆ウットリしてた」
王子、それはポジティブに解釈し過ぎでは……
「ええ、興味津々で見ていましたね。良かったです。これは惟光様が殿下の側近の一人、異世界転移者として新しい仕事を始めるらしい、という噂も流れ始めていましたから、良い相乗効果となりました」
「う、噂ですか? そんな噂が?」
えー? ヤバくね?
「どうしてそのような噂……」
「あぁ、私が流しました」
狼狽える俺に、ケロッとしてるリアン、面白そうに見つめる王子。
「え?」
そして素っ頓狂な声をあげる俺……。
爽やかな秋風が吹いて、水面にさざ波が立ち、俺達の髪を撫でた。
と言う訳で今朝、水命界にやって来ている。勿論、移動手段は魔術だ。
「……こうしてね、各国の観光地を巡るのも公務の一つなんだ。国王には予め伝えてあるけど、半ば本当に観光も楽しむんだ。楽しむ事で、国民が誇らしく感じたり、その場所が話題になって繁盛する効果があるからね」
と王子は微笑む。リアンが漕ぐ小舟に乗って水面を見つめる王子の瞳は、柔らかな藤色だ。陽の光が水面に反射した耀きが、二眸に宝石みたいな煌めきを与えて眩しいほど綺麗だ。
地元の住民たちか、はたまた観光客か。小舟ですれ違う人びと、陸地にいる人々が目を輝かせて王子に手を振っている。その度に、上品な笑みで人々に手を振って応える王子。半ば観光目的と言っても公務んだよな、やっぱり。王族に取っては当たり前の事なんだろうけど、1人でゆっくり寛げる時間とかあんまりないんだろうな……。
王子の本日のお召し物は、純白に金ボタンの軍服姿でイギリスの王室を思わせる。リアンは藍色の燕尾服姿だ。二人ともカッコイイなぁ。俺はと言えば、髪型はいつもと変わらず。ただ髪留めの紐は銀色に変え、服装は薄紫色に深い紫を重ねた狩衣姿だ。烏帽子は被ってないけどさ。服装は王子の見立てで、いつものようにレオとノアに着せて貰った。着物よりも動き易いな、狩衣って。これで鷹狩とか蹴鞠とかしたんだろう? 平安、鎌倉貴族たち……。
しかし、王子とリアンがルックス的に抜きんでているもんで憧れと羨望の眼差しで見られるのは分かる。老若男女を問わず皆目がハートになってるもんな。俺だって見ちゃうと思うもん。だけど……だけど……俺への視線が痛い、怖いよぉ。これ、自意識過剰じゃなく。王子やリアンの事を目を輝かせて見つめた後……
『あいつ、誰?』
『知らなーい』
という視線を送られるのは耐えられん。
『央雅様じゃないのー?』
『何? あの凡人でーす、みたいな奴』
『目の毒だから消えろよ』
……いや、そこまで言ってるかどうかは分からんけど。やっぱり俺、遠慮した方が良かったんじゃないかなー。そもそもが王族でもないただの一般人の転移者だもんなぁ。エターナル王家の名にケチがついたんじゃ……
「ただ黙って口角を上げて少ーし目を細めていれば良いからね。ちょっとやって見せて」
水命界に瞬間移動する前に、王子がそう言ってレクチャーしてくれた。素直にやってみる。
「うわぁ、惟光! 素敵だ。でも、僕だけのものだからね!」
なんて言って抱きついてきた王子、嬉しくてついその気になって言われるまま小舟に乗っちゃたけど……今考えると相当の阿保や。冷静な切れ者リアンよ、よく止めなかったな。つーか、やっぱり辞退して陸で待っているべきだったんじゃ……。
表情だけは、言われた通りにしているけど、内心では穴があったら入りたいと思っていたりする。王子が静かに俺の真ん前から左隣に移動して来た。
『表情は変えないで、耳だけ傾けていてね』
と左手を上品に口元にあて、俺の左耳に囁く。王子の息遣いが耳にかかってゾクゾクする……じゃなくて! しゃべるな、て事っすね、了解。あー、何かしくじったかな……
『皆、惟光の事興味津々で見ているね』
え? それは悪い方の邪推で見てるんでは……
『女子も男子も、素敵な人……てウットリと君を見てるよ。鼻高々だな、僕』
恐るべきプラス思考で……見習います。それが、この場を切り抜けるコツですね!
『もう少しで着くから、それまでその表情のままで居てね』
承知しました! 王子はそう言って、元の席に戻って行った。そして陸で手を振る人々に笑顔で手を振り続ける。うん、俺への視線は意識しないようにしよう。
一周回って元の位置に着いた。陸に上がると、すぐに瞬間移動。そして着いた場所は、赤やオレンジ、黄色の衣装に身を包んだ山々に囲まれた、大きな湖の畔だった。
空気爽やかに澄んでおり、空は水彩絵の具で描いたみたいに優しい青だ。湖には山々と蒼穹がそのまま映り込み、まるで水の中にもう一つ同じ世界があるみたいだ。水面は太陽を反射してキラキラと光っている。
「ここはね、僕のプライベートな場所なんだ。各国に人の目を気にせずに寛げる場所が欲しくてね、こういう場所を買い取って、僕と限られた者しか入れないように結界を貼ってあるんだ。だから自由にして良いよ、惟光。お疲れ様、よく頑張ったね!」
王子はそう言って、俺の頭を撫でた。そうか、取りあえずは普通の表情に、と。うーん、顔が強張ってるかも。
「なかなかに、高貴な笑みがサマになっていましたよ」
リアンは右人差し指を眼鏡のエッジにあてながら言った。良かった、お咎め無し……くらい普通には振る舞えたか。
「狩衣姿にして正解だったね! 皆ウットリしてた」
王子、それはポジティブに解釈し過ぎでは……
「ええ、興味津々で見ていましたね。良かったです。これは惟光様が殿下の側近の一人、異世界転移者として新しい仕事を始めるらしい、という噂も流れ始めていましたから、良い相乗効果となりました」
「う、噂ですか? そんな噂が?」
えー? ヤバくね?
「どうしてそのような噂……」
「あぁ、私が流しました」
狼狽える俺に、ケロッとしてるリアン、面白そうに見つめる王子。
「え?」
そして素っ頓狂な声をあげる俺……。
爽やかな秋風が吹いて、水面にさざ波が立ち、俺達の髪を撫でた。
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