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第十四話
甘美なる夢現
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王子は、そっと左手を俺の首筋に這わせ、そのまま左胸に滑らせる。ゆっくりと、丁寧に。ゾクゾクと体の芯が熱く震え、思わず体をのけぞらせた。時折王子の髪が顎に触れ、そのサラサラ滑らかな感触が心地良い。その髪から、ほんのりと薔薇の香りが漂う。
……リアルな夢だ。異世界特有の夢なのだろうか……
「んっ!」
思わず吐息を漏らす。王子が右側の首筋に唇を這わせたから。優しく、まるで壊れ物を扱うように。
「……大丈夫、体の力を抜いて。根本治療は無理だけど、体の痛みと怠さを軽減させ、少しだけなら熱を吸い取る事が出来るから」
左の耳元で甘く囁く王子の声。メープルシロップみたいな甘い吐息に、脳の芯が白くかすむ。囁かれた左耳から全身に波紋が広がるように、体がゾクゾクした。それは高熱による悪寒ではなく未知の快楽への予感によるものだ。王子は再び先程の部分に唇を這わせた。マショマロみたいに柔らかくてその癖弾力に富んだ感触がくすぐったさ快感を同時に与える。
……夢だよな、これ……
くっ! 声にならない叫びをあげる。王子が唇を這わせた場所にそのまま吸い付いたのを感じたからだ。王子はそのままゆっくりと吸い続け、左胸に這わせた右手で俺を静かに抱き寄せた。同時に、あれほどしんどかった体の怠さや節々の痛みが少しずつ少しずつ和らいでいく。同時にクリアになっていく思考。やがて王子はゆっくりと首筋から唇をはなし、俺を見つめた。少し首を上げれば、俺の唇が王子の唇に触れちまいそうだ。待て! 待て待て! 夢とは言えこれは恥ずかしいっ!
「良かった。体、少し楽になったみたいだね」
ふわりと笑った。瞳がワインみたいな深い赤紫に変化している。あれほどしんどかった体は、嘘みたいに軽やかだ。だけど、これって……うわ、やべっ!
「で、殿下! い、いけませんっ! 畏れ多いです、こ、こんなっ!」
思考がクリアになった途端、恥ずかしさよりも申し訳無さというか焦りが先に立った。即刻、王子から離れなければと焦った。
「どうして? 体、楽になったでしょ?」
不思議そうに首を傾げる王子。あ、今度は菖蒲色の瞳……に。この色も素敵だ……じゃなくて見惚れている場合かっ!
「は、はい、それはもう勿体無いくらいに!」
「なら、良かった」
本当に嬉しそうに微笑んでくださって。有り難い、でも、でも夢でも何でも、これは……甘んじて受けて良い案件じゃないぞきっと!
「お、恐れながら殿下、非常に有り難く身に余る事なのでありますが……こ、こういった行為は、殿下に多大なるご負担をかけてしまうのではないでしょうかっ!」
うわっ! 敬語謙譲語丁寧語滅茶苦茶だっ! でも、これはゆゆしき事態だぞっ! 夢だとしても異世界の事だ、なんらかの影響がリアルに出る可能性だったあるかも分からん!
「じ、自分などの為に、殿下の御体に多大なご負担をかけてし……」
「はい、そこまで」
王子はそれ以上言わせないようにそのグイッと俺を抱き起し、その腕に力を込めて胸に抱きしめた。トクットクッと王子の鼓動が耳を伝う。突然の事で言葉を失いつつも、もしかしてほんの少しくらいは、王子に好意を持たれているのかもしれない、という甘い期待に胸が震えた。
「大丈夫。そんな心配しないで。これはね、一族に伝わる秘術の一つなんだ。自分の体に負担をかけずに相手の苦痛を軽減させる魔術なんだけどね。医術じゃないから、根本的な治療にはならないし、あくまで症状を和らげてあげるだけなんだけど、これで食欲も湧くし、ぐっすり眠れると思うんだ」
王子は、まるで子守唄を歌うように優しく語った。
「有り難き……幸せに存じます」
胸がいっぱいで、それしか言えなかった。だって、王子ほどの御方が、俺なんかの為に……。夢でも、嬉しい。このまま醒めないで欲しいと願うくらい、いいよな。
「初めて見た時もそう思ったけど、君は本当に思いやり深くて優しいんだね。自分の事よりもまず他人を思いやれる。それも見返りを期待したり自分の損得で動いたりしない、本当に純粋な思いだ。滅多にできる事じゃないよ。物質界でも、ここの世界でも」
王子の言葉は、乾いた大地を潤す恵みの雨のようにじわじわと心の奥に染みわたっていった。そんな風に褒めて貰ったのは生まれて初めてで。照れくさくてくすぐったい気持ちと同時に、胸がいっぱいになって涙が溢れた。
「そんな風におっしゃって頂いたの、生まれて初めてです……お、恐れ入ります」
声が震えないよう、それだけ言うのが精一杯だった。
「……本当の事だよ。そんな純粋な優しさと思いやりの深さに、僕は惹かれたんだ。そういう美点は、踏みにじられたり利用されたりし易い。それでも損なわれなかった君の美点、僕が全てをかけて守りたいと思ったんだ」
少し照れたように言う王子。え? それって……どういう??? もしかして、それって……
「さ、もう眠った方が良いよ」
王子のその声を聞いた途端、強烈な眠気に襲われた。待って、もう少し……今言ってくれた事、よく噛みしめ……た……い……
「そうそう、宝土界でね、君にぴったりの宝石を見つけたんだ。ペンダント、つけてあげるね……」
王子はゆっくりと俺を支えるようにして寝かすと、首の周りに……駄目だ……眠……
……リアルな夢だ。異世界特有の夢なのだろうか……
「んっ!」
思わず吐息を漏らす。王子が右側の首筋に唇を這わせたから。優しく、まるで壊れ物を扱うように。
「……大丈夫、体の力を抜いて。根本治療は無理だけど、体の痛みと怠さを軽減させ、少しだけなら熱を吸い取る事が出来るから」
左の耳元で甘く囁く王子の声。メープルシロップみたいな甘い吐息に、脳の芯が白くかすむ。囁かれた左耳から全身に波紋が広がるように、体がゾクゾクした。それは高熱による悪寒ではなく未知の快楽への予感によるものだ。王子は再び先程の部分に唇を這わせた。マショマロみたいに柔らかくてその癖弾力に富んだ感触がくすぐったさ快感を同時に与える。
……夢だよな、これ……
くっ! 声にならない叫びをあげる。王子が唇を這わせた場所にそのまま吸い付いたのを感じたからだ。王子はそのままゆっくりと吸い続け、左胸に這わせた右手で俺を静かに抱き寄せた。同時に、あれほどしんどかった体の怠さや節々の痛みが少しずつ少しずつ和らいでいく。同時にクリアになっていく思考。やがて王子はゆっくりと首筋から唇をはなし、俺を見つめた。少し首を上げれば、俺の唇が王子の唇に触れちまいそうだ。待て! 待て待て! 夢とは言えこれは恥ずかしいっ!
