その男、有能につき……

大和撫子

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第十七話

過去の対人関係から培われたスキルを活かせ!!!

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 落ち着け! 激情に呑み込まれて焦ったら負けだ。リアンは眼鏡のエッジに右人差し指を置いたまま成り行きを静観している様子だ。まぁ、ここで助け船を出されたら後々俺がいい笑い者だしな。ここは俺自身で何とか切り抜けないと! ふと、胸のペンダントがじんわりと熱く感じた。

……大丈夫……

 王子がそう勇気づけてくれるような気がした。

 こんな風に、あからさまに居丈高な態度に出られたり。弟と比較して馬鹿にされたりとかよくあったじゃないか。その時の経験を活かすんだ! 

 蛍光ブルー頭ナサ二エル蛍光ピンク頭ジェレミア(←←分かり易い仮名ふりだよな)も腕組みをしたまま、「フン、馬鹿が」と言うような様子で鼻でせせら笑っている。この手のタイプは根っからの自信過剰か。または深層心理では劣等感の塊でそれを悟られないように相手を馬鹿にする事で自分を上に魅せようと(見せるじゃない、魅せるだ)しているかのどちらかだ。いずれにせよ、根本には拗れた承認欲求が隠れている。だから、プライドを刺激しては逆効果だ。どちらにせよ、こちらは下手に出て相手を上手く立てる、これがこの場を乗り切るキ-ポイントだ。

 よしっ、勝負だ! 兄弟格差による対人関係から培われたモブの経験値を舐めるなよっ! だからと言ってオドオドしてていれば奴らは益々つけ上がる。蛍光縦ロール頭兄弟やつら(←面倒だから二人まとめてこの仮名ふりだ)から目を反らすな! 猫背になるな! 口角を上げて落ち着いて切り出せ!

「……ええ、おっしゃる通り、自分はこの世界の事を何一つ分かっておりません。この度の待遇、大変身に余る光栄に存じます」

 意外そうに顔を見合わせる蛍光縦ロール頭兄弟やつら。そして同時にポカンとして俺を見る。よし、効いてるぞ。そのままそのまま、目を反らさず、口角を上げたまま怯むな! だけど決して調子に乗らず謙虚に、慎重に慎重に……

「殿下にお逢いした際の馥郁ふくいくたる香気、美しいお肌、素晴らしいお召し物に抜群のセンス。どれをとっても本当に極上で。この度、殿下の美容を担当なされるお二人にお逢い出来るのを楽しみにしておりました。自分のような未熟者が、最高級のテクニックをお持ちになるお二人に直接学ばせて頂けるなんて、本当に夢のようです」

 と頭を下げた。ダテに完璧な弟と比較され、出来損ない屑兄貴に認定された人生を歩んで来てないぜ。淀みなく口から流れ出る言葉が、その経験値がいか程のものだったかを物語る。ほーら、案の定二人は話しを聞いている内に高圧的な態度を軟化させ始めた。話し終わる頃には、照れたように笑いを浮かべているぞ。

「いやぁ……まぁ、それほどのもんでもないよなぁ。まぁ、僕達の右に出るやつは居ないけどね」

 照れたふりして自信満々な様子の蛍光ピンク頭ジェレミアは、隣の蛍光ブルー頭ナサニエルに話しかける。直接言葉にしちゃうあたり、案外単純明快なタイプか?

「ふ、ふふん。まあ、それほどまでに切望していたっていうなら、特別に僕たちのテクニックを見せてやらないでもないね」

 切望なんかしてる訳ねーだろ、アドリブで今考え付いたこの場を切り抜ける為の処世術だって。如何にも勿体ぶってさも偉そうに回りくどく言う蛍光ブルー頭ダニエル。まぁ、俺の対処方法は間違ってなかったようだ。さぁ、もう一声だ! にっこりと嬉しそうに微笑むんだ。

「見せて頂けるんですね! うわぁ、嬉しいです! 有難うございます!」

 感激したように声を弾ませ、ペコリと頭を下げた。意外そうに俺を見て、いささか拍子抜けしたように力なく笑う蛍光縦ロール頭兄弟やつら。二人は顔を見合わせると再び俺をみた。蛍光ブルー頭ナサニエルは左手で、蛍光ピンク頭ジェレミアは右手で、二人同時に前髪をかき上げ、

「「仕方無いな、そこまで言うなら。見せてあげよう」」

 と得意そうに声を揃えて言った。いや、ていうかそもそもがさ、俺に仕事を教えるよう命じれてる筈だろ? 職務放棄しようとしてたのか? という突っ込みは入れてはいけないのは勿論の事、顔や態度にも一ミリも出してはいけない。

「有難うございますっ! 宜しくお願いします!」

 嬉しそうに元気よく答え、再び頭を下げた。得意げに笑う二人。リアンは眼鏡のエッジから右手を外した。ハシバミ色の瞳からは何の感情も読みとれない。端正な顔立ちはまさに通常通りポーカーフェイスだ。俺も行く行くはあんな風に全てをマルチに出来る男になりたいものだ。何でも一通りそこそここなせる俺、ではなくさ……。

 さぁ、第一関門は取りあえずは突破したぞ。次は第二ラウンドだ!
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