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第五十三話
甘やかな余韻
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「……光と闇の精霊達よ、ラディウスの名の元、我を彼の地へ導きたまえ!……こう唱えれば、ここに来れるよ」
あぁ……なんて素敵な癒しの声。もう、ポーッとして。メモしないとと思うのに、このまま王子の腕の中にいたい、と思ってしまっている……
「コツはね、集中すること。詠唱は間違えないこと。間違えたら最初から唱え直せば大丈夫だけどね」
え? じゃぁ、尚更メモ……。わずかに体を動かした。
「そのまま、こうしていて」
その腕に力を込めて。そんな仕草にも喜びで心が躍り上がる。
「大丈夫、呪文を唱えようと思った瞬間に思い出す魔術もかけてあるから。これはね、惟光以外の人が唱えても発動しないようにもなってるんだ」
うわぁ……カッコイイなぁ。
「……嬉しいです」
うっとりと答えた。
「二人だけの秘密だよ」
そう言って、王子は俺を覗き込むようにして言った。瞳の光彩に薄紅色の花が咲いている。素敵だ……。
「はい、幸せです」
夢見るように答えた。王子は甘えるように微笑むと、そのまま子猫のように俺の膝の上に左頬を乗せた。そのまま頬をすり寄せつつ、
「……惟光……」
囁くように名を呼んだ。
「殿下……」
自然に零れる笑みに任せてこたえる。王子は手を伸ばし、俺の左脇の髪に触れる。
「惟光の髪、艶々ですべすべ。綺麗だ」
「殿下の髪も、金色の絹糸のようで素敵です」
本当に、綺麗だ。キラキラ輝いて。
「ね、僕の頭、撫でて」
なんて可愛らしいんだ!
「で、でも殿下の髪を撫でるなど不遜行為……」
「今は二人だけだよ。ね?」
あぁ、一人の男として俺と接したいと……。おそるおそる左手を伸ばし、ゆっくりと王子の髪に触れる。上質な絹糸みたいに滑らかな手触り。そっと、大切で繊細なものに触れるように髪を撫でる。気持ち良さそうに目を細める王子。チューベローズの甘い香りが溶け込んだ空気との相乗効果で、甘美な時を過ごしたんだ……
「……様、惟光様!」
「あ、は、はいっ!」
リアンが呼ぶ声に、我に返る。いけねー! 完全にさっきまでの余韻に浸り過ぎていた。リアンの話全く聞いてなかった、ヤベー!
「さて、私が何を話したかもう一回復唱して頂けますね?」
リアンは眼鏡のエッジに右人差し指を当てながら言った。妙に無機質な声、その瞳は眼鏡のガラスが光っていて見えないけど、これは……相当にお怒りだぁ。
「えーと、あの……」
下手な誤魔化しはダメだよな、俺が悪いんだもん。
「すみません! ボーッとして全然聞いていませんでした!」
と頭を下げた。もう、いつもの療養部屋のベッドの上だ。ん? リアン、無言? 静かに頭を上げ、リアンをの様子を窺う。彼は右手で口元を抑え、やや俯き加減で体を震わせていた。まさか、咳でも我慢しているのか? 声をかけてみようか……
「フフフフ……」
「え? リアン?」
「ハハハ……ククッ」
笑ってる?
「ハッハッハッハ……すません、笑いを堪えようとしたんですが、無理でした。私もまだまだ修行が足りませんな」
「あのー、リアン?」
「あぁ、すみません。先程殿下が帰られてからずっと、夢見心地で心ここに有らずという感じでいらっしゃいましたので。しばらく余韻に浸ったままにして差し上げようと見守っていたのですよ。つい、揶揄ってみたくなりましてね」
眼鏡を取り、懐から取り出したハンカチで目元を拭う笑いでたまった涙を拭いたのだろう。
「え? では……もしかして何も言ってない?」
「はい」
悪戯っぽく笑みを浮かべるリアン。またやられたか……。でも、恥かしいな、俺。
「フフッ」
俺も苦笑するしかねーよな。でも……
「すみません、気をつけます」
「ええ、そうですね。ほどほどに、切り替えが大切でしょう」
すぐに真顔になるリアン。いや、彼ほど切り替え上手はそうはいるまい。
「はい、そうですよね」
「殿下からお仕事の話は聞かれたと思うのですが、始まる前には各国の訪問と各国王に御挨拶をするというしきたりは外せません。初めて作られた仕事、特別扱いのあなたへの嫉妬の嵐も予想されます」
「はい」
うん、気を引き締めていかないと!
「それに、仕事を始める前に試験と言いますか……通過儀礼のようなものも避けられそうにないので」
「通過儀礼?」
「はい、具体的にどう申し上げて良いのやら。それが判明次第、お知らせしますね」
「あ、はい。宜しくお願いします」
リアンでも説明しにくい何かがあるのか。これは、浮かれてばかりいられないぞ! 何となく、不穏の影が忍び寄っている、そんな予感がした。
あぁ……なんて素敵な癒しの声。もう、ポーッとして。メモしないとと思うのに、このまま王子の腕の中にいたい、と思ってしまっている……
「コツはね、集中すること。詠唱は間違えないこと。間違えたら最初から唱え直せば大丈夫だけどね」
え? じゃぁ、尚更メモ……。わずかに体を動かした。
「そのまま、こうしていて」
その腕に力を込めて。そんな仕草にも喜びで心が躍り上がる。
「大丈夫、呪文を唱えようと思った瞬間に思い出す魔術もかけてあるから。これはね、惟光以外の人が唱えても発動しないようにもなってるんだ」
うわぁ……カッコイイなぁ。
「……嬉しいです」
うっとりと答えた。
「二人だけの秘密だよ」
そう言って、王子は俺を覗き込むようにして言った。瞳の光彩に薄紅色の花が咲いている。素敵だ……。
「はい、幸せです」
夢見るように答えた。王子は甘えるように微笑むと、そのまま子猫のように俺の膝の上に左頬を乗せた。そのまま頬をすり寄せつつ、
「……惟光……」
囁くように名を呼んだ。
「殿下……」
自然に零れる笑みに任せてこたえる。王子は手を伸ばし、俺の左脇の髪に触れる。
「惟光の髪、艶々ですべすべ。綺麗だ」
「殿下の髪も、金色の絹糸のようで素敵です」
本当に、綺麗だ。キラキラ輝いて。
「ね、僕の頭、撫でて」
なんて可愛らしいんだ!
「で、でも殿下の髪を撫でるなど不遜行為……」
「今は二人だけだよ。ね?」
あぁ、一人の男として俺と接したいと……。おそるおそる左手を伸ばし、ゆっくりと王子の髪に触れる。上質な絹糸みたいに滑らかな手触り。そっと、大切で繊細なものに触れるように髪を撫でる。気持ち良さそうに目を細める王子。チューベローズの甘い香りが溶け込んだ空気との相乗効果で、甘美な時を過ごしたんだ……
「……様、惟光様!」
「あ、は、はいっ!」
リアンが呼ぶ声に、我に返る。いけねー! 完全にさっきまでの余韻に浸り過ぎていた。リアンの話全く聞いてなかった、ヤベー!
「さて、私が何を話したかもう一回復唱して頂けますね?」
リアンは眼鏡のエッジに右人差し指を当てながら言った。妙に無機質な声、その瞳は眼鏡のガラスが光っていて見えないけど、これは……相当にお怒りだぁ。
「えーと、あの……」
下手な誤魔化しはダメだよな、俺が悪いんだもん。
「すみません! ボーッとして全然聞いていませんでした!」
と頭を下げた。もう、いつもの療養部屋のベッドの上だ。ん? リアン、無言? 静かに頭を上げ、リアンをの様子を窺う。彼は右手で口元を抑え、やや俯き加減で体を震わせていた。まさか、咳でも我慢しているのか? 声をかけてみようか……
「フフフフ……」
「え? リアン?」
「ハハハ……ククッ」
笑ってる?
「ハッハッハッハ……すません、笑いを堪えようとしたんですが、無理でした。私もまだまだ修行が足りませんな」
「あのー、リアン?」
「あぁ、すみません。先程殿下が帰られてからずっと、夢見心地で心ここに有らずという感じでいらっしゃいましたので。しばらく余韻に浸ったままにして差し上げようと見守っていたのですよ。つい、揶揄ってみたくなりましてね」
眼鏡を取り、懐から取り出したハンカチで目元を拭う笑いでたまった涙を拭いたのだろう。
「え? では……もしかして何も言ってない?」
「はい」
悪戯っぽく笑みを浮かべるリアン。またやられたか……。でも、恥かしいな、俺。
「フフッ」
俺も苦笑するしかねーよな。でも……
「すみません、気をつけます」
「ええ、そうですね。ほどほどに、切り替えが大切でしょう」
すぐに真顔になるリアン。いや、彼ほど切り替え上手はそうはいるまい。
「はい、そうですよね」
「殿下からお仕事の話は聞かれたと思うのですが、始まる前には各国の訪問と各国王に御挨拶をするというしきたりは外せません。初めて作られた仕事、特別扱いのあなたへの嫉妬の嵐も予想されます」
「はい」
うん、気を引き締めていかないと!
「それに、仕事を始める前に試験と言いますか……通過儀礼のようなものも避けられそうにないので」
「通過儀礼?」
「はい、具体的にどう申し上げて良いのやら。それが判明次第、お知らせしますね」
「あ、はい。宜しくお願いします」
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