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第二十五話
王太子殿下の近衛兵四天王・後編
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「何で? どうしてあんな事……」
サイラスは困惑したように口を開く。今はコイツの感情が落ち着くまで耳を傾けよう。まずは思っている事を吐き出させてやらないとな。
「あんな事とは?」
「もしかして、恩を売ろうって言うのか?」
「恩?」
「そうだ! それで、僕を下僕にしようとする魂胆なんだろう! だって、あんな事しようとした僕に……」
そう来たか。そんな発想しか出来ないほど、ギリギリのメンタルなのか。可哀想にな……
「そんな事するつもりはねーさ。第一、お前は王太子殿下の近衛兵だろう? 俺が下僕に出来る訳ないじゃないか」
国同士の争いは無い、てリアンが前言ってたし。護衛って言っても王太子殿下に謀反を企てようとするつわものなんているのかなぁ。こいつと仲良くなれば、その辺り事情も聞けそうだけど、どうなるかな。転移者かつ警護に就く訳でもない俺がリアンこの辺りを突っ込んで聞くのも変だし、教えて貰えれば助かるんだがなぁ。
サイラスの奴、ムスッと黙り込んじまった。話し出すまで待つか。
「……王太子殿下は、あの通り気まぐれな方だから……」
やがてサイラスはスリッパを脱ぎ、椅子の上で膝を抱えるようにして座るとポツリ、ポツリと話始めた。
「僕の前任は、ラディウス殿下のところから引き抜いて来た人だったらしい。でも飽きたとかでどこかに異動させられた。……一年持てば長い方だって聞いた。四天王の内、北を司るハロルド様が三年目になるんだけど、四天王の中ではベテラン扱いだよ」
あーぁ、王太子殿下も罪作りな御方だ。
「……そうか。それで、サイラスは勤めてどのくらいになるんだ?」
「来月で一年……」
「なるほどな。そこに、俺が来た訳だ」
「うん。話しを聞いた時、何て狡い奴なんだ! て思った」
「狡い? 俺が?」
「うん。だってラディウス殿下のお気に入りだって言うし、その上王太子殿下の関心までかうなんてさ」
「おいおい、それは大なる誤解だぞ。それにこの体じゃ近衛兵自体、なれる筈もないだろうが」
少し、心を開いてきたみたいだな。
「でも、体が回復したら、僕の座に着かせるつもりなんだと思ったし。それに、国同士の争い事は無いから任務自体キツくないし。王太子殿下は秘書も護衛も必要ないくらい、御一人で同時に何でも素早く完璧にお出来になるし、御強いから。御一人で行動なさる事も多いし。実際あんまり近衛兵の出番て無いから。そっちもそんな感じだろうから分かると思うけど」
え? て事はやっぱり、近衛兵だの四天王だのって威厳と権威の象徴のお飾り的存在なのか? だが、うかつに返事をするのは危険だ。コイツが鎌をかけているだけという可能性もある。明言は避けるべきだな。……そもそもがこの世界の軍事事情とか知らないんだけどね。
でも王太子殿下が何でも一人でやる、というのは想像出来る。だって本来なら、俺がいるところにわざわざ伝言しに来たりしないよな。こういうのこそ執事やら秘書やらにやらせるもんだし。まず一人で俺の看病とかもあり得ないもんな。
「……転移したばかりでその辺りの事情はよく知らんのだ。そうは言っても、近衛兵たちは常に体を鍛えたり腕を磨いたりしてるだろう?」
と想像でものを言ってみる。
「そりゃそうさ。だって『王位継承の秘宝』を盗み出そうとする奴がいつ襲ってくるか分からんからな」
えー? なんだそれ? 全然平和じゃねーじゃん!
「『王位継承の秘宝』? 何だ? それ」
「お前、そんな事も知らなかったのか?」
サイラスは心底呆れたように俺を見つめる。知らねーもんは知らねーよ。
「あぁ、知らん。ここに来て殆ど療養生活だったし」
「……そうか、ごめん」
申し訳なさそうに俯いた。サイラス、やっぱり根は悪い奴じゃなそうだ。
「いや。それより差し支えない範囲で構わないから、その『王位継承の秘宝』について聞かせて欲しいな。ほら、この国にいるなら知っていて当たり前、て感じの情報で良いからさ」
「うん、そうだな……」
考えている様子だ。お互い腹の探り合いか。
『王位継承の秘宝』、三種の神器みたいな感じかな? それとも十種神宝みたいなやつかな?
