その男、有能につき……

大和撫子

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第三十二話

近衛兵大将登場、そして二人の侍従

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「そうそう、近衛兵と庭師をつけるね。二人が身の周りの世話もしてくれるよ。信頼出来る子たちだから安心して。あと、近衛兵大将が惟光に挨拶したいって来てるよ」
「何から何まで、お気遣い本当に有難うございます」
「気にしないで。こんなの何でもないよ」

 ラディウス様との会話で、玄関の前で頭を下げている三人の事が判明した。あぁ、とうとう俺と同じ世界から来たっつー優秀な近衛兵大将と会えるのか。あの、一際背の高い奴がそうかな。

「お待ちしておりました!」

 近づくなり、ビシッと顔を上げて姿勢を正し、そう声をかけるのは一際背の高い男だった。このひとかな。深い紫色に銀ボタンの軍服姿よく似合う。健康的に日焼けした肌に、鍛え上げられた体型。青白くてやせ細ってた俺とはこの時点でもう正反対だ。栗色の短髪に整った顔立ち。男らしく引き締まった唇にキリリとした眉。鋭い光を宿す切れ長の瞳は落ち着いた土色だ。精悍なハンサム、という感じか。見るからに硬派で男女を問わず数多あまたの隠れファンが出来そうなタイプだ。この男が声をあげたと同時に、他の二名も顔をあげる。

「彼が近衛兵大将、西園寺央雅さいおんじおうがだよ」

 ラディウス様の紹介で、どんな字を書くのかまで頭に浮かぶ。名は体を表す、か。カッコイイじゃん。やっぱり大将だったか。歳は俺より少し上かな?

「ご紹介頂きました西園寺央雅と申します。央雅とお呼び下さい。今後、色々とお目にかかると思います故、以後、お見知りおきを」

 礼儀正しく頭を下げた。中低音でよく通る声なぁ。深みもあるし、あれだ、魅惑の『バリトンボイス』ってやつだ! 

「高月惟光と申します。わざわざお越し頂きまして恐縮です。こちらこそ宜しくお願いします」

 礼儀正しく挨拶で返しながら、ひしひしと『出来る男』のオーラをこの身に感じた。分かるんだ、コイツも弟と同じ波動を感じる。同じ時代、同じ日本からの転移者。俺との差は歴然となるだろう。弟は『動』、コイツは『静』、て感じだな。言われるままに央雅、なんて呼び捨てに出来るほど俺が大物だったらサマになるんだけどな。生憎、小物雑魚キャラにつき……せいぜい西園寺君、とかならなんとか……

 なんて思っている間、ラディウス様と央雅は互いに頷きあった。目と目で通じ合う仲です、てか? なーんか、ちょっと感じるジェラシー……

「隣にいる者は、同じ隊の者でLeonardレオナードと申します」

 ほら、頭に綴りが浮かんだ。魔術もお手のもの、なんだろうな。今度は央雅が紹介している。部下だからそうしたんだろうな。Leonardレオナード、確か『獅子の如く勇敢な』という意味があるんだ。

Leonardレオナードと申します。Leoレオとお呼び下さい。この度、惟光様の警護と身の周りのお世話をさせて頂きます。宜しくお願いします」

 ペコリの頭を下げる。肩に力が入って、可愛いじゃないか。比較的新しく入隊した子かな。ダークグレーの軍服に金ボタン。身長は俺と同じくらいか。細身のせいか身軽そうな印象を受ける。声質はテノール、て感じだな。象牙色の肌、柔らかそうな亜麻色の髪を後ろで一つにまとめ、大きな空色の瞳はまるで澄んだ秋の空みたいだ。

「こちらこそ、お世話になります。宜しくお願いします」

 と頭を下げつつ、可愛い顔立ちだな、何かに似ている。と思った。そうだ! 小鹿だ。どことなく小鹿を思わせるんだ。しかし、呼び名……惟光ってのは照れるなぁ。

「彼はNoahノア。庭師兼身の周りの世話を担当するよ」

 三番目の彼は、再びラディウス様が紹介してくれた。Noahノア、確か『癒し』『休息』と言う意味があったな。庭師にぴったりの名じゃん。少し日焼けした肌に、フサフサした燃えるような赤い髪がよく似合う。ポニーテールにしてアイビーみたいな髪留めがお洒落だ。俺より少し低い背丈のようだけど、結構筋肉質みたいでカーキ色の作業服から覗く手首と手が、意外にがっしりしている。庭師ってかなり力仕事だもんな。

Noahノアと申します。お庭のお手入れと身の周りのお世話をさせて頂きます」

 この彼も美声だな。バイオリン、いや、ビオラって感じか。その名の通り、癒しの声質だ。少し垂れ目気味の丸みを帯びた大きな瞳は、綺麗な琥珀色だ。全体的に見て、どことなく子犬のボーダーコリーを思わせる。

「こちらこそ、お世話になります、宜しくお願いします」

 えーと、亜麻色の髪に空色の瞳の小鹿君がレオナード。赤毛に琥珀色の瞳の子犬のボーダーコリー君がノアだ。名前間違えたら失礼だからな。これからこの二人に沢山世話になるんだし、最初が肝心だ。

「さて、部屋の中で少し話そう。LeonardレオナードNoahノア、呼ぶまで下がっていて良いよ」
「承知しました」
「仰せのままに」

 二人はラディウス様に丁寧に頭を下げると、踵を返して庭の奥へと歩いて行く。

「央雅は任務に戻って良いよ。あっちは頼むね」
「御意」

 奴はラディウス様、リアン、俺に一礼してスーッと掻き消えるようにして消えた。いいなぁ、瞬間移動。カッコいいじゃん。寡黙な出来る男、みたいな感じで。弟ともリアンともまた違ったタイプの出来る奴だ。例えるなら『いぶし銀』みたいな重厚さと深みがある感じか。派手さはないが、見る度に心に深く刻み込まれていくタイプだろう。ラディウス様の信頼も篤いようだし、やっぱり妬けちまうなぁ……。こんな感情、駄目だ。どうにか処理しなけりゃ。

「大丈夫ですか? 疲れましたか?」

 気遣わし気なリアンの声で我に返る。

「あ、いいえ。彼、同じ転移者なんだな、とふと思いまして」

 うん、まぁ嘘は言ってない、よな。

「近い内、話せる機会があると思うよ。さ、中に入ろう」

 ラディウス様はふわっと微笑むと、入り口のダークブラウンのドアに手をかけた。家は全体的に、代官山とかにありそうなお洒落で高級な喫茶店、みたいな雰囲気だ。
 
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