その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
上 下
76 / 186
第五十四話

彩光界散策&メフィストフェレスとの再会??・後編

しおりを挟む
 そこは、自然豊かな場所を森林公園に開発。更に水族館や美術館、博物館、映画館やアミューズメント施設、ショッピングモールなどが融合された巨大な複合商業施設だった。雰囲気は……そうだな、豊かな自然が売りの場所に立つショッピングモール、という感じに近いかな。あちこちに椅子が用意されており、父子連れ、年配の男性、男子同士が座っているのが目立つ。やはりこちらの世界でも、ターゲットは女性なのだろうな、と推測される。

 元々の髪の色が桃色とか紺とか、服装がビクトリア調時代っぽかったり、今風であったりと様々である事以外は、あちらの世界と殆ど変わらない感じだ。

「気になるお店なんかがありましたら、遠慮なく声をかけてくださいね」

 央雅は言った。これは、夢夜界の祭りに参加していた時と同じシチュエーションだな。あの時は異界の扉を開いちまったけど、今回は普通に散策を満喫したいぞ。央雅達も名誉回復になるだろうし……と言ってもまぁ、別に誰も悪くないんだけどさ。気持ちの問題で、それが結構響くもんなんだよな。

「うん、有難う」

 と答えつつも、せっかくだから本当に気になる店があったら入ってみよう。それにしても、俺に訪れる大ピンチねぇ……予測もつかないけど、悪魔に助けて貰うのは今後も変なご縁が出来ちまいそうで怖いよなぁ。でも、アイテムと直接コンタクトってのも、なんか胡散臭そうだし。とにかく一方的過ぎてよく分からんなぁ……て、ん? なんだ? ヒーリングカラーの光で癒されましょう? 何だろう? 右奥のショップの手描きポップが気になった。

「どうしました?」

 王雅がすぐに気づく。

「うん、あれ。ヒーリングカラーの光って何かな、て」
「あぁ、行ってみましょうか」

 一同、そこを目指す。近づくと、そこは色々な種類のランプが売れているお店だった。

「へぇ? ヒーリングの光かぁ」

 それは鈴蘭をかたどったアンティーク感じのランプだった。ヒーリングの光と書かれて、淡いブルーの灯りがついている。見ると、ヒーリング、モチベーションアップとスイッチが切り変えられるようになっていた。試しにモチベーションアップの光のスイッチを押してみる。すると赤っぽいオレンジの灯りに切り変わった。

「カラーセラピーみたいな感じかな?」
「そのようですね」

 央雅がすぐに応じる。彼もきっと、あっちの世界と同じようだな、と感じているに違いない。

「結構、売れ筋みたいですよ」

 とノア。

「他にも、集中力アップの光とか色々あるみたいですね。ダイエットの光とかも」

 とレオ。うーん、異世界でも人間の考える事は共通しているのかぁ。その後は水族館に行ってみようという話になり、皆でテクテク歩いていった。そこは深いブルーの世界で、やはりあちらの世界と殆ど変わらなかった。一部、『天使の鯉』という名の鯉に良く似た魚に白い翼が生えたものが水槽の中を優雅に泳いでいたり、長い二本の黒い角が生えたサメによく似た生き物が水槽の底を泳いでいたりした。名前を『山羊鮫』というらしい。字の通りのイメージで分かり易いな。

 その後はランチを食べて帰ろう、という事になった。うーん、という事は、だ。メフィストフェレスへの返事をしないといけない時間が来る、て事だよな。さーて、と。どーすっかなぁ。

「メニューは何になさいますか?」

 レオの声に我に返る。食べながら考えるとするか。そこは広々としたフードコート、という雰囲気だ。テーブルと椅子のセットが沢山用意されており、周りに様々なフード店が並んでいる。テーブルには各店のメニューが一冊にまとまったものが置いてあった。パラパラとめくる。食事も、あっちの世界とさほど変わら無いのが親しみ易い。和洋中、色々混じっている感じだ。力はつきそうなこってり系メニューが良いなぁ。

「じゃぁ、ヒレカツ定食にしよう」

 央雅が焼き肉定食、ノアは海鮮丼、レオがハンバーグセット。そんな感じで、ちっとも向こうの世界での友達同士のランチと変わらない。何だかホッとした。さて、メフィストフェレスへの返事だが、直接アイテムとコンタクトを取れるように計らう事でご自身で切り抜ける、こっちだろうな、そもそも何で勝手に二択なんだよ、て感じだよな。しかも『直接コンタクトを取れるようになっても、コミュニケーションが取れるまでに時間を要しますから』だなんてさ、最初から自分達の力を借りろ、と暗に言ってるようなもんじゃん。さーて、と。上手く交渉する必要があるぞ。

 その後は森林公園を少し散策。何となく白樺湖に似たような雰囲気だった。印象的なのは、太陽の光が虹色に降り注ぐところだろうか。空気が澄んで晴れているとそうなる為、秋冬の晴れの日に多いらしい。何だか、さすが彩光界って名前がついているだけあるな、と思った。そしてあちらの世界とそう大差がない事に安堵した。

「人混みでお疲れになったでしょう? そろそろ戻ってゆっくりしましょうか」

 央雅の言葉に頷く。さて、いよいよメフィストフェレスとの約束の時間だ。来た時と同じように、真後ろが央雅、左側にノア、右にレオという隊形を取る。こうやって堂々と魔法を使うあたり、魔術を使う事が普通の感覚であるって事だ、やっぱり異世界なんだなぁ。

「光の精霊達よ、契約に従いて我に行き先を示し守護せよ」

 央雅が静かに唱えた。すぐに大地が光り始める。光が俺達を包み始めると同時に目の前は暗闇に包まれた。さぁ来い、メフィストフェレス。

『失礼します、お約束の時間が来たようですね。決めて頂けましたか?』

 そうら、すぐに目の前に出現、もう驚かないぞ!

「あぁ、その前に教えてくれ、あまりにも一方的過ぎて理不尽だ。俺に訪れるピンチって何だ?」
「うーん、未来は刻一刻と変わりますから、詳細は避けますね。命に関わる事、ある事情があって助けは期待出来ない事、それは避けられない、とだけお伝えしておきましょう」

 おいおい、それ超がつくほどやべーじゃねーかよ。詳細を言わないのはまぁ、仕方無いとして……

「俺とアイテムが直接コンタクトを取れるようになれば、今後はもう貸し借りは無し、となるのか?」
「はい、その為にこちらで必要な手筈と魔術を行います。それが今までの借りを返させて頂く代わりとなります」
「そうか、分かった」

 それなら、話は早い。

「先程も申しましたが、アイテムと直接コンタクトを取れるようになるには時間がかかる場合がございます。私としては、こちらの総力を持ってあなたのピンチをお助けする、こちらを選ぶ事をお勧めします」
「いや、直接アイテムとコンタクトを取れるように計らってくれ」

 はっきりと言い切った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...