やがてサイラスは考え込みながら口を開いた。
「……秘宝と言われるだけあって、『王位継承の秘宝』がどういう代物なのかまでは知らないけど、全部で五種類あるらしい。簡単に言えばその秘宝さえあれば『エターナル王家』ではなくても彩光界を統べる事が出来る、て事なんだ。王族でも貴族でも平民でも関係無くね。だけどエターナル王家は古くからずっとこの世界を統治して来たし。殆どの奴は『王位継承の秘宝』を盗んでまでこの世界を統治しよう、なんて考えないけどね」
「……中には、その秘宝を盗もうとするのもいる、て事か」
サイラスは黙って頷き、言葉を続けた。五つの秘宝かぁ。ファンタジーらしくなって来たなぁ。なんて呑気にもちょっとワクワクしちまった。
「いつ狙ってくるか分かないから。常に戦闘力を磨いておく必要があるんだ。『王位継承の秘宝』の内、二つはラディウス殿下の元にあるらしいから、狙われる可能性はこっちと変わら無いだろうし、軍事事情はそう大差ないと思うよ」
「なるほどなぁ」
ふと、ラディウス王子の近衛兵大将とやらを思い浮かべた。どこの世界にも、己の野望を満たす為に罪に手を染めたり人を攻撃したりする奴らは変わらずいる、て事か。幽世まで行けば、さすがにそういうのは無い……のかなぁ。
「因みに、王太子殿下の近衛兵四天王は、さっき話した北を司るのハロルド様、西を司るエリック様、南を司るオーガスト様、東は僕サイラスだ。総指揮官はベネディクト様。ベネディクト様は今年十年目で、四天王と違ってコロコロ変わったりしないよ」
「そうか。おおよその事は把握出来たよ。有難う、助かった」
そりゃそうだよな。いくらなんでも軍隊の総指揮官がコロコロ代わるのは拙いもんな。
「……いや、この世界の者なら知っていて当たり前の情報しか話してないから」
照れたように笑うサイラス。コイツも、俺と同じで、褒めて貰う事に慣れてないのかな。
「それで良いのさ。この世界の事、よく分かってないからさ。寝込んでばかりで」
情けないけど、そうなんだよな。あれ? サイラスの奴、突然真顔で俺を見つめやがった。何だ?
「……どうして、王太子殿下に本当の事話さなかったのさ? 下手したら死んじゃうかも知れなかったのに。それに、僕を庇って、あん嘘までついてさ」
膝を抱えていた足をおろし、姿勢を正して身を乗り出すようにして問いかけた。切実な眼差しだ。漸く、向き合うチャンスが来たな。
「……それは、たまたま魔が差しただけで悪い奴には思えなかったし。何よりもお前の気持ち、よく理解出来たからさ」
しっかりとサイラスの視線を受け止め、率直に応じた。脳裏に浮かぶは、弟しか目に入らない両親の姿だ。
サイラスは困惑したように口を開く。今はコイツの感情が落ち着くまで耳を傾けよう。まずは思っている事を吐き出させてやらないとな。
「あんな事とは?」
「もしかして、恩を売ろうって言うのか?」
「恩?」
「そうだ! それで、僕を下僕にしようとする魂胆なんだろう! だって、あんな事しようとした僕に……」
そう来たか。そんな発想しか出来ないほど、ギリギリのメンタルなのか。可哀想にな……
「そんな事するつもりはねーさ。第一、お前は王太子殿下の近衛兵だろう? 俺が下僕に出来る訳ないじゃないか」
国同士の争いは無い、てリアンが前言ってたし。護衛って言っても王太子殿下に謀反を企てようとするつわものなんているのかなぁ。こいつと仲良くなれば、その辺り事情も聞けそうだけど、どうなるかな。転移者かつ警護に就く訳でもない俺がリアンこの辺りを突っ込んで聞くのも変だし、教えて貰えれば助かるんだがなぁ。
サイラスの奴、ムスッと黙り込んじまった。話し出すまで待つか。
「……王太子殿下は、あの通り気まぐれな方だから……」
やがてサイラスはスリッパを脱ぎ、椅子の上で膝を抱えるようにして座るとポツリ、ポツリと話始めた。
「僕の前任は、ラディウス殿下のところから引き抜いて来た人だったらしい。でも飽きたとかでどこかに異動させられた。……一年持てば長い方だって聞いた。四天王の内、北を司るハロルド様が三年目になるんだけど、四天王の中ではベテラン扱いだよ」
あーぁ、王太子殿下も罪作りな御方だ。
「……そうか。それで、サイラスは勤めてどのくらいになるんだ?」
「来月で一年……」
「なるほどな。そこに、俺が来た訳だ」
「うん。話しを聞いた時、何て狡い奴なんだ! て思った」
「狡い? 俺が?」
「うん。だってラディウス殿下のお気に入りだって言うし、その上王太子殿下の関心までかうなんてさ」
「おいおい、それは大なる誤解だぞ。それにこの体じゃ近衛兵自体、なれる筈もないだろうが」
少し、心を開いてきたみたいだな。
「でも、体が回復したら、僕の座に着かせるつもりなんだと思ったし。それに、国同士の争い事は無いから任務自体キツくないし。王太子殿下は秘書も護衛も必要ないくらい、御一人で同時に何でも素早く完璧にお出来になるし、御強いから。御一人で行動なさる事も多いし。実際あんまり近衛兵の出番て無いから。そっちもそんな感じだろうから分かると思うけど」
え? て事はやっぱり、近衛兵だの四天王だのって威厳と権威の象徴のお飾り的存在なのか? だが、うかつに返事をするのは危険だ。コイツが鎌をかけているだけという可能性もある。明言は避けるべきだな。……そもそもがこの世界の軍事事情とか知らないんだけどね。
でも王太子殿下が何でも一人でやる、というのは想像出来る。だって本来なら、俺がいるところにわざわざ伝言しに来たりしないよな。こういうのこそ執事やら秘書やらにやらせるもんだし。まず一人で俺の看病とかもあり得ないもんな。
「……転移したばかりでその辺りの事情はよく知らんのだ。そうは言っても、近衛兵たちは常に体を鍛えたり腕を磨いたりしてるだろう?」
と想像でものを言ってみる。
「そりゃそうさ。だって『王位継承の秘宝』を盗み出そうとする奴がいつ襲ってくるか分からんからな」
えー? なんだそれ? 全然平和じゃねーじゃん!
