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第五十話
「続・元の世界をちょいと拝見」~家族は今……・中編~
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「あの子、今年も来ないわねぇ」
母親がポツリと言った。
「色々都合がつかないんだろ?」
と父親。
「居てもヘラヘラしてるか黙っているかしかしないんだし、居なくても良いじゃん」
「それもそうね」
「そうだな」
あーあ、ほぼほぼ予想通りの展開だし。ヘラヘラしているように見えるのは、お前の武勇伝な話題ばかりで。ムスッとしている訳にもいかないから愛想笑いしてただけだろ。黙っている時は、俺以外の三人で会話が弾んでいるから空気読んで黙っているだけだっつーの。つーか母さん、俺が居ない時は弟にたしなめもしないんだな。俺がいる時は建て前上、「お兄ちゃんの事そんな風に言うもんじゃありません」て口だけか。一応、気は遣っていると無理矢理ポジティブなに考えておこう。
場面が移り変わって、リビングのソファで頭を抱え込む父親と、その隣でタオルを両目に押しあてて泣いている母親、その向かい側のソファでどっかりと背中を預けぼんやりと天井を見上げている弟の姿。
「どこへ行っちゃったのかしら?」
「警察に任せよう、それしか無いだろう」
「でも、目撃者によるとあの子、酷く泥酔していたみたいで……」
「溝にもビルの隙間にも空き家にも居ないんじゃ、待つしかないだろう?」
「でも、吸い込まれるように消えちゃった、て情報も……」
「酔っ払いの証言なんかあてにならんだろう」
終始母と父の会話が続く。どうやら俺が行方不明になった後の事らしい。弟はぼんやり天井を見上げていたと思ったら、今度は携帯で何かを検索し始めた。何を検索しているんだ?
「何を検索しているのか見てみましょうか」
リアンはそう言うと、右手を軽くあげて親指と人差し指をこすり合わせてパチンと鳴らした。すると壁全体に弟の手元……つまり携帯画面が大きく映し出された。早速画面に注目する。
『Bチャンネル』と検索画面には書かれている。事件事故のスレッドを見ているようだ。……て弟の奴、殆ど悪口雑言の書き込みで有名な匿名啓示版なんか見てんのかよ?
タイトルは『消えた大学生、現代の神隠しか?!』
○○大学二年生の高椿惟光さん(二十歳)が行方不明になって二週間が過ぎようとしている。目撃情報によれば、惟光さんは酷く泥酔していた様子で、渋谷中央公園近くの路地でフラフラ歩いていたところ、突然空間に吸い込まれるようにして消えたという。警察犬もその消えたとされる場所に来ると右往左往して戸惑う様子が見られ、現代の神隠しだと囁かれているという話だ。
だとさ。そうやって消えた訳か……。書き込みを見てみる。
……なんか、弟はルックスも頭脳も身体能力も完璧らしいんだけど、兄貴の方は『ただの人』らしいから、注目浴びたくて狂言じゃね?……
……兄弟格差ってヤツか、有り得るなぁ……
……二十歳にもなってそれやるか?……
……酒に酔ってやっちまったんじゃね?……
言いたい放題好き勝手言いやがって! 兄弟格差ってのと泥酔は認めるけどさ。弟が口を開く。
「世間の意見じゃ、駄目屑兄貴が周りの気を引きたくてやった狂言じゃねーか、てさ」
あーそー。相変わらずそんな事言ってんだね。変わらず元気で何よりだよ全く。
「まさか、二十歳にもなってそれは無いだろう」
「そうよそれに、元々あの子控えめで無欲な子だったもの」
おっ! 母さん俺の事少しは分かって……
「つーか、気を引こうにも無能過ぎて無理だったんだろ? 親元離れてから秘かに計画してたのかもしれねーじゃん。二十歳の誕生日なんてまさに節目だしさ」
おのれ光希の奴、少しは心配するかと思ったら……
「だとしてもその計画は失敗だけどな。益々俺に注目が集まって兄貴の無能っぷりが際立つ」
へへん、と得意そうに言う弟。ちっとも変わってねーや。で、だんまりを決めこむ親父とお袋。
「週刊淑女にも特集組まれてたじゃん。ワイドショーでもさ。『現代の神隠し事件、格差兄弟による積年の鬱憤による狂言か?!』てさ」
「もう二度とマスコミの取材になんか応じないから。好き勝手書き立ててもう!」
「一回取材に応じただけで、格差兄弟とか騒ぎ立てて、失礼な奴らだ」
「ま、俺はお陰で知名度が益々上がってラッキーだけどな。その内芸能界からスカウトが来たりしてな」
益々得意そうに話す弟。コイツ、どこか人格破綻してんじゃねーか? で、そんな弟を困ったような表情で見る事しか出来ない両親も変だって。弟に気を遣い過ぎ! ていうかマスコミが取材に来たのかよ暇人どもめ。
「……ご両親の本音、聞いてみますか?」
その時、リアンが思案顔で尋ねてきた。父さんと母さんの本音……。知らない方が良い事も、あるよなぁ。でも……吹っ切るには良いか。覚悟を決める時、かな。『オーロラの涙』がじんわりと熱くなった感じがした。そうだ、俺は一人じゃない!
「はい。ついでに弟の本音も」
腹を括ろう! 全てを受容してやる!!
母親がポツリと言った。
「色々都合がつかないんだろ?」
と父親。
「居てもヘラヘラしてるか黙っているかしかしないんだし、居なくても良いじゃん」
「それもそうね」
「そうだな」
あーあ、ほぼほぼ予想通りの展開だし。ヘラヘラしているように見えるのは、お前の武勇伝な話題ばかりで。ムスッとしている訳にもいかないから愛想笑いしてただけだろ。黙っている時は、俺以外の三人で会話が弾んでいるから空気読んで黙っているだけだっつーの。つーか母さん、俺が居ない時は弟にたしなめもしないんだな。俺がいる時は建て前上、「お兄ちゃんの事そんな風に言うもんじゃありません」て口だけか。一応、気は遣っていると無理矢理ポジティブなに考えておこう。
場面が移り変わって、リビングのソファで頭を抱え込む父親と、その隣でタオルを両目に押しあてて泣いている母親、その向かい側のソファでどっかりと背中を預けぼんやりと天井を見上げている弟の姿。
「どこへ行っちゃったのかしら?」
「警察に任せよう、それしか無いだろう」
「でも、目撃者によるとあの子、酷く泥酔していたみたいで……」
「溝にもビルの隙間にも空き家にも居ないんじゃ、待つしかないだろう?」
「でも、吸い込まれるように消えちゃった、て情報も……」
「酔っ払いの証言なんかあてにならんだろう」
終始母と父の会話が続く。どうやら俺が行方不明になった後の事らしい。弟はぼんやり天井を見上げていたと思ったら、今度は携帯で何かを検索し始めた。何を検索しているんだ?
「何を検索しているのか見てみましょうか」
リアンはそう言うと、右手を軽くあげて親指と人差し指をこすり合わせてパチンと鳴らした。すると壁全体に弟の手元……つまり携帯画面が大きく映し出された。早速画面に注目する。
『Bチャンネル』と検索画面には書かれている。事件事故のスレッドを見ているようだ。……て弟の奴、殆ど悪口雑言の書き込みで有名な匿名啓示版なんか見てんのかよ?
タイトルは『消えた大学生、現代の神隠しか?!』
○○大学二年生の高椿惟光さん(二十歳)が行方不明になって二週間が過ぎようとしている。目撃情報によれば、惟光さんは酷く泥酔していた様子で、渋谷中央公園近くの路地でフラフラ歩いていたところ、突然空間に吸い込まれるようにして消えたという。警察犬もその消えたとされる場所に来ると右往左往して戸惑う様子が見られ、現代の神隠しだと囁かれているという話だ。
だとさ。そうやって消えた訳か……。書き込みを見てみる。
……なんか、弟はルックスも頭脳も身体能力も完璧らしいんだけど、兄貴の方は『ただの人』らしいから、注目浴びたくて狂言じゃね?……
……兄弟格差ってヤツか、有り得るなぁ……
……二十歳にもなってそれやるか?……
……酒に酔ってやっちまったんじゃね?……
言いたい放題好き勝手言いやがって! 兄弟格差ってのと泥酔は認めるけどさ。弟が口を開く。
「世間の意見じゃ、駄目屑兄貴が周りの気を引きたくてやった狂言じゃねーか、てさ」
あーそー。相変わらずそんな事言ってんだね。変わらず元気で何よりだよ全く。
「まさか、二十歳にもなってそれは無いだろう」
「そうよそれに、元々あの子控えめで無欲な子だったもの」
おっ! 母さん俺の事少しは分かって……
「つーか、気を引こうにも無能過ぎて無理だったんだろ? 親元離れてから秘かに計画してたのかもしれねーじゃん。二十歳の誕生日なんてまさに節目だしさ」
おのれ光希の奴、少しは心配するかと思ったら……
「だとしてもその計画は失敗だけどな。益々俺に注目が集まって兄貴の無能っぷりが際立つ」
へへん、と得意そうに言う弟。ちっとも変わってねーや。で、だんまりを決めこむ親父とお袋。
「週刊淑女にも特集組まれてたじゃん。ワイドショーでもさ。『現代の神隠し事件、格差兄弟による積年の鬱憤による狂言か?!』てさ」
「もう二度とマスコミの取材になんか応じないから。好き勝手書き立ててもう!」
「一回取材に応じただけで、格差兄弟とか騒ぎ立てて、失礼な奴らだ」
「ま、俺はお陰で知名度が益々上がってラッキーだけどな。その内芸能界からスカウトが来たりしてな」
益々得意そうに話す弟。コイツ、どこか人格破綻してんじゃねーか? で、そんな弟を困ったような表情で見る事しか出来ない両親も変だって。弟に気を遣い過ぎ! ていうかマスコミが取材に来たのかよ暇人どもめ。
「……ご両親の本音、聞いてみますか?」
その時、リアンが思案顔で尋ねてきた。父さんと母さんの本音……。知らない方が良い事も、あるよなぁ。でも……吹っ切るには良いか。覚悟を決める時、かな。『オーロラの涙』がじんわりと熱くなった感じがした。そうだ、俺は一人じゃない!
「はい。ついでに弟の本音も」
腹を括ろう! 全てを受容してやる!!
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