「良かった。体、少し楽になったみたいだね」
ふわりと笑った。瞳がワインみたいな深い赤紫に変化している。あれほどしんどかった体は、嘘みたいに軽やかだ。だけど、これって……うわ、やべっ!
「で、殿下! い、いけませんっ! 畏れ多いです、こ、こんなっ!」
思考がクリアになった途端、恥ずかしさよりも申し訳無さというか焦りが先に立った。即刻、王子から離れなければと焦った。
「どうして? 体、楽になったでしょ?」
不思議そうに首を傾げる王子。あ、今度は菖蒲色の瞳……に。この色も素敵だ……じゃなくて見惚れている場合かっ!
「は、はい、それはもう勿体無いくらいに!」
「なら、良かった」
本当に嬉しそうに微笑んでくださって。有り難い、でも、でも夢でも何でも、これは……甘んじて受けて良い案件じゃないぞきっと!
「お、恐れながら殿下、非常に有り難く身に余る事なのでありますが……こ、こういった行為は、殿下に多大なるご負担をかけてしまうのではないでしょうかっ!」
うわっ! 敬語謙譲語丁寧語滅茶苦茶だっ! でも、これはゆゆしき事態だぞっ! 夢だとしても異世界の事だ、なんらかの影響がリアルに出る可能性だったあるかも分からん!
「じ、自分などの為に、殿下の御体に多大なご負担をかけてし……」
「はい、そこまで」
王子はそれ以上言わせないようにそのグイッと俺を抱き起し、その腕に力を込めて胸に抱きしめた。トクットクッと王子の鼓動が耳を伝う。突然の事で言葉を失いつつも、もしかしてほんの少しくらいは、王子に好意を持たれているのかもしれない、という甘い期待に胸が震えた。
「大丈夫。そんな心配しないで。これはね、一族に伝わる秘術の一つなんだ。自分の体に負担をかけずに相手の苦痛を軽減させる魔術なんだけどね。医術じゃないから、根本的な治療にはならないし、あくまで症状を和らげてあげるだけなんだけど、これで食欲も湧くし、ぐっすり眠れると思うんだ」
王子は、まるで子守唄を歌うように優しく語った。
「有り難き……幸せに存じます」
胸がいっぱいで、それしか言えなかった。だって、王子ほどの御方が、俺なんかの為に……。夢でも、嬉しい。このまま醒めないで欲しいと願うくらい、いいよな。
「初めて見た時もそう思ったけど、君は本当に思いやり深くて優しいんだね。自分の事よりもまず他人を思いやれる。それも見返りを期待したり自分の損得で動いたりしない、本当に純粋な思いだ。滅多にできる事じゃないよ。物質界でも、ここの世界でも」
王子の言葉は、乾いた大地を潤す恵みの雨のようにじわじわと心の奥に染みわたっていった。そんな風に褒めて貰ったのは生まれて初めてで。照れくさくてくすぐったい気持ちと同時に、胸がいっぱいになって涙が溢れた。
「そんな風におっしゃって頂いたの、生まれて初めてです……お、恐れ入ります」
声が震えないよう、それだけ言うのが精一杯だった。
「……本当の事だよ。そんな純粋な優しさと思いやりの深さに、僕は惹かれたんだ。そういう美点は、踏みにじられたり利用されたりし易い。それでも損なわれなかった君の美点、僕が全てをかけて守りたいと思ったんだ」
少し照れたように言う王子。え? それって……どういう??? もしかして、それって……
「さ、もう眠った方が良いよ」
王子のその声を聞いた途端、強烈な眠気に襲われた。待って、もう少し……今言ってくれた事、よく噛みしめ……た……い……
「そうそう、宝土界でね、君にぴったりの宝石を見つけたんだ。ペンダント、つけてあげるね……」
王子はゆっくりと俺を支えるようにして寝かすと、首の周りに……駄目だ……眠……
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