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第四十九話
リアンの過去
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翌朝、目を覚ますとリアンが看護用の椅子に腰をおろし、読書をしていた。央雅は今朝早く仕事に出かけて行ったそうだ。
「そうそう、央雅が伝えておいてくれと。『三日間、一緒に過ごせて良かった』との事でした」
朝食後、ゆっくりとお茶を飲んでいる時、リアンがそう伝えて来た。
「伝言有難うございます。そうですか、それを聞いて安心しました」
うん、ホッとした。
「良かったですね」
と微笑むリアン。殆どポーカーの彼が珍しく破顔するのを見ると、なんだか酷く照れる。
「有難う。良かった、自分もそう思っていたから」
「それと、風空界からも伝言が届いています。セドリック様は惟光様のお話作りがえらく気に入ったらしいですよ。また会いたいとご希望されているとの事でした」
「気に入って貰えたなら、良かった。プリンスに対応出来る体力には自信がなかったから、咄嗟の思い付きだったのだけど、喜んで貰えたなら光栄です」
やっぱり物語を創作するの、好きだなぁ。読んで貰えて少しでも喜んで貰えたなら尚有り難いや。童話なんて初めて作ってみたんだけど、楽しかったなぁ。何より、セディが楽しそうに目をキラキラさせているのを見るのが嬉しかったんだ。
「ところで、深夜に発作が起きたそうですね」
アハハ、早速報告行ってるのねー。コソコソ隠し事せずに公明正大な職場ですこと。まぁ、良い事なんだろうけど、央雅たち怒られたりしなかったかなぁ。
「……あ、はい。でも央雅たちに助けて貰って。すぐに治まりました」
うん、嘘は言ってないよな。
「あなたの事ですから、央雅を起こしたら申し訳無い……なんて思って一人で対処しようとして失敗、なんてとこでしょうけど」
と、リアン。ギクリ、よくご存じで。冷や汗が出そうだ。取りあえず、曖昧に笑って誤魔化しておこうかな。リアンは眼鏡のエッジに右手人差し指を当てて軽く弾きながら言葉を続けた。
「あなたにもしもの事があれば、誰よりも一番悲しむのは殿下なのですよ」
ハッとした。
「もっと自分を大切にして頂きませんと」
「はい」
王子が悲しむ姿なんか見たくないや。もう、一人で勝手に抱え込む癖、直していこう。住む世界が異なれば、周りの環境や対人関係も変わるのは当たり前の事だもんな。
「まぁ、央雅と過ごした事で色々と分かった事もあるでしょうし。お説教はここまでにしましょう」
「え? お説教??」
「それで、安心したんじゃないですか?」
「……てまたスルーですか-い? ……え? 安心?」
「央雅は殿下の恋敵ではない事が分かって」
「……プッ」
飲んでいた麦茶を軽く吹き出しちまった。リアン、もしかして揶揄って楽しんでねーか?