「『王位継承の秘宝』? 何だ? それ」
「お前、そんな事も知らなかったのか?」
サイラスは心底呆れたように俺を見つめる。知らねーもんは知らねーよ。
「あぁ、知らん。ここに来て殆ど療養生活だったし」
「……そうか、ごめん」
申し訳なさそうに俯いた。サイラス、やっぱり根は悪い奴じゃなそうだ。
「いや。それより差し支えない範囲で構わないから、その『王位継承の秘宝』について聞かせて欲しいな。ほら、この国にいるなら知っていて当たり前、て感じの情報で良いからさ」
「うん、そうだな……」
考えている様子だ。お互い腹の探り合いか。
『王位継承の秘宝』、三種の神器みたいな感じかな? それとも十種神宝みたいなやつかな?
やがてサイラスは考え込みながら口を開いた。
「……秘宝と言われるだけあって、『王位継承の秘宝』がどういう代物なのかまでは知らないけど、全部で五種類あるらしい。簡単に言えばその秘宝さえあれば『エターナル王家』ではなくても彩光界を統べる事が出来る、て事なんだ。王族でも貴族でも平民でも関係無くね。だけどエターナル王家は古くからずっとこの世界を統治して来たし。殆どの奴は『王位継承の秘宝』を盗んでまでこの世界を統治しよう、なんて考えないけどね」
「……中には、その秘宝を盗もうとするのもいる、て事か」
サイラスは黙って頷き、言葉を続けた。五つの秘宝かぁ。ファンタジーらしくなって来たなぁ。なんて呑気にもちょっとワクワクしちまった。
「いつ狙ってくるか分かないから。常に戦闘力を磨いておく必要があるんだ。『王位継承の秘宝』の内、二つはラディウス殿下の元にあるらしいから、狙われる可能性はこっちと変わら無いだろうし、軍事事情はそう大差ないと思うよ」
「なるほどなぁ」
ふと、ラディウス王子の近衛兵大将とやらを思い浮かべた。どこの世界にも、己の野望を満たす為に罪に手を染めたり人を攻撃したりする奴らは変わらずいる、て事か。幽世まで行けば、さすがにそういうのは無い……のかなぁ。
「因みに、王太子殿下の近衛兵四天王は、さっき話した北を司るのハロルド様、西を司るエリック様、南を司るオーガスト様、東は僕サイラスだ。総指揮官はベネディクト様。ベネディクト様は今年十年目で、四天王と違ってコロコロ変わったりしないよ」
「そうか。おおよその事は把握出来たよ。有難う、助かった」
そりゃそうだよな。いくらなんでも軍隊の総指揮官がコロコロ代わるのは拙いもんな。
「……いや、この世界の者なら知っていて当たり前の情報しか話してないから」
照れたように笑うサイラス。コイツも、俺と同じで、褒めて貰う事に慣れてないのかな。
「それで良いのさ。この世界の事、よく分かってないからさ。寝込んでばかりで」
情けないけど、そうなんだよな。あれ? サイラスの奴、突然真顔で俺を見つめやがった。何だ?
「……どうして、王太子殿下に本当の事話さなかったのさ? 下手したら死んじゃうかも知れなかったのに。それに、僕を庇って、あん嘘までついてさ」
膝を抱えていた足をおろし、姿勢を正して身を乗り出すようにして問いかけた。切実な眼差しだ。漸く、向き合うチャンスが来たな。
「……それは、たまたま魔が差しただけで悪い奴には思えなかったし。何よりもお前の気持ち、よく理解出来たからさ」
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