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第二十九話
兄と弟・後編
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王太子殿下の、
「言葉でハッキリと言わねば分からぬか? フフッ、そうだな。周りの状況を察して己の言動の最適なものを推測し、上手く立ち回らねばならぬ立ち場など、お前が理解出来る筈もなかろうな」
という言葉からも推測出来る。恐らく父王はあからさまにラディウス様を溺愛していたのだろう。母君は多分、夫に顧みられない苛立ちと側室への嫉妬で『打倒! ラディウス! あいつには絶対負けるな!』みたいなスローガンを掲げて王太子殿下に接していた可能性が高い。王太子殿下からしたら、ある意味母親の心を占めているのも腹違いの弟であるように思えたのだろう。
凡人の俺からしたらさ、父王と母君が王太子殿下を無条件で抱きしめ、
『何が出来ても、何が出来なくてもお前はお前だ。そのままで良いんだ。お前の代わりは誰も居ない。私たちにとってかけがえのない存在なんだ。愛しているよ』
て伝えてくれたら丸くおさまるんじゃないか、とか思っちまう。そりゃ、長年のわだかまりはそう簡単に解けないし、王族ともなれば色んな人事やしがらみが絡むからそんなに単純に解決しないとしてもさ。
大体において、ギリシャ神話なんかも兄弟争いが発端だし、日本神話も、カインとアベルもしかり、額田王を巡っての兄弟、源頼朝と義経とか。特に兄弟争いの歴史は枚挙に暇がない例から見て、そもそもが対立し易い関係なのかもしれないけれど。そういや親子や親戚同士のもつれが発端の戦も多いな……
「……やはり、どこまで行ってもお前とは平行線、相いれないようだな」
「……そのようですね」
しばらくして、そう言い合う御二人。互いに怒りと諦めが入り混じる中にも、どこか深い哀しみも秘めているようみ感じるのは、俺が思い切り自分と弟の関係を重ねているからだろうか?
ジリジリと間合いを詰めて行くお二人を見ながら、王太子殿下の気持ちに共感し過ぎている俺がいた。
だって、だって……。ここだけの話、物凄く子供じみた事思っちまうんだけど……お二人とも悪くないんだもん。王太子殿下の母上も気持ちは分からなくもない。一番の罪作りは、王様じゃん!! 複雑怪奇極まりない事情があるにしても、てめーが作った子供なんだから責任持って愛情かけろよ! もしどうしてもそれが出来ないなら、他の子の事も溺愛なんかするんじゃねーよっ!!! もし、いらない子だっつーならな、最初っから作るんじゃねーよ!!! 大馬鹿野郎ーーーーーーーーっ!!!!!
ポタ、ポタッ。布団に雫が落ちる。気付けば、胸の奥がツーンと痛くなって大粒の涙が溢れていた。駄目だ、俺。しっかりしなきゃ! 完全に王太子殿下と自分を投影しちまってる。切り離して考えないと。でも……。
あっ! 次の瞬間、両手を口にあてて辛うじて叫び声を抑えた。
ガチーン、ガッ
突如としてラディウス様が両腰の剣を引き抜き、二本構えたと思ったら目にも止まらぬ速さで王太子殿下に切り掛かったからだ。余裕で剣を抜き、薄ら笑いさえ浮かべつつ右手の剣一つで防ぐ王太子殿下。王太子殿下は軽く剣を振ると、ラディウス様はサッと後ろに飛びのき再び剣を構えた。言葉にすると悠長だけど、一連の動きはまさに電光石火だ。
先手を打って出たのがラディウス様であった事、そして二刀流使いだった事に軽く驚く。そして怒りを湛えた瞳は深い蒼色だ。いつも優しい微笑みを絶やさないラディウス様しか知らない俺は、まるで初めて出会う人のように新鮮さとときめきを覚える。
対して王太子殿下の銀灰色の双眸は益々冴え渡り、さながら樹氷を照らす出す月のように悠然と、そして冷たく輝く。
ラディウス様は再び攻撃する隙を狙っているようだ。王太子殿下は悠然と構えている。もう、余計な事は考えてはならない。息を潜め、空気と化してお二人を見守る事に徹しよう。俺と言う存在が、どちらか一方の足枷にならぬように。
「フッ」
突然、余裕の笑みを浮かべる王太子殿下。ムッとして気色ばむラディウス様。
「いい事がある。私とお前、どちらにつきたいか今この場で惟光本人に選ばせれば良いのだ」
「はっ?」
えっ? 俺?
