44 / 186
第三十五話
「元の世界をちょいと拝見」~パクリ男の現在とソイツの可能性の高い未来・前編~
しおりを挟む
キッチンが、ふんわりとしたオレンジ色に包み込まれた。何だ? 魔法か? と思ったら、窓辺ではノアが両手を前に着き出し手の平を天井に向けた。静かに目を閉じると……両手の平からパステルイエローの光が溢れ出した。うわぁ、何が飛びだすんだ? 鳩か? な訳ねーよな。光は両手の平いっぱいに広がると、一際眩しく輝きパット花火のように光の粒子が砕け散った。すると……
「失礼致します、惟光様。庭で一番見頃のダリアをお摘みしました!」
ノアの両手には白や、紫、赤などの色とりどりのダリアの花束が握られていた。琥珀色の瞳が生き生きと輝いて、真っすぐに俺を見つめる。何となくボーダーコリーの尻尾が後ろで大きく振られているように見えた。
「有難う。凄く綺麗だね」
と微笑んで見せる。すると本当に嬉しそうな表情で「光栄に存じます」とこたえ、いそいそと窓辺の右端に置かれていた透明ガラスの金魚鉢型の花瓶にダリアを飾り始めた。へぇ? 色々な種類のダリアがセンスよく束ねられている。魔法で庭の見頃なダリアを積んだのかぁ。
「紅茶をお淹れしました」
続いてレオナードが白い移動式テーブルを押しながらやってきた。俺の右手がすぐ伸ばせる場所に置く。テーブルの大きさは八十センチくらいかな。淡いオレンジ色のマグカップが二つ置かれており、赤みがかったクリアな茶色の液体が注がれていた。あぁ、あっちの世界と変わらない、紅茶の良い香りが鼻をくすぐる。
「惟光様のいらっしゃった世界のダージリンティーを魔術で再現しました。お好きなようでしたので」
「うん、好んでよく飲んでたよ。有難う」
嬉しそうに頬を染めている。ま、紅茶を飲むって言ってもTパックだったけどな。きっと、魔法で淹れたんだろうな。今度見せて貰おう。
何だか二人とも可愛いなぁ。こんな弟なら二人居ても苦にならないや。光希の奴は俺の事『ゴミ屑兄貴』とか平気で呼んで格下扱いだったもんな。父さんも母さんも口ではたしなめたりしたけど、本心では弟と同意見だからさっぱりも効果なかったけどな。
「「では、また何かございましたらお申し付けくだいませ。失礼致します」」
二人は声を揃えてそう言うと、同時にペコリと頭を下げて部屋を後にした。二人で声を揃えるの、練習したんかな。可愛いなぁ。
「さて、では見てみますか。いつ、誰にフォーカスしますか?」
リアンは右手人差し指で眼鏡のエッジを弾きながら問いかけた。
「はい、こちらに来る直前、自分の作品を盗作した奴のその経緯に至るまでと現在を知りたいです。可能ならその未来も」
「なるほど、私個人も気になっていた案件ですね。少し補足しますが、未来は無数に存在します。ご存じかと思いますが、運命は今この瞬間の積み重ねで変わります。ですから今この瞬間、何を思いどう行動するかで微妙に未来は変わって来ます。その為、今のまま進んで行ったと仮定して、最も可能性の高い未来を映し出す事になります」
あぁ、運命は変えられる……て事か。じゃぁ、宿命は?
「はい、承知しました。運命ってやっぱり変えられるのですね。では、宿命は変えられるのでしょうか?」
リアンは再び眼鏡のエッジに右人差し指を当てた。
「宿命は、己の力ではどうする事も出来ないものを言います。その場合はどの選択をしても定められた通りになりますね。例えば生まれる時間や場所などは自分の力で操作出来ないですから宿命となります。ですが宿命の未来については、私たちがどうこう言える次元のお話ではなく神聖なものですのでこれ以上は差し控えますね」
ほほぅ、さすがリアン。明言は避けたな。確かに、賢明だな。『予言の自己成就』って言葉にあるように、人はそれが根拠のない発言だったとしても、断言された事に無意識に従ってしまい行動していく事によって予言通りになってしまう傾向にあるからな。俺だって『ムササビの五能』が宿命かどうかなんて知りたくもねーし、聞かれたってリアンも困る案件だよな。
「なるほど、そうですね、分かりました」
「では、その人の事を見てみましょうか。まずは盗作する切っ掛けとなった場面からいきましょう」
「はい、お願いします」
パソコンで見るのかな? それとも壁に映し出されるのかな……
リアンは軽く右手をあげ、右中指と親指をこすり合わせてパチンと鳴らした。すると、窓辺に飾られたダリアの花束が全体的に白く輝き始めた。何だ? 何が起こるんだ?その光は柱のように壁に向かって伸び、壁全体を明るく照らし出した。
「へぇ? メンズネイル? 何だそれ? 興味あるわ。詳しく教えてよ」
という声と共に、脱色のし過ぎでパサついた白茶けた短髪、キリッと見えるように眉尻を上げて整えられた、カラーリングした茶色い眉。その癖垂れ目で白目がちな狡猾そうな瞳を持つ中肉中背の男が出現した。
……元サークル仲間、パクリ男だ……
どうやら3D映像で映し出されるらしい。本名なんかで呼んでやるつもりもねーや、こんな奴「パクリ男」で十分だ!
「あぁ、それね……」
続いてソイツの右隣に現れたのは俺だ。あの頃は髪も短めで細身の方だったけど、ここまでガリガリじゃなかった。懐かしい……。あーぁ、親切丁寧にやり方教えちまって、馬鹿な俺。
「事実のみを淡々と映し出します。本音も聞こえて来ますよ」
リアンは小声で素早く説明した。自分で自分の3D映像を見るのって恥ずかしいもんだな。複雑な思いで映像を見つめた。
「失礼致します、惟光様。庭で一番見頃のダリアをお摘みしました!」
ノアの両手には白や、紫、赤などの色とりどりのダリアの花束が握られていた。琥珀色の瞳が生き生きと輝いて、真っすぐに俺を見つめる。何となくボーダーコリーの尻尾が後ろで大きく振られているように見えた。
「有難う。凄く綺麗だね」
と微笑んで見せる。すると本当に嬉しそうな表情で「光栄に存じます」とこたえ、いそいそと窓辺の右端に置かれていた透明ガラスの金魚鉢型の花瓶にダリアを飾り始めた。へぇ? 色々な種類のダリアがセンスよく束ねられている。魔法で庭の見頃なダリアを積んだのかぁ。
「紅茶をお淹れしました」
続いてレオナードが白い移動式テーブルを押しながらやってきた。俺の右手がすぐ伸ばせる場所に置く。テーブルの大きさは八十センチくらいかな。淡いオレンジ色のマグカップが二つ置かれており、赤みがかったクリアな茶色の液体が注がれていた。あぁ、あっちの世界と変わらない、紅茶の良い香りが鼻をくすぐる。
「惟光様のいらっしゃった世界のダージリンティーを魔術で再現しました。お好きなようでしたので」
「うん、好んでよく飲んでたよ。有難う」
嬉しそうに頬を染めている。ま、紅茶を飲むって言ってもTパックだったけどな。きっと、魔法で淹れたんだろうな。今度見せて貰おう。
何だか二人とも可愛いなぁ。こんな弟なら二人居ても苦にならないや。光希の奴は俺の事『ゴミ屑兄貴』とか平気で呼んで格下扱いだったもんな。父さんも母さんも口ではたしなめたりしたけど、本心では弟と同意見だからさっぱりも効果なかったけどな。
「「では、また何かございましたらお申し付けくだいませ。失礼致します」」
二人は声を揃えてそう言うと、同時にペコリと頭を下げて部屋を後にした。二人で声を揃えるの、練習したんかな。可愛いなぁ。
「さて、では見てみますか。いつ、誰にフォーカスしますか?」
リアンは右手人差し指で眼鏡のエッジを弾きながら問いかけた。
「はい、こちらに来る直前、自分の作品を盗作した奴のその経緯に至るまでと現在を知りたいです。可能ならその未来も」
「なるほど、私個人も気になっていた案件ですね。少し補足しますが、未来は無数に存在します。ご存じかと思いますが、運命は今この瞬間の積み重ねで変わります。ですから今この瞬間、何を思いどう行動するかで微妙に未来は変わって来ます。その為、今のまま進んで行ったと仮定して、最も可能性の高い未来を映し出す事になります」
あぁ、運命は変えられる……て事か。じゃぁ、宿命は?
「はい、承知しました。運命ってやっぱり変えられるのですね。では、宿命は変えられるのでしょうか?」
リアンは再び眼鏡のエッジに右人差し指を当てた。
「宿命は、己の力ではどうする事も出来ないものを言います。その場合はどの選択をしても定められた通りになりますね。例えば生まれる時間や場所などは自分の力で操作出来ないですから宿命となります。ですが宿命の未来については、私たちがどうこう言える次元のお話ではなく神聖なものですのでこれ以上は差し控えますね」
ほほぅ、さすがリアン。明言は避けたな。確かに、賢明だな。『予言の自己成就』って言葉にあるように、人はそれが根拠のない発言だったとしても、断言された事に無意識に従ってしまい行動していく事によって予言通りになってしまう傾向にあるからな。俺だって『ムササビの五能』が宿命かどうかなんて知りたくもねーし、聞かれたってリアンも困る案件だよな。
「なるほど、そうですね、分かりました」
「では、その人の事を見てみましょうか。まずは盗作する切っ掛けとなった場面からいきましょう」
「はい、お願いします」
パソコンで見るのかな? それとも壁に映し出されるのかな……
リアンは軽く右手をあげ、右中指と親指をこすり合わせてパチンと鳴らした。すると、窓辺に飾られたダリアの花束が全体的に白く輝き始めた。何だ? 何が起こるんだ?その光は柱のように壁に向かって伸び、壁全体を明るく照らし出した。
「へぇ? メンズネイル? 何だそれ? 興味あるわ。詳しく教えてよ」
という声と共に、脱色のし過ぎでパサついた白茶けた短髪、キリッと見えるように眉尻を上げて整えられた、カラーリングした茶色い眉。その癖垂れ目で白目がちな狡猾そうな瞳を持つ中肉中背の男が出現した。
……元サークル仲間、パクリ男だ……
どうやら3D映像で映し出されるらしい。本名なんかで呼んでやるつもりもねーや、こんな奴「パクリ男」で十分だ!
「あぁ、それね……」
続いてソイツの右隣に現れたのは俺だ。あの頃は髪も短めで細身の方だったけど、ここまでガリガリじゃなかった。懐かしい……。あーぁ、親切丁寧にやり方教えちまって、馬鹿な俺。
「事実のみを淡々と映し出します。本音も聞こえて来ますよ」
リアンは小声で素早く説明した。自分で自分の3D映像を見るのって恥ずかしいもんだな。複雑な思いで映像を見つめた。
3
お気に入りに追加
605
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?


主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.

物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる