その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
上 下
39 / 186
第三十話

え? えーと、あの……色気って? そして、リアンって一体???

しおりを挟む
「……無礼者め。我儘放題でしつけがなされなかったあるじあるじなら、従者も従者だな。揃いも揃って結界を破って侵入してくるとは、実に野蛮で下品極まりない」

 嫌気が差したというように首を横にふり、肩をすくめながら王太子殿下は言った。ムッとして兄を睨むつけるラディウス様が口を開くよりもはやく、リアンがこたえた。

「見舞いの為の入室許可なら事前に取りましたよ。正式にね」

 相変わらず淡々とした話ぶりで落ち着いている。嵐が来ようが大雪が降ろうが平常運行という感じだ。動揺しない守護者リアンという名前はダテじゃないんだな。彼の出現で、俺のパニック状態も治まっちまったし。本当に『マルチなハイスペック男』って感じで、「ムササビの五能」とはまさしく正反対だよなぁ。

「それで、部屋に入ろうとしたら結界が張られていて入れない。それもエターナル王家一族の縁の者でないと解けない術式のもの。そうなれば、何か良からぬ事を企んでいると判断して間違い無いでしょう、まともな常識感覚の持ち主ならね」

 ラディウス様は苛立ちながら、リアンの後に言葉を続けた。

「ほほぅ、お前が常識を語るのか。はっはっは……これはまた先程に引き続き冗談が過ぎるな。どの口がほざくのだ?」
「だから、冗談ではありませんと先程も申しました! 現に、結界を破って入室して正解でしたよ。あのように、無理矢理……」

 皮肉たっぷりな王太子殿下と、依然として怒気を含んだ眼差しのラディウス様。その流れの発端が俺である事に戸惑いと驚きを覚えつつも、どこか夢の中の出来事のようにも感じている。何だか筆舌に尽くし難い複雑な感情だ。

 リアンは、お二人の様子を静観している様子だ。

「これは心外な! 私は出来得る範囲で最高の回復魔法を施そうとしていただけであるぞ! 現に体は随分と楽になっている筈だ」

 ですよね! ありがたや……

「そうであったとしても、あれは明らかに常軌を逸しています!」
「ふふふ、まぁそれは致し方ない」
「致し方ない? 開き直るおつもりですか?」
「まぁそうカッカせず最後まで聞け」

 えっ? そ、れじゃぁやっぱり……

「あれは不可抗力だ」

 不可抗力?

「私も最初は回復魔法だけで済ます予定だったのだ。だが、あまりにも惟光の色気が半端なかったのでな」

 え? な、何だって? い、色気? 誰が?

「浴衣の前をはだけていた姿に、つい……ムラムラとな」
「兄上! 気持ちは良く分かります!」

 え? わ、分かるんですか?

「ですがですね! 誘惑に負けるなど、それは王太子として如何なものかと……」
「はいはい、そこまで!」

 ヒートアップしそうだったお二人の間に、パンパンと手を叩きながら素早く割って入るリアン。

「お二人とも、このような場所で剣術にせよ魔術にせよ、感情任せにぶつけ合うなど、エターナル王家として品がありませんよ。まるで頑是がんぜない子供同士の喧嘩みたいです」

 す、すげー! 王太子殿下と第二王子を前に、臆する事なくズケズケと物申せるなんてカッコイイなぁ。いや、ていうか色気って一体……俺の事、なんだよなぁ? あっ! そう言えば『オーロラの涙』は? 急いでペンダントを確認する、チョーカーは、あるぞ。あ、あった。ペンダントトップ、背中に回ってた。あー良かった……

「それに、お二人の争いの元になっている惟光殿が、困り切っているではありませんか。王太子殿下も今回は少しおふざけが過ぎましたし、追い詰めて疲労させてしまったらせっかくの回復魔法も元の木阿弥で意味がありません。ラディウス殿下も頭に血がのぼり過ぎですよ、短気は損気です!」

 凄いなぁ。順々にお二人の目を見ながら懇々と諭している。

「そうか。確かに、そうだな。ごめんね、惟光」

 ラディウス様は素直に応じ、本当に申し訳なさそう声をかけてくださる。じゃなくて返事しろって俺!

「い、いいえ、全くそのような事は……」

 あー、しどろもどろだ。かっこ悪いな、俺。

「ふん、相変わらず口の減らない奴だな」

 忌々し気にこたえる王太子殿下。

「ええ、そういうお役目ですから。冷静に率直に意見を述べ、たしなめる役がいないと単なる独裁政権になってしまいますからね」

 リアンは右手人差し指を眼鏡のエッジにあてながら平然として答えた。

「さてと、惟光殿の体調も、王太子殿下の回復魔術のお陰で今は落ち着いているようですし。このまま引き取らせて頂いて宜しいですね?」
「ふん、お前の事だ。どうせ最初から連れ帰るつもりで根回ししてあるのだろう?」
「根回しとは人聞きの悪い。用意周到と言って頂きたいですねぇ」
「好きにしろ! ま、これで諦めるつもりは毛頭もないがな。惟光は私の元に居てこそ輝けるのだ。必ず、奪い返す!」

 リアンにというよりはラディウス様に宣言するように一言一句はっきりと言い放つと、王太子殿下は空気に溶け込むようにして消えた。

 えーと、取りあえずはラディウス様の元に帰れるのかな? それにしても、俺に色気? 全くもって初めて言われる言葉だ。あと、リアン。何だか王太子殿下と凄く近しい感じがしたんだけど、何者なんだ? 

 あ、ラディウス様……

 お慕いしている方が近づいて来るのが目に入り、ごちゃごちゃ騒めく思考が吹き飛んだ。あぁ、パンジーみたいな深い紫色の瞳の、何とお美しい事か。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...