Staring at the light and darkness ~光と闇を見つめて~

大和撫子

文字の大きさ
上 下
8 / 11
第六話

Light and darkness ~光と闇を見つめて~ 

しおりを挟む

 それはいつもの通り、朝の挨拶で終わり、その後はそれぞれのスケジュールに従って天界の一日が始まる予定だった。玉座に座るゼウス。その左にガブリエル。その右側にルシフェル。正面にミカエル。そのやや後ろにウリエル。玉座後方にラファエル。いつもの通り挨拶が終わり、ミカエルは稽古場に向かおうとゼウスに背を向けた。

 その瞬間、何を思ったのか突然ルシフェルは高く真上に瞬間移動し、腰の剣を引き抜くと一気にゼウスを目指して急降下してきた!

 瞬時にゼウスを庇う為に彼の前に立ちふさがるガブリエル!

 全てをやや離れた後方で心配そうに見守るラファエルは、万が一の為にすぐに応戦出来るよう剣を構える。全てを冷静に見守るウリエルは、何か体内の気を高める事に集中しているようにも見える。

……当のゼウスは、自身が狙われているのに微動だにせず、ただ真上から迫りくるルシフェルを見つめていた……

 そう、ゼウスはあの日ルシフェルと会話をした事を思い出していたのだ……。



 あの日、ミカエルを去らせた後振り返り跪いたルシフェルに、彼はこう問いかけた。

「ルシフェルよ、人間達は幸せではないのか?」

 ルシフェルは、ゼウスの琥珀色の瞳をしっかり見つめながら、

「人間達は、何が幸せなのか見失っている者が多いのだと思われます」

 と応じる。

「お前の意見を聞かせてほしい」

 とゼウスは先を促した。ルシフェルはゆっくりと答える。

「人間は、たとえ 10 のうち9恵まれたものがあったとしても、残りの1つを欲しがり、無い、無い、不公平だと悲観する習性があるようです。そしてその足りない部分を求めて必死に努力する者、あるいは他の者を羨み自暴自棄になる者、または自分だけ良い思いをしようと他人を蹴落とす事に執着したりする者も出ている様子です。幸せは誰かが、或いは私達が運んでくれるものである、と思い込んでいる為、なかなか自分自身の中に元々ある幸せを感じる力に気付きにくいのです。更に厄介な事に、幸せ・成功の形というモデルケースを一部の権威ある者達が創り出してしまった為、各自その幸せの形に自分を当てはめ更に、自分には無い、と嘆く者、或いはその反対に優越感に浸る者も出てきて尚更彷徨う者が多く見られます。その為簡単に我々の名を語るものを盲信してしまう者も少なくありません。本来は、ゼウス様は皆それぞれに個性というギフトを与え、幸せや成功の形は人それぞれ異なるように、争わないようにお創りになられたのですが……。どうやら、人間はせっかく与えられた唯一無二の個性を活かすより、自分以外の誰かになろうともがく者が非常に多いようです」

 ゼウスは悲しげに

「生まれる前に設定してきた課題や使命を敢えて忘れるように設定し、選択の自由を人間に与えてしまったのは、やはりワシの間違いだったのだろうか?」

 と問いかけた。ルシフェルの深いアメジスト色の瞳が一際鋭く光る。

「いいえ! それは違います! ゼウス様は、敢えて自分が設定した課題や使命、役割を忘れさせる事で、その者が自由に生きる事が可能なようになさったのです!しかも占いという自分の個性や使命を活かすものまで与えられ、彼らの選択の自由を広めました。それは、人生が予め決められてないからこそ、自分の人生を自分で決め、クリエイトしていける醍醐味を味わえるように、というゼウス様の最高にして最大の愛情だと思います!」

 と強く言い切った。それを受けてゼウスは、やや自嘲気味に

「ワシは、決められた役割・決められた使命・決められた出来事を機械的にこなすだけの日々に飽き飽きしてしまったのだ。自らが望んだら全て叶う人生など味気なく非常につまらないものだからのぅ。人生は何が起こるか解らないから楽しいのだ! というワクワク感を味わってほしくて人間を創ったのだが……。占いを、人の気持ちを知って自分に都合の良いように他人を操ろうとしたり、自分にとって都合の良い事だけを引き寄せよる為に利用しようと画策する者が多いとは……残念ながら占いはそのような事には使えないのじゃがのぅ。皮肉なものよのぅ」

 と答えた。

「人間は自由とは言っても、自己責任がセットで付きまといます。自分一人で生きている訳ではなく、様々な人との関わりの中で生きる為には、暗黙のモラルのルールはどうしても存在しますから。ですから、元々人間は迷い易い生き物なのかもしれません。迷いながら様々な過程を得て、色々気付いていく者もいるようですしね。ですが私は、人間達が羨ましいです。選択の自由。自分の自由に人生を生きられる事、何が起こるか解らない日々が……。ですが、それも結局は私自身も無い物ねだりをしているだけなのかもしれませんね」

 ルシフェルは遠くを見つめながら呟いた。ゼウスは哀しげに

「すまぬの、ルシフェル。結局お前一人に押し付ける形に……」

 そう言いかけたゼウスを遮る。

「何をおっしゃるのです! 私が進んで望んだ事なのですから」

 とルシフェルは微笑んだ。全てを悟り、覚悟を決めたようにその瞳は静かなる光を湛え、澄み切っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

処理中です...