何を言ってるんだ、というように呆れるラディウス様に、あまりに突然の事で絶句する俺。
「惟光。私の気持ち、そなたならよく分かるであろう? 何故ならそなたと私は同じような境遇だからな」
更に畳みかける王太子殿下。にわかにそんな事言われても、どうして良いか分からない。だってどう答えても必ずどちらかが傷つくし恥をかくじゃないか……。
「惟光、一緒に帰ろう」
優しく、愛情に満ちた表情でお声をかけるラディウス様。瞳の色が柔らかな菫色に移り変わる。……あぁ、王子。やはり素敵だ……。でも、でも……心はもう決まり切っているのに、王太子殿下の事もこのまま放っておく事なんて出来ないよ。どうしたら良いんだろう?
「どうした? 何を迷う?」
甘く囁くように声をかけ、悪魔的魅力で誘い込む王太子殿下。
「惟光! おいで」
お日様みたいにあたたかく、朗らかに誘うラディウス様。どうしたら良い? どうしたらお二人とも恥をかかずに……
「お二人とも、そんな風にして彼を追い詰めたらいけませんよ」
その時、恐ろしいほど冷静な声が部屋中に響いた。
「遅くなりました」
そう言って、スッといきなり忍者のように出現し、俺の前に背を向けて守るようにして立つ高身長の男。
「「リアン!」」
お二人は同時に、その男の名を呼んだ。リアン! 彼の出現に、俺は深い安堵を覚えた。
「言葉でハッキリと言わねば分からぬか? フフッ、そうだな。周りの状況を察して己の言動の最適なものを推測し、上手く立ち回らねばならぬ立ち場など、お前が理解出来る筈もなかろうな」
という言葉からも推測出来る。恐らく父王はあからさまにラディウス様を溺愛していたのだろう。母君は多分、夫に顧みられない苛立ちと側室への嫉妬で『打倒! ラディウス! あいつには絶対負けるな!』みたいなスローガンを掲げて王太子殿下に接していた可能性が高い。王太子殿下からしたら、ある意味母親の心を占めているのも腹違いの弟であるように思えたのだろう。
凡人の俺からしたらさ、父王と母君が王太子殿下を無条件で抱きしめ、
『何が出来ても、何が出来なくてもお前はお前だ。そのままで良いんだ。お前の代わりは誰も居ない。私たちにとってかけがえのない存在なんだ。愛しているよ』
て伝えてくれたら丸くおさまるんじゃないか、とか思っちまう。そりゃ、長年のわだかまりはそう簡単に解けないし、王族ともなれば色んな人事やしがらみが絡むからそんなに単純に解決しないとしてもさ。
大体において、ギリシャ神話なんかも兄弟争いが発端だし、日本神話も、カインとアベルもしかり、額田王を巡っての兄弟、源頼朝と義経とか。特に兄弟争いの歴史は枚挙に暇がない例から見て、そもそもが対立し易い関係なのかもしれないけれど。そういや親子や親戚同士のもつれが発端の戦も多いな……
「……やはり、どこまで行ってもお前とは平行線、相いれないようだな」
「……そのようですね」
しばらくして、そう言い合う御二人。互いに怒りと諦めが入り混じる中にも、どこか深い哀しみも秘めているようみ感じるのは、俺が思い切り自分と弟の関係を重ねているからだろうか?
