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第三十四話
体の根本的な回復をはかる為、先ずは……
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「じゃぁ、行くね。くれぐれも、無理はしないようにね。ゆっくり、じっくりで良いんだから」
ラディウス様は心配で堪らないというように俺を見つめる。真っすぐに向けられる愛情が、とても嬉しい癖に面映ゆい。だけど……
「はい、本当に有難うございます! 殿下、いってらっしゃいませ」
そう笑顔で応じるも、王子の隣に控えている近衛兵大将の存在に胸が騒つく。笑顔で俺に応える王子に、無言でリアンと俺に向けて一礼する央雅。二人は白い光に包み込まれると、空気に溶け込むようにして消えた。キラキラとした光の粒子の余韻を残して。
今日は夕刻までリアンが俺い付き添う事になった。故に、代わりの執事役は央雅になった。元々その心づもりで計画されていたようだけれど。やっぱり、リアンが王子と共に行動出来ない時は近衛兵大将がその役目を果たすんだな。央雅の奴、俺が知らない王子の色んな姿を知ってるんだろうな……。
「さて、少しお茶でも飲んで休憩しますか?」
リアンの冷静な問いかけで我に返る。駄目だ、考えても仕方のない事は考えるな、俺。
「あ、いいえ。大丈夫です。実は、ちょっとワクワクしていまして」
これは本当だ。これから、元の世界を覗き見するのだ。必要に応じて、過去、現在、未来と。勿論、一日で全てではなく、何日かにかけてじっくりと。これが、俺の病気の治療法となるらしい。リアンの説明によるとこうだ。
『……過去の心の傷の根本原因と一つ一つ向き合い、受容し、昇華していく事が有効であると思われます。それにはあちらの世界で、心の傷の原因となった過去に遡って向き合って行くという方法です。あなたが居た世界にも同じようなやり方があったと思います。内容によっては非常に辛い思いをする事も否めませんが……』
あぁ、確か「インナーチャイルドワーク」だ。幼い頃から続く思考の癖や行動様式が好ましい状態でなかった時、そうなってしまった過去の原因に焦点を当てて癒していく心理療法だ。
『過去や未来、と言っても歴史を変えてしまう危険性がある為タイムスリップする訳ではなく、あくまで過去にあった出来事の映像を辿るのみとなりますが十分に効果的かと思われます』
今のところ、王太子殿下の回復魔法のお陰で体調が良い。その為早速始めようという事になっているのだが、最初からいきなり核心の過去に触れるのはメンタル的に厳しいとの事。先ずは肩慣らしとして、あっちの世界の事について、ここ最近で気になる事にフォーカスして行こうという話になった。
そんな経緯で、これから公務の王子は迎えに来た央雅が去り、今リアンと二人だけだ。
「ワクワク、ですか?」
意外そうに、眉を上げるリアン。
「はい。こちらに来る直前にあった出来事の今を知りたくて」
「あぁ、肩慣らしにはちょうど良いかもしれませんね。但し、不快に感じる事もあるかもしれませんが……」
「ええ、それは覚悟しています」
思わず苦笑した。もうあんな二股女の件はどうでもいい。それよりも気になるのはパクリ男だ。受賞後どうしてるだろう? デビュー後が気になる。次からはオリジナルで行くのか、それとも……?
「分かりました。では、レオナ-ドとノアに『鑑賞準備』をさせましょう。あなたに仕える事を楽しみにしている彼らですから。早く活躍させてあげませんと」
そう言って、二人が居るだろうと正面の窓を見つめるリアンの双眸は、とても穏やかで痩せ優しいハシバミ色に見えた。
そうか、張り切ってくれているのか。なんだか酷くくすぐったい気分だな。
コンコンコン、とドアをノックする音と共に、「「失礼致します、お呼びでしょうか!」」と声を揃えて扉を開ける二人の姿。心で思っただけで通じる、ていう『思念伝達』って奴だ!
「今から観賞会を始めるので、準備をお願いしますよ」
「「承知しました!」」
リアンの指示に、二人は元気良く声を揃えてこたえる。同時に一礼して部屋に入って来ると、レオナードはキッチンに向かい、ノアは入り口から見て正面の窓に向かった。二人とも何だか嬉しそうだ。レオナードはお茶でも淹れるのかな? ノアは窓辺で何をするんだろう? 何だか、生まれて初めて絵本を見た時の事を思い出した。未知の世界への憧れと期待、そして僅かな不安。それらを総称したトキメキの瞬間を。
ラディウス様は心配で堪らないというように俺を見つめる。真っすぐに向けられる愛情が、とても嬉しい癖に面映ゆい。だけど……
「はい、本当に有難うございます! 殿下、いってらっしゃいませ」
そう笑顔で応じるも、王子の隣に控えている近衛兵大将の存在に胸が騒つく。笑顔で俺に応える王子に、無言でリアンと俺に向けて一礼する央雅。二人は白い光に包み込まれると、空気に溶け込むようにして消えた。キラキラとした光の粒子の余韻を残して。
今日は夕刻までリアンが俺い付き添う事になった。故に、代わりの執事役は央雅になった。元々その心づもりで計画されていたようだけれど。やっぱり、リアンが王子と共に行動出来ない時は近衛兵大将がその役目を果たすんだな。央雅の奴、俺が知らない王子の色んな姿を知ってるんだろうな……。
「さて、少しお茶でも飲んで休憩しますか?」
リアンの冷静な問いかけで我に返る。駄目だ、考えても仕方のない事は考えるな、俺。
「あ、いいえ。大丈夫です。実は、ちょっとワクワクしていまして」
これは本当だ。これから、元の世界を覗き見するのだ。必要に応じて、過去、現在、未来と。勿論、一日で全てではなく、何日かにかけてじっくりと。これが、俺の病気の治療法となるらしい。リアンの説明によるとこうだ。
『……過去の心の傷の根本原因と一つ一つ向き合い、受容し、昇華していく事が有効であると思われます。それにはあちらの世界で、心の傷の原因となった過去に遡って向き合って行くという方法です。あなたが居た世界にも同じようなやり方があったと思います。内容によっては非常に辛い思いをする事も否めませんが……』
あぁ、確か「インナーチャイルドワーク」だ。幼い頃から続く思考の癖や行動様式が好ましい状態でなかった時、そうなってしまった過去の原因に焦点を当てて癒していく心理療法だ。
『過去や未来、と言っても歴史を変えてしまう危険性がある為タイムスリップする訳ではなく、あくまで過去にあった出来事の映像を辿るのみとなりますが十分に効果的かと思われます』
今のところ、王太子殿下の回復魔法のお陰で体調が良い。その為早速始めようという事になっているのだが、最初からいきなり核心の過去に触れるのはメンタル的に厳しいとの事。先ずは肩慣らしとして、あっちの世界の事について、ここ最近で気になる事にフォーカスして行こうという話になった。
そんな経緯で、これから公務の王子は迎えに来た央雅が去り、今リアンと二人だけだ。
「ワクワク、ですか?」
意外そうに、眉を上げるリアン。
「はい。こちらに来る直前にあった出来事の今を知りたくて」
「あぁ、肩慣らしにはちょうど良いかもしれませんね。但し、不快に感じる事もあるかもしれませんが……」
「ええ、それは覚悟しています」
思わず苦笑した。もうあんな二股女の件はどうでもいい。それよりも気になるのはパクリ男だ。受賞後どうしてるだろう? デビュー後が気になる。次からはオリジナルで行くのか、それとも……?
「分かりました。では、レオナ-ドとノアに『鑑賞準備』をさせましょう。あなたに仕える事を楽しみにしている彼らですから。早く活躍させてあげませんと」
そう言って、二人が居るだろうと正面の窓を見つめるリアンの双眸は、とても穏やかで痩せ優しいハシバミ色に見えた。
そうか、張り切ってくれているのか。なんだか酷くくすぐったい気分だな。
コンコンコン、とドアをノックする音と共に、「「失礼致します、お呼びでしょうか!」」と声を揃えて扉を開ける二人の姿。心で思っただけで通じる、ていう『思念伝達』って奴だ!
「今から観賞会を始めるので、準備をお願いしますよ」
「「承知しました!」」
リアンの指示に、二人は元気良く声を揃えてこたえる。同時に一礼して部屋に入って来ると、レオナードはキッチンに向かい、ノアは入り口から見て正面の窓に向かった。二人とも何だか嬉しそうだ。レオナードはお茶でも淹れるのかな? ノアは窓辺で何をするんだろう? 何だか、生まれて初めて絵本を見た時の事を思い出した。未知の世界への憧れと期待、そして僅かな不安。それらを総称したトキメキの瞬間を。
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