「まぁ、殿下を狙っている者は男女を問わず沢山居ますが、選択権は殿下ご自身にありますからね」
そう言えば……今まであんまり思わなかったけど、リアンの恋愛事情って……さすがに、ストレートには聞けないよなぁ。でも、気になる。最も王子の近くにいるのはリアンだし、まさか……
「ご安心下さい、私はあなたの恋敵ではありませんよ」
再度麦茶を吹き出しそうになった。辛うじ飲み込む。俺、そんなに分かり易い反応しているのか。
「い、いやその、別に……」
動揺して、いやしまくってしどろもどろになる。頬が熱い、きっと茹で蛸だ。
「物語的には、私が恋敵役であった方が盛り上がりそうですよねぇ」
面白そうに口元が綻んでいる。あ、やっぱり……
「物語って……もしかして俺の事揶揄ってません?」
「あ、バレましたか。反応が素直で揶揄い甲斐がありますからつい……」
「つい、て……」
「でも、恋敵ではないのは本当ですよ」
そうか、それなら良かった。
「そんなにホッとなさって。もし私が恋敵だとしたら、そんなに脅威でしたか?」
意外そうに眉を上げるリアン。
「そ、そりゃ、常に殿下のお傍にいて。幼い時から苦楽を共にして来て……リアンほどマルチに全てを完璧にこなせる男がライバルなら、俺なんかに勝ち目はある訳なくて……」
あー俺ウザッ。すぐ卑屈になって、陰キャまんまやん……。
「ハハハ、随分と高く評価して頂けて光栄です」
眼鏡のエッジに右人差し指を置く。窓から差し込む日の光で眼鏡のガラス全体が白く見え、その表情は窺えない。けれどもどこか寂しそうに見えた。
「前にも申しましたが、本当に人を好きになるのは条件や理屈ではありません。いくら優れていても、うとまれてしまう場合もある。それに、私が殿下の執事兼教育係になったのは、殿下が八歳の時からです。それまでは御母堂様の侍女がその役割を果たしていました。元々私は王太子殿下の執事兼教育係だったのです。それ以前の私は、国王陛下の執事だったんですよ」
うわぁ、国王陛下の執事って、やっぱり超ハイスペック男じゃん……でも……
「……それって……」
「ええ、王太子殿下は私の事がお気に召さなかったようですね」
困ったような笑みを見せる。だけど俺には、苦痛に耐えているように見えた。まさか、リアン……
「あなたの住んでいた世界風に言えば、左遷させられた、て感じでしょうか。パワハラ&モラハラとも言えますかね?」
笑っているけど、心の中では血の涙が溢れていそうだ。これは、一言で軽々しく言い表せない深い訳がありそうだ。
「そんな、左遷だなんて……」
俺、趣味で物書きやってた癖に、肝心の時にいつも的確な言葉が見つからねー、ホント、駄目だなぁ。
「そんな深刻に捉えないでください。もう、過去の事です。それに、殿下にお仕え出来て本当に幸せだと感じてますしね」
そう言って穏やかに微笑む彼に、ほんの少し憂いの影を感じるのは気のせいだろうか……。いずれにしても、軽々しく踏み込んではいいけない領域だ。
「さて、本日の予定ですが、如何でしょう? そろそろご自身のご家族に向き合ってみては」
パッと切り変えるリアン、だけど俺はすぐには首を縦に振る事は出来なかった。
「そうそう、央雅が伝えておいてくれと。『三日間、一緒に過ごせて良かった』との事でした」
朝食後、ゆっくりとお茶を飲んでいる時、リアンがそう伝えて来た。
「伝言有難うございます。そうですか、それを聞いて安心しました」
うん、ホッとした。
「良かったですね」
と微笑むリアン。殆どポーカーの彼が珍しく破顔するのを見ると、なんだか酷く照れる。
「有難う。良かった、自分もそう思っていたから」
「それと、風空界からも伝言が届いています。セドリック様は惟光様のお話作りがえらく気に入ったらしいですよ。また会いたいとご希望されているとの事でした」
「気に入って貰えたなら、良かった。プリンスに対応出来る体力には自信がなかったから、咄嗟の思い付きだったのだけど、喜んで貰えたなら光栄です」
やっぱり物語を創作するの、好きだなぁ。読んで貰えて少しでも喜んで貰えたなら尚有り難いや。童話なんて初めて作ってみたんだけど、楽しかったなぁ。何より、セディが楽しそうに目をキラキラさせているのを見るのが嬉しかったんだ。
「ところで、深夜に発作が起きたそうですね」
アハハ、早速報告行ってるのねー。コソコソ隠し事せずに公明正大な職場ですこと。まぁ、良い事なんだろうけど、央雅たち怒られたりしなかったかなぁ。
「……あ、はい。でも央雅たちに助けて貰って。すぐに治まりました」
うん、嘘は言ってないよな。
「あなたの事ですから、央雅を起こしたら申し訳無い……なんて思って一人で対処しようとして失敗、なんてとこでしょうけど」
と、リアン。ギクリ、よくご存じで。冷や汗が出そうだ。取りあえず、曖昧に笑って誤魔化しておこうかな。リアンは眼鏡のエッジに右手人差し指を当てて軽く弾きながら言葉を続けた。
「あなたにもしもの事があれば、誰よりも一番悲しむのは殿下なのですよ」
ハッとした。
「もっと自分を大切にして頂きませんと」
「はい」
王子が悲しむ姿なんか見たくないや。もう、一人で勝手に抱え込む癖、直していこう。住む世界が異なれば、周りの環境や対人関係も変わるのは当たり前の事だもんな。
「まぁ、央雅と過ごした事で色々と分かった事もあるでしょうし。お説教はここまでにしましょう」
「え? お説教??」
「それで、安心したんじゃないですか?」
「……てまたスルーですか-い? ……え? 安心?」
「央雅は殿下の恋敵ではない事が分かって」
「……プッ」
飲んでいた麦茶を軽く吹き出しちまった。リアン、もしかして揶揄って楽しんでねーか?
「まぁ、殿下を狙っている者は男女を問わず沢山居ますが、選択権は殿下ご自身にありますからね」
そう言えば……今まであんまり思わなかったけど、リアンの恋愛事情って……さすがに、ストレートには聞けないよなぁ。でも、気になる。最も王子の近くにいるのはリアンだし、まさか……
「ご安心下さい、私はあなたの恋敵ではありませんよ」
再度麦茶を吹き出しそうになった。辛うじ飲み込む。俺、そんなに分かり易い反応しているのか。
「い、いやその、別に……」
動揺して、いやしまくってしどろもどろになる。頬が熱い、きっと茹で蛸だ。
「物語的には、私が恋敵役であった方が盛り上がりそうですよねぇ」
面白そうに口元が綻んでいる。あ、やっぱり……
「物語って……もしかして俺の事揶揄ってません?」
「あ、バレましたか。反応が素直で揶揄い甲斐がありますからつい……」
「つい、て……」
「でも、恋敵ではないのは本当ですよ」
そうか、それなら良かった。
「そんなにホッとなさって。もし私が恋敵だとしたら、そんなに脅威でしたか?」
意外そうに眉を上げるリアン。
「そ、そりゃ、常に殿下のお傍にいて。幼い時から苦楽を共にして来て……リアンほどマルチに全てを完璧にこなせる男がライバルなら、俺なんかに勝ち目はある訳なくて……」
あー俺ウザッ。すぐ卑屈になって、陰キャまんまやん……。
「ハハハ、随分と高く評価して頂けて光栄です」
眼鏡のエッジに右人差し指を置く。窓から差し込む日の光で眼鏡のガラス全体が白く見え、その表情は窺えない。けれどもどこか寂しそうに見えた。
「前にも申しましたが、本当に人を好きになるのは条件や理屈ではありません。いくら優れていても、うとまれてしまう場合もある。それに、私が殿下の執事兼教育係になったのは、殿下が八歳の時からです。それまでは御母堂様の侍女がその役割を果たしていました。元々私は王太子殿下の執事兼教育係だったのです。それ以前の私は、国王陛下の執事だったんですよ」
うわぁ、国王陛下の執事って、やっぱり超ハイスペック男じゃん……でも……
「……それって……」
「ええ、王太子殿下は私の事がお気に召さなかったようですね」
困ったような笑みを見せる。だけど俺には、苦痛に耐えているように見えた。まさか、リアン……
「あなたの住んでいた世界風に言えば、左遷させられた、て感じでしょうか。パワハラ&モラハラとも言えますかね?」
笑っているけど、心の中では血の涙が溢れていそうだ。これは、一言で軽々しく言い表せない深い訳がありそうだ。
「そんな、左遷だなんて……」
俺、趣味で物書きやってた癖に、肝心の時にいつも的確な言葉が見つからねー、ホント、駄目だなぁ。
「そんな深刻に捉えないでください。もう、過去の事です。それに、殿下にお仕え出来て本当に幸せだと感じてますしね」
そう言って穏やかに微笑む彼に、ほんの少し憂いの影を感じるのは気のせいだろうか……。いずれにしても、軽々しく踏み込んではいいけない領域だ。
「さて、本日の予定ですが、如何でしょう? そろそろご自身のご家族に向き合ってみては」
パッと切り変えるリアン、だけど俺はすぐには首を縦に振る事は出来なかった。
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