その男、有能につき……

大和撫子

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第四十二話

ついに「魔術アイテム」ゲットなるか?! 後編

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「さて、賢いあなたの事ですから、ここでの事は他言無用。アイテムは、この世界に迷い込んだ時に偶然にもこちらの子供が異界に迷い込みそうになるのを助けたお礼に貰ったものとしてください。偶然を味方につけるアイテムで、無欲で純粋な願いだけを叶えてくれるものです。大切に使ってくださいね。永久に持つもので、あなたの死と共に消滅。つまり一蓮托生のアイテムなのです。この意味、分かりますね」

 静かに淡々と告げる中に、有無を言わせない圧力を感じ取る。冷や汗で背中が冷たい。

「はい、お約束は御守りします。有難うございます。大切にします」

 つまりあれだ、『いつも綺麗に使って頂き、有難うございます』という公衆トイレの貼り紙に同じだ。一見丁寧に礼を述べているように見せかけ、『綺麗に使用してください』という切実な本音を奥床しく隠しているという。これに同じだ。「死ぬまで約束事を守り通せ」て事だ。肯定する以外、選択肢はねーよな。

「では、左手をお貸しください」

 素直に差し出す。すると、山羊男は手にしていたものを俺の左手首にはめた。それは中央部分にベルトのようにルーン文字と梵字を混ぜ合わせたような文字が1列に彫られた、銀色のブレスレットだった。幅三センチほどだろうか。両端には唐草模様のようなものがお洒落に描かれており、「銀の腕輪」と呼んだ方が相応しい感じがする。嵌めた時は少しブカブカだが、自動的にちょうど良いサイズに変化した。すげー!

「さて、体調に反動が来るまで後十分ほどになりました」

 え? え? もうそんなに時間経った?

「早速アイテムに、戻って即、偶然この子供の保護者が見つかる事、あなたの連れが見つかる事を願う事をお勧めします」

 え? え? 急過ぎじゃね?

「詠唱などは特に必要ありません。心の中でお願いすれば良いだけです。それが純粋かつ無欲なものであれば叶えてくれますから。方法などはブレスレットにお任せしましょう。一つ注意点は、『~しますように』ではなく『~してください』と言い切る事。曖昧な言い方ですとブレスレットには伝わりにくい為です。因みに、願い事が不純なものですと、別に罰が当たったりとかはありなせんがお願いは叶えてくれません、即ち『偶然なラッキー』は手に入りません」

 いきなりの展開でついていけねー!

「申し遅れましたが、私の名はレオナールです。ここを出た瞬間、この件で誰からも心を読まれないよう、自動的に魔術がかかるようにしました。何か言いたい事、聞きたい事はありますか?」

 え? もう魔法かけたの? 早っ……やっぱり資料通りレオナールって名前か。レオナードと響きが似てるが全くの別物だな、じゃなくて!

「あ、はい。えーと、そのアイテムですが実際に物質界の人間に流通させる場合どのようにするのですか? 勿論、秘密厳守である事は重々承知しております」

 うん、これ知っておきたいぞ。

「あー、そうですね。説明不足でした。実際にアイテムを物質界の人間に流通させる時は、有名な占い師またはスポーツ選手や芸能人などをそそのかして流行らせます。アクセサリーばかりではありませんのでね。我々の中でその時担当になった複数の者が姿を消して物質界にいき、ターゲットの無意識に働きかけるのですよ。ターゲットが眠っている時や寛いでいる時などに、姿を消してそれと分からないようにね。世の中にある程度浸透するまでサポートします。はたから見たら……占い師でも芸能人でも、ある時を境におかしな方向に変わってしまった、というような感じで見受けられるでしょうかねぇ。勿論そういった例の全てに我々が関わっている訳ではありませんが」

 これは……下手な怪談話より怖いぞ。

「なるほど。何となく思い当たる出来事があったような気がします」

 と無難に答えておこう。

「他に質問はありませんか? もう、体調に反動が来るまで六分を過ぎますが……」

 うわっ! マジか! えーとえーと……

「あ、あのっ! レオナール様、バフォメット様、メフィストフェレス様、リリス様、そして皆様、お騒がせしました。色々有難うございました!」

 展開が唐突過ぎてついていけねー。小説なら展開雑だべ、と真っ先に突っ込まれるNGな場面だよな。もっと色々聞きたいけど長いは無用だ。とにかくお礼だけは言わないと。

「律儀な方ですね。では、ごきげんよう」

 レオナールがそういっ口元を綻ばせると、いきなり周りが暗転した。まるで暗闇に放り出されたみたいだ。そうだ! ブレスレットにお願いしないと! 願い事は言い切る事、か。

『戻ったらセディの保護者とリアンたち同時にすぐに出会わせてください!』

 必死に心の中で呟いた。

『あと、居なくなった時間は凄く短いものにしてください!』

 皆の事考えたら、心配して自責の念に駆られる時間は短い方が良いもんな。あれ? いきなり視界が明るくなった?! セディが目を覚まして強い光が目に入らないように頭の辺りを保護するように抱き方を変える。よく眠っているなぁ。

 周りを見てみる。どうやら元の森の中みたいだ。近くで祭りの音が聞こえる。

「セドリック様っ!」

 左斜め前から男の声。藤色の波打つ長い髪、浅黒い肌、黄緑色の眼を持つ青い軍服姿の美丈夫が駆け寄って来る。そうか、セドリックって言うのか。通称セディ。お付きの者かな、良かった……。

「「惟光様っ!」」

 右側から俺を呼ぶ声。血相を変えて走って来る央雅とリアン、そしてレオとノア。良かった、戻って来たんだ。

「セドリック様」

 そう言って、俺の腕からセディを受け取ろうとする男に丁寧に受け渡した。やべっ、胸が痛い。時間切れか。今の内に皆に謝罪をしとかないと。まずは央雅だ。

「央雅……ごめっ……グッゴボッゴホゴホゴホッ……」

 間に合わなかった。込み上げるように咳き込んでそれ以上話す事は出来なくなった。胸がゼロゼロ鳴る。反動ってこれ、このまま死ぬんじゃ……すぐに喉の奥から鉄臭いものが込み上げて、ゴボッと口元を覆う右手の指の隙間から鮮血が溢れた。右手に生暖かい嫌な感触……更にドッと口から血が溢れた。慌てて駆け寄るリアンたち。何もかもがスローモーションに見える。もう、全然呼吸が出来ない。皆何か叫んでるけど全然聞こえないや。あ……アイテムに、発作の反動が軽くて済むようにお願いすれば良かったかな……央雅とリアンが支えようと両手を……そのまま意識を手放した。
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