その男、有能につき……

大和撫子

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第五十六話

俺とフォルスと魔術取得???・後編

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「なぁ、フォルス。偶然を味方につける力、発揮してくれたのか?」

 リアンが部屋を後にしてから、早速フォルスに話し掛ける。魔術辞典に、なるべく沢山話しかけてコミュニケーションを取る事、と書いてあったからだ。だけど、

 ※心の中で話し掛けても有効ではあるが、最初の内は実際に声に出して話す方が望ましい。ただし、話し掛けているところは誰にも見られないようにする事。見られてしまう事で他者からの思念や邪推により、アイテムとのコミュニケーションが絶たれてしまう為である。万が一見られてしまった場合は、アイテムをただのアクセサリーとして接するか、土に返すなりして無に戻す事。

 と通常の文字より太く大きくしかも赤字で記載されていた。ある意味ホッとしたよ。ほら、丑の刻参りみたいに、秘術中うっかり覗いちまった相手に……『見ーたーなー?』とか言ってとり殺そうと追いかけてくるホラー話みたいな事が書かれてなくてさ。

 気のせいか、フォルスがじんわりと温かくなった気がする。何でもかんでもフォルスに結び付けて考えるのは危険だけど、確実にコミュニケーションが取れるようになるまでは良いよな。最初は特に言葉に出して話し掛けて、実際に触れてやるのって大事だと思うんだ。フォルスが野生の狼の赤ん坊だとするなら、俺に対して警戒心と不安もかなり強いだろうしな。何より、相手の事を大切に思うなら、視線を合わせて声に出して伝えてやった方が良い。……もし俺だったら、そうして欲しいと思うから。俺の感覚はフォルスとは異なるかもしれないけど、これから互いに程良い距離感を探っていけば良いと思うんだ。

 それにしてもリアン……『何があったか詮索はしませんが、邪悪なものは感じません……』て、フォルスの事言ってたな。て事は、前は邪悪なものを感じ取ってはいた、て事か。やっぱり魔物……邪悪を司る種族との関わりは余程気をつけないと、闇落ちエンド……になり兼ねない、て事だよなぁ。

 でも、裏を返せば魔族とは切れた、て解釈して良いとも言えるから。その辺りは良かったなぁ。契約を重んじる、て言うけど本当なんだな。だけど欲張り過ぎて知らない内に魔族と再契約していた、なんて事にならないように気をつけないとだけど。

一、『ムササビの五能』という己の器を忘れるべからず!
二、決して欲張るなかれ!
三、周りへの感謝を忘れるべからず!

 この三つは厳守だな。よし! 手帳に書いておこう。

 ……書きながらふと、リアンの言葉を思い出す。

『……その、以前お話した……あなたが殿下の側近の仲間入りする際に、受けるべき避けて通れない洗練と言いますか、何と言いますか……』

 物凄く言いにくそうに切り出す彼に、メフィストフェレスが言っていた近未来予言がオーバーラップする。恐怖と緊張感が全身を駆け巡った。

『その御方は殿下の事を酷く溺愛しておりまして。殿下が心を寄せる者には洗練という名目の元制裁を加えるので……今まで殿下が決まった方を持たないでいたのは、そう言った背景があるのではないかと思われます。何せ、その方には誰も、殿下ご自身も逆らえないので、その……至極情けない事ではありますが……お助けしたくても出来ぬ状態でして……』

 やっぱり……

『それは、命の危険があると?』
『さすがにそこまでは無いと思いますが、しかるべき時の為にも魔術を含め護身の術をお教しておきますね。避けて通れるなら、それに越した事はないですから』

 今度は命の危険がある、例外事態が発生する可能性が高い、て事か。

『この件は、殿下が近々直接お話されるそうです』

 て経緯だ。王子を異常に溺愛……誰も逆らえない。条件だけ見れば、国王陛下か……母上様だろうな。王太子殿下とは前に堂々と兄弟喧嘩されていてリアンに制止されていたし、あの場合は溺愛しているのとは異なるもんな。でも、肉親から溺愛かぁ……俺には全く縁のないフレーズだったせいか、ほんの少し羨ましいというか、執着されるまで愛されてみたい、なんてちょっとだけ思っちまったのは内緒な? フォルス。

 避けて通れない宿命だ、ていうなら立ち向かうしかないよな。誰も助けが期待出来ない中、どう切り抜けるか。それとも命運尽きるのか。どの道俺の真価が試されるって訳だ。でも俺、勝ち抜いて王子のお側に居たい。絶対、負けたくないんだ。

「頼むぜ、フォルス。一緒に魔術習得、頑張ろうぜ! お前だって、生まれてそうそう主人が消えて無に返るのなんて嫌だろ? 絶対、無事に生き残ろうな」

 左手首に向かって話しかける。みるみるブレスレットの温度が上昇して来たのが伝わった。

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