その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
上 下
7 / 186
第五話

さて、俺は異世界転生か転移なのか? 結果は如何に?

しおりを挟む
 こんな広い部屋に一人か……。そういや体調がどうの、て王子もリアンも言ってたけど、単なる二日酔いだよなぁ。異世界に来て環境変わったから知恵熱みたいなもんかもな。時折軽い咳が出て、少し怠い感じするけど。これはきっと寝過ぎによるものと見た。そろそろ起きて部屋の中見て回るくらい、いいよな? そうだ! 携帯はどうしたかな? まさかあってもここじゃ圏外だろうけどさ。

 と言う事で、ベッドからおりてみる事にした。起き上がってみて改めて感じる。このベッド、大人四人は余裕で寝れそうな広さだって。何となくだけど少し頭がクラクラしているような……。どれだけ寝てたんだろう? 時間経過とかやっぱり異世界だから違うのかな。そういえば、ここの食べ物とかどんな感じなんだろう?

「あれ?」

 そして草色の浴衣……ほら、旅館とかで出される簡易式の感じの……着替えさせられていた。誰が着替えさせたのかは知らないけど、何だかちょっと恥ずかしい気がした。ベッドからおりてみる。広い部屋だ。二十畳くらいあるかな。よく見ると、ベッドの下にミントグリーン色のスリッパが二足揃えられている。これを履け、て事か。履き心地良いな。きっと良い素材で出来てるんだろうな。床はワインカラーの絨毯が敷き詰められている。これ、部屋の掃除とか大変そうだ。

 ベッドは壁にピタリとつけられて置かれ、左奥にダークブラウンの扉がある。左右はガラス張り……まぁ、窓だろうな。レースのカーテンが閉められているし、左右には深緑色のカーテンが留められているから。因みに壁は桜色、て感じだな。殆ど白に近いピンク色だ。

 上を見上げてみる。天井も高いや。部屋の真ん中に大きくてゴージャスなシャンデリアがついてる。ほら、やっぱりシャンデリアだよな。立ち上がって、シャンデリアがどんな感じなのか見てみよう。あれ? 何だかフラフラするような……。寝過ぎて平衡感覚がおかしくなっているのかな。

 思わずもう一度ベッドに座り込んじまった。なんだかなー。まさかリハビリが必要なほど寝込んでた訳じゃねーだろうなぁ? あれか? 異世界だから時間経過が竜宮城みたいな感じで人間界での一日が十年単位とかさ。まさかな。もう一度立ってみよう。駄目だ、天井と床がひっくり返ったみたいにグルグル回っている。何だよ、これ。異世界酔い、みたいなやつかな? 今即席で作ってみたんだけどさ。シャンデリアがどうなっているのか見るくらい良いじゃん。

 ベッドに右手をついて屈んでいる俺。もうお一度チャレンジだ! その時、ゲホッゴホゴホッゴホッ……急に胸の奥から込み上げるように咳が出始めた。ゴホッゴホゲホッ……何で? 苦しい、咳が止まらない! 右手で口元を抑え、左手で胸を掻きむしった。そのまま床に屈みこむ。

 ゴホッゴホゲホゲホッ……苦しい……助けて、王子……。息を吸う事も吐く事も出来なくてどうしようもなくなった俺は、その時王子の顔が思い浮かんだ。俺……まさか病気なんか? 異世界で? 王子……

 トントントン、と扉を叩く音。王子かも知れない。返事をしたくても咳が止まらなくて苦しくて何も出来ない。

「僕だよ、入るね」

 あぁ……王子だ、このまま彼の腕の中で逝けるなら、それもいいかな……

「あ! 惟光?!」
「どうしました?」

 なんだ、リアンも一緒か。駄目だ酸欠だ……目の前が白濁して来た。

「大丈夫かい?」

 ガシッと両肩を支えられた。何となく分かる。薄っすらと見える輝く黄金色の髪。24金の色……。王子が背中を叩いてくれている。苦しいけど、何だか幸せだ。段々感覚が麻痺してきた。もしかして俺、どМに目覚めたのかな……。

「失礼」

 リアンの冷たい声と同時に、体が浮かびあがった。あ、リアンに抱き抱えられてる。お姫様抱っこって奴だ。何だか情けないな。そのままベッドに寝かせられた。

「これを口に咥えて下さい」

 有無を言わさず、何かを咥えさせられる。プラスチック製の……小さな笛? 何だろう。込み上げる咳で上手く咥えられないけど、リアンが無理矢理口の中に入れている。

「そのままそれを吸うようにゆっくりと吸って」

 あぁ、分かった。喘息の吸入薬みたいなやつだ。だってほら、数回吸っただけで随分呼吸が楽になって、咳もおさまって来たもの。同時に、酸素が脳に行き渡り、視界も徐々にクリアになっていく。

「良かった。もう大丈夫だ」

 リアンが吸入薬を外し、王子が嬉しそうに笑顔を向けた。深いロイヤルブルーの瞳に見惚れる。

「まだ起きたりして無理したら駄目だよ」
「すみません……」

 何だか叱られた子供みたいな気分だ。王子になら、叱られてもいいかな。フルートみたいな心地良い癒しの声にうっとりする。もう、体は平気だ。

「勝手に起きて倒れられても困りますからね。偶然、私たちが来たから良かったものの。あなたに転生なのか転移なのか、そして調査結果をお伝えに参りました」

 えっ? もう調べたのか? はやっ! 

「……そうですか。それで、自分は……」

 ドクンドクンと鼓動が弾んだ。転生か? 転移か? そして王子の傍にいられるのか? 今明らかになるんだ。

「惟光! 今まで辛かったね! 頑張ったね!」

 王子はいきなり涙声で俺に抱きついて来た。え? 何が、どうしたって? リアンがまた眼鏡のエッジに右手人差し指を当てた。そして厳かに口を開いた。

「まずは転移のようです。あなたが元居た世界では、行方不明事件としてちょっとした騒ぎになっているようですね。続いてあなた生い立ちを調べさせて頂きました」

 ツンと澄ました顔で淡々と説明した。そして眼鏡を取る。え? 何でいきなり? ハシバミ色の切れ長の瞳が潤んでる? 

「よく、頑張ってきましたね」

 驚いた事に、リアンまで白いハンカチで目元を拭ってるじゃないか! 王子は俺に抱きついてしゃくりあげているし。一体、何がどうなっているんだ? それに、え? え? 行方不明事件?? 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...