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第三十話
え? えーと、あの……色気って? そして、リアンって一体???
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「……無礼者め。我儘放題でしつけがなされなかった主が主なら、従者も従者だな。揃いも揃って結界を破って侵入してくるとは、実に野蛮で下品極まりない」
嫌気が差したというように首を横にふり、肩をすくめながら王太子殿下は言った。ムッとして兄を睨むつけるラディウス様が口を開くよりもはやく、リアンがこたえた。
「見舞いの為の入室許可なら事前に取りましたよ。正式にね」
相変わらず淡々とした話ぶりで落ち着いている。嵐が来ようが大雪が降ろうが平常運行という感じだ。動揺しない守護者という名前はダテじゃないんだな。彼の出現で、俺のパニック状態も治まっちまったし。本当に『マルチなハイスペック男』って感じで、「ムササビの五能」とはまさしく正反対だよなぁ。
「それで、部屋に入ろうとしたら結界が張られていて入れない。それもエターナル王家一族の縁の者でないと解けない術式のもの。そうなれば、何か良からぬ事を企んでいると判断して間違い無いでしょう、まともな常識感覚の持ち主ならね」
ラディウス様は苛立ちながら、リアンの後に言葉を続けた。
「ほほぅ、お前が常識を語るのか。はっはっは……これはまた先程に引き続き冗談が過ぎるな。どの口がほざくのだ?」
「だから、冗談ではありませんと先程も申しました! 現に、結界を破って入室して正解でしたよ。あのように、無理矢理……」
皮肉たっぷりな王太子殿下と、依然として怒気を含んだ眼差しのラディウス様。その流れの発端が俺である事に戸惑いと驚きを覚えつつも、どこか夢の中の出来事のようにも感じている。何だか筆舌に尽くし難い複雑な感情だ。
リアンは、お二人の様子を静観している様子だ。
「これは心外な! 私は出来得る範囲で最高の回復魔法を施そうとしていただけであるぞ! 現に体は随分と楽になっている筈だ」
ですよね! ありがたや……
「そうであったとしても、あれは明らかに常軌を逸しています!」
「ふふふ、まぁそれは致し方ない」
「致し方ない? 開き直るおつもりですか?」
「まぁそうカッカせず最後まで聞け」
えっ? そ、れじゃぁやっぱり……
「あれは不可抗力だ」
不可抗力?
「私も最初は回復魔法だけで済ます予定だったのだ。だが、あまりにも惟光の色気が半端なかったのでな」
え? な、何だって? い、色気? 誰が?
「浴衣の前をはだけていた姿に、つい……ムラムラとな」
「兄上! 気持ちは良く分かります!」
え? わ、分かるんですか?
「ですがですね! 誘惑に負けるなど、それは王太子として如何なものかと……」
「はいはい、そこまで!」
ヒートアップしそうだったお二人の間に、パンパンと手を叩きながら素早く割って入るリアン。
「お二人とも、このような場所で剣術にせよ魔術にせよ、感情任せにぶつけ合うなど、エターナル王家として品がありませんよ。まるで頑是ない子供同士の喧嘩みたいです」
す、すげー! 王太子殿下と第二王子を前に、臆する事なくズケズケと物申せるなんてカッコイイなぁ。いや、ていうか色気って一体……俺の事、なんだよなぁ? あっ! そう言えば『オーロラの涙』は? 急いでペンダントを確認する、チョーカーは、あるぞ。あ、あった。ペンダントトップ、背中に回ってた。あー良かった……
「それに、お二人の争いの元になっている惟光殿が、困り切っているではありませんか。王太子殿下も今回は少しおふざけが過ぎましたし、追い詰めて疲労させてしまったらせっかくの回復魔法も元の木阿弥で意味がありません。ラディウス殿下も頭に血がのぼり過ぎですよ、短気は損気です!」
凄いなぁ。順々にお二人の目を見ながら懇々と諭している。
「そうか。確かに、そうだな。ごめんね、惟光」
ラディウス様は素直に応じ、本当に申し訳なさそう声をかけてくださる。じゃなくて返事しろって俺!
「い、いいえ、全くそのような事は……」
あー、しどろもどろだ。かっこ悪いな、俺。
「ふん、相変わらず口の減らない奴だな」
忌々し気にこたえる王太子殿下。
「ええ、そういうお役目ですから。冷静に率直に意見を述べ、たしなめる役がいないと単なる独裁政権になってしまいますからね」
リアンは右手人差し指を眼鏡のエッジにあてながら平然として答えた。
「さてと、惟光殿の体調も、王太子殿下の回復魔術のお陰で今は落ち着いているようですし。このまま引き取らせて頂いて宜しいですね?」
「ふん、お前の事だ。どうせ最初から連れ帰るつもりで根回ししてあるのだろう?」
「根回しとは人聞きの悪い。用意周到と言って頂きたいですねぇ」
「好きにしろ! ま、これで諦めるつもりは毛頭もないがな。惟光は私の元に居てこそ輝けるのだ。必ず、奪い返す!」
リアンにというよりはラディウス様に宣言するように一言一句はっきりと言い放つと、王太子殿下は空気に溶け込むようにして消えた。
えーと、取りあえずはラディウス様の元に帰れるのかな? それにしても、俺に色気? 全くもって初めて言われる言葉だ。あと、リアン。何だか王太子殿下と凄く近しい感じがしたんだけど、何者なんだ?
あ、ラディウス様……
お慕いしている方が近づいて来るのが目に入り、ごちゃごちゃ騒めく思考が吹き飛んだ。あぁ、パンジーみたいな深い紫色の瞳の、何とお美しい事か。
嫌気が差したというように首を横にふり、肩をすくめながら王太子殿下は言った。ムッとして兄を睨むつけるラディウス様が口を開くよりもはやく、リアンがこたえた。
「見舞いの為の入室許可なら事前に取りましたよ。正式にね」
相変わらず淡々とした話ぶりで落ち着いている。嵐が来ようが大雪が降ろうが平常運行という感じだ。動揺しない守護者という名前はダテじゃないんだな。彼の出現で、俺のパニック状態も治まっちまったし。本当に『マルチなハイスペック男』って感じで、「ムササビの五能」とはまさしく正反対だよなぁ。
「それで、部屋に入ろうとしたら結界が張られていて入れない。それもエターナル王家一族の縁の者でないと解けない術式のもの。そうなれば、何か良からぬ事を企んでいると判断して間違い無いでしょう、まともな常識感覚の持ち主ならね」
ラディウス様は苛立ちながら、リアンの後に言葉を続けた。
「ほほぅ、お前が常識を語るのか。はっはっは……これはまた先程に引き続き冗談が過ぎるな。どの口がほざくのだ?」
「だから、冗談ではありませんと先程も申しました! 現に、結界を破って入室して正解でしたよ。あのように、無理矢理……」
皮肉たっぷりな王太子殿下と、依然として怒気を含んだ眼差しのラディウス様。その流れの発端が俺である事に戸惑いと驚きを覚えつつも、どこか夢の中の出来事のようにも感じている。何だか筆舌に尽くし難い複雑な感情だ。
リアンは、お二人の様子を静観している様子だ。
「これは心外な! 私は出来得る範囲で最高の回復魔法を施そうとしていただけであるぞ! 現に体は随分と楽になっている筈だ」
ですよね! ありがたや……
「そうであったとしても、あれは明らかに常軌を逸しています!」
「ふふふ、まぁそれは致し方ない」
「致し方ない? 開き直るおつもりですか?」
「まぁそうカッカせず最後まで聞け」
えっ? そ、れじゃぁやっぱり……
「あれは不可抗力だ」
不可抗力?
「私も最初は回復魔法だけで済ます予定だったのだ。だが、あまりにも惟光の色気が半端なかったのでな」
え? な、何だって? い、色気? 誰が?
「浴衣の前をはだけていた姿に、つい……ムラムラとな」
「兄上! 気持ちは良く分かります!」
え? わ、分かるんですか?
「ですがですね! 誘惑に負けるなど、それは王太子として如何なものかと……」
「はいはい、そこまで!」
ヒートアップしそうだったお二人の間に、パンパンと手を叩きながら素早く割って入るリアン。
「お二人とも、このような場所で剣術にせよ魔術にせよ、感情任せにぶつけ合うなど、エターナル王家として品がありませんよ。まるで頑是ない子供同士の喧嘩みたいです」
す、すげー! 王太子殿下と第二王子を前に、臆する事なくズケズケと物申せるなんてカッコイイなぁ。いや、ていうか色気って一体……俺の事、なんだよなぁ? あっ! そう言えば『オーロラの涙』は? 急いでペンダントを確認する、チョーカーは、あるぞ。あ、あった。ペンダントトップ、背中に回ってた。あー良かった……
「それに、お二人の争いの元になっている惟光殿が、困り切っているではありませんか。王太子殿下も今回は少しおふざけが過ぎましたし、追い詰めて疲労させてしまったらせっかくの回復魔法も元の木阿弥で意味がありません。ラディウス殿下も頭に血がのぼり過ぎですよ、短気は損気です!」
凄いなぁ。順々にお二人の目を見ながら懇々と諭している。
「そうか。確かに、そうだな。ごめんね、惟光」
ラディウス様は素直に応じ、本当に申し訳なさそう声をかけてくださる。じゃなくて返事しろって俺!
「い、いいえ、全くそのような事は……」
あー、しどろもどろだ。かっこ悪いな、俺。
「ふん、相変わらず口の減らない奴だな」
忌々し気にこたえる王太子殿下。
「ええ、そういうお役目ですから。冷静に率直に意見を述べ、たしなめる役がいないと単なる独裁政権になってしまいますからね」
リアンは右手人差し指を眼鏡のエッジにあてながら平然として答えた。
「さてと、惟光殿の体調も、王太子殿下の回復魔術のお陰で今は落ち着いているようですし。このまま引き取らせて頂いて宜しいですね?」
「ふん、お前の事だ。どうせ最初から連れ帰るつもりで根回ししてあるのだろう?」
「根回しとは人聞きの悪い。用意周到と言って頂きたいですねぇ」
「好きにしろ! ま、これで諦めるつもりは毛頭もないがな。惟光は私の元に居てこそ輝けるのだ。必ず、奪い返す!」
リアンにというよりはラディウス様に宣言するように一言一句はっきりと言い放つと、王太子殿下は空気に溶け込むようにして消えた。
えーと、取りあえずはラディウス様の元に帰れるのかな? それにしても、俺に色気? 全くもって初めて言われる言葉だ。あと、リアン。何だか王太子殿下と凄く近しい感じがしたんだけど、何者なんだ?
あ、ラディウス様……
お慕いしている方が近づいて来るのが目に入り、ごちゃごちゃ騒めく思考が吹き飛んだ。あぁ、パンジーみたいな深い紫色の瞳の、何とお美しい事か。
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