ジリジリと間合いを詰めて行くお二人を見ながら、王太子殿下の気持ちに共感し過ぎている俺がいた。
だって、だって……。ここだけの話、物凄く子供じみた事思っちまうんだけど……お二人とも悪くないんだもん。王太子殿下の母上も気持ちは分からなくもない。一番の罪作りは、王様じゃん!! 複雑怪奇極まりない事情があるにしても、てめーが作った子供なんだから責任持って愛情かけろよ! もしどうしてもそれが出来ないなら、他の子の事も溺愛なんかするんじゃねーよっ!!! もし、いらない子だっつーならな、最初っから作るんじゃねーよ!!! 大馬鹿野郎ーーーーーーーーっ!!!!!
ポタ、ポタッ。布団に雫が落ちる。気付けば、胸の奥がツーンと痛くなって大粒の涙が溢れていた。駄目だ、俺。しっかりしなきゃ! 完全に王太子殿下と自分を投影しちまってる。切り離して考えないと。でも……。
あっ! 次の瞬間、両手を口にあてて辛うじて叫び声を抑えた。
ガチーン、ガッ
突如としてラディウス様が両腰の剣を引き抜き、二本構えたと思ったら目にも止まらぬ速さで王太子殿下に切り掛かったからだ。余裕で剣を抜き、薄ら笑いさえ浮かべつつ右手の剣一つで防ぐ王太子殿下。王太子殿下は軽く剣を振ると、ラディウス様はサッと後ろに飛びのき再び剣を構えた。言葉にすると悠長だけど、一連の動きはまさに電光石火だ。
先手を打って出たのがラディウス様であった事、そして二刀流使いだった事に軽く驚く。そして怒りを湛えた瞳は深い蒼色だ。いつも優しい微笑みを絶やさないラディウス様しか知らない俺は、まるで初めて出会う人のように新鮮さとときめきを覚える。
対して王太子殿下の銀灰色の双眸は益々冴え渡り、さながら樹氷を照らす出す月のように悠然と、そして冷たく輝く。
ラディウス様は再び攻撃する隙を狙っているようだ。王太子殿下は悠然と構えている。もう、余計な事は考えてはならない。息を潜め、空気と化してお二人を見守る事に徹しよう。俺と言う存在が、どちらか一方の足枷にならぬように。
「フッ」
突然、余裕の笑みを浮かべる王太子殿下。ムッとして気色ばむラディウス様。
「いい事がある。私とお前、どちらにつきたいか今この場で惟光本人に選ばせれば良いのだ」
「はっ?」
えっ? 俺?
何を言ってるんだ、というように呆れるラディウス様に、あまりに突然の事で絶句する俺。
「惟光。私の気持ち、そなたならよく分かるであろう? 何故ならそなたと私は同じような境遇だからな」
更に畳みかける王太子殿下。にわかにそんな事言われても、どうして良いか分からない。だってどう答えても必ずどちらかが傷つくし恥をかくじゃないか……。
「惟光、一緒に帰ろう」
優しく、愛情に満ちた表情でお声をかけるラディウス様。瞳の色が柔らかな菫色に移り変わる。……あぁ、王子。やはり素敵だ……。でも、でも……心はもう決まり切っているのに、王太子殿下の事もこのまま放っておく事なんて出来ないよ。どうしたら良いんだろう?
「どうした? 何を迷う?」
甘く囁くように声をかけ、悪魔的魅力で誘い込む王太子殿下。
「惟光! おいで」
お日様みたいにあたたかく、朗らかに誘うラディウス様。どうしたら良い? どうしたらお二人とも恥をかかずに……
「お二人とも、そんな風にして彼を追い詰めたらいけませんよ」
その時、恐ろしいほど冷静な声が部屋中に響いた。
「遅くなりました」
そう言って、スッといきなり忍者のように出現し、俺の前に背を向けて守るようにして立つ高身長の男。
「「リアン!」」
お二人は同時に、その男の名を呼んだ。リアン! 彼の出現に、俺は深い安堵を覚